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第一章 辺境の村~6歳~
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早朝。
「ピィーッ! ピィッピィッピィッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
鳥小屋へ行くと突然黒い毛玉に襲われた。
猛然と追いかけてきて頭突きをしてくる。
柵の隙間から外に出てたんだ。
二十日目に生まれたヒヨコは狂暴だった。
「ちょっと待って待って待って……」
鳥小屋の周りを走りながらチョコ菓子を撒くも、興奮状態では見向きもしない。
どうするどうするどうしたらいい?
逃げるように鳥小屋へ飛び込むと、ヒヨコは僕を目掛けて回転しながら飛んきた。
「ピィーッ!」
「クェクェクェッ!」
ヒヨコの前に立ちはだかったニワトリ。うるさいと言わんばかりにその翼で叩き落とすと、ヒヨコはふらふらと目を回した。
「おお! ありがとう、ニワトリ」
今のうちにチョコを食べさせよう。
で、なんとか大人しくなった。
「ピィピィ、ピィ~」
「はあはあ……昨日の今日でしんどい……」
たぶん孵化から数時間でこの強さ。
前世の養鶏でも雛の成長に合わせて飼育環境を変えてたけど、詳しいことは覚えてないし。
これ飼い慣らせるのかなあ?
不安になるが計画通り次に進めるしかない。
ニワトリが産卵箱で温めている卵は五つだ。最初の卵より五日遅れで産まれた。
「五つかあ……」
全部一斉に孵って襲われたらヤバいかも。
今回は一つにするかそれとも一気にやるか。
「でも、時間が惜しい。五つ一気にやろう! 兄上とクラウスさんに相談しないと」
一旦この結果が出るまで雄と雌を鳥小屋の中で分けて飼うことにしようと思う。狂暴なヒヨコばかり増えても手に負えないからね。
産卵箱から抱卵中の卵を五つ取って、オリーブ色の卵の外側を浄化魔法で綺麗にする。
羊毛のもふもふ帽子に包んで、お腹とシャツの間へ大事に入れた。これで人の体温より少し高めの孵化温度をキープできるだろう。
そして朝食へ。
空は曇天で雨が降りそう。
アルマンさんたちの出発は、ホルダー家の準備もあるので明日に延期だそうだ。
「……そうですか。ところで兄上」
「なんだ?」
「僕は今日から外でテント生活をしようと思うのですが、いいでしょうか?」
「意味がわからない。丁寧に説明しろ」
説明したら兄上は頭を抱えた。
貴族令息として行動がおかしいのかな?
人としておかしいわけじゃないといいけど。
「本当に大丈夫なのか? ニワトリと呼んではいるが、ヘルヒクイ鳥なんだぞ?」
「正直に言いますと、寝ている時に孵化して狂暴だった場合は自信がありません。えへへ」
たぶん五日以内には孵化すると思うけど、さすがに寝込みを襲われてはね。
「それならマリアがお手伝いします!」
話を聞いていたマリアが声を上げた。
僕は兄上と顔を見合わせる。
「えっと、マリアには危ないから、ね」
「むー。どうしてですか? ハルトお兄さまがおやすみの間はマリアが卵を温めます」
マリアは意外と頑固なんだよなあ。
困り顔の兄上と視線を交わす。
するとフィーネとレンも声を上げた。
「あの、私もお手伝いしたいと思います」
「ボクも卵温めたいです」
やれやれと小さくため息をつく兄上。
「わかった。ただし、くれぐれも気を付けるように。クラウス、テント一式と念のために丸盾を出してやってくれ」
「はい、かしこまりました」
朝食後、マーサさんの計らいでフィーネとレンを屋敷の仕事から解放してくれた。
マリアと四人でテントを設営する。
三角テントの中には、羊毛のもふもふ毛布を敷いて、魔導ランタンを吊るす。
フィーネ先生のおかげで快適空間ができた。
「みんなありがとう。僕は夜に備えて今から仮眠を取りたいんだけど、その間は三人で順番に卵を温めてもらえるかな?」
三人は相談して最初はマリアに決まった。
「じゃあ、一つだけ注意すること。交代の際に少しだけ卵の向きを変える以外は、卵の向きは変えないように慎重に扱ってね」
これまでの観察から、たまに親鳥がくちばしで卵を転がす行動を確認した。
この転卵という行動は、卵の中で卵殻に成長途中の胚が癒着するのを防ぎ、卵全体をうまく温められるようにしている。鶏もやるんだ。
孵化率に関わるので、様子を見ながら孵化予定日の二日ぐらい前まで続けてみる。
いずれは卵の自動孵卵器を作りたい。
「マリア、疲れちゃったらすぐに僕を起こしていいからね。無理しちゃダメだよ?」
羊毛のもふもふ帽子に包んだ卵を、マリアが自分の服の中へ大事に入れた。
フィーネとレンは二人で屋敷へ戻る。
「はい、大丈夫です。マリアが卵もハルトお兄さまも守ってあげます。お兄さまは早くマリアの脚に頭を乗せてください」
「え? 僕は普通に寝るからいいよ」
「むー、ダメです。お兄さまは、マリアの膝枕で寝かし付けてあげるんですから」
「でも脚が痺れちゃうから、ね」
「もう、お兄さま!」
こうなったマリアには勝てないか。
僕は渋々、四歳の妹の脚に頭を乗せた。
兄としてのプライドがあるのだけど。
「お兄さま、もう眠れそうですか?」
「まだ眠れそうもないです」
「マリアがいい子いい子してあげますね」
マリアが僕の頭を撫でてくれる。
赤ちゃんじゃないんだけどな。
「どうですか? 眠れそうですか?」
「んー、まだちょっと眠れないです」
そんなやり取りを繰り返すうちに、マリアの手が止まり話しかけてこなくなった。
降り出した雨がテントを優しく叩く。
ん? スースー寝息が聞こえる。
薄く目を開けると、こっくりこっくりと船を漕ぐマリアの顔が近くに見える。
僕はそーっと位置を代わり、マリアに膝枕をして横に寝かせると、このまま卵を抱いて眠る可愛い妹を見守ることにした。
こうしてのんびりする時間は久しぶり。
兄妹水入らずの一時だった。
「ピィーッ! ピィッピィッピィッ!」
「痛い痛い痛い痛い」
鳥小屋へ行くと突然黒い毛玉に襲われた。
猛然と追いかけてきて頭突きをしてくる。
柵の隙間から外に出てたんだ。
二十日目に生まれたヒヨコは狂暴だった。
「ちょっと待って待って待って……」
鳥小屋の周りを走りながらチョコ菓子を撒くも、興奮状態では見向きもしない。
どうするどうするどうしたらいい?
逃げるように鳥小屋へ飛び込むと、ヒヨコは僕を目掛けて回転しながら飛んきた。
「ピィーッ!」
「クェクェクェッ!」
ヒヨコの前に立ちはだかったニワトリ。うるさいと言わんばかりにその翼で叩き落とすと、ヒヨコはふらふらと目を回した。
「おお! ありがとう、ニワトリ」
今のうちにチョコを食べさせよう。
で、なんとか大人しくなった。
「ピィピィ、ピィ~」
「はあはあ……昨日の今日でしんどい……」
たぶん孵化から数時間でこの強さ。
前世の養鶏でも雛の成長に合わせて飼育環境を変えてたけど、詳しいことは覚えてないし。
これ飼い慣らせるのかなあ?
不安になるが計画通り次に進めるしかない。
ニワトリが産卵箱で温めている卵は五つだ。最初の卵より五日遅れで産まれた。
「五つかあ……」
全部一斉に孵って襲われたらヤバいかも。
今回は一つにするかそれとも一気にやるか。
「でも、時間が惜しい。五つ一気にやろう! 兄上とクラウスさんに相談しないと」
一旦この結果が出るまで雄と雌を鳥小屋の中で分けて飼うことにしようと思う。狂暴なヒヨコばかり増えても手に負えないからね。
産卵箱から抱卵中の卵を五つ取って、オリーブ色の卵の外側を浄化魔法で綺麗にする。
羊毛のもふもふ帽子に包んで、お腹とシャツの間へ大事に入れた。これで人の体温より少し高めの孵化温度をキープできるだろう。
そして朝食へ。
空は曇天で雨が降りそう。
アルマンさんたちの出発は、ホルダー家の準備もあるので明日に延期だそうだ。
「……そうですか。ところで兄上」
「なんだ?」
「僕は今日から外でテント生活をしようと思うのですが、いいでしょうか?」
「意味がわからない。丁寧に説明しろ」
説明したら兄上は頭を抱えた。
貴族令息として行動がおかしいのかな?
人としておかしいわけじゃないといいけど。
「本当に大丈夫なのか? ニワトリと呼んではいるが、ヘルヒクイ鳥なんだぞ?」
「正直に言いますと、寝ている時に孵化して狂暴だった場合は自信がありません。えへへ」
たぶん五日以内には孵化すると思うけど、さすがに寝込みを襲われてはね。
「それならマリアがお手伝いします!」
話を聞いていたマリアが声を上げた。
僕は兄上と顔を見合わせる。
「えっと、マリアには危ないから、ね」
「むー。どうしてですか? ハルトお兄さまがおやすみの間はマリアが卵を温めます」
マリアは意外と頑固なんだよなあ。
困り顔の兄上と視線を交わす。
するとフィーネとレンも声を上げた。
「あの、私もお手伝いしたいと思います」
「ボクも卵温めたいです」
やれやれと小さくため息をつく兄上。
「わかった。ただし、くれぐれも気を付けるように。クラウス、テント一式と念のために丸盾を出してやってくれ」
「はい、かしこまりました」
朝食後、マーサさんの計らいでフィーネとレンを屋敷の仕事から解放してくれた。
マリアと四人でテントを設営する。
三角テントの中には、羊毛のもふもふ毛布を敷いて、魔導ランタンを吊るす。
フィーネ先生のおかげで快適空間ができた。
「みんなありがとう。僕は夜に備えて今から仮眠を取りたいんだけど、その間は三人で順番に卵を温めてもらえるかな?」
三人は相談して最初はマリアに決まった。
「じゃあ、一つだけ注意すること。交代の際に少しだけ卵の向きを変える以外は、卵の向きは変えないように慎重に扱ってね」
これまでの観察から、たまに親鳥がくちばしで卵を転がす行動を確認した。
この転卵という行動は、卵の中で卵殻に成長途中の胚が癒着するのを防ぎ、卵全体をうまく温められるようにしている。鶏もやるんだ。
孵化率に関わるので、様子を見ながら孵化予定日の二日ぐらい前まで続けてみる。
いずれは卵の自動孵卵器を作りたい。
「マリア、疲れちゃったらすぐに僕を起こしていいからね。無理しちゃダメだよ?」
羊毛のもふもふ帽子に包んだ卵を、マリアが自分の服の中へ大事に入れた。
フィーネとレンは二人で屋敷へ戻る。
「はい、大丈夫です。マリアが卵もハルトお兄さまも守ってあげます。お兄さまは早くマリアの脚に頭を乗せてください」
「え? 僕は普通に寝るからいいよ」
「むー、ダメです。お兄さまは、マリアの膝枕で寝かし付けてあげるんですから」
「でも脚が痺れちゃうから、ね」
「もう、お兄さま!」
こうなったマリアには勝てないか。
僕は渋々、四歳の妹の脚に頭を乗せた。
兄としてのプライドがあるのだけど。
「お兄さま、もう眠れそうですか?」
「まだ眠れそうもないです」
「マリアがいい子いい子してあげますね」
マリアが僕の頭を撫でてくれる。
赤ちゃんじゃないんだけどな。
「どうですか? 眠れそうですか?」
「んー、まだちょっと眠れないです」
そんなやり取りを繰り返すうちに、マリアの手が止まり話しかけてこなくなった。
降り出した雨がテントを優しく叩く。
ん? スースー寝息が聞こえる。
薄く目を開けると、こっくりこっくりと船を漕ぐマリアの顔が近くに見える。
僕はそーっと位置を代わり、マリアに膝枕をして横に寝かせると、このまま卵を抱いて眠る可愛い妹を見守ることにした。
こうしてのんびりする時間は久しぶり。
兄妹水入らずの一時だった。
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