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第二章 辺境の村~7歳~
71 黒炭と粘土と焼成
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僕とフィーネで作った紙にインクが滲むのは、繊維の隙間が広いからだと思う。原因がわかっても僕の技術不足なので仕方がないね。
書道に使えば、いい味出すと思うけど。
ただマリアが墨と筆で手紙を書くのも、なんかイメージが違うだろうと思うわけで。
そうなるとインクの方を考える。
だけど、煤や膠から墨や墨汁は作れてもインクの作り方は知らないからなあ。一晩あれやこれや色々考えて、鉛筆っぽいものを目指すのが一番可能性がありそうだと結論が出た。
翌日。
食事に使うナイフを持って、鍛冶場へ行くレンと一緒にロンさんを訪ねた。旋盤機で使えるように、ナイフでドリルの刃を作ってもらったんだ。しばらく食事には箸を使おう。
次に訪ねたのは若手炭焼き職人のラザン。
頭に布を巻いた彼はロザンのお兄さんだ。
「こんにちは、ラザン」
「ああ、ハルト様。親父とロザンはもう夢中になって旋盤加工をやってますよ」
「あはは、あとでまた行きます」
「それで、今日はどうしたんですか?」
「みんながいつも図面を描いたりしてる黒い炭を少し分けて欲しいんだけど」
本当のところ炭かどうかも謎の塊。
「なんだ、そんなのあるやつを好きに持っていっていいですよ。オレはまた新しい炭焼き方法でも教えてくれるのかと思いましたよ」
あれ? なんか期待させちゃったのか。
新しい炭焼き方法と言われても、白炭と黒炭の基本しか知らないし。白炭の作り方だけ伝えて挑戦するかどうかはお任せしようか。
「じゃあ、また紙に書いて持ってくるよ」
「本当ですか? 師匠に知らせてきます」
「あの、でもあまり期待しないでね、すごく難しい方法だと思うから」
最高峰の備長炭は無理でも、普通の白炭ならここでも作れるようになるかな。
炭火で焼く焼き鳥を思い出しつつ、今度は見習い陶工のリザを訪ねる。彼女は大きな水瓶が並ぶ作業小屋の前にいた。
「こんにちは、リザ」
「あ、ハルト様。どうしました?」
「粘土を少し分けて欲しいんだ」
「いいですよー、たくさんありますから」
師匠や先輩に確認取らなくていいのかな。
「リザは水瓶を見比べてどうしたの?」
「うーん、あのね、同じ土と釉薬を使って焼いてるのに色が変わるのは、なんでだろうって考えてるの。ハルト様はわからないですよねー」
村の陶器はアイボリーとグレーの二色。
「それは焼成反応が違うからだよ」
陶器には酸化焼成と還元焼成がある。
窯の中に完全燃焼するに足る十分な酸素がある場合は酸化焼成になり、酸素が足りず不完全燃焼だと釉薬に含まれる金属から酸素を奪う還元焼成が起こる。
これによって陶器の景色、色が変化するんだ。僕も焼き物を勉強するまで知らなかった。
「え? しょうせいはんのう?」
えっと、どう説明しよう……。
「窯への空気の入れ方次第で、窯の中で熱いところともっと熱いところができるんだ。色の違う水瓶は、それぞれ焼かれた場所が窯の奥と手前で違ってたりしなかった?」
「うーん。どうだったか忘れちゃったけど、ありがとう! 師匠ー、わっかりましたよー!」
笑顔のリザは小屋の中へ走っていった。
あれ? もしかして課題とかだった?
すると作業小屋の中から陶工の親方クダヤさんが出てきた。細身でポニーテールと無精髭、浪人みたいな雰囲気の職人さんだ。
「ハルト様、リザに答えを教えちゃ駄目だよ」
「ご、ごめんなさい」
「しかし、よく知ってましたね」
「はい、クラウスに教わったんです」
もはや答えのテンプレ。
「なるほどそうですか。それで? 粘土が欲しいそうですが、何をするんですか?」
「黒い炭と粘土で『炭ペン』が作れないかと思いまして。次の素焼きと本焼きの際に、少しだけ一緒に窯を使わせてもらえませんか?」
「炭ペン? よくわからないが。まあその、窯を使うのは構わないが……ごほんごほん」
クダヤさん、急にソワソワしてどうしたんだろう……あ! そうか蜂蜜酒か。大人たちの間でだいぶ有名になったんだよね。
「例のモノは素焼きの時に持ってきます」
「うん? そうかい? ははは、悪いね」
大人はみんなお酒が好きだなあと、赤提灯の屋台の焼き鳥に冷えたビールを思い出しつつ、最後はイテツさんとロザンを訪ねた。
旋盤機を借りて、ところてん突きを自作。
ドリルの刃はイテツさんに預けておく。
材料が揃ったところで炭ペンの芯作りを始める。細かく砕いて粉末にした黒い炭を粘土と混ぜたら、魔法水を加えてよく練った。
実は僕、食べ物召喚魔法で水や食用油も出せたんだ。びっくりした。どうやら食べられる物ならオッケーらしい。また今度検証しよう。
黒い炭と粘土は、十パーセントずつ配合を変えて全部で九種類の原料を作り、ところてん突きでニュルっと棒状に押し出す。
焼成で収縮するから、簡単に折れないように太さはパスタのヴェルミチェッリで。板の上に並べて、焼き日まで自然乾燥させておく。
とりあえず素焼きと本焼き、酸化焼成と還元焼成で違いが生まれる可能性を考慮の上、試行錯誤しながら極太パスタを焼いてみた。
結果は上々だった!
黒い炭と粘土の配合比率が六対四で、本焼きの窯の奥、煙突の近くで焼いた炭粘土の極太パスタが、一番丈夫にできた。
書き味は油分がないからマットな感じ。
多少、油を加えた方がいいかな。
この辺はまだ研究の余地がありそうだ。
書道に使えば、いい味出すと思うけど。
ただマリアが墨と筆で手紙を書くのも、なんかイメージが違うだろうと思うわけで。
そうなるとインクの方を考える。
だけど、煤や膠から墨や墨汁は作れてもインクの作り方は知らないからなあ。一晩あれやこれや色々考えて、鉛筆っぽいものを目指すのが一番可能性がありそうだと結論が出た。
翌日。
食事に使うナイフを持って、鍛冶場へ行くレンと一緒にロンさんを訪ねた。旋盤機で使えるように、ナイフでドリルの刃を作ってもらったんだ。しばらく食事には箸を使おう。
次に訪ねたのは若手炭焼き職人のラザン。
頭に布を巻いた彼はロザンのお兄さんだ。
「こんにちは、ラザン」
「ああ、ハルト様。親父とロザンはもう夢中になって旋盤加工をやってますよ」
「あはは、あとでまた行きます」
「それで、今日はどうしたんですか?」
「みんながいつも図面を描いたりしてる黒い炭を少し分けて欲しいんだけど」
本当のところ炭かどうかも謎の塊。
「なんだ、そんなのあるやつを好きに持っていっていいですよ。オレはまた新しい炭焼き方法でも教えてくれるのかと思いましたよ」
あれ? なんか期待させちゃったのか。
新しい炭焼き方法と言われても、白炭と黒炭の基本しか知らないし。白炭の作り方だけ伝えて挑戦するかどうかはお任せしようか。
「じゃあ、また紙に書いて持ってくるよ」
「本当ですか? 師匠に知らせてきます」
「あの、でもあまり期待しないでね、すごく難しい方法だと思うから」
最高峰の備長炭は無理でも、普通の白炭ならここでも作れるようになるかな。
炭火で焼く焼き鳥を思い出しつつ、今度は見習い陶工のリザを訪ねる。彼女は大きな水瓶が並ぶ作業小屋の前にいた。
「こんにちは、リザ」
「あ、ハルト様。どうしました?」
「粘土を少し分けて欲しいんだ」
「いいですよー、たくさんありますから」
師匠や先輩に確認取らなくていいのかな。
「リザは水瓶を見比べてどうしたの?」
「うーん、あのね、同じ土と釉薬を使って焼いてるのに色が変わるのは、なんでだろうって考えてるの。ハルト様はわからないですよねー」
村の陶器はアイボリーとグレーの二色。
「それは焼成反応が違うからだよ」
陶器には酸化焼成と還元焼成がある。
窯の中に完全燃焼するに足る十分な酸素がある場合は酸化焼成になり、酸素が足りず不完全燃焼だと釉薬に含まれる金属から酸素を奪う還元焼成が起こる。
これによって陶器の景色、色が変化するんだ。僕も焼き物を勉強するまで知らなかった。
「え? しょうせいはんのう?」
えっと、どう説明しよう……。
「窯への空気の入れ方次第で、窯の中で熱いところともっと熱いところができるんだ。色の違う水瓶は、それぞれ焼かれた場所が窯の奥と手前で違ってたりしなかった?」
「うーん。どうだったか忘れちゃったけど、ありがとう! 師匠ー、わっかりましたよー!」
笑顔のリザは小屋の中へ走っていった。
あれ? もしかして課題とかだった?
すると作業小屋の中から陶工の親方クダヤさんが出てきた。細身でポニーテールと無精髭、浪人みたいな雰囲気の職人さんだ。
「ハルト様、リザに答えを教えちゃ駄目だよ」
「ご、ごめんなさい」
「しかし、よく知ってましたね」
「はい、クラウスに教わったんです」
もはや答えのテンプレ。
「なるほどそうですか。それで? 粘土が欲しいそうですが、何をするんですか?」
「黒い炭と粘土で『炭ペン』が作れないかと思いまして。次の素焼きと本焼きの際に、少しだけ一緒に窯を使わせてもらえませんか?」
「炭ペン? よくわからないが。まあその、窯を使うのは構わないが……ごほんごほん」
クダヤさん、急にソワソワしてどうしたんだろう……あ! そうか蜂蜜酒か。大人たちの間でだいぶ有名になったんだよね。
「例のモノは素焼きの時に持ってきます」
「うん? そうかい? ははは、悪いね」
大人はみんなお酒が好きだなあと、赤提灯の屋台の焼き鳥に冷えたビールを思い出しつつ、最後はイテツさんとロザンを訪ねた。
旋盤機を借りて、ところてん突きを自作。
ドリルの刃はイテツさんに預けておく。
材料が揃ったところで炭ペンの芯作りを始める。細かく砕いて粉末にした黒い炭を粘土と混ぜたら、魔法水を加えてよく練った。
実は僕、食べ物召喚魔法で水や食用油も出せたんだ。びっくりした。どうやら食べられる物ならオッケーらしい。また今度検証しよう。
黒い炭と粘土は、十パーセントずつ配合を変えて全部で九種類の原料を作り、ところてん突きでニュルっと棒状に押し出す。
焼成で収縮するから、簡単に折れないように太さはパスタのヴェルミチェッリで。板の上に並べて、焼き日まで自然乾燥させておく。
とりあえず素焼きと本焼き、酸化焼成と還元焼成で違いが生まれる可能性を考慮の上、試行錯誤しながら極太パスタを焼いてみた。
結果は上々だった!
黒い炭と粘土の配合比率が六対四で、本焼きの窯の奥、煙突の近くで焼いた炭粘土の極太パスタが、一番丈夫にできた。
書き味は油分がないからマットな感じ。
多少、油を加えた方がいいかな。
この辺はまだ研究の余地がありそうだ。
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