【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

70 紙作り②

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 簀桁の簀は、巻き寿司や伊達巻きを作る際に使う『巻き簀』みたいな日本独自の道具のこと。前世の記憶では簀を作れる職人さんは数名しかいなかった。僕にはとても作れないよ。

 紙漉きに簀を使う理由は、簀桁で紙料液を汲んた時、簀の隙間からほどよく水分が抜け、簀の上に繊維が滞留して紙層を作るから。また、ネリのねばねばはこのためにも必要なんだ。

「ハルト様、これからどうされるのですか?」
「光壁を使って流し漉きをするよ」

 そう、僕が考えたのが光壁の魔法だ。
 使用する魔力量で壁の大きさを変えられることは早くからわかっていたので、サイズを小さくすることと変形させることを求めた。
 その過程で気がついたんだ。
 壁と一口に言っても、白と黒のなまこ壁とか音楽室の有孔ボードとかルーバー壁とかある。人によっては、小さな手足や目が付いていたって「ぬりかべです」と言うだろう。
 丸い穴の空いた壁を思い出して悟ったんだ。偏見にとらわれず自由な発想で良いのだと。まさに禅と円通の心ってやつだね、うん。

「箱形で、光壁!」

 そんなわけで光壁を箱形にできました。
 フィーネはびっくりしてるけどね。ほどよく水を透過させれば簀桁の出来上がり。

「よーし、流し漉きやるよー」

 流し漉きは、初水うぶみず調子ちょうし、捨て水という三つの工程で一枚の紙を作る。テキトーにじゃばじゃばしているわけじゃない。その目的は繊維の向きを揃えつつ、むらをなくすこと。薄くて丈夫な紙を目指すんだ。

 まず初水。紙料液を少し汲んで素早く簀に薄い膜を作り、紙料液を奥へ捨てる。
 次に調子。再び紙料液を汲んで簀桁を前後左右に適度に揺すって紙層を作る。
 最後に捨て水。手前と奥の二回に分けて簀桁に残った紙料液を捨てる。

 初水と捨て水で縦方向に繊維を揃えて紙の綺麗な表裏を作り、調子で紙の厚さと性質を決める。言うは易く行うは難しだ。

 ただ、汲んだ紙料液の重さを気にせず簀桁を自在に動かせるから本当に楽だよ。
 実際の流し漉きの簀桁は、天井に設置した竹から紐で吊るされていて、竹の弾力を利用して簀桁を動かしているくらいだから、全然楽。

 それに最初から完璧なものなんてできなくて当たり前。天然素材だけで作る和紙のいいところは、何度でも紙から紙料液に戻して漉き直せるところだから。

 漉いたばかりの水分量が多い紙、湿紙しとがみは持参した板に積み重ねて、紙料液分の紙を漉いたら、積んだ湿紙しとがみの上から光壁で少し強めに圧搾して脱水する。
 この作業の後に、重ねた紙を一枚一枚綺麗に剥がすことができるのもネリを使うお陰で、それが効率的な連続生産を可能にしたんだ。
 最後に、仕上げの乾燥はフィーネの魔法で一枚ずつお願いした。

「できたぁー! ありがとう、フィーネ」
「おめでとうございます、ハルト様」
「うん。じゃあ、片付けて帰ろう」
「はい」

 冬の日暮れは早いので、コバさんにお礼を言って帰る。屋敷に着いてから、食堂の長いテーブルで手頃なサイズにカットすると、かなりの量が積み上がった。ちょうど帰ってきた兄上とクラウスさんが目を瞠る。

「ハルト、本当に紙を作ったのか」
「こんなにもたくさん」
「はい。兄上もクラウスも、手に取って見てください。フィーネの魔法のおかげで、初めて作ったにしてはとても良くできたと思います」
「私はハルト様に言われた通りにしただけですから。ほとんど見ていただけですし」

 いやいや。素人の作った紙料液が奇跡的に良かったのは、たぶんフィーネの水魔法で水を得たからだと思う。繊維も植物由来だしね、きっとエルフパワーのお陰だよ。

「ねぇクラウス、やっぱりこっそり売れないかな?」
「ハルト様、先日申し上げましたように……」
「あはは、冗談だよ、冗談」

 僕は少し浮かれて笑う。 
 兄上とクラウスさん、それからジルオ様に話を聞いたところ、植物紙の製造販売はミテラス教会の独占事業なので、異口同音に紙の販売はダメだと言われた。
 虎の尾を踏むのは危険というわけ。
 触らぬカミに、かな?

「クラウス、羽根ペンとインクを借りてもいいかな?」
「はい。ただいまお持ちいたします」

 羽根ペンにインクをつけて『おお、紙よ!』と書いてみたところ……うん、文字が滲んだ。しかも少し力を入れると破れそう。

「う~ん、羽根ペンもインクもこの紙とは相性が良くないね」
「残念ながら、そのようですね」

 四人で滲んだ文字を見ていると、マリアとレンとマーサさんも食堂へやって来た。

「おおー! 紙がたくさんあるー!」
「マリアンヌお嬢様、紙ですよ! 白い紙!」
「ハルトお兄さま、紙ができたのですか?」
「「「ピィピィー」」」

 興奮気味の三人に、僕は笑って肩を竦める。

「うん。でも文字を書くにはまだもう少しかかるんだ。だから今日は折り紙をしよう」
「おりがみ? ですか?」
「そう。一枚の紙を折って色んなものの形を作る芸術だよ。兄上たちもみんなでやりましょう。さあ、やりましょう!」

 インクが滲む問題。
 そのぐらいの壁はどうということはない。
 ポジティブ人間になってきた僕は、すぐに気持ちを切り替えて、今日はマリアやみんなに折り鶴を教えてあげることにした。

「ハルト、これは翼竜ワイバーンか?」
「もう違いますよー、兄上」
「ハルトお兄さま、ニワトリですよね?」
「え? えーと、うん、その通り!」
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