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第一章 辺境の村~6歳~
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落ち込むロザンと励ますキリカ。
木工職人見習いのロザンは、なかなか上達しない焦りもあって、最近は失敗作を量産していたらしい。おかげで僕は種蒔きができたんだ。
ロザンのお父さん、イテツさんはいわゆる職人気質で厳しい人みたいだね。
さっきの奥さんの口ぶりから、息子への期待の裏返しのようだけど、本人に真意が伝わらなければ、ただ自信を失くすだけだろう。
「ロザン、僕がイテツさんと話してくるよ」
「え? なにを?」
「うん。僕はロザンに木工の仕事を依頼したいんだ。僕とレンでやろうと思っていたことだけど、ロザンならたぶんできると思うから」
マリアのことがあったから、ロザンとキリカを見ていて力になってあげたくなった。
「俺はまだ見習いだよ」
「おじさんはきっと認めてくれないわよ」
「じゃあ、認めてくれたら依頼を受けてね」
まずはロザンとキリカにも手伝ってもらい、ボスが引く荷車に材木を積み込む。レンとボスには先に屋敷へ戻ってもらった。
そしてやって来たロザンの家。
作業場の端でイテツさんと向き合う。
坊主頭にへの字口、眉間には深い皺。
前世でもこんな頑固親父の職人さんに取材したな。こういう人は口下手で一見すると怖いけど、根は真面目で情に厚い人が多いんだ。
「お忙しいところをすみません」
「いや。それで大事な話とは?」
「ロザンに仕事の依頼をしたいんです。期間は十日ほど、代価は経験と小さな自信です」
「は? ああ、クラウスさんの考えですか」
「えへへ、バレちゃいましたか」
六歳児だし、そういうことにしておこう。
「ハルト様、その依頼はお断りしますとクラウスさんにお伝えください」
イテツさんは即答する。
「どうしてですか?」
「ロザンはまだ未熟な見習いだからです。どんな仕事か知りませんが、到底納得できる品を作れるとは思えません」
話は終わったと言わんばかりに立ち上がろうとするイテツさん。僕は質問で引き留める。
「イテツさんは暗い夜道は怖くないですか?」
「は? ……べつに怖くはないですが」
「そうですか、僕は怖いです。妹のマリアは目が見えないので昼間でも怖いと思います。つまずいて転んでしまうかもしれません」
イテツさんはまた座り直してくれた。
僕は話を続ける。
「それでもし暗闇で転ぶ度に叱られたら、歩くことも怖くなってやめてしまうと思います。だから僕はいつも優しくマリアの手を引いてあげるつもりです。それが貴族令息の正しい姿だと思います。イテツさんもロザンの手をいつも優しく引いてあげたらどうですか?」
黙して長考するイテツさん。
彼はアベル兄様と似てる。優しいからこそ無口になって発する言葉をよく選ぶんだ。
「ハルト様……」
「はい?」
「厳しいことを言いますが、それではロザンやマリアンヌ様は強くならないんです」
「どうしてですか?」
「転んだら自分の力で起き上がれるようになっておかないと、いつか暗闇を一人で歩くときに目的地まで歩き抜くことができないからです。いつも優しく手を引いてくれる人が傍にいるとは限らないからです」
本当にその通りだと思う。僕もマリアに対して優しさだけではダメなんだと、さっき気づいたばかりだからよくわかる。
「考えてみれば確かにイテツさんの言う通りです。それでは僕も、可愛いマリアに厳しくしなければダメなのでしょうか?」
「時と場合によってはそうです」
「そうですか……マリアに厳しくするのは僕には難しそうです。どうしたらいいでしょう?」
イテツさんは長考する。実直な人だからいい加減な言葉でお茶を濁さないんだ。
「それはとても難しいご質問です」
「イテツさんでも難しいのですか?」
「ええ。たとえ厳しくすることで自分が嫌われたとしても、相手の将来のことを思えば、たくさんの失敗を乗り越える経験させて、そこから自信をつけさせ……ああ、それで……」
「どうかしましたか?」
「ハルト様、クラウスさんはロザンにどんな依頼をするおつもりなんですか?」
僕は立ち上がってイテツさんの隣へ行くと、耳元でかくかくしかじかと考えを伝えた。
「……なるほど。そういうことでしたら、そのご依頼をロザンが引き受けることに反対はしません。どうかクラウスさんに、ありがとうございますとお伝えください」
「はい、わかりました。ではしばらくロザンをお借りしますね。失礼します」
話せばわかる人で良かった。
家を出た僕は、隠れる二人に声をかける。
「ねぇ、キリカ。子供のうちから盗み聞きなんて悪いことしちゃダメだと思うよ」
「だって気になるんだもん!」
ただの意趣返しだよ。初めからロザンには聞いてもらうつもりだったからね。
「ロザン、約束通り依頼を受けてくれる?」
「うん。俺さ、親父があんな風に思ってるなんて全然知らなかった。これからは失敗して叱られることを怖がらずに頑張るよ」
子供にとって大人は自信満々で生きてるように見えるけど、いくつになってもほとんどの人が悩みながら決断して生きているんだから。
それがわかっただけでも成長できると思う。
木工職人見習いのロザンは、なかなか上達しない焦りもあって、最近は失敗作を量産していたらしい。おかげで僕は種蒔きができたんだ。
ロザンのお父さん、イテツさんはいわゆる職人気質で厳しい人みたいだね。
さっきの奥さんの口ぶりから、息子への期待の裏返しのようだけど、本人に真意が伝わらなければ、ただ自信を失くすだけだろう。
「ロザン、僕がイテツさんと話してくるよ」
「え? なにを?」
「うん。僕はロザンに木工の仕事を依頼したいんだ。僕とレンでやろうと思っていたことだけど、ロザンならたぶんできると思うから」
マリアのことがあったから、ロザンとキリカを見ていて力になってあげたくなった。
「俺はまだ見習いだよ」
「おじさんはきっと認めてくれないわよ」
「じゃあ、認めてくれたら依頼を受けてね」
まずはロザンとキリカにも手伝ってもらい、ボスが引く荷車に材木を積み込む。レンとボスには先に屋敷へ戻ってもらった。
そしてやって来たロザンの家。
作業場の端でイテツさんと向き合う。
坊主頭にへの字口、眉間には深い皺。
前世でもこんな頑固親父の職人さんに取材したな。こういう人は口下手で一見すると怖いけど、根は真面目で情に厚い人が多いんだ。
「お忙しいところをすみません」
「いや。それで大事な話とは?」
「ロザンに仕事の依頼をしたいんです。期間は十日ほど、代価は経験と小さな自信です」
「は? ああ、クラウスさんの考えですか」
「えへへ、バレちゃいましたか」
六歳児だし、そういうことにしておこう。
「ハルト様、その依頼はお断りしますとクラウスさんにお伝えください」
イテツさんは即答する。
「どうしてですか?」
「ロザンはまだ未熟な見習いだからです。どんな仕事か知りませんが、到底納得できる品を作れるとは思えません」
話は終わったと言わんばかりに立ち上がろうとするイテツさん。僕は質問で引き留める。
「イテツさんは暗い夜道は怖くないですか?」
「は? ……べつに怖くはないですが」
「そうですか、僕は怖いです。妹のマリアは目が見えないので昼間でも怖いと思います。つまずいて転んでしまうかもしれません」
イテツさんはまた座り直してくれた。
僕は話を続ける。
「それでもし暗闇で転ぶ度に叱られたら、歩くことも怖くなってやめてしまうと思います。だから僕はいつも優しくマリアの手を引いてあげるつもりです。それが貴族令息の正しい姿だと思います。イテツさんもロザンの手をいつも優しく引いてあげたらどうですか?」
黙して長考するイテツさん。
彼はアベル兄様と似てる。優しいからこそ無口になって発する言葉をよく選ぶんだ。
「ハルト様……」
「はい?」
「厳しいことを言いますが、それではロザンやマリアンヌ様は強くならないんです」
「どうしてですか?」
「転んだら自分の力で起き上がれるようになっておかないと、いつか暗闇を一人で歩くときに目的地まで歩き抜くことができないからです。いつも優しく手を引いてくれる人が傍にいるとは限らないからです」
本当にその通りだと思う。僕もマリアに対して優しさだけではダメなんだと、さっき気づいたばかりだからよくわかる。
「考えてみれば確かにイテツさんの言う通りです。それでは僕も、可愛いマリアに厳しくしなければダメなのでしょうか?」
「時と場合によってはそうです」
「そうですか……マリアに厳しくするのは僕には難しそうです。どうしたらいいでしょう?」
イテツさんは長考する。実直な人だからいい加減な言葉でお茶を濁さないんだ。
「それはとても難しいご質問です」
「イテツさんでも難しいのですか?」
「ええ。たとえ厳しくすることで自分が嫌われたとしても、相手の将来のことを思えば、たくさんの失敗を乗り越える経験させて、そこから自信をつけさせ……ああ、それで……」
「どうかしましたか?」
「ハルト様、クラウスさんはロザンにどんな依頼をするおつもりなんですか?」
僕は立ち上がってイテツさんの隣へ行くと、耳元でかくかくしかじかと考えを伝えた。
「……なるほど。そういうことでしたら、そのご依頼をロザンが引き受けることに反対はしません。どうかクラウスさんに、ありがとうございますとお伝えください」
「はい、わかりました。ではしばらくロザンをお借りしますね。失礼します」
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「ねぇ、キリカ。子供のうちから盗み聞きなんて悪いことしちゃダメだと思うよ」
「だって気になるんだもん!」
ただの意趣返しだよ。初めからロザンには聞いてもらうつもりだったからね。
「ロザン、約束通り依頼を受けてくれる?」
「うん。俺さ、親父があんな風に思ってるなんて全然知らなかった。これからは失敗して叱られることを怖がらずに頑張るよ」
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