【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第一章 辺境の村~6歳~

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 領主邸の前。
 僕とドルガン兄様は木剣を手に向き合う。
 
「ドルガン兄様対ハルト、勝負始め!」

 アルダン兄様が挙げた右手を振り下ろした。
 体の大きなドルガン兄様は、木剣をポンポンと右肩に当てて余裕の笑みを浮かべる。

「どうしたハルト、かかってこいよ」
「兄上、いきますよ!(いきませんけど)」

 僕は声を上げて大きく後ろへ下がった。
 逃げる海老のように兄上と距離を取る。

「あーははは! なんだよそれ。兄上、ハルトの奴とんだ腰抜けですよ」

 アルダン兄様が腹を抱えて笑うと、ドルガン兄様は目に見えて不機嫌になった。

「ちっ。ハルトォーッ! 俺は敵を前に逃げ出す腰抜けが大っ嫌いだ! フィールド家の男として勝負に関係なくお前を叩きのめし、教育し直してやるっ!」

 なんか恐ろしいこと言ってるなあ、僕はまだ六歳のはずなんだけど。木剣だって初めて握ったんだよ。
 とりあえず作戦その一、三十六計逃げるに如かず。遅くともアベル兄様が帰ってくる日暮れまで、逃げて逃げて逃げまくるんだ。

「アルダン、ハルトの右から回り込め」
「はい、兄上」
「あーっ! 二対一なんてズルいですよ!」

 作戦その一が頓挫したじゃないか。

「うるさい! お前のように逃げて引き分け狙いをしている奴に言われる筋合いはない! 貴族令息らしく観念して殴られろ!」

 六歳の弟一人を相手に、年の離れた兄が二人がかりなのは貴族令息らしいのか? 
 作戦その一から作戦その二へ変更だ。
 じりじりと左右から逃げ道を塞がれた僕は、屋敷の壁を背に兄上たちと向き合った。

「ハルト、覚悟はいいか?」
「よくはないです」
「ははっ、お前は本当に生意気な奴だなー」

 現状、勇敢な奴と言って欲しいなあ。
 ふぅー、重要なのはタイミングだ。
 魔物との戦闘経験があって良かった。

「ドルガン兄様! 今度こそ本当にいきますよ!(いきませんけど)」

 木剣を下段に構えた僕は、ドルガン兄様ではなくアルダン兄様へ向かって走る。小声で光壁を唱える一方で、アルダン兄様へ向かって木剣をふわりと山なりに投げた。

「姑息な手を! 恥を知れハルトォーッ!」

 僕のがら空きの背中へドルガン兄様の怒声が響く。目の前のアルダン兄様は一瞬驚くも、空中を舞う木剣を思わず手に取った。
 その間隙に、僕は後ろに展開した光壁と共にアルダン兄様の横をすり抜ける。
 よし、光壁のすり抜け成功!
 これで僕と兄上たちの位置が入れ替わった。

 足を止めて振り返った僕の視界には、剣を弾かれ驚くドルガン兄様の顔が見えた。
 こっちは光壁で防御成功!

「って!? それ真剣じゃないですかっ!?」
「うるさい! 死ね!」
「死ね、ハルト!」

 木剣を捨て真剣を振り上げる兄上たち。
 反抗期にしたって、死ねとか言っちゃうのはちょっとぶちギレすぎでしょ!? だが、仕上げは二人まとめて壁に押し込むだけだ!
 今度は屋敷の壁に向かって走る。
 兄上たちは踏ん張って抵抗するも光壁に押され、二つの壁の間にムギュと挟まれた。がに股で身動きが取れない姿は昆虫標本のようだ。

「ふぎぎぎ……ハルトォーッ! こんな魔法を使えるなんて聞いてないぞー!」
「うぐぐぐ……この卑怯者ー!」
「卑怯者とか、年の離れた弟に対して二人がかりの兄上たちだけには言われたくないです。貴族令息らしく観念して負けを認めてください」

 光壁は僕が離れると連動して動くから、向こうに転がってる木剣は取りに行けないし。
 
「断る! 魔力がなくなれば魔法はすぐに消える。アルダン、それまでの辛抱だ!」
「はい、兄上。ハルト待ってろ、殺してやふぎゅ。おいやめろぉ、苦しいだろぉ」

 口が元気なので少し押した。
 でも圧迫しすぎてクラッシュ症候群になっても困るし、負けを認めるように説得しつつ、気長に時間が経つのを待つしかないか。
 そんなことを思った矢先、視界の端にギラリと光る四つの眼光が見えた。首を横へ振って見ると、玄関扉を開けているマリアの姿が。

「マリアーッ! すぐに扉を閉めてー!」
「「ピィーッ!」」

 僕はとっさに叫んだ、が遅かった。
 二羽のヒヨコが鳴いてマリアの肩から飛び降りると、一直線にこちらへ爆走してくる。

 ヘルヒクイ鳥は非常に縄張り意識と仲間意識が強い。自分たちの安全を脅かす敵には容赦なく向かっていく狂暴な魔鳥なんだ。
 狙いはもちろん敵の急所一点のみ。

「ドルガン兄様! アルダン兄様! 急いで股間を守ってください!」

 僕も動揺して焦っていたんだ。
 二人はほとんど身動きが取れないのに。
 光壁でヒヨコの攻撃を止めればいいのに。

「黙れハルト!」
「もう騙されないぞ!」

 白と黒のヒヨコたちは地面を蹴って土を高く舞い上がらせると、ゆっくりと回転しながら低い軌道を描き、僕の横をすり抜けていく。
 それは走馬灯のように刹那の瞬間がはっきり見えて、僕はどうすることもできなくて。
 白と黒の弾丸は一直線に飛び、兄上たちの男の子にズドンと突き刺さった。

「「はぐうぅぅぅーッ!?」」

 兄上たちは目を見開き、苦痛に顔を歪める。二人の手からスルリと剣が滑り落ちた。

 い、痛そう……。

 惨状を目にして冷静になった僕が光壁を解くと、力なく膝をついた兄上たちは前のめりにパタリと倒れて、静かに土煙が舞い上がった。

「「ピッピッピィー!」」

 小躍りして勝利を喜ぶヒヨコたち。
 僕は二羽を回収してマリアのところへ。

「マリア、危ないからヒヨコたちとお部屋に戻ってて。あれ? マーサはどこ?」

「マーサは急いでアベルお兄さまを呼びに行くと言って、先ほど裏口から出て行きました。マリアもハルトお兄さまのことが心配で」

 兄上たちは声が大きいから、屋敷の中まで話が筒抜けだったのか。

「心配かけてごめんね。もう大丈夫って言うか、もうダメって言うか。僕は大丈夫だから、マリアはお部屋に戻って待っててくれる?」
「はい、わかりました」

 マリアにヒヨコを預けて玄関扉を閉めた。
 ヒクヒクしている二人に駆け寄る。

「ドルガン兄様、ぴょんぴょんできますか? アルダン兄様、腰をトントンしましょうか?」
「うううぅ~」
「あああぁ~」

 おう……ズボンが濡れてぷ~んとアンモニア臭がする。兄弟の情けだ、浄化してやろう。
 僕はできる限りの処置をした。
 その後、二人は駆け付けたアベル兄様に連れられて、内股でテントへ帰って行った。
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