【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 夕食後。
 雨が上がり雲間から星空が見えた。
 僕は一人でテントへ戻り静かに横になる。
 ランタンの灯りの下、光の魔導書を開いて日課の勉強をしているとフィーネが来た。

「ハルト様、入ってもよろしいですか?」
「ん? あ、うん、どうぞ。あれ? もう仕事は終わったの?」

 毛布を抱えたフィーネは、裾の長い上着を羽織った寝巻き姿。いつものシニヨンをほどいて長い銀髪をリボンで緩く一つに結んでいる。

「はい。ハルト様は魔法のお勉強に集中なさっていたのではないですか?」
「そうみたい。ちょっと転卵しとこう」

 温めていた卵を今度はフィーネに頼んだ。

「それでは、ここからは私が起きていますから、ハルト様はお休みください」
「うん、ありがとう。フィーネも寝て休まないとダメだからね、無理しないように。少ししたら代わるから、夜中にちゃんと起こしてね」
「はい。ではどうぞ」

 横座りしたフィーネはぽんぽんと膝を叩く。

「えっと、僕は普通に寝るから大丈夫だよ」
「ハルト様、わがままは良くありませんよ」

 この場合、僕のわがままになるの?

「早くしないと、よしよししちゃいます」

 はっ! さてはマリアから聞いたな!
 嬉しそうに、にこにこしちゃって。
 はぁ、逆らうだけ無駄か。

「はい、お願いします」
「よしよしですね?」
「膝枕だけです」
「ふふふ、かしこまりました」

 ランタンの灯りを消して毛布に潜る。
 フィーネの膝枕で横になって目を閉じると、幼い頃から知っているラベンダーの香りがした。

「ハルト様がおやすみになるまでの間、少しだけお話をしてもいいですか?」
「うん、いいよ」

 僕は目を閉じたまま答える。

「先ほどユカさんとクロエさんが来ました」
「クロエさん?」
「猫獣人の可愛い女の人です」

 ああ、助けてくれたハンターの人。

「お二人からハルト様に伝言を預かりました」
「え、伝言? 苦情とか苦情?」
「いえ。改めて感謝と謝罪です」

 傷つかない予防線が無駄になって良かった。

「ユカさんが領都へ行くことを伝えると、ミユカとレダンはとても喜んだそうです」
「それを僕に伝えて欲しいと?」
「はい。ありがとうございますと」

 うわぁ、目論見を見透かされてる。

「それから頑固者のお姉さんとお兄さんでごめんなさいね、とも仰ってました」
「ソウデスカ。それでクロエさんの方は?」

 恥ずかしいから話題を変えよう。

「あのビラグという人は、急遽パーティーを組んだ王都出身のハンターだそうで。護衛の旅の間、クロエさんによく絡んできたそうです」

「ああ、黒髪だから?」

 運気が下がるとか言われたなあ。
 王都から辺境へ流れてきたハンターか。
 なんかやらかしたんじゃない?

「はい。だからハルト様を見て余計に腹を立てたのだろうと仰っていました」
「ふーん。それでクロエさんがわざわざ謝りに来てくれたんだ。いい人なんだね」

 格闘術で戦う拳闘士らしい。
 すごい飛び蹴りだった。
 
「ハルト様は、気にしていませんか?」

 フィーネの声音がより優しくなった。
 心配してくれているんだろう。

「あのツヤツヤもふもふの尻尾は気になるよ」
「……可愛い人でしたしね」
「フィーネさん、髪の毛でコショコショするのやめてください。くすぐったいです」

 黒がどうとかそんなこと気にしないよ。 
 僕は目を開けて、フィーネの瞳を見つめた。

「僕は母上の息子だよ。この容姿のことを馬鹿にされても全然平気。村のみんなは誰もそんなことで差別しないしね。だから、フィーネもそんなに心配しなくて大丈夫。ありがとう」

 微笑むフィーネは安堵してくれたようだ。
 僕も笑顔を返してまた目を閉じた。

「ハルト様は、お強くなられましたね」
「酔っ払いに斬られる程度だけどね」
「ご安心ください。アベル様がそろそろ剣術の鍛練を始めようかとご検討されていました。私も本格的に鍛練を始めるつもりです」

 いやいや、僕にそんなつもりはないよ。
 僕は完全に生産職の人間なんだ。
 辺境農村ライフは超多忙なんだから。
 寝よう、今のは聞かなかったことにしよう。

「ハルト様? ハルト様ー?」

 また髪の毛でコショコショしてくるフィーネに対し、頭から毛布を被って眠りに就いた。


 そして、テント生活四日目。
 まだ夜明け前。
 焦るフィーネの声に起こされた。

「ハルト様、起きてください! ハルト様! 卵が割れて生まれそうです!」
「んん……ん!? えっ! 生まれる!?」
「はい! ひなが生まれそうです!」
「ほんとだ。フィーネ、念のため盾を」
「はい」

 フィーネと丸盾から覗き込むように孵化を見守る。自然と繋いだ手にも力が入った。

「頑張れー、頑張れー」
「頑張って、あと少しです」

 くちばしや頭で少しずつ殻を割り、転がりながら出てきた黒いひな。ピィピィと高い声で鳴く姿に、笑顔のフィーネと顔を見合わせる。

「ハルト様、生まれましたよ!」
「うん。しばらく様子を見て、僕らに対して攻撃的にならないか見極めよう」 

 それから立て続けに孵化した。
 四羽が黒い毛色で、一羽が白い毛色。
 ひな鳥はピィピィと鳴きながら口を開ける。

「今のところ襲ってくる様子はないね」
「はい、そのようですね」

 さっそく、すり餌を順番に与えてみる。
 すり餌は麦や大豆などを細かく砕いて、水でペースト状にしたものだ。これから誰でも飼育できるように、僕の魔法の食べ物は使わない。

 それから半日。
 マリアやレンも一緒にみんなで給餌を続けるうちに、ひな鳥たちは目が見えるようになり、歩き回るようにもなった。
 ひな鳥というか、もう立派なヒヨコだ。
 五羽のヒヨコに攻撃性は見られず、僕たちを親だと思ってちゃんと懐いてくれた。

「やった、やったよ、みんな!」
「おめでとうございます、ハルト様」
「見て見てハルト様、頭に乗ってくるよ」
「お兄さま、ヒヨコもふもふです~」

「「「ピィピィピィーイ!」」」

 ヒヨコたちも、喜ぶ僕たちの肩や頭の上に乗って一緒に喜んでいるようだった。
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