優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々

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ifルート

02.触れられるならどちらでも【攻守逆転描写有・三章6話からの分岐・弦バッドエンド】

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 潮時なんだろうな、弦先輩の部屋から出てきた織理を見て思う。赤く染まった頬に潤んだ目、別に今更彼が誰に抱かれていようと気にする気はなかった。同棲を始めたのは此方だし、俺だって織理を抱いたのだから。ただその目は快楽に溶けた目ではない、むしろもっと深い焦がれるような目だった。そんなの知らない、ずるい、なんで先輩は織理の心まで支配できるのか。俺がずっとしたくて仕方なかったこと、織理に俺を好きになって欲しかったのに。

「俺じゃ、ダメなったんやな。なんで? 俺はずっと織理のこと好きやったのに」
「攪真……」

 もうみっともなくていい、どうせ選ばれないのだから。なんで好きになってしまったのだろう。ずっと倒したいライバルであればよかったのに。俺に頼ってくれる姿も、拙いキスも、初めてを捧げてくれたあの夜も忘れたくても忘れられはしない。好きだった、織理が俺を好きって言ってくれるから嫉妬も全部飲み込んできた。でももう無理だ、目が違うのだから。

「ほんま、こんなことならあの時記憶を消して捨ててくれたら良かったんに」
「なんで、そんなこと……」
「意地悪言うてごめんな。でもそうでも言わなきゃ行き場がなさすぎる。俺は織理の一番になりたいって、俺だけを見て欲しいってずっと……弦先輩は2番でも3番でもええって言った、在琉はそもそも選ばれるわけもないと思っとった。なのに結果は? こんななら……」
「ま、って攪真……違う、違うよ……」

 織理の苦しげな声にハッとする。あぁ、また能力が溢れてたのか、いっそ書き換えられたら満足できるのだろうか。

「違うの、……攪真。俺は、その、……攪真にも、弦さんにも……在琉にも求められたい。愛されたい、全部欲しい……と思って、しまって」

 は? 今なんて言った。

「ダメ……? 攪真が、いなくなるのは嫌……」
「織理は欲張りになったなぁ……それで内心喜んでまう俺も安い男やけど」

 つまり3人から愛されたいと織理は言ってるのだ。そう言われてしまうと何も言えない、俺だけの愛じゃ満足できへんの? とかでもお前結局弦先輩を頼るくせに、とか言いたいことは色々ある。でもこれが惚れたやつの負けって奴なのか、そう強請る織理のことを嫌いになれなかった。

「……なら、先輩と話してきたるわ。要は一緒に抱かれたいって話なんやろ? 一人じゃ満足できへん、なんて贅沢なセリフやわ」
「……そもそも攪真達がこうしたくせに」

 ボソッとつぶやかれた言葉に耳を疑った。こいつ他責出来たんか、と。でも事実は事実、ハーレムみたいな形で囲い込まれて感覚がバグるのもおかしくはないか。ある意味適応したと言えるのか。

「なら責任持って可愛がってやらんとなぁ?」

 態とらしく煽れば織理は目に見えて固くなる。それがおかしくてつい笑ってしまう。
 仕方ない、兄貴分として弦先輩との交渉でもしてやるか。在琉は誘えば勝手に混じってくるやろ多分。


――


 弦先輩の部屋に入れば彼はどことなく眠た気にベッドに座っていた。織理の表情に対してどこまでも何も感じさせない先輩に少し気味の悪さを感じる。

「弦先輩、ちょっとええですか」
「おー……攪真だ。珍しい」
「なんでそんな眠そうなんや……さっきまで織理と何しとったん?」
「安心して、キスまでしかしてないから」

 何が安心してだ。別に今更織理が抱かれようとなんだろうと気にはしないと何度言えばわかるのか。むしろ、そうやって手を出さないから織理が先輩のことばかり考えるのではないか?
 とはいえ元はと言えば一番最初に抱いてしまった俺が悪い。織理があそこまで快楽にハマるなんて思っても見なかったから。俺が手を出さなければもう少し盤面は変わっていたのかもしれない。と言うかなんで俺以外そんなに性欲が無いんだろう、俺がおかしいみたいじゃ無いか。性を絡めない崇高な愛とでも言いたいのか? 不健全な男子高校生どもが。

「なんで手ェ出されへんの? 熱情を向けられてるのがわからんほど鈍感な人やないでしょアンタ」

「それは攪真がわかってるんじゃなかった? 俺の執着は一番重くてドロドロしてるんでしょ」

 そんなこと言った気もするが織理に対してだったはず。少なくとも本人には言ってない。

「あの子は純粋だ、いい意味でも悪い意味でも。体を繋げることだけを愛の確認にしてしまったら……極端な話誰にでも抱かれる人形になる。だから俺は……」
「織理やってそこまでバカやないやろ。いや、確かにちょっと快楽依存気味ですけど、あんなん満たされて飽きれば元に戻りますって。下手にお預けするから欲しがるんやろ」

「攪真はなんでそこまで明け透けに体を重ねられるんだよ。この色情魔」
「その歳で恋愛観が枯れとる先輩に何言われても効かへんわ」

 さてこんなどうでもいい話をしにきたわけじゃない。

「織理のこと、一緒に抱きません? アイツ、4Pしたいって」
「…………本気で言ってる? 本当に言ったの?」
「ええ、本当に言ってましたけど。ほらこれが俺たちの罪やで、人の温もりも知らん子を囲い込んだ先にあるものなんてこんなもんやろ」

 弦先輩は黙った。伏せ目がちの黒い目が揺れる、この人の動揺が見れるのは少し気分がいい。頭のいい先輩だ、何も気が付かなかったわけじゃないだろう、その上で目を逸らしたのかまだ修正できると思ったのかは分からんけど。

「ね、責任取ったりましょうよ。それがアイツの望みや言うてるんですから」
「織理……織理に謝らないと……」

 先輩の腕を引いて部屋を出る。茫然としているのか抵抗のない体は軽い。
 これほんまに連れてったところで織理を抱けるのか? 




――



「織理、お待たせ。先輩も連れてきたで」
「織理……」

 先輩の何か言いたそうな口を手で塞ぐ。織理がそれに驚いているが今は無視だ。

「ほら、先輩。織理のことちゃんと可愛がってあげてくださね」
「まっ、て攪真これは……!」

 先輩が焦っているのが本当に面白い。なんでそんなに拒むのかは分からないが、責任を取れない男じゃないはずだ。

「織理、どこでやりたい? リビングでも俺の部屋でもどこでもええよ」

 直球に聞いてしまえば織理は顔を赤らめる。羞恥の感覚があるならまぁただの淫売に堕ちることもそうそう無いだろう。

「ほ、んとに皆んなで、……俺のこと……」
「在琉は誘わんでも嗅ぎつけてくるやろうからとりあえず弦先輩だけな。清楚ぶって全然織理に手ェださんのやから多少強引にやるしかないわ」

 二人の手を引いて自室に入る。そのままベッドに突き飛ばす。

「織理、本当にごめん……俺が間違えてこんな……」
「先輩、あんまり変な謝り方するなら口縛ったるけど」

 そう脅しをかけていると織理が弦先輩の口を塞いだ。

「弦さん……俺これがいい。何も間違ってないんです……俺は、貴方にも攪真にも、在琉にも愛されたい……求められたい。だから、逃げないで……」
「しき、り……」

 織理が先輩の頬を両手で掴む。なんで目の前でこんないちゃつき見せられなきゃ……

「好き、弦さん。だから……俺が貴方を抱きます」

 は?

「え?」

 先輩も驚いた声を出した。

「何言うてんの織理……」
「攪真も手伝ってくれるよね?」

 いやどうだろう。流石に先輩相手には勃たんと言うか……え? 本気で言ってるんか織理は?

「や、……絶対やだ……」

 弦先輩の小さな抵抗の声が聞こえた。そらそうやろ、けれど先輩の体はそこから動かなかった。いや、これは

「織理、? 体の支配、解いてくれない……?」
「嫌です。逃げられるくらいなら、……したくはないけど支配します」

 あ、これ本気だ。織理が能力使うのって本当に久々に見た。つまり今先輩の体の支配権は織理が持っていて、先輩はこれに対抗する能力を持たない。
 俺は苦笑いするしかなかった。混ざりたいとも思わなかった。ただ織理がマジになると割ととんでもないことを言うことだけ分かって、ただただ先輩の行く末を案じることしか出来ない。と言うかこれは手伝いたくない、織理を抱きたいのであって、織理と一緒に先輩を抱くのは本当に無理。

 俺はそっと部屋を出た。幸い俺には支配がかかってない、負けた様な、男としての尊厳は守られた様ななんとも言えない後味にしばらく茫然と立ち尽くす。
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