【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 材木を手に入れた僕たちは、屋敷の裏口近くにヒヨコの飼育小屋を作った。頭や肩に乗せて飼っている現状では、緊急時の避難用かな。

 あとは、ひたすら木工製作に打ち込む。
 マリアとの約束の日まで十日間、加工しやすいシロキリの材木を切って削って一つ一つ丁寧に形を整えていく。マリアが触って怪我をしないように、角を削って丸みを持たせる面取りの地道な作業を連日続けた。

 さすがは未来の木工職人ロザン。
 さすがはドワーフのレン。
 僕はまあ、それなりの腕前で。
 でも、マリアを思う気持ちは負けないから。

 そして約束の日。
 今日は特別な日なんだ。
 僕は完成品を手にマリアの部屋を訪れた。

 この十日間、マリアとは普通に接していたけど、あえてこの件には触れなかった。マリアも何も言わずに待っていてくれたんだ。
 本当にしっかりした妹だよ。

 部屋の中に招かれた僕は、やや緊張しながらマリアの隣に腰かけた。

「マリア、待っていてくれてありがとね。まずはマリアにプレゼントを持ってきたんだ。触って確かめてみてくれるかな?」
「はい」

 頷くマリアに四角い木製のトレーを手渡す。その上には八つの白い木製ブロックが並べてあり、マリアは一つ一つ手に取って確かめた。

「これが何かわかるかな? 表と裏があって裏には小さな丸い窪みを付けてあるから」
「これ『MARIANNE』の八文字ですか?」
「うん、大正解! マリアはすごいね、もう自分の名前の綴りを知ってたんだ」
「名前はフィーネが教えてくれました」
「そっかー、偉いね」

 頭を撫でると、はにかんで笑うマリア。
 大陸で使われているミルケイ文字は、前世の記憶にあるアルファベットを流麗に崩した感じで、単語の綴りも良く似ている。半濁点や濁点がないので上手くブロックにできた。

「これはスペルブロックと言って、文字の形や単語の綴りを学ぶためのものなんだ。これを使いながら単語の綴りと意味を学んでいけば、目が見えなくても文章を書くことはできるようになる。どうかな、勉強してみる?」

「はい! マリアはお勉強をしたいです」

「そうか、それを聞いてホッとしたよ。これはね、レンとロザンがマリアのために一生懸命作ってくれたんだ。だからいつか二人にお礼状を書こうよ。感謝の気持ちをマリアが自分でお手紙に書くんだ」

「マリアにできるでしょうか?」
「もちろん僕やフィーネが教えるよ。焦らずに、すぐじゃなくてもいいんだ」
「はい、頑張ります!」
「うん。一緒に頑張ろう」

 毎日時間を作ってマリアの勉強を始めよう。
 前世の記憶があると年齢でまだ早いかなと思ってしまうけど、学ぶ意欲があるのなら勉強を始める年齢なんて関係ないんだ。  

「マリア、これはなんだかわかるかな?」

 僕はもう一つ、作った物をマリアに手渡す。

「うーん、小さな丸いものが並んでいて、くるくる回ります。それとカチャカチャ動きます」
「これはね、ソロバンという計算機だよ」

 梁を挟んで天に五珠が一つ、地に一珠が四つある一桁五珠の日本式のソロバン。
 行商人のアルマンさんも小型のソロバンを持っていたが、天に五珠が二つ、地に一珠が五つで一桁七珠。あれは商売の際に、計算が苦手な取引相手に見せて金銭取引が正しいことを納得してもらうためのものらしい。

「計算機……算術を勉強するのですか?」

「そうだよ。算術も今から焦らず少しずつ勉強すれば、いつかアベル兄様やクラウスの手伝いができるようになる。それは村のためにもなることなんだ。マリアが頑張れば、村の子供たちに教えることもできるようになると思う。もう算術も始めてみる?」

「はい! やってみたいです。マリアは算術ができるようになったら、アベルお兄さまやクラウスのお手伝いをしてあげたいです」
「マリアは本当に優しいね」

 僕はマリアを抱き締めた。
 やばい、もうなんか泣きそう。

「ハルトお兄さまの方がお優しいです。いつもマリアのことをぎゅっと抱き締めてくれます。マリアはハルトお兄さまのことが大好きです」

 どうしてそんなこと言うの?
 泣けてきちゃう。

「お兄さま? 泣いているのですか?」
「泣いてなんかないでず、ぐすっ」
「うふふ、泣き虫なお兄さまは可愛いです」
「ううん、マリアの方が可愛いもん」

 もう一つ大事なことを言わなきゃいけない。
 今日は光の月、三十日。

「あのね、マリア」
「はい」
「五歳のお誕生日おめでとう。僕の妹に生まれてきてくれて本当にありがとう。これからもよろしくね」

 わが家では誕生日を祝ったことがない。
 貧しいからっていう理由もあるけど、マリアの誕生日は母上の命日でもあるから。
 クラウスさんもマーサさんも気を遣っているのだと思う。でもそういうことも含めて、マリアと向き合っていく方がいいと思うんだ。

「マリア? 泣いてるの?」
「ぐすっ、ぐすっ、だって嬉しいから……」
「うん、僕もマリアに喜んでもらえて嬉しい」

 その日、二人で母上の墓前で祈った。
 これからマリアに勉強を教えていくことや、兄としてたくさん甘やかし、時には厳しくすることを伝えた。きっと僕たち兄妹のことを見守っていてくれるだろう。

 母上、僕たちを産んでくれてありがとう。
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