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第三章 領都バホルム~8歳~
121 ドラ味
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「ああー、うんめぇな~」
「肉がとろけるぅ~」
「脂が甘い、甘いよほぉー」
商会の従業員さんが口々に叫ぶ。
人は好きな相手を前にして恋愛脳になると、知能がチンパンジー並みに下がると聞いた記憶があるが、美味しい食べ物を前にした時も同じだと思う。
焚き火で焼いた翼竜の串焼き肉に、熾火で焼いた霜降りドラ肉の分厚いステーキ。幸せすぎて語彙が失くなり脳がとろけりゅ。
岩塩を振って焼いただけの霜降り肉は、口の中で甘い脂がとろけて消えて、後からしっかりとした赤身のうま味が追いかけてくる。
しかし、ドラ肉を食べて感じるこの満足感はなんだろう? これがドラゴン特有の味なのか。あえて呼ぶなら、そうドラ味。
霜降りドラ肉は幸福の飲み物でした。
ぽわあ~と頭に花を咲かせて夢心地で夕食を終えると、もうすっかり夜だった。
「はっ! 明日の準備をしなくっちゃ!」
なにせ大量のドラ肉だ。通常は持てる大きさで切り分けた肉塊をロープで縛って運ぶわけだが、街に着いたら傷んだ部分をトリミングして捨てなければならない。捨てる部分が多くてもったいないんだ。
そこで、まだ明るいうちに何かないかと周辺を探して、運良く朴木を見つけておいた。
その艶々した緑の葉っぱ、朴葉は大人の顔が隠れるほどの大きさで、抗カビや殺菌作用に優れているためドラ肉を包んで運ぶのにちょうどいい。
焚き火の明かりを頼りに、せっせとドラ肉を朴葉で包んで蔓で縛る。そんな手仕事に励んでいると、ボルドさんがやって来た。
お腹がパンッパンだ。
「ハル、手伝おう」
気分はごっつあんです。
「ありがとうございます。でも見張りの方は大丈夫ですか?」
「今までここに魔物が来たことはないんだ。ま、今来られても動けんしな。ははは……」
「そうですね、あはは……」
命がかかっているのだから笑い事ではないが、実際誰一人まともに動けないと思う。みんな食べ過ぎてお腹がパンパンだ。
「あれ? それ肉と一緒に麦が入ってるな」
「見つかってしまいましたか。これは明日の朝食です。水分の多い肉厚の朴葉に、ガルユとハーブソルトで味付けしたドラ肉とさっと茹でた大麦を一緒に包んで、灰の中に入れておけばいい感じに蒸し焼きになると思うんです」
飛騨高山に朴葉味噌というのがあった。秋に落葉した朴葉を水に濡らし、鍋代わりにして炭火にかけ、味噌や飛騨牛、ネギやキノコなどを調理していただく郷土料理だ。
朴葉の持つジャスミンのような独特な甘い香りが、食材に移り食欲をそそる。
他には緑の朴葉を使う朴葉寿司なんてのもあって、昔は寿司に限らず、高い防カビや殺菌作用を持つ朴葉は、携帯用容器としてお弁当箱代わりに重宝したそうだ。
そこで思いついたドラ肉と麦飯の朴葉の灰蒸し焼き。大麦の水分を切っておくのと、浄化魔法で具材の滅菌をしておくことがポイント。悪くないアイデアだと思う。
「できたら俺も一口もらっていいか?」
「もちろん全員の分を作るので大丈夫ですよ。楽しみにしていてください」
「おお、じゃあ対価は労働で支払うとするか」
「はい、お願いします」
こうして二日目の夜は静かに更けていった。そして翌朝。
「ああー、いい香りがしてうんめぇな~」
「肉がほどけてとろけるぅ~」
「脂が甘い、甘いよほぉー」
みんなまたバカになった。
これは豚の角煮ならぬドラ肉の角煮だ。
ドラバラ肉の美味しい赤身はホロホロと、甘い脂身はプルンととろけて消える。肉のうま味を吸い付くした麦飯をスプーンですくって咀嚼すれば、朴葉の甘い薫香と美味しい肉汁が口いっぱいに広がって堪らない。みんなも満足してくれたようで良かった。
三日目は再び山登り。
小川を下って渓谷を抜ける道はなく、双子山南側の山頂を目指して崖の道を行く。また霧と風が渦巻く轟音の世界に足を踏み入れた。
光壁上のドラ肉は、朴葉に包んでロープで固定してあるので落とす心配はない。ブライアンを励ましながら岸壁の山道を踏破した。
そして山頂付近、南側のキャンプ地ではお待ちかねのディナータイム。みんなで焚き火を囲んでドラ肉の串焼きとステーキに舌鼓を打つ。
いつかマリアやみんなにも食べさせてあげたい。そんなことを思いながら夕食を食べ終わると、アルマンさんから声が掛かった。
「ちょっとハルト様にお願いというか、ご相談したいことがあるんですが」
「はい、ハルでいいですよ。なんですか?」
「はは、そうでした。ハルは光壁魔法で水に落ちたものを持ち上げられるかな?」
「下に隙間さえあれば問題ありませんよ。何をするつもりなんですか?」
アルマンさんによれば、重いドラ肉を枝葉で包んで滝壺へ落としたらどうかという。普通はそんなことしないが、僕の光壁魔法ならドラ肉の積み降ろしも一瞬なので思いついたようだ。
この方法が上手く行けば安全かつ早く山を降りられる。異存はないので了承した。
「肉がとろけるぅ~」
「脂が甘い、甘いよほぉー」
商会の従業員さんが口々に叫ぶ。
人は好きな相手を前にして恋愛脳になると、知能がチンパンジー並みに下がると聞いた記憶があるが、美味しい食べ物を前にした時も同じだと思う。
焚き火で焼いた翼竜の串焼き肉に、熾火で焼いた霜降りドラ肉の分厚いステーキ。幸せすぎて語彙が失くなり脳がとろけりゅ。
岩塩を振って焼いただけの霜降り肉は、口の中で甘い脂がとろけて消えて、後からしっかりとした赤身のうま味が追いかけてくる。
しかし、ドラ肉を食べて感じるこの満足感はなんだろう? これがドラゴン特有の味なのか。あえて呼ぶなら、そうドラ味。
霜降りドラ肉は幸福の飲み物でした。
ぽわあ~と頭に花を咲かせて夢心地で夕食を終えると、もうすっかり夜だった。
「はっ! 明日の準備をしなくっちゃ!」
なにせ大量のドラ肉だ。通常は持てる大きさで切り分けた肉塊をロープで縛って運ぶわけだが、街に着いたら傷んだ部分をトリミングして捨てなければならない。捨てる部分が多くてもったいないんだ。
そこで、まだ明るいうちに何かないかと周辺を探して、運良く朴木を見つけておいた。
その艶々した緑の葉っぱ、朴葉は大人の顔が隠れるほどの大きさで、抗カビや殺菌作用に優れているためドラ肉を包んで運ぶのにちょうどいい。
焚き火の明かりを頼りに、せっせとドラ肉を朴葉で包んで蔓で縛る。そんな手仕事に励んでいると、ボルドさんがやって来た。
お腹がパンッパンだ。
「ハル、手伝おう」
気分はごっつあんです。
「ありがとうございます。でも見張りの方は大丈夫ですか?」
「今までここに魔物が来たことはないんだ。ま、今来られても動けんしな。ははは……」
「そうですね、あはは……」
命がかかっているのだから笑い事ではないが、実際誰一人まともに動けないと思う。みんな食べ過ぎてお腹がパンパンだ。
「あれ? それ肉と一緒に麦が入ってるな」
「見つかってしまいましたか。これは明日の朝食です。水分の多い肉厚の朴葉に、ガルユとハーブソルトで味付けしたドラ肉とさっと茹でた大麦を一緒に包んで、灰の中に入れておけばいい感じに蒸し焼きになると思うんです」
飛騨高山に朴葉味噌というのがあった。秋に落葉した朴葉を水に濡らし、鍋代わりにして炭火にかけ、味噌や飛騨牛、ネギやキノコなどを調理していただく郷土料理だ。
朴葉の持つジャスミンのような独特な甘い香りが、食材に移り食欲をそそる。
他には緑の朴葉を使う朴葉寿司なんてのもあって、昔は寿司に限らず、高い防カビや殺菌作用を持つ朴葉は、携帯用容器としてお弁当箱代わりに重宝したそうだ。
そこで思いついたドラ肉と麦飯の朴葉の灰蒸し焼き。大麦の水分を切っておくのと、浄化魔法で具材の滅菌をしておくことがポイント。悪くないアイデアだと思う。
「できたら俺も一口もらっていいか?」
「もちろん全員の分を作るので大丈夫ですよ。楽しみにしていてください」
「おお、じゃあ対価は労働で支払うとするか」
「はい、お願いします」
こうして二日目の夜は静かに更けていった。そして翌朝。
「ああー、いい香りがしてうんめぇな~」
「肉がほどけてとろけるぅ~」
「脂が甘い、甘いよほぉー」
みんなまたバカになった。
これは豚の角煮ならぬドラ肉の角煮だ。
ドラバラ肉の美味しい赤身はホロホロと、甘い脂身はプルンととろけて消える。肉のうま味を吸い付くした麦飯をスプーンですくって咀嚼すれば、朴葉の甘い薫香と美味しい肉汁が口いっぱいに広がって堪らない。みんなも満足してくれたようで良かった。
三日目は再び山登り。
小川を下って渓谷を抜ける道はなく、双子山南側の山頂を目指して崖の道を行く。また霧と風が渦巻く轟音の世界に足を踏み入れた。
光壁上のドラ肉は、朴葉に包んでロープで固定してあるので落とす心配はない。ブライアンを励ましながら岸壁の山道を踏破した。
そして山頂付近、南側のキャンプ地ではお待ちかねのディナータイム。みんなで焚き火を囲んでドラ肉の串焼きとステーキに舌鼓を打つ。
いつかマリアやみんなにも食べさせてあげたい。そんなことを思いながら夕食を食べ終わると、アルマンさんから声が掛かった。
「ちょっとハルト様にお願いというか、ご相談したいことがあるんですが」
「はい、ハルでいいですよ。なんですか?」
「はは、そうでした。ハルは光壁魔法で水に落ちたものを持ち上げられるかな?」
「下に隙間さえあれば問題ありませんよ。何をするつもりなんですか?」
アルマンさんによれば、重いドラ肉を枝葉で包んで滝壺へ落としたらどうかという。普通はそんなことしないが、僕の光壁魔法ならドラ肉の積み降ろしも一瞬なので思いついたようだ。
この方法が上手く行けば安全かつ早く山を降りられる。異存はないので了承した。
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