【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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「ハルト様ー、ハルト様ー、朝だよー」

 体を揺さぶられ少年の声に起こされる。
 目を開けるとレンの顔があった。
 
「ん……おはよう、レン」
「おはよう、ハルト様。大丈夫? 夕べ起きなかったから、みんな心配したんだよ」
「ああ、ごめん。もう大丈夫」

 むくりと上体を起こすと、ぼんやりとしていた意識がはっきりしてくる。
 なんかお腹が満たされているし、歯磨きしてないから口の中が気持ち悪い。そうだ! 夜中に笑いながら中華まんを食べてた気がする。
 あれは夢だったのか? それとも現実か?

 確か、最後に肉まんを出したところで気を失ったんだ。もしあれが現実だったら、布団の上に肉まんが転がっているはずだけど。
 レンの目を盗んで布団の上を探してみても、それらしいものは見当たらない。ここで試しに出してみるわけにはいかないし。
 そう思ってレンに目をやると、彼の薄紅色の唇がテカテカとオイリーなことに気づいた。
 たぶん、この中世欧州みたいな魔法世界にリップクリームはない。

「レン、ちょっといい?」
「なに? ハルト様」

 僕はレンの両肩を掴んで顔を近づける。
 彼の薄い唇をじぃーっと見つめた。

「ハ、ハルト様、急にどうしたの?」

 赤面して目を逸らすレン。赤髪の美少年からは明らかに動揺の色が見て取れる。

「レン、今朝ここでなんか食べなかった?」
「えっ? ボ、ボク知らないよ」

 ふるふると首を横に振るが、決して僕と目を合わせようとしない。それどころか揺れる振り子を追いかける猫みたいに、顔が左右に逃げて落ち着きがない。

「レン、なぜ僕から逃げるんだ?」
「だって、ハルト様が見てくるから」

 ほほぅ、こいつぁ限りなく怪しいな。
 その唇をペロッと舐めれば一発で嘘かどうかわかるんだが、さすがにそれはできん。

「そっかー。実はさあ、ここにあった食べ物は肉まんっていうんだけど、食べると鼻が下に伸び続ける恐ろしい呪いの食べ物なんだよー」
「えっ? 呪いの食べ物?」

 めちゃくちゃ泣きそうな顔になった。

「そうそう、呪いを解く方法はあるけど」
「それってどんな方法?」

 表情がパァーと希望に満ちた。
 これ、完全にクロのやつだ。

「呪いを解く方法は二つあってね。一つはネギをお尻にぶっ刺す方法で、もう一つは拾い食いしたことを素直に謝るっていうほ……」

 レンはベッドに飛び上がって土下座した。

「ごめんなさい! 見たことない物で、いい匂いがしたから気になって、それで一口食べたら美味しくて全部食べちゃいましたー」

 はやっ! 即落ちだったな。まあでも、気持ちはわからなくはないから許してあげよう。

「レン、なんだかわからないものを軽々しく口にしたらダメだよ。毒でも入っていたら大変だろう? (僕も人のこと言えないけど)」
「うん。ごめんね、ハルト様」
「今回は特別に許してあげるから」
「ありがとう、ハルト様ー。でもでも、あのすっごく美味しい食べ物どうしたの?」

 気にするなっていうのは無理だよな。
 前世の僕が光の女神様に望んだのは、病気にならない健康な身体と、いつも美味しいものが食べられる人生だった。たぶん僕の魔法は『食べ物を出せるステキ魔法』なんだろう。

 そう考えると中華まん九個目を召喚して気を失ったのは、体内魔力の枯渇によって起きる気絶、マジックアウトで合点がいく。
 中華まん九個分が今の魔力量というわけだ。

 食べ物を無尽蔵に生み出せるわけじゃなさそうだから、今は極力秘密にしておいた方がいいだろう。一つ間違えれば無益な争いを生む。

 しかし肉まんの存在を知られてしまった以上、リスクはあるがレンには秘密を共有する協力者になってもらう方が得策だろう。

「レンに教える前に、これから話すことはみんなには秘密にするって約束してくれる?」
「んー? どうして秘密にするの?」
「食べ物の恨みは恐ろしいからだよ。争いが起きて人が死ぬかもしれない」

 ここは死が身近な世界。真剣な僕の眼差しに、緊張してゴクリと唾を飲み込むレン。
 僕はかくかくしかじかと耳打ちする。
 もちろん転生のことは秘密で、食べ物出せちゃう魔法(仮)の秘密を共有する仲間として、改めてレンに今後の協力を頼んだ。

「では……出でよ、バタークッキー二枚」
「おおおー、すごいよハルト様! 本当にこんな大きなクッキーが出てきた!」

 やはり思った通りのようだ。
 これは望んだ食べ物を出せる魔法。
 となると、当面の問題は魔力量か。

「落ち着いてレン。じゃあ、ここに誓おう」
「なにを?」
「マリアの目を治すことと、この村を豊かにすること。それから、うーん……いつも美味しいものを食べられるスローライフを目指して、これから二人で協力して頑張ることを!」
「うん! スローライフとかよくわかんないけど一緒に頑張ろうね!」

 子供にとっては金貨に等しい甘いクッキー。ベッドに腰掛けた僕とレンは、両手で大事に持ったクッキーをサクサクサクサク味わった。
 並んで種をかじるハムスターのように。
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