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第一章 辺境の村~6歳~
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木漏れ日落ちる秋の山。
多様な樹木から赤や黄色の葉が落ちて、辺り一面が印象派の油彩画のようだ。
兄上が辺りを警戒してくれている間に、僕はフィーネの独り言を聞きながらキノコや木の実を採取する。緊張感は薄れて興奮していた。
だって、あっちこっちにキノコが生えてるんだから。誰も採りに来ないから採り放題だよ。あ、シロのある場所は来年も同じキノコが出てくるから少し残しておくんだよね。
「ねぇフィーネ、みんなキノコが嫌いなの?」
「ほとんど食べたことがないのだと思います」
「どうして食べないの?」
「簡単には毒キノコを見分けられないのと、魔物がいる領域に入って安全に採取するのにかかる費用が割に合わないからだと思います」
「そうか、仮に兄上やフィーネを雇うとすれば、それなりにお金がかかるもんね」
それにしても、キノコを採って食べないのはもったいない。塩漬けにすれば保存食にもなるんだから。
「はい。あ、そこにツチタケがありますよ」
「ツチタケ?」
柔らかい土を少し掘って取り出してみると、黒いゴツゴツした物体だ。
「はい。ツチタケはいい香りがするんです」
「へぇー、ってこれ黒トリュフじゃん!?」
「黒トリュフ?」
首を傾げるフィーネを横目に見ながら確保!
辺りにドングリが落ちているから、なるほどこの木はカシの木みたいだ。
トリュフはカシの木やブナの木などの広葉樹の根っこに共生して増殖する菌根菌だからね。松茸の香りと同じで人によって好き嫌いがわかれるけど、お宝お宝。
「えっと戦利品は……山椒の実、銀杏、クルミ、アケビ、ヤマンゴ、むかごか」
酸味の強い緑色のヤマンゴは、黄色く完熟するとマンゴーのように甘くなる卵サイズのフルーツ。むかごは自然薯の球芽で、塩茹でしたり油炒めなどでも食べられるね。
さすがに自然薯を掘るのは諦めたよ。
キノコはツチタケこと黒トリュフに、シロタケことホワイトマッシュルーム、マツタケ、マイタケと、キノコが大豊作。
あとはコケモモがどっさり採れた。
戦利品で一杯になった背負いかごを見てニマニマしていると、不意に兄上の声が響いた。
「フィーネ! ハルト! 魔物だ!」
僕とフィーネに緊張が走る。
急いで辺りを見回すと、木々の間から黒い魔物が姿を現した。その数、二、四、六……二十匹以上! まだ囲まれてはいないが数が多い。
弓矢を手に、兄上が斜面を駆け下りてきた。
「ブラックボアだ。小型で俊敏、攻撃的な魔物で斜面では分が悪い。急いで途中の平地まで移動するぞ。俺がしんがりを務める」
「ハルト様、かごは私がお持ちします」
「ごめんフィーネ。兄上お気をつけて」
「ああ。さあ、行くんだ」
兄上の指示に従い斜面を駆け下りる。
後ろからは何度も矢を放つ音と魔猪の悲鳴が聞こえてきたが、僕は振り返らずに切り立つ岩壁がある平地を目指した。
「はあはあはあ、ふぅー。兄上は?」
「あそこです!」
行き止まりの崖に着いて振り返ると、兄上はすでに矢が尽き剣を手にして戦っていた。思ったよりも早く追い付かれたように感じる。
「フィーネはあの戦況をどう見る?」
「私たちが足手まといになっているので、アベル様は苦戦しているように見えます」
「うん、僕もそう思う」
木を背にするなりして戦えば楽なのに、兄上はあえて集団の真ん中に陣取って自分に注意を向けさせている。こっちへ来させないためだ。
一歩間違えれば一気にやられちゃうかも。
「ねぇフィーネ? フィーネは僕を抱えて向かってくるブラックボアを飛び越えられる?」
「え? は、はい。たぶんできます」
「よし。僕に考えがあるから、そのかごはあそこの木の陰にでも置いておいて。絶対に大丈夫だから、僕を信じて」
「……はい、わかりました」
目を見ただけで信じてくれるのが嬉しいよ。
僕とフィーネは岩の壁を背にして立った。
「兄上ーっ! 僕に考えがありまーす! 僕を信じてブラックボアをこっちへ追い立ててくださーい!」
「なんだと!?」
さすがに耳を疑ったようだ。
「光壁魔法で足止めしまーす!」
「大丈夫なんだろうな!」
「自信がありまーす! フィーネ、矢を」
「はい」
兄上は迷っているようだ。
しかしフィーネが矢をつがえて構えたのを見ると、魔猪の集団の中から抜け出した。直後にフィーネの放った矢が魔猪の尻を射る。
「プギィーッ!」
悲鳴が上がりこちらに注意が向く。
魔猪の集団は咆哮を上げて突進してきた。
「ハルト様、しっかり掴まってください!」
「うん!」
抱き付いたフィーネの口から詠唱が聞こえ、足元に風の渦が巻き起こる。
土煙を上げて眼前に迫る魔猪の集団。
地面を蹴ったフィーネは軽々と彼らを飛び越え、魔猪の集団は次々と硬い岩の壁にぶつかっていった。
「よし、今だ! 光壁!」
無用な高さを抑えて左右に幅を広げる。
黄金に輝く半透明の壁は、狙いどおり魔猪の集団を岩壁に押し付けた。崖と光壁による魔猪のサンドイッチ、一網打尽だ。
「兄上! フィーネ! とどめを!」
「ああ!」
「はい!」
二人の剣は光壁を内側からすり抜けて、身動きの取れない魔猪を易々と貫いた。
多様な樹木から赤や黄色の葉が落ちて、辺り一面が印象派の油彩画のようだ。
兄上が辺りを警戒してくれている間に、僕はフィーネの独り言を聞きながらキノコや木の実を採取する。緊張感は薄れて興奮していた。
だって、あっちこっちにキノコが生えてるんだから。誰も採りに来ないから採り放題だよ。あ、シロのある場所は来年も同じキノコが出てくるから少し残しておくんだよね。
「ねぇフィーネ、みんなキノコが嫌いなの?」
「ほとんど食べたことがないのだと思います」
「どうして食べないの?」
「簡単には毒キノコを見分けられないのと、魔物がいる領域に入って安全に採取するのにかかる費用が割に合わないからだと思います」
「そうか、仮に兄上やフィーネを雇うとすれば、それなりにお金がかかるもんね」
それにしても、キノコを採って食べないのはもったいない。塩漬けにすれば保存食にもなるんだから。
「はい。あ、そこにツチタケがありますよ」
「ツチタケ?」
柔らかい土を少し掘って取り出してみると、黒いゴツゴツした物体だ。
「はい。ツチタケはいい香りがするんです」
「へぇー、ってこれ黒トリュフじゃん!?」
「黒トリュフ?」
首を傾げるフィーネを横目に見ながら確保!
辺りにドングリが落ちているから、なるほどこの木はカシの木みたいだ。
トリュフはカシの木やブナの木などの広葉樹の根っこに共生して増殖する菌根菌だからね。松茸の香りと同じで人によって好き嫌いがわかれるけど、お宝お宝。
「えっと戦利品は……山椒の実、銀杏、クルミ、アケビ、ヤマンゴ、むかごか」
酸味の強い緑色のヤマンゴは、黄色く完熟するとマンゴーのように甘くなる卵サイズのフルーツ。むかごは自然薯の球芽で、塩茹でしたり油炒めなどでも食べられるね。
さすがに自然薯を掘るのは諦めたよ。
キノコはツチタケこと黒トリュフに、シロタケことホワイトマッシュルーム、マツタケ、マイタケと、キノコが大豊作。
あとはコケモモがどっさり採れた。
戦利品で一杯になった背負いかごを見てニマニマしていると、不意に兄上の声が響いた。
「フィーネ! ハルト! 魔物だ!」
僕とフィーネに緊張が走る。
急いで辺りを見回すと、木々の間から黒い魔物が姿を現した。その数、二、四、六……二十匹以上! まだ囲まれてはいないが数が多い。
弓矢を手に、兄上が斜面を駆け下りてきた。
「ブラックボアだ。小型で俊敏、攻撃的な魔物で斜面では分が悪い。急いで途中の平地まで移動するぞ。俺がしんがりを務める」
「ハルト様、かごは私がお持ちします」
「ごめんフィーネ。兄上お気をつけて」
「ああ。さあ、行くんだ」
兄上の指示に従い斜面を駆け下りる。
後ろからは何度も矢を放つ音と魔猪の悲鳴が聞こえてきたが、僕は振り返らずに切り立つ岩壁がある平地を目指した。
「はあはあはあ、ふぅー。兄上は?」
「あそこです!」
行き止まりの崖に着いて振り返ると、兄上はすでに矢が尽き剣を手にして戦っていた。思ったよりも早く追い付かれたように感じる。
「フィーネはあの戦況をどう見る?」
「私たちが足手まといになっているので、アベル様は苦戦しているように見えます」
「うん、僕もそう思う」
木を背にするなりして戦えば楽なのに、兄上はあえて集団の真ん中に陣取って自分に注意を向けさせている。こっちへ来させないためだ。
一歩間違えれば一気にやられちゃうかも。
「ねぇフィーネ? フィーネは僕を抱えて向かってくるブラックボアを飛び越えられる?」
「え? は、はい。たぶんできます」
「よし。僕に考えがあるから、そのかごはあそこの木の陰にでも置いておいて。絶対に大丈夫だから、僕を信じて」
「……はい、わかりました」
目を見ただけで信じてくれるのが嬉しいよ。
僕とフィーネは岩の壁を背にして立った。
「兄上ーっ! 僕に考えがありまーす! 僕を信じてブラックボアをこっちへ追い立ててくださーい!」
「なんだと!?」
さすがに耳を疑ったようだ。
「光壁魔法で足止めしまーす!」
「大丈夫なんだろうな!」
「自信がありまーす! フィーネ、矢を」
「はい」
兄上は迷っているようだ。
しかしフィーネが矢をつがえて構えたのを見ると、魔猪の集団の中から抜け出した。直後にフィーネの放った矢が魔猪の尻を射る。
「プギィーッ!」
悲鳴が上がりこちらに注意が向く。
魔猪の集団は咆哮を上げて突進してきた。
「ハルト様、しっかり掴まってください!」
「うん!」
抱き付いたフィーネの口から詠唱が聞こえ、足元に風の渦が巻き起こる。
土煙を上げて眼前に迫る魔猪の集団。
地面を蹴ったフィーネは軽々と彼らを飛び越え、魔猪の集団は次々と硬い岩の壁にぶつかっていった。
「よし、今だ! 光壁!」
無用な高さを抑えて左右に幅を広げる。
黄金に輝く半透明の壁は、狙いどおり魔猪の集団を岩壁に押し付けた。崖と光壁による魔猪のサンドイッチ、一網打尽だ。
「兄上! フィーネ! とどめを!」
「ああ!」
「はい!」
二人の剣は光壁を内側からすり抜けて、身動きの取れない魔猪を易々と貫いた。
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