【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

文字の大きさ
54 / 106
第一章 辺境の村~6歳~

51

しおりを挟む
 前世では当たり前だったことで、今世でありがたいなあと思うことの一つ。
 それは明日の天気がわかること。
 昨日のマリアの言葉通り雨になったので、今日は一日中マリアと一緒に過ごす。

 王国語やソロバンの勉強を終えて、休憩にフルーツが乗ったプリンアラモードを食べさせてあげると、マリアの顔から笑みが溢れた。

「ん~! お兄さま、お口の中が冷たくて甘いです! 美味しいが溶けていきます!」
「それはバニラアイスって言うんだよ」
「マリアはまた一つ好きなものができました」
「はは、それは良かった」

 思えばアイスクリームが初めてだったか。
 前世の記憶では毎日買って食べてたけど、夏は川でスイカを冷やして食べたりしてたから、アイス食べるのをすっかり忘れてた。
 久しぶりに食べたらすごく美味しい。
 アイスかあ、砂糖のハードルが高いなあ。

「マリア、次は何をしたい?」
「またカグヤとモモタのお話が聞きたいです」
「え? それ異説竹取物語?」
「はい。幻月げんげつ一刀流のカグヤが大好きです」

 わが家には高価な本なんてないからね。
 道徳や倫理について教えるツールとして、マリアに前世の記憶からテキトーに創作した物語を話して聞かせているんだけど。
 僕がほとんど覚えていない問題。
 だって即興創作だもの。
 異説竹取物語、どんな話だったかな……。

 始まりは確か、昔々ーー。
 剣士のお爺さんは山へ剣の鍛練に、魔導士のお婆さんは海へ魔法の鍛練に行って、それぞれ赤ちゃんを拾うんだ。竹から生まれたカグヤと、助けた亀が砂に埋めていったモモタ。
 
「なんで亀はモモタを砂に埋めていったの?」
「イブスキは砂風呂で有名なのです」

 それどういうお話?
 結局、エキセントリックな物語の多くをマリアに教えてもらうことになったが、今日一日可愛い妹が楽しそうだったから良しとしよう。

 夕食後には雨が止んで星が見えた。
 食後の団らん、兄上がカップを置く。

「ハルト、明日は俺も一緒に行くからな」
「え? お仕事はいいんですか?」

 一年でもっとも多忙な時期なのに。

「天気がわかるマリアのおかげで仕事を回せたんだ。それに、実り豊かな秋の山は魔物の動きも活発になる。さすがにハルトとフィーネの二人だけでは危険だからな」

 ボスが来られないから不安がなかったと言えば嘘になる。一応、守りの魔法『光壁』をそれなりに使えるようになったつもりだけど、兄上がついて来てくれるなら安心だ。

「ありがとうございます」
「ああ……魔物の一匹でも現れて本物の戦いを目の当たりにすれば、ハルトが剣術に興味を持つきっかけになるかもしれないしな……」

 なんか今ボソッボソッと聞こえたけど。
 魔物なんか出ない方がいいよ。
 最近、声に出ちゃうくらい、兄上が僕に剣術をやらせたくてウズウズしている。
 僕はまだ手足の短い六歳児だよ? 
 アベル兄様は神童と呼ばれるくらいすごかったらしいから、たぶん感覚がおかしいんだ。

「ハルトお兄さま、頑張ってくださいね!」
「え? う、うん」

 マリアは僕に何を期待してるんだろう?
 山へ剣の鍛練をしに行くわけじゃないよ。
 キノコや山菜を採りに行くんだからね。
 僕は早めに部屋へ戻り、流れ星に祈った。

「明日は魔物に遭遇しませんように」

 そして翌朝、綺麗な秋晴れ。
 剣と弓矢と革の軽鎧で武装した兄上とフィーネと、編みかごを背負った普段着の僕。
 微妙に世界観が異なる格好をした僕たちは、二頭の馬にわかれて跨がった。
 僕はフィーネの後ろに乗せてもらう。
 前に座るとかごが邪魔だからね。

「ハルト様、私に寄りかかってベルトにしっかり掴まっていてくださいね」
「うん、わかった」
 
 返事をしたけど目の前に矢筒やら短剣やらがあって寄りかかる体勢も難しい。ていうか馬に乗って前が見えないと逆に不安になる。
 それに鐙に足が届かないから、内ももで革製の鞍をキュッと締めてないとお尻が死ぬ。

「よし、フィーネ出発するぞ」
「はい!」

 兄上の掛け声で馬が走り出した。
 屋敷から塀沿いの道を北へ向かい、普段は閉じられている北門から出れば、北の山はすぐそこにある。
 僕は頑張ってしがみついた。二人に比べてカッコ悪くても自分のお尻を守るために。
 そのまま川沿いの道を北上して森へ入り、山の入り口で馬から降りた。

「ここから歩きだ。ハルトは『光壁』を使う時に俺とフィーネに伝えること。フィーネは矢を射る時に俺とハルトに伝えること。常にお互いの位置を確認して周囲への警戒を怠るな」
「「はい!」」

 真剣な表情の兄上の指示を聞くと、秋の楽しいキノコ狩り気分は引っ込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」 ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。 竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。 そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。 それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。 その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた! 『ママ! 早く僕を産んでよ!』 「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」 お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない! それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――! これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。 設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

処理中です...