【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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「浄化! ふぅ、これで終わりっと」

 鋭い牙の黒い魔猪が全部で二十八匹。
 兄上が自分で倒したのも集めてきて、僕が浄化魔法でお手軽血抜きを済ませた。
 兄上が換金率の高い魔石と牙だけを取っていくつもりだったのを、もったいないから僕が全部持って帰りますと言ったんだ。
 冬を前に魔物のお肉や毛皮は貴重だからね。
 しかし、これのどこが小型なんだろう?
 記憶の中の猪より一回りは大きいよ。

「お疲れ様です、ハルト様。お水をどうぞ」
「ありがとう、フィーネ」

 ああ、山の冷たい清水が美味しい。
 魔力量は大丈夫だけど緊張して疲れた。
 やっぱり僕は戦いに向いていないと思う。

「ハルト、本当に全部持ち帰る手段があるのか? そろそろ日も暮れ始める。やっぱり無理なら魔石と牙を急いで取るが?」
「任せてください、兄上。ジルオ様も驚かれた方法ですが、荷馬車で練習しましたから」
「は? 荷馬車で練習?」
「はい。ただし僕一人では無理なので、ブラックボアを載せるのを手伝ってくださいね」

 顔を見合わせる兄上とフィーネ。
 僕は二人に笑顔を向けてから詠唱をする。

「光壁」

 頭上に展開したのは横倒しにした半透明の光壁。山道を歩くので前後に長い長方形にした。
 兄上の目の前の高さ、フィーネは口を開けて頭上を見上げる。僕が地面に座ると頭上の光壁も連動して低くなり、フィーネの身体をすり抜けた。

「兄上、お手数ですがこの上にブラックボアを載せてもらえますか?」
「あ、ああ……わかった」

 ジルオ様といい、兄上といい、最近みんなの驚く顔を見るのが楽しくなってきた。

「ハルト、これも光壁の魔法なのか?」

「はい、そうですよ。光壁は魔導士の周囲なら任意の場所に展開できるんです」

「それは知っているが、俺は光壁が荷物の運搬に使えるなんて聞いたことがないぞ」

 そう言いつつ兄上は魔猪を載せてくれる。

「ジルオ様にも同じように言われました。でも魔導書に書いてある光壁の特性をよく考えれば、できないことはないと思ったんです」

 魔導書によれば、光壁は敵の悪意ある攻撃から身を守る魔法であり、それは物理攻撃でも魔法攻撃でも防ぐことができると書いてある。

 ただ、この敵の悪意ある攻撃っていうのが引っかけで。じゃあ、悪意がなければ防げないのか? という疑問が沸いて、実験してみると別にそんなことはなかった。

 具体的には、部屋の扉を開けると僕の頭上へ木桶が落ちてくる仕掛けを作り、何も知らないレンを呼んで扉を開けてもらった。
 これならレンに僕を攻撃する悪意はない。
 でもちゃんと光壁で木桶は防げたからね。

 つまりは浄化魔法の時と同じ。光壁を通す通さないは、魔導士の主観的な考えに基づいて決まるということに確信を得たんだ。

 そして光壁の展開場所と範囲は、魔導士を中心に任意で決めることができる。今のところ僕の限界は手を伸ばした先五十センチくらいで、大きさは六十平方メートルぐらいかな。

 また光壁の耐久力は使う魔力に依存していて、受けた攻撃の強さに応じて耐久力、すなわち魔力が減っていく。
 もちろん発動中も魔力は減り続ける。

 光壁は魔導士の意思に従い敵の攻撃は通さないが見方の攻撃は通す。また、光壁の耐久力の範囲なら魔導士に負荷はかからない。

 光壁を挟んで魔導士が一生懸命に壁を支える必要はない。耐久力は魔力量に起因しているのだから、たとえ壁の内側でお茶を飲んでいたとしても効果は同じということだね。

「こうして光壁の上に載せることができて、壁を維持できる魔力の範囲内であれば、理論上はどんなに重い物でも運ぶことができるんです」
「魔力次第でどんなに重い物でも……」

「すごいです! ハルト様」
「へへへ」

 アイデアを褒められるのは素直に嬉しい。

「ただし欠点もあります」
「欠点?」
「はい。光壁は隙間がなければ発動できない」

 空気中や水中では発動できるが、土中など物体を押し退けて発動することはできない。まあ、これは全ての魔法における大原則だから。

「だから地面にくっついている物は、持ち上げるか地面に穴でも掘って光壁を展開する隙間を作らなければならないんです」

 そんなに都合のいい話はないってことだね。

「あっははは……」
「兄上?」
「アベル様?」

 急に声を上げて笑い出した兄上。
 こんな風に笑う兄上を見るのは初めてだ。
 僕とフィーネは驚きに顔を見合わせた。

「ではブラックボアを運ぶハルトを持ち上げるとどうなるんだ? ああ、やってみるか」
「兄上!?」

 兄上は僕をひょいっと抱き上げ肩車した。
 びっくりして斜めに傾く光壁を必死で戻す。

「急に危ないですよ、兄上」
「ははは、悪い悪い。だが夕暮れまでに山を下りたい。このまま走って行くから、ハルトは頭の上のブラックボアを落とすなよ?」
「ええっ? ゆ、ゆっくりお願いします」
「フィーネ、警戒しつつ走って行くぞ」
「はい!」

 なぜか上機嫌の兄上に肩車されて帰る。
 光壁にブラックボアを載せて馬で走ると、白黒画像で見たそば屋の出前持ちになったような気分だ。彼らも今の僕みたいに、すれ違う人々から好奇の眼差しを向けられたのだろうか。

「へい、ブラックボア二十八匹お待ち」
「ぎゃあああー!」

 皮革職人の親方、コバさんの悲鳴が響いた。
 食肉解体作業も担う皮革職人衆は、収穫祭や冬を前にとても忙しいからね。
 丸投げですみません。
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