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第一章 辺境の村~6歳~
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領主邸の客間に八人が集まった。
体の大きな赤髪の戦士が片ひざをついて頭を垂れると、後ろの女性二人も続く。
「この度はビラグの愚かな振る舞いにより、ハルト様の名誉とお体を傷つけましたこと、誠に申し訳ございません。
すべて『アルヌの双壁』のリーダーである俺の責任であります。俺はリーダーとして、いかなる裁きも受ける覚悟で参りました」
目が覚めたのは夕方過ぎ。
僕の手を握るマリアと、泣きそうな顔のレンとフィーネが一斉に抱きついてきた。
みんなのハグで息ができなくて苦しい。
どうやら死なずにすんだようだ。
傷は痛みもなく綺麗さっぱり消えて。
あの直後にハンターのボルドさんたちが駆けつけて、液体治癒薬を使ってくれたらしい。
口の中、苦っ!
気絶してる人の口に液体を流し込むのはどうだろう? 魔法薬だから大丈夫なのかな。
毒の方は浄化魔法が上手く効いたみたいで、コツコツ学んでおいて良かった。
ただ大騒ぎになってしまい、アルマンさんと護衛のハンター三人、それとカインさんとユカさんが謝罪に訪れていると聞いたのがついさっき。それで今、謝罪を受けたところだ。
いやあ、注目を浴びてお恥ずかしい。
お腹空いたし、大盛りの牛丼が食べたいな。
なんて考えてるけど、事の重大さにみんな神妙な顔をしてるから、空気を読むべきか。
「ところで、ネズミ顔の酔っ払いの人は?」
「拘束して牢に転がしてある」
それは、ソウデスヨネ。
誰にというわけでもなく質問すると、腕組みした兄上が答えてくれた。顔が怖いです。
「こういう場合は裁判でしょうか?」
「ああ、お前が望むなら当然の権利だ」
領主代理の兄上が裁判長をするんだよね。
面倒臭い、正直すごく面倒臭い。
ビラグだっけ? 貴族令息への殺人未遂はたぶん死罪だろう。そんな結果の見えた裁判は望まないし、村に墓が増えても意味ないし。
とはいえ一歩間違えればレンが殺されていたかもしれないわけで、酔っていたからなどと言ってお咎め無しで済ますわけにもいかない。
さて、どうしたものか。
少し考えて、閃いた。
僕は多忙な六歳児なんだ、丸投げしよ。
「それでは、今回のことで商人のアルマンさんやハンターのボルドさんがビラグを訴えることはできませんか? ここにいるみんなが彼の行動で迷惑を被ったわけですし」
僕の提案にアルマンさんが答えてくれる。
「例えばですが、隊商責任者のわたくしがハルト様に慰謝料をお支払いすれば、ビラグに対して損害賠償請求をすることはできますが」
お金で解決、なんて素晴らしい。
「それいいですね。慰謝料は魔鋼鉄のインゴットでお願いします。あくまでビラグが支払える現実的な額でいいですからね」
自暴自棄になられても困るし、逆恨みされても面倒だしね。今後とも仲良くしたいアルマンさんに損をさせたくない。
「ハルト、本当にそれでいいのか?」
「はい、兄上。僕が怒っているのは、大切な友人が殺されそうになったことですから。
もしもボルドさんがリーダーとして責めを負うと言うのなら、高価なポーションを使って治療してくれたことや、そちらの猫獣人のお姉さんが必死で僕を助けようとしてくれたことに対して、僕はお礼をしなければなりません。
ですから、お互い差し引きゼロということでいいと思いますが、どうでしょうか?」
片ひざをついたままのボルドさんと、同じように後ろに控える女性二人を見やる。
「ハルト様にそう言っていただけるのであれば、俺たちはただただ感謝の念に堪えません。ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
「いえいえ。そういうわけで僕の方こそ助けていただいて、ありがとうございます」
これでなんとかこちらは片付いたと。
後はカインさんとユカさんだ。
二人が言うには、夕べから酒場で悪酔いしていたビラグには、もうエールを売らないと言ったのに、彼から目を離した隙にちゃっかり盗んで飲んでいたらしい。
じゃあ、被害者じゃないの?
と思うんだけど、二人は管理責任は問われるべきという考えみたいで。
そういうもの?
兄上もクラウスさんも助けてくれないし。
真面目な二人をどうするべきか。
「カインさん」
「は!」
「現在、村周辺の魔物の様子はどうですか?」
「は? 失礼しました、落ち着いています」
兄上もボスもいてくれるから大丈夫だろう。
「そうですか。では、仲の良いホルダー家は家族四人で十日ほど村からの追放でどうでしょうか? 領都辺りでのんびり反省してきてください。ちゃんと帰って来てくださいね。こんなところでいいでしょうか? 兄上」
「フッ。俺はいいと思うが、クラウスは?」
「わたくしも相応の罰であると存じます」
ビラグの抜けた護衛役と彼の護送役がいるし、休まない二人へ家族旅行をプレゼント。
驚いて顔を見合わせるカインさんとユカさん。アルマンさんは意味がわかったみたい。
これで話は終わり、解散となった。
疲れたので部屋で休むと言って引き揚げる。
途中でしょんぼりしているレンを拾って。
「レン、怒られたのか?」
「ううん」
首を横に振るレン。
「でもハルト様はボクを庇って怪我しちゃった。カッとなってごめんなさい」
叱られたんだな。
「そんなの謝らなくていいよ。僕はレンが怒ってくれて嬉しかった。レンは大事な親友だ」
机の引き出しに入れてある木の器とスプーンを取り出して、浄化魔法で綺麗にする。
「出でよ、つゆだく牛どーん!」
真ん中に温泉卵を乗せてレンに手渡す。
実はご飯があるものはずっと避けてたんだ。
お寿司もカレーライスもうな重も、一度食べてしまったらもう毎日誘惑に負けそうだから。
でも、今日は特別に食べたい気分なので。
親友と一緒にね。
「ほら、レン。美味しい牛丼を食べて元気出せ。いただきまーす、うんまっ!?」
「うん……いただきます」
お腹が空いて食べるご飯は美味しい。
生きてて良かったと思えるから。そしてこの瞬間を誰かと共有できることは幸せだと思う。
「ねぇ、ハルト様?」
「もぐもぐもぐ……うん?」
「牛丼おかわりいい? つゆだくで」
「お、おう……」
レンは食べるのも立ち直りも早かった。
体の大きな赤髪の戦士が片ひざをついて頭を垂れると、後ろの女性二人も続く。
「この度はビラグの愚かな振る舞いにより、ハルト様の名誉とお体を傷つけましたこと、誠に申し訳ございません。
すべて『アルヌの双壁』のリーダーである俺の責任であります。俺はリーダーとして、いかなる裁きも受ける覚悟で参りました」
目が覚めたのは夕方過ぎ。
僕の手を握るマリアと、泣きそうな顔のレンとフィーネが一斉に抱きついてきた。
みんなのハグで息ができなくて苦しい。
どうやら死なずにすんだようだ。
傷は痛みもなく綺麗さっぱり消えて。
あの直後にハンターのボルドさんたちが駆けつけて、液体治癒薬を使ってくれたらしい。
口の中、苦っ!
気絶してる人の口に液体を流し込むのはどうだろう? 魔法薬だから大丈夫なのかな。
毒の方は浄化魔法が上手く効いたみたいで、コツコツ学んでおいて良かった。
ただ大騒ぎになってしまい、アルマンさんと護衛のハンター三人、それとカインさんとユカさんが謝罪に訪れていると聞いたのがついさっき。それで今、謝罪を受けたところだ。
いやあ、注目を浴びてお恥ずかしい。
お腹空いたし、大盛りの牛丼が食べたいな。
なんて考えてるけど、事の重大さにみんな神妙な顔をしてるから、空気を読むべきか。
「ところで、ネズミ顔の酔っ払いの人は?」
「拘束して牢に転がしてある」
それは、ソウデスヨネ。
誰にというわけでもなく質問すると、腕組みした兄上が答えてくれた。顔が怖いです。
「こういう場合は裁判でしょうか?」
「ああ、お前が望むなら当然の権利だ」
領主代理の兄上が裁判長をするんだよね。
面倒臭い、正直すごく面倒臭い。
ビラグだっけ? 貴族令息への殺人未遂はたぶん死罪だろう。そんな結果の見えた裁判は望まないし、村に墓が増えても意味ないし。
とはいえ一歩間違えればレンが殺されていたかもしれないわけで、酔っていたからなどと言ってお咎め無しで済ますわけにもいかない。
さて、どうしたものか。
少し考えて、閃いた。
僕は多忙な六歳児なんだ、丸投げしよ。
「それでは、今回のことで商人のアルマンさんやハンターのボルドさんがビラグを訴えることはできませんか? ここにいるみんなが彼の行動で迷惑を被ったわけですし」
僕の提案にアルマンさんが答えてくれる。
「例えばですが、隊商責任者のわたくしがハルト様に慰謝料をお支払いすれば、ビラグに対して損害賠償請求をすることはできますが」
お金で解決、なんて素晴らしい。
「それいいですね。慰謝料は魔鋼鉄のインゴットでお願いします。あくまでビラグが支払える現実的な額でいいですからね」
自暴自棄になられても困るし、逆恨みされても面倒だしね。今後とも仲良くしたいアルマンさんに損をさせたくない。
「ハルト、本当にそれでいいのか?」
「はい、兄上。僕が怒っているのは、大切な友人が殺されそうになったことですから。
もしもボルドさんがリーダーとして責めを負うと言うのなら、高価なポーションを使って治療してくれたことや、そちらの猫獣人のお姉さんが必死で僕を助けようとしてくれたことに対して、僕はお礼をしなければなりません。
ですから、お互い差し引きゼロということでいいと思いますが、どうでしょうか?」
片ひざをついたままのボルドさんと、同じように後ろに控える女性二人を見やる。
「ハルト様にそう言っていただけるのであれば、俺たちはただただ感謝の念に堪えません。ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
「いえいえ。そういうわけで僕の方こそ助けていただいて、ありがとうございます」
これでなんとかこちらは片付いたと。
後はカインさんとユカさんだ。
二人が言うには、夕べから酒場で悪酔いしていたビラグには、もうエールを売らないと言ったのに、彼から目を離した隙にちゃっかり盗んで飲んでいたらしい。
じゃあ、被害者じゃないの?
と思うんだけど、二人は管理責任は問われるべきという考えみたいで。
そういうもの?
兄上もクラウスさんも助けてくれないし。
真面目な二人をどうするべきか。
「カインさん」
「は!」
「現在、村周辺の魔物の様子はどうですか?」
「は? 失礼しました、落ち着いています」
兄上もボスもいてくれるから大丈夫だろう。
「そうですか。では、仲の良いホルダー家は家族四人で十日ほど村からの追放でどうでしょうか? 領都辺りでのんびり反省してきてください。ちゃんと帰って来てくださいね。こんなところでいいでしょうか? 兄上」
「フッ。俺はいいと思うが、クラウスは?」
「わたくしも相応の罰であると存じます」
ビラグの抜けた護衛役と彼の護送役がいるし、休まない二人へ家族旅行をプレゼント。
驚いて顔を見合わせるカインさんとユカさん。アルマンさんは意味がわかったみたい。
これで話は終わり、解散となった。
疲れたので部屋で休むと言って引き揚げる。
途中でしょんぼりしているレンを拾って。
「レン、怒られたのか?」
「ううん」
首を横に振るレン。
「でもハルト様はボクを庇って怪我しちゃった。カッとなってごめんなさい」
叱られたんだな。
「そんなの謝らなくていいよ。僕はレンが怒ってくれて嬉しかった。レンは大事な親友だ」
机の引き出しに入れてある木の器とスプーンを取り出して、浄化魔法で綺麗にする。
「出でよ、つゆだく牛どーん!」
真ん中に温泉卵を乗せてレンに手渡す。
実はご飯があるものはずっと避けてたんだ。
お寿司もカレーライスもうな重も、一度食べてしまったらもう毎日誘惑に負けそうだから。
でも、今日は特別に食べたい気分なので。
親友と一緒にね。
「ほら、レン。美味しい牛丼を食べて元気出せ。いただきまーす、うんまっ!?」
「うん……いただきます」
お腹が空いて食べるご飯は美味しい。
生きてて良かったと思えるから。そしてこの瞬間を誰かと共有できることは幸せだと思う。
「ねぇ、ハルト様?」
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「お、おう……」
レンは食べるのも立ち直りも早かった。
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