【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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「ヴァウアウッ! ヴァウアウッ!」

 いやいやいやいや、ほんの冗談だから!
 なんとか気を逸らして扉を閉めなきゃ。

「出でよ、犬用ビスケット!」

 魔法によって出現した犬用ビスケットは、ちょうどボスの鼻の上にバラバラと落ちた。
 するとボスは目を真ん中に寄せて鼻をヒクヒクさせる。興味がビスケットに移ったのか、体を引いたのでその隙に扉を閉めた。
 そのまま扉に背中を預けてへたり込む。

「ふぅ~、なんとかうまくいった。このまま村長さんたちが帰ってくるまで待つしかないか」

 扉の外ではカリカリふがふが音がする。
 それが聞こえなくなると、今度は甘えて鼻を鳴らすような鳴き声が聞こえてきた。
 うん? なんかボスの様子が変わった?
 静かすぎて逆に気になる。

「ちょっとだけ覗いてみようかな」

 そーっと扉を開けてみると、おすわりしたボスがパタパタと尻尾を振っている。

「ハッハッハッ……くぅーん、くぅーん」

 あれ? どう見ても大人しくなってる?
 なんだか、あのボスから好意すら感じる。
 ビスケットが気に入ったのかな。

「ボス? またビスケットが欲しいの?」
「うぉん!」

 返事した? 今の意志疎通できてない?
 中華まん九個目でマジックアウトするから、クッキーとビスケットを合わせて、えっと……今ので数がわからなくなっちゃった。

 まあ、とくに身体の調子は悪くないし、まだまだいけそうだからやってみよう。で、再び犬用ビスケットを出すことに成功。
 途端に立ち上がったボスは、太いもふもふ尻尾をブンブン振って喜んでる。
 なんか大丈夫そう。
 静かに家を出てボスの前に立った。

「ボス、おすわり」
「わふっ!」
「お手」
「わふっ!」
「おかわり」
「わふっ!」
「はい、お食べ」
「うぉん!」

 おおおー! 完璧に言うこと聞いてくれた。
 カリカリとビスケットを食べ終わったボスの首に抱きついて、念願のもふもふを堪能させてもらう。僕たちはすっかり打ち解けた。

「ボスぅー、今まで酷いことしてごめんなー」
「うぉん!」
「許してくれるの?」
「わふっ!」
「おーそうかそうか、ありがとうー。よーしよしよしよし……」

 しかし、いくら犬用ビスケットが気に入ったとしても、気位の高いボスが急にここまで懐くものなのかな。もしかして、魔法で出した食べ物には特別な効果があるのかもしれない。
 これはまだまだ検証が必要だね。

「ボス、ありがとう。じゃあ、僕は次のところへ行くから。またモフらせてね」
「うぉん、うぉん」

 ん? 僕の前に伏せてどうしたんだ?

「まだ行くなってこと? うーん、違うの? じゃあ、背中に乗れってこと?」
「うぉん!」
「え、本当に? 乗せてくれるの?」
「うぉん、うぉん!」

 大きなボスの背に乗らせてもらうと景色が一変する。ボスは僕を気遣って、のっしのっしとゆっくり進んでくれる。

「ほおおおー! 狼に乗ってるよぉー」

 ボスはそのまま牧場を出ると、村をぐるりと囲む塀沿いの道を悠然と歩く。
 ゴロさんに黙って来ちゃったけど、ボスは狩りと放牧するとき以外は、だいたい横になって寝ているだけだから大丈夫だろう。

「はりつめたぁーふふふ~ん」
 
 解放感に思わず鼻歌が出てしまう。
 野菜や麦の細長い畑が広がるシュガー村の周囲は、高いモミの木を繋ぐように、丸太を立てて並べた頑強な塀でぐるりと囲まれている。

 元々ここは深い森を切り開いてできた土地で、防壁の支柱として利用するためモミの木を切らずに残したらしい。
 そこから少しずつ村の周囲を開拓し、防壁を作り直しては村を広げてきたという。

 その柱となるモミの木には魔物避けの魔導具が設置してあり、夜は青白く淡い光が幻想的に見える。先人たちの苦労が忍ばれるよ。

 ボスの背中に揺られながら進んでいくと、道の先に軽鎧を身にまとった男性がいた。
 灰色髪に青い瞳の騎士、カイン・ホルダー。
 彼もまた母上に仕えていた人で、現在はシュガー村自警団の副団長を務める。
 当然のようにイケオジで声色も渋い。

「これはハルト様、お元気になられたようでなによりです。それにしても、ボスにお乗りになられているとは驚きました。一体なにがあったのですか?」
「こんにちは、カインさん。今ボスから下りるので、ちょっと待ってください」

 騎乗したままでは失礼になるので。
 伏せてくれたボスから下りて、まずは姿勢を正してこれまでの行いを謝罪した。ただ、ビスケット魔法のことは秘密にしておく。

「……それで謝ったら、こうしてボスも許してくれたんです」
「うぉん!」
「なるほど。やはりハルト様はソフィア様によく似ていらっしゃいます」
「え? ああ、はい。母上は僕と同じで黒目黒髪だったと聞いています」

 黒目黒髪はこの大陸では珍しい方で、どうやらあまり好まれる特徴ではないらしい。

「ええ、確かにお姿もですが。私が似ていると申し上げたのはボスとのことです」
「ボスとのこと?」
「はい。ボスは魔の森で怪我をしていたところをソフィア様が治癒魔法で助けられて、それ以来この村を守ってくれているんです。ですから、そうしていると昔を思い出します」
「うぉん、うぉん!」

 そうだったのか、それは知らなかった。
 あ、もしかしてボスが僕にばかり攻撃的だったのは、単に悪戯したことを怒っていたわけじゃなくて、恩人の息子の情けない姿に腹を立てていたのかもしれないな。

「ごめんな、ボス。それと、ありがとう」
「わふっ!」

 ボスの首に抱きついて撫でる。
 思わぬところで母上とボスの思い出話を聞くことができて、カインさんにお礼を言った。
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