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第二章 辺境の村~7歳~
116 八歳の旅立ち
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領都へ出発する日。
僕は早朝から身支度を整える。
フィーネに頼んで、後ろで一つ縛りにしていた髪を切り、全体的に短く整えてもらう。黒髪は目立つらしいから念のため。
「ありがとうフィーネ。さっぱりしたよ」
「はい……あの、ハルト様」
「なーに?」
「本当にお一人で行かれるのですね」
「一人と言ってもボルドさんとレーヌさんの家に居候させてもらえるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。来月には一度戻る予定だから、またすぐ会えるし」
フィーネにいつもの笑顔はない。
「でも、大きな街には危険なことがたくさんあります。平気で人を騙したり傷つけたりする人もいます。ハルト様は賢くしっかりされているけど、可愛らしいし、お人好しだし、食いしん坊だし、鈍感だし、服着てくれないし、ちょっと抜けたところもあるし、すごく鈍感だから。とても心配なんです」
半分くらいの低評価にちょっと傷つく。
「だ、大丈夫、ちゃんと気をつけるから」
「無茶なことはしないと約束してください」
「わかった、約束するよ」
ここにも心配性の姉がいた。まあ、心配してもらえるのは幸せなことだけどね。
いつもより早めの朝食を摂り、時間がないので急いで旅装に着替える。
用意した服装は、村人と同じで茶色が基本の簡素なチュニックとゆったりとしたズボン。革のベルトにはレンからもらった解体用ナイフとベルトバッグを装備して、普段から農作業に使っている革のブーツを履いた。
みんな南門まで見送りに来てくれるが、旅立ちの挨拶はここで済ませておく。
「ハルト、これが城門の衛兵に見せる住民証の偽造書類だ。名前はハル、小人族の血筋を持つ十六歳で、記憶障害があると書いてある」
「ありがとうございます、兄上」
「わかっていると思うが、あの特別な魔法は絶対他人に見せるな、自重するんだぞ。とにかく考えて慎重に行動するんだ、いいな?」
「はい、心得ております」
あはは、これで何度目だろう。
書類の入った書簡を大事に背嚢へしまった。
「ハルト様、くれぐれもご無理なさらぬよう。旅のご無事をお祈りしております」
「うん。クラウスも無理しないでね」
クラウスさんとハグをする。
「ハルト様、食事はしっかり摂ってくださいね。危ないところへ近づいてはダメですよ」
「大丈夫だよ、マーぐえっ!」
マーサさんの力強いハグで食べた朝食が出そうになった。危ないところだった。
「お兄さま、無事に帰ってきてくださいね」
「うん。なるべくマリアのお誕生日には帰ってくるつもりだから。マリアも頑張り過ぎないように、ミディナやルーナやみんなと仲良くね」
「はい」
マリアとハグをして頭を撫でてあげる。
「わんわん!」
「「「ピィピィ!」」」
「よしよし、ルーナもヒヨコたちも元気でな」
もふもふ成分を補充させてもらおう。
「それじゃあ、フィーネとレンも任せたよ」
「はい、お気をつけて」
「うん、いってらっしゃい」
フード付きのローブを羽織り、フィーネからもらったフライングキャップを頭に被る。くたびれたリュックを背負えば、行商人に拾われた村人Aに見えるだろう。
みんなと屋敷を出て、玄関先で待たせてあるブライアンの手綱を取った。もう一度、ブライアンの背中に固定した荷物を確認する。
「テント、毛布、ランタン、雨用のローブ……よし、忘れ物なし。ブライアン行こうか」
「ブルルル」
教会へ寄って旅の無事を女神様にお祈りをする。礼拝が終わり、ジルオ様に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「うむ。村とは違い街には様々な誘惑があるからの、気をつけるんじゃぞ」
「「「にゃ~ん」」」
「はい」
ジルオ様と猫たちに見送られて南門へ向かう。すると、ちょうどボスを連れた村長さん一家とアイラさんが牧場の方から歩いてきた。
「うぉん、うぉん!」
「ハルト様ー!」
「あ、ボスとゴロさん。皆さんもおはようございます。マオさんも村長さんもアイラさんも、わざわざありがとうございます」
「ああ、ちょうど良かったよ。チーズを持ってきたんだ。道中で食べていきな」
「マオさん、ありがとうございます」
二十キロ超えの丸いホールチーズ。
ぽんっとくれる気前の良さに痺れる憧れる。
「あれ? ミディナはお留守番ですか?」
ミディナの姿が見えないと思ったら、屈んでくれたアイラさんの背中でぐっすり眠ってた。
「夕べ、ハルト様が村を出るって知ったら泣いちゃって。夜眠れなかったみたいで」
「あはは、そうでしたか」
可哀想だからこのまま寝かせておこう。
南門に着くと、もうアルマン商会の隊商は出発準備を終えていたので、急いで見送りに来てくれたみんなにお礼を言って回った。
カインさんとユカさん、ロザンとキリカ、サブさんたち木こりマッチョ衆、コバさんたち皮革職人衆、ロンさんやクダヤさんたち職人衆、パメラさん、カテアさん、エリトさんたちも。みんなが集まってくれて、ようやく村の一員として認められたみたいで嬉しい。
「ハルト、そろそろ出発するって」
「はい、すぐ後を追いかけます」
クロエさんに返事をして、先に出発してもらう。隊商が村を出ていく中、ミユカとレダンと向き合った。せっかくの機会だしね。
「ミユカもレダンも、見送りに来てくれてありがとう」
「べつに、ハルト様の見送りに来たわけじゃないし。宿のお客さんの見送りだもん」
「そ、そうだよ」
二人のこのツンツンは変わらないなあ。
僕らはこのままの関係でいいのかもね。
「そっか。ミユカとレダンとは色々あったけどさ、まあ結局、僕の方が強くなっちゃったみたいで、なんかごめんね。にひっ」
「「は!?」」
唖然としている姉弟を尻目に、光壁で作った踏み台を使ってブライアンに跨がった。
「ブライアン、出発だ!」
「ブルル、ブルル」
掛け声をかけ、先を行く隊商の後を追う。
門を抜け振り返り、みんなに手を振った。
「行ってきまーす!」
セントリス王国歴755年、春。
八歳の僕は領都へ向けて旅立った。
「ハルト様なんか、領都で遊んでいる間にすぐ追い抜いてやるんだからあーっ!」
「そうだー! 絶対、俺の方が強くなってやるからなー! 勝負から逃げんなよー!」
背中に友達の大きな声援を受けながら。
僕は早朝から身支度を整える。
フィーネに頼んで、後ろで一つ縛りにしていた髪を切り、全体的に短く整えてもらう。黒髪は目立つらしいから念のため。
「ありがとうフィーネ。さっぱりしたよ」
「はい……あの、ハルト様」
「なーに?」
「本当にお一人で行かれるのですね」
「一人と言ってもボルドさんとレーヌさんの家に居候させてもらえるから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。来月には一度戻る予定だから、またすぐ会えるし」
フィーネにいつもの笑顔はない。
「でも、大きな街には危険なことがたくさんあります。平気で人を騙したり傷つけたりする人もいます。ハルト様は賢くしっかりされているけど、可愛らしいし、お人好しだし、食いしん坊だし、鈍感だし、服着てくれないし、ちょっと抜けたところもあるし、すごく鈍感だから。とても心配なんです」
半分くらいの低評価にちょっと傷つく。
「だ、大丈夫、ちゃんと気をつけるから」
「無茶なことはしないと約束してください」
「わかった、約束するよ」
ここにも心配性の姉がいた。まあ、心配してもらえるのは幸せなことだけどね。
いつもより早めの朝食を摂り、時間がないので急いで旅装に着替える。
用意した服装は、村人と同じで茶色が基本の簡素なチュニックとゆったりとしたズボン。革のベルトにはレンからもらった解体用ナイフとベルトバッグを装備して、普段から農作業に使っている革のブーツを履いた。
みんな南門まで見送りに来てくれるが、旅立ちの挨拶はここで済ませておく。
「ハルト、これが城門の衛兵に見せる住民証の偽造書類だ。名前はハル、小人族の血筋を持つ十六歳で、記憶障害があると書いてある」
「ありがとうございます、兄上」
「わかっていると思うが、あの特別な魔法は絶対他人に見せるな、自重するんだぞ。とにかく考えて慎重に行動するんだ、いいな?」
「はい、心得ております」
あはは、これで何度目だろう。
書類の入った書簡を大事に背嚢へしまった。
「ハルト様、くれぐれもご無理なさらぬよう。旅のご無事をお祈りしております」
「うん。クラウスも無理しないでね」
クラウスさんとハグをする。
「ハルト様、食事はしっかり摂ってくださいね。危ないところへ近づいてはダメですよ」
「大丈夫だよ、マーぐえっ!」
マーサさんの力強いハグで食べた朝食が出そうになった。危ないところだった。
「お兄さま、無事に帰ってきてくださいね」
「うん。なるべくマリアのお誕生日には帰ってくるつもりだから。マリアも頑張り過ぎないように、ミディナやルーナやみんなと仲良くね」
「はい」
マリアとハグをして頭を撫でてあげる。
「わんわん!」
「「「ピィピィ!」」」
「よしよし、ルーナもヒヨコたちも元気でな」
もふもふ成分を補充させてもらおう。
「それじゃあ、フィーネとレンも任せたよ」
「はい、お気をつけて」
「うん、いってらっしゃい」
フード付きのローブを羽織り、フィーネからもらったフライングキャップを頭に被る。くたびれたリュックを背負えば、行商人に拾われた村人Aに見えるだろう。
みんなと屋敷を出て、玄関先で待たせてあるブライアンの手綱を取った。もう一度、ブライアンの背中に固定した荷物を確認する。
「テント、毛布、ランタン、雨用のローブ……よし、忘れ物なし。ブライアン行こうか」
「ブルルル」
教会へ寄って旅の無事を女神様にお祈りをする。礼拝が終わり、ジルオ様に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「うむ。村とは違い街には様々な誘惑があるからの、気をつけるんじゃぞ」
「「「にゃ~ん」」」
「はい」
ジルオ様と猫たちに見送られて南門へ向かう。すると、ちょうどボスを連れた村長さん一家とアイラさんが牧場の方から歩いてきた。
「うぉん、うぉん!」
「ハルト様ー!」
「あ、ボスとゴロさん。皆さんもおはようございます。マオさんも村長さんもアイラさんも、わざわざありがとうございます」
「ああ、ちょうど良かったよ。チーズを持ってきたんだ。道中で食べていきな」
「マオさん、ありがとうございます」
二十キロ超えの丸いホールチーズ。
ぽんっとくれる気前の良さに痺れる憧れる。
「あれ? ミディナはお留守番ですか?」
ミディナの姿が見えないと思ったら、屈んでくれたアイラさんの背中でぐっすり眠ってた。
「夕べ、ハルト様が村を出るって知ったら泣いちゃって。夜眠れなかったみたいで」
「あはは、そうでしたか」
可哀想だからこのまま寝かせておこう。
南門に着くと、もうアルマン商会の隊商は出発準備を終えていたので、急いで見送りに来てくれたみんなにお礼を言って回った。
カインさんとユカさん、ロザンとキリカ、サブさんたち木こりマッチョ衆、コバさんたち皮革職人衆、ロンさんやクダヤさんたち職人衆、パメラさん、カテアさん、エリトさんたちも。みんなが集まってくれて、ようやく村の一員として認められたみたいで嬉しい。
「ハルト、そろそろ出発するって」
「はい、すぐ後を追いかけます」
クロエさんに返事をして、先に出発してもらう。隊商が村を出ていく中、ミユカとレダンと向き合った。せっかくの機会だしね。
「ミユカもレダンも、見送りに来てくれてありがとう」
「べつに、ハルト様の見送りに来たわけじゃないし。宿のお客さんの見送りだもん」
「そ、そうだよ」
二人のこのツンツンは変わらないなあ。
僕らはこのままの関係でいいのかもね。
「そっか。ミユカとレダンとは色々あったけどさ、まあ結局、僕の方が強くなっちゃったみたいで、なんかごめんね。にひっ」
「「は!?」」
唖然としている姉弟を尻目に、光壁で作った踏み台を使ってブライアンに跨がった。
「ブライアン、出発だ!」
「ブルル、ブルル」
掛け声をかけ、先を行く隊商の後を追う。
門を抜け振り返り、みんなに手を振った。
「行ってきまーす!」
セントリス王国歴755年、春。
八歳の僕は領都へ向けて旅立った。
「ハルト様なんか、領都で遊んでいる間にすぐ追い抜いてやるんだからあーっ!」
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背中に友達の大きな声援を受けながら。
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