【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 風の月、冬の終わり頃。
 この時期のわが家の食卓には、保存食の王様であるポテトとオニオンの塩味スープと、ライ麦や小麦粉で作る黒パンや茶パンが並ぶ。

 これでもシュガー村ではいい方だ。
 パン焼き窯があるのは四軒だけなので、ほとんどの家では麦粥が主食であり、麦がなければ茹でたポテトに塩を振ってかじればいいじゃない、ぐらいの食生活。

 乳歯を殺しにくる硬い干し肉やナッツ、バターやチーズが出る家も数えるほどだろう。
 わが家でたまにロースト肉やベーコンが食べられるのは、アベル兄様たちが魔物を狩ってきてくれるおかげ。北方の内陸地における農村の食生活は、だいたいこんな感じだ。

 朝食をすませた僕は自室に戻り、魔法で出したバタークッキー三枚をレンに手渡す。

「レンは今日からしばらくフィーネを手伝ってあげて。クッキーはマリアと三人で食べるように。数がないから他の人には秘密だよ」

 今夜辺りバタークッキーなら何枚出せるか、マジックアウトするまで検証しよう。

「ハルト様はどこか行くの?」
「今日からちょっと謝りに行ってくるから」
「それならボクも一緒に行くよ」
「いや、一人で行きたいんだ」

 悪戯する時はレンを巻き込んで二人だったけど、僕が無理やり付き合わせていたことは村のみんなも理解しているはず。
 けじめは自分でつけないと。
 手にしたクッキーを喜びもせず、暗い表情を浮かべるレン。慕ってくれる彼が妙に可愛らしく思えて、同い年ではあるが頭を撫たりしてみる。これって父性なのかな?
 うん? ちょっと唇が突き出た。

「レン、怒った?」

 レンは黙ってふるふると頭を横に振る。
 僕には美少年の気持ちもわからないな。

「じゃあ、マリアのこと頼んだよ」
「うん……」

 頷いてくれたから大丈夫だろう。
 まあ、謝罪なんてどうということはない。
 社会人になれば、褒められることよりも失敗して叱られたり怒られたりして謝ることの方が圧倒的に多かった。記憶の中の僕は、あまり優秀な人間ではなかったようだから。

 歩いて向かったのは村長さん宅。
 村の西端から東端へ、小さな橋を三つ渡る。
 お住まいは家畜を飼育している牧場だ。

 柵に囲まれた敷地では、馬、牛、山羊、羊がのんびりと若草を食む。
 この時期は家畜のベビーラッシュで、赤ちゃんがめちゃくちゃ可愛い。僕は山羊の赤ちゃんたちに混ざってミルクを直飲みして、村長夫人のマオさんにものすごく叱られたことがある。
 とにかく味が気になって。
 本質的にあほの子なんでね。

 なお、牧場には家畜を守るため、馬サイズの白い狼と猫の集団がいるが、彼らは想像以上に危険だ。なめたらあかん、殺られる。
 出入り口の門から平屋の家屋までは、目測で二百メートルといったところ。天敵である白狼のボスがいないのを確認してダッシュした。

 というのも、白狼のボスはなぜか僕だけに牙を剥いて怒ってくるんだ。だから腹が立って雪玉をぶつけたことがあって、それから完全に敵認定されてる。まあ、当然だけど。

 村長さんの息子のゴロさんは家畜の扱いに長けてるから、ボスに許してもらえる方法がないか聞いてみようと思う。まずは人間からだ。

 玄関扉をノックしたら続けて勢いよく扉を開ける。村の一般家庭には、錠前もなければプライバシーも存在しないのだ。

「村長さん、ゴロさん、こんにちは!」
「ん? ありゃ、ハルト様?」
「高い熱を出して寝込んだって聞きましたけど、もう良くなったんですか?」
「はい、おかげ様で……」

 スキンヘッドに白髭なのが村長さんで、やわらかそうな癖っ毛で茶髪なのがゴロさん。二人はミルクを飲みながら休憩中だった。
 思ったより普通の反応で意外だ。
 怖いとか怒られるとか、結局は構って欲しくて悪戯をした自分の罪悪感から、勝手に相手のイメージを作り上げていたのだろう。
 僕は今日ここへ来た理由を二人に話して、これまでのことを謝罪した。
 予想通りポカンとされたが。

「ま、子供の頃なんてみんな同じだよな」
「ああ、そうだよ。こうやって素直に謝ることができて、ハルト様は立派だと思うよ」

 そんな優しい言葉を掛けられてホッとする。
 その時、不意に外から夫人の怒声が響いた。
 心臓がビクッて跳ねる。

「ちょっと、あんたたちッ! 一体いつまで休んでるんだいッ!」
「「はいーっ! すみませんっ!」」

 椅子から飛び上がった二人は、大きな声で素直に謝りながら部屋を飛び出していった。
 やっぱり怖いものは怖いよね、うん。
 夫人のマオさんには、また出直して謝ろう。
 そう思って開きかけの扉から外に出ようとすると、生暖かい鼻息と低い唸り声に気づいた。
 やばい、白狼のボスだ。

「グルルルルル……」

 やばいやばいやばいやばい!
 急いで扉を閉めようとするが、裏社会の取り立て屋よろしく太い前足を差し込んでくる。さらにシワが寄った鼻面を隙間から入れてきた。
 よだれが垂れる牙、ぎょろりと目が合う。

「ごめんなさい、ごめんなさい、僕が悪かったから、謝るので許してください!」
「ヴァウアウッ! ヴァウアウッ!」

 やっぱり狼には通じない!
 ぐぎぎぎぎ……力で押されるぅー。
 体ごとじりじり押し込まれる状況に、思考をフル回転させる。そこで前世の記憶からふと閃いて、僕は助かるために一か八か声を上げた。

「鎮まりたまえーっ!」
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