【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 フィーネとレンと話していると、扉が開いていた部屋の入り口から女の子が手探りで入ってきた。蜂蜜色のやわらかな金髪に青く澄んだ空色の瞳、妹のマリアンヌだ。
 僕らはマリアと愛称で呼ぶ。

「ハルトお兄さま?」

 両手を前に伸ばして歩いてくるマリアを、フィーネが迎えに行って連れてきてくれた。僕は彼女の手を握って自分の胸に抱き寄せる。

「マリア、心配かけてごめんね」

 するとマリアは声を上げて泣き出した。

「お兄さま! ハルトお兄さま! どこにも行かないで、マリアをおいて行かないで!」
「大丈夫、僕はどこへも行かないよ」
 
 彼女は四歳児ながら賢い子で、母上のことも死というものも、なんとなく理解しているのだと思う。独りになることをとても恐れる。

 それは目が見えない暗闇の世界では当然のことなのかもしれないが、僕には彼女の気持ちを完全には理解してあげられない。

 どうして女神ミラスナーガ様に、マリアの目を治せるような破格の魔法を願わなかったのか。こうして前世の記憶が戻った今となっては、あの時の迂闊な自分おじさんに腹が立つ。

「マリア、ごめん、ごめんね。僕はこれから魔法の勉強を頑張る。魔法がダメならお金をたくさん稼いで、いつかマリアの目が見えるようにしてあげるから。だからもう泣かないで」

 泣きじゃくるマリアの背中を擦っていると、やがて彼女は泣き疲れて眠ってしまった。

「マリアお嬢様もハルト様のことが心配で、三日間ほとんど眠れなかったんです」
「そうか、ずいぶん心配かけちゃったな」

 フィーネに答え、眠るマリアの頭を撫でる。
 二人の手を借りマリアをベッドへ寝かせた。

「フィーネ、まだ屋敷の仕事があるでしょ? このまま僕がマリアをみてるから行っていいよ。レンもフィーネを手伝ってあげて」

「うん、わかったよ」
「はい。ハルト様、何か困ったことがありましたら、すぐにお呼びください」
「うん。ありがとう、フィーネ」

 出ていく二人を見送り、隣で眠るマリアを起こさないよう僕も横になる。規則正しいマリアの寝息を聞いているうちに眠気に襲われた。

 次に目が覚めたのは夜中だった。
 隣にマリアの姿はなく、サイドテーブルにはアイボリーの陶器の水差しとカップ、それとパンが一つ置いてある。たぶんスープは冷めちゃったから下げたのだろう。

「あれからぐっすり眠っちゃったんだ」

 ああ、パンを見たら急にお腹が減ってきた。
 空腹に腹の虫が鳴き、黒く固いパンを手にしたものの口にするのをためらった。

 酸味があるこの黒パンは、ずっしりとして腹持ちはいいけど食感は粉っぽくボソボソして固いんだ。薄くスライスしてチーズと一緒に食べるか、温かいスープに浸して食べたい。でもこんな夜中に誰かを起こすのは悪いし。

 前世の記憶が戻り、苦手だったこの黒パン一つのありがたみや、食べ物がもらえることに感謝しないといけないことは理解できる。
 ただ同時に、前世の美味しい食べ物のこともありありと思い出してしまうわけで。

「はあー、この世界にある魔法の代わりにコンビニがあったら、あったかい肉まんが食べられるのにな。出でよ、肉まん……なんて言って出てくる魔法なんかあるわけないし」

 そう思わず口にした瞬間、布団の上にポフッと白い物体が落ちた。カーテン越しに届く月光の薄明かりに、ホワホワと白い湯気が立つ。

「……は? えっ!?」

 それはどう見ても中華まんのフォルム。
 美しいひだの紋様は肉まんに違いない。
 僕は堂々としたそれを恭しく手に取った。

「あったかい……」

 顔を近づけ、くんくんと匂いを嗅いでみる。
 ああ、懐かしいこの香り!
 もうダメだ、これが幻覚だろうが関係ない。

「久しぶりの肉まん、いただきます!」

 はぐっと一口かぶりつく。
 もちもちっとした生地に包まれた餡から、口いっぱいに広がるジューシーな豚肉と野菜のうま味。生姜や八角の風味が鼻から抜ける。
 幸福の海に身を沈め目を閉じて咀嚼すると、コリコリとたけのこの食感が心地いい。

「はあああ~、美味しいなあ~」

 ひと口、またひと口と、ゆっくり味わい咀嚼して、あっという間にたいらげてしまった。

「あああ~、美味しかったあ~」

 だけど口内に残る美味しい味の余韻が消えていくと、また腹の虫が鳴き出して。
 もっと食べたいと思ってしまう。

 思い出すのは中華まんのケース。その中には、いつも肉まんとカレーまんとピザまんとあんまんが仲良く一緒に並んでいた。僕は彼らを差別したことなどなかった。

 カレーまんはカレーパンに負けてるとか、あんまんはめちゃくちゃ熱いスイーツだろうとか、ピザまんはもうピザかブリトーでいいじゃないかとか。
 そんな食べ物差別をしたことはない。
 だって同じ中華まん、仲間じゃないか。
 彼らはいつも一緒、四天王なんだ。

「だから、カレーまんもピザまんもあんまんも全部出てこい!」

 そう声に出したら本当に空中から出てきた。両手に掴んだホカホカと湯気をあげる奇跡に、思わずにへらっと笑いが止まらない。

「うへ、うへへ、うへへへ……。これはやばいよ。いくらでも食べられそう」

 カレーまん、ピザまん、あんまんと食べて、また肉まんへ。そして歯止めが利かなくなった僕が、九個目に肉まんを召喚した時だった。
 視界が揺らいで意識が遠のく。

「あれ……部屋が回る……」

 僕はそのまま気を失った。
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