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第二章 辺境の村~7歳~
72 炭ペンと枯節のポテ
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風の月も後半。
ついに筆記具『炭ペン』が完成した!
炭粘土の芯はだいたい鉛筆の2B以上の濃さとやわらかさで、ペンは木の芯一つと金属製の二つの部品からなる。炭粘土の芯と三つの部品は日本の鉛筆の約半分くらいの長さ。
金属については、レンのスプーンとフォークが木製に変わった。
ありがとう、心の友よ。
炭粘土の芯を焼くついでに陶器のレンゲを作っておいたから、お礼にそろそろ箸の使い方を教えてあげよう。
炭ペンの仕組みはシャーペンに似ているが、バネを使うなど複雑な機構はとてもマネできない。だから凹凸をつけた金属カバーを重なり合うようにして、一回後ろを押すと一回分カチッと縮んでいくようにした。鉛筆みたいに段々短くなるんだ。
太い一本芯が抜け落ちないように固定しつつ後ろから押す木の芯を入れたので、ペン全体の長さに対して芯の長さが半分くらいになった。
日本の筆記具に比べればだいぶ劣るけど、紙にも布にも木の板にも書きやすく、普段使いの筆記具としては十分の出来だと思う。
芯の減り具合も一目でわかるし。
なによりマリアが喜んでくれたから。
「ありがとうございます、ハルトお兄さま! マリアは大切に使います!」
「うん。紙もペンもみんなの協力があってできたものだからね。でも、僕は思う存分マリアに使って欲しいな」
「はい。文字を書く練習を頑張って、みんなにお礼のお手紙を書きます」
「そうだね。マリアからお礼状をもらえたら、きっとみんな喜ぶと思うよ」
「ハルトお兄さまもですか?」
「もちろん、宝物にする」
「マリア、頑張ります!」
炭ペンを大事そうに胸に抱いたマリア。彼女の頭を撫でてあげると相好を崩した。その笑顔が何よりのお礼で宝物だよ。
「良かったですね、ハルト様」
「うん。フィーネもレンもありがとう」
「はい」「うん」
このあと追加で紙を作り、さらにマリアが一人でも手紙を書けるように、平行定規が付いた木製の小型製図板を作った。
文房具を作るのは結構楽しいね。
元々左利きのマリアには右手で文字を書くのが大変そうだけど、とても熱心に取り組んでいるからすぐ上手に書けるようになるだろう。
どんな手紙をくれるのか楽しみだ。
さて、年を越してフィーネの誕生日を知り、糸車、和紙、炭ペンと、もの作りに邁進してきた僕だが、忘れていたことがあった。
村人の目を盗んで麦踏みはやった。
貯蔵中に伸びてくるポテトの芽も取った。
だけど、かまどの横でブラックボアのモモ肉が二つ、カビが生えてた。小壺やドライハーブが並ぶ一番端でオブジェがあるなーとは思ってたんだ。マーサさんに言われて思い出した。
あれは確か去年の秋、お洒落角刈りーズの兄上たちが襲来する前に、ブラックボアのモモ肉を使って枯節を作ろうとしてた。
塩水による煮熟と煙で燻して水分を抜く焙乾をやって、表面の黒い部分を削って裸節にしてからカビが生えるのを待ってた。
たまに浄化魔法を使って、悪性のダメなカビを取り除きながら様子を見ていたはずなんだけど……完全に忘れてた。
マーサさんと二人、カビの塊を見つめる。
「ハルト様、どうします? 捨てます?」
「これをやると消滅しちゃうかもしれないけど『浄化!』……あ、消えない? これ食べられそうだよ」
前世の記憶から、鰹節には主に市販のつゆなどに使われる荒節と料亭などで使われる本枯節があった。
本枯節は、荒節にカビ付けや天日干しを繰り返して上品でまろやかな香気と旨味を増やした鰹節なんだ。
ただし最初から美味しくなるとわかっていてカビを付けたわけではないらしい。
本枯節の成り立ちは、生産地の薩摩や土佐から荒節を輸送する間に悪性のカビが生えてしまったから、それより先に良性のカビを人為的に付けて保存性を求めた結果の産物だったとか。
断面は綺麗なルビー色。
そんな感じのができちゃった?
「よし、出汁を取って飲んでみよう」
「ハルト様、毒味でしたら私がいたします」
マーサさんはそう言うが毒はないはず。話し合って二人で飲むことにした。カビが付いて硬くなったモモ肉を薄く削って出汁を取る。
使う水は普段パン作りに使う井戸水ではなく、山間を流れるやわらかな清水だ。
「綺麗に澄んだ琥珀色だね」
「んんー、このいい香りはなんでしょう」
「じゃあ、飲んでみようか」
「はい」
二人で出汁を飲んで、驚きに目を丸くした。
僕とマーサさんは目を閉じて声を重ねる。
「「はあああ~、美味しい~」」
香ばしい豊かな香りに深みのあるしっかりとした強い旨味、それでいて後味はスッと舌の上で溶けていくよう。鰹節とも違う、肉の旨味が詰まったボア肉のだし汁。とにかく美味しい。
「マーサ、今日はおでん風ポテを作ろう」
「おでん風、ですか?」
わが家の煮込み料理ポテは、塩漬けのボア肉にキャベツやほくほくポテトなどの野菜を入れるのが基本。だけど今日はボア肉のだし汁を使って、ゆで卵やダイコンも入れちゃおう。
からし菜の種から作った和からしを付ければ、おでん風ポテの出来上がり。
「ほふほふ、とろとろキャベツがおいひいよ」
「ダイコンもお出汁を吸って美味しいです」
「マーサ、ゆで卵も半分ずつ食べようか」
「これは味見ですからね、うふふ」
「そうだね、ふひひ」
調理場でこっそり食べる僕とマーサさん。
不意に「ごほん」と咳払いが聞こえて、体がビクッと跳ねる。二人で恐る恐る振り向くと、無言で腕を組んだ兄上と匂いにつられて集まったみんながいた。
ついに筆記具『炭ペン』が完成した!
炭粘土の芯はだいたい鉛筆の2B以上の濃さとやわらかさで、ペンは木の芯一つと金属製の二つの部品からなる。炭粘土の芯と三つの部品は日本の鉛筆の約半分くらいの長さ。
金属については、レンのスプーンとフォークが木製に変わった。
ありがとう、心の友よ。
炭粘土の芯を焼くついでに陶器のレンゲを作っておいたから、お礼にそろそろ箸の使い方を教えてあげよう。
炭ペンの仕組みはシャーペンに似ているが、バネを使うなど複雑な機構はとてもマネできない。だから凹凸をつけた金属カバーを重なり合うようにして、一回後ろを押すと一回分カチッと縮んでいくようにした。鉛筆みたいに段々短くなるんだ。
太い一本芯が抜け落ちないように固定しつつ後ろから押す木の芯を入れたので、ペン全体の長さに対して芯の長さが半分くらいになった。
日本の筆記具に比べればだいぶ劣るけど、紙にも布にも木の板にも書きやすく、普段使いの筆記具としては十分の出来だと思う。
芯の減り具合も一目でわかるし。
なによりマリアが喜んでくれたから。
「ありがとうございます、ハルトお兄さま! マリアは大切に使います!」
「うん。紙もペンもみんなの協力があってできたものだからね。でも、僕は思う存分マリアに使って欲しいな」
「はい。文字を書く練習を頑張って、みんなにお礼のお手紙を書きます」
「そうだね。マリアからお礼状をもらえたら、きっとみんな喜ぶと思うよ」
「ハルトお兄さまもですか?」
「もちろん、宝物にする」
「マリア、頑張ります!」
炭ペンを大事そうに胸に抱いたマリア。彼女の頭を撫でてあげると相好を崩した。その笑顔が何よりのお礼で宝物だよ。
「良かったですね、ハルト様」
「うん。フィーネもレンもありがとう」
「はい」「うん」
このあと追加で紙を作り、さらにマリアが一人でも手紙を書けるように、平行定規が付いた木製の小型製図板を作った。
文房具を作るのは結構楽しいね。
元々左利きのマリアには右手で文字を書くのが大変そうだけど、とても熱心に取り組んでいるからすぐ上手に書けるようになるだろう。
どんな手紙をくれるのか楽しみだ。
さて、年を越してフィーネの誕生日を知り、糸車、和紙、炭ペンと、もの作りに邁進してきた僕だが、忘れていたことがあった。
村人の目を盗んで麦踏みはやった。
貯蔵中に伸びてくるポテトの芽も取った。
だけど、かまどの横でブラックボアのモモ肉が二つ、カビが生えてた。小壺やドライハーブが並ぶ一番端でオブジェがあるなーとは思ってたんだ。マーサさんに言われて思い出した。
あれは確か去年の秋、お洒落角刈りーズの兄上たちが襲来する前に、ブラックボアのモモ肉を使って枯節を作ろうとしてた。
塩水による煮熟と煙で燻して水分を抜く焙乾をやって、表面の黒い部分を削って裸節にしてからカビが生えるのを待ってた。
たまに浄化魔法を使って、悪性のダメなカビを取り除きながら様子を見ていたはずなんだけど……完全に忘れてた。
マーサさんと二人、カビの塊を見つめる。
「ハルト様、どうします? 捨てます?」
「これをやると消滅しちゃうかもしれないけど『浄化!』……あ、消えない? これ食べられそうだよ」
前世の記憶から、鰹節には主に市販のつゆなどに使われる荒節と料亭などで使われる本枯節があった。
本枯節は、荒節にカビ付けや天日干しを繰り返して上品でまろやかな香気と旨味を増やした鰹節なんだ。
ただし最初から美味しくなるとわかっていてカビを付けたわけではないらしい。
本枯節の成り立ちは、生産地の薩摩や土佐から荒節を輸送する間に悪性のカビが生えてしまったから、それより先に良性のカビを人為的に付けて保存性を求めた結果の産物だったとか。
断面は綺麗なルビー色。
そんな感じのができちゃった?
「よし、出汁を取って飲んでみよう」
「ハルト様、毒味でしたら私がいたします」
マーサさんはそう言うが毒はないはず。話し合って二人で飲むことにした。カビが付いて硬くなったモモ肉を薄く削って出汁を取る。
使う水は普段パン作りに使う井戸水ではなく、山間を流れるやわらかな清水だ。
「綺麗に澄んだ琥珀色だね」
「んんー、このいい香りはなんでしょう」
「じゃあ、飲んでみようか」
「はい」
二人で出汁を飲んで、驚きに目を丸くした。
僕とマーサさんは目を閉じて声を重ねる。
「「はあああ~、美味しい~」」
香ばしい豊かな香りに深みのあるしっかりとした強い旨味、それでいて後味はスッと舌の上で溶けていくよう。鰹節とも違う、肉の旨味が詰まったボア肉のだし汁。とにかく美味しい。
「マーサ、今日はおでん風ポテを作ろう」
「おでん風、ですか?」
わが家の煮込み料理ポテは、塩漬けのボア肉にキャベツやほくほくポテトなどの野菜を入れるのが基本。だけど今日はボア肉のだし汁を使って、ゆで卵やダイコンも入れちゃおう。
からし菜の種から作った和からしを付ければ、おでん風ポテの出来上がり。
「ほふほふ、とろとろキャベツがおいひいよ」
「ダイコンもお出汁を吸って美味しいです」
「マーサ、ゆで卵も半分ずつ食べようか」
「これは味見ですからね、うふふ」
「そうだね、ふひひ」
調理場でこっそり食べる僕とマーサさん。
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