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第一章 辺境の村~6歳~
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「思い出したー! でもって失敗したー!」
ベッドで目覚めた黒目黒髪の少年の名は、ハルト・フィールド。フィールド辺境伯の五男として生まれ、ぼんやり六歳になった僕だ。
女神様との邂逅も前世の記憶もすっかり忘れていたことを全部思い出した。
僕の前世は日本人のおじさんだったんだ。
はあ~、あのとき光の女神様にもっとチート能力をねだっておけばなあ~。
「ハルト様! 大丈夫ですか!? どこか痛いところはありませんか?」
僕を覗き込むのはメイドのシルフィーネ、十二歳。村のみんなは短くフィーネと呼ぶ。
小麦色の褐色肌にシニヨンにまとめた銀髪と少し尖った耳が特徴的なエルフ族の少女だ。大きな碧い瞳いっぱいに涙をためている。
「うん、もう大丈夫だよフィーネ。僕が倒れてどのくらい経つのかな?」
厚い窓ガラスを抜けてくる午後の弱い日差し。みんな出かけているのか屋敷は静かだ。
部屋の暖炉では小さくなった薪がゆるゆると燃え、水の入った木桶には白いタオルがかけてある。ずっと看病をしてくれていたんだろう。
「すごい熱を出されて今日で三日目です。このままハルト様が目覚めなかったらどうしようって、お薬が効かなかったからどうしようって」
震える声の彼女の細い手を握ると、僕の手の甲にポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「ごめんね、心配をかけて」
「ぐすっ、良かった、良かったです」
おそらく記憶の扉が開いたことで前世の膨大な情報が一気に溢れて、脳の処理が追いつかずに高熱が出たんだろう。今は幼い頃からあった頭の中のもやが晴れてすっきりしてる。
教会の前だったかな、突然気を失ったから。みんなに心配をかけてしまった。
「フィーネ、もう泣かないで」
「ぐすっ、はい。でも、あとはこのおネギを使うしかなかったから、本当に良かったです」
さっきから手に持ってるね。
ネギは解熱効果があるんだったかな?
「フィーネお姉ちゃんお待たせ、あったよ!」
慌てて部屋に飛び込んできたのは見習い執事のレン。赤髪に若草色の瞳の彼は、エルフ族と同じ尖った耳が特徴的なドワーフ族。
本当の名前はゴレンガだけど、まだ厳つい名前が似合わない六歳児なので、みんなレンと呼んでいる。普段着が普通のシャツとズボンにサスペンダー姿の美少年だ。
「あ! ハルト様、目が覚めたの!」
「ああ、レンにも心配をかけて悪かったな。もう大丈夫だから。ところで、その手に持った木の小槌は何に使うつもりなんだ?」
「これで叩いたネギから出てくるネギ汁をお尻に塗ると熱が下がるんだよ」
どこの部族の儀式だよ。
「すぐ始める?」
「始めさせないよ」
レンはともかくフィーネまで取り乱して。
それだけ心配をかけたってことか。
「レン、フィーネ、僕は本当に大丈夫だから。二人とも心配してくれてありがとう」
フィーネとレンは顔を見合わせる。
二人して首を傾げてどうしたんだ?
「ハルト様、まだお熱がありませんか?」
「フィーネお姉ちゃん、ボクもやってみたい」
二人が代わる代わる自分のおでこを僕のおでこに押し当てる。何かの儀式かな?
あーそっか、「ありがとう」て言ったから。
これまでの僕は、わがままで傍若無人で泣き虫で、お馬鹿丸出しだったんだ。
自分の非を認めて「ごめんなさい」なんて意地でも言わないひねくれ坊主。
ましてや「ありがとう」だなんて。
ただ、そうなった理由もある。
自己弁護になってしまうけど、僕はフィールド辺境伯の五男坊ではあるが、この屋敷には両親ともいない。今は亡き母上は辺境伯の第二夫人だったらしい。
ここシュガー村は、父上たちの住む領都からだいぶ離れた場所にあり、辺境伯の二男、アベル兄様が代理領主を務めている。
僕と年子の妹マリアは、辺境伯の子として面倒を見てもらっている状態だ。しかも母上が自らの命と引き換えに産んでくれた妹は、生まれつき目が見えない。
だからみんながマリア優先で。
僕はいつも寂しい思いをしてきた。
六歳の僕が受け入れて、覚悟して立ち向かうには厳しい現実に、どうしたらいいのかわからなかった。
どうしようもない寂しさを抱え、誰かに構ってもらいたくて悪戯ばかりしてきたんだ。
前世の記憶を思い出した今は、これまでの愚行に羞恥心で身悶えしそうだよ。
「フィーネ、レン。僕は夢で光の女神ミラスナーガ様にお会いしたんだ。これからは兄としてマリアや村のために頑張るから、二人には力を貸して欲しい。よろしくお願いします」
上体を起こしてフィーネとレンに頭を下げる。二人は殊勝な態度の僕に戸惑ったようだが、頷いてからそれぞれ手を握ってくれた。
「うん。ハルト様」
「ありがとう、レン」
「はい。ハルト様」
「ありがとう、フィーネ」
こうして前世の記憶を取り戻した僕は、これから妹のマリアや村のみんなのために頑張ることを胸に誓った。
ベッドで目覚めた黒目黒髪の少年の名は、ハルト・フィールド。フィールド辺境伯の五男として生まれ、ぼんやり六歳になった僕だ。
女神様との邂逅も前世の記憶もすっかり忘れていたことを全部思い出した。
僕の前世は日本人のおじさんだったんだ。
はあ~、あのとき光の女神様にもっとチート能力をねだっておけばなあ~。
「ハルト様! 大丈夫ですか!? どこか痛いところはありませんか?」
僕を覗き込むのはメイドのシルフィーネ、十二歳。村のみんなは短くフィーネと呼ぶ。
小麦色の褐色肌にシニヨンにまとめた銀髪と少し尖った耳が特徴的なエルフ族の少女だ。大きな碧い瞳いっぱいに涙をためている。
「うん、もう大丈夫だよフィーネ。僕が倒れてどのくらい経つのかな?」
厚い窓ガラスを抜けてくる午後の弱い日差し。みんな出かけているのか屋敷は静かだ。
部屋の暖炉では小さくなった薪がゆるゆると燃え、水の入った木桶には白いタオルがかけてある。ずっと看病をしてくれていたんだろう。
「すごい熱を出されて今日で三日目です。このままハルト様が目覚めなかったらどうしようって、お薬が効かなかったからどうしようって」
震える声の彼女の細い手を握ると、僕の手の甲にポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「ごめんね、心配をかけて」
「ぐすっ、良かった、良かったです」
おそらく記憶の扉が開いたことで前世の膨大な情報が一気に溢れて、脳の処理が追いつかずに高熱が出たんだろう。今は幼い頃からあった頭の中のもやが晴れてすっきりしてる。
教会の前だったかな、突然気を失ったから。みんなに心配をかけてしまった。
「フィーネ、もう泣かないで」
「ぐすっ、はい。でも、あとはこのおネギを使うしかなかったから、本当に良かったです」
さっきから手に持ってるね。
ネギは解熱効果があるんだったかな?
「フィーネお姉ちゃんお待たせ、あったよ!」
慌てて部屋に飛び込んできたのは見習い執事のレン。赤髪に若草色の瞳の彼は、エルフ族と同じ尖った耳が特徴的なドワーフ族。
本当の名前はゴレンガだけど、まだ厳つい名前が似合わない六歳児なので、みんなレンと呼んでいる。普段着が普通のシャツとズボンにサスペンダー姿の美少年だ。
「あ! ハルト様、目が覚めたの!」
「ああ、レンにも心配をかけて悪かったな。もう大丈夫だから。ところで、その手に持った木の小槌は何に使うつもりなんだ?」
「これで叩いたネギから出てくるネギ汁をお尻に塗ると熱が下がるんだよ」
どこの部族の儀式だよ。
「すぐ始める?」
「始めさせないよ」
レンはともかくフィーネまで取り乱して。
それだけ心配をかけたってことか。
「レン、フィーネ、僕は本当に大丈夫だから。二人とも心配してくれてありがとう」
フィーネとレンは顔を見合わせる。
二人して首を傾げてどうしたんだ?
「ハルト様、まだお熱がありませんか?」
「フィーネお姉ちゃん、ボクもやってみたい」
二人が代わる代わる自分のおでこを僕のおでこに押し当てる。何かの儀式かな?
あーそっか、「ありがとう」て言ったから。
これまでの僕は、わがままで傍若無人で泣き虫で、お馬鹿丸出しだったんだ。
自分の非を認めて「ごめんなさい」なんて意地でも言わないひねくれ坊主。
ましてや「ありがとう」だなんて。
ただ、そうなった理由もある。
自己弁護になってしまうけど、僕はフィールド辺境伯の五男坊ではあるが、この屋敷には両親ともいない。今は亡き母上は辺境伯の第二夫人だったらしい。
ここシュガー村は、父上たちの住む領都からだいぶ離れた場所にあり、辺境伯の二男、アベル兄様が代理領主を務めている。
僕と年子の妹マリアは、辺境伯の子として面倒を見てもらっている状態だ。しかも母上が自らの命と引き換えに産んでくれた妹は、生まれつき目が見えない。
だからみんながマリア優先で。
僕はいつも寂しい思いをしてきた。
六歳の僕が受け入れて、覚悟して立ち向かうには厳しい現実に、どうしたらいいのかわからなかった。
どうしようもない寂しさを抱え、誰かに構ってもらいたくて悪戯ばかりしてきたんだ。
前世の記憶を思い出した今は、これまでの愚行に羞恥心で身悶えしそうだよ。
「フィーネ、レン。僕は夢で光の女神ミラスナーガ様にお会いしたんだ。これからは兄としてマリアや村のために頑張るから、二人には力を貸して欲しい。よろしくお願いします」
上体を起こしてフィーネとレンに頭を下げる。二人は殊勝な態度の僕に戸惑ったようだが、頷いてからそれぞれ手を握ってくれた。
「うん。ハルト様」
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