【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

78 春と隊商と露見

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 水の月後半、春うらら。

 山の雪解け水が勢いよく水車を回すようになると、晴れた日は半裸で過ごせる。
 温室で種から育てている野菜の苗も、日ごとすくすく成長していく感じが見ていて楽しい。昼夜の寒暖差には気をつけなきゃ。

「ハルト様ー! アルマン商会の隊商が来たよー!」

 午後、温室にいたらレンが呼びに来た。
 春のサンタクロース!
 魔鋼鉄のインゴット!

「わかったー、すぐ戻るー!」

 村の子供たちのように、半裸のまま南門へ駆けて行って出迎えたいところではあるが、僕には貴族令息としての体面がある。一応はね。
 一旦、屋敷へ戻って着替えたら、マーサさんと夕食の準備に取りかかろう。

 今日は何を食べてもらおうか。
 ボア肉の枯節で出汁を取ったおでん風ポテは作ろう。香りのいい出汁と甘味が増した越冬ポテトやオニオンの相性が抜群なんだ。

 そして夕方。
 客間に集まった僕たちは、クラウスさんがアルマンさんたちを連れて来るのを待っていた。
 しかし突然ーー「キャーッ!」と、女の子の叫び声がして、続けて「トーテンコウ」の雄叫びが辺りに響いた。僕と兄上は視線を交わす。

「ハルト、鳥小屋だ!」
「はい!」

 ヘルヒクイ鳥を飼ってきてわかったことは、彼らは縄張り意識がとても強く臆病だということ。だからこそ、大きな雄叫びによる威嚇や、一撃必殺の先制攻撃をする。
 きっと誰かが鳥小屋に近づいたんだ。

 兄上は正面から、僕は裏口から飛び出して鳥小屋を目指す。すると急に自分の体が持ち上がって、気づけばフィーネが横にいた。

「ハルト様、失礼します!」
「うん!」

 僕を抱えたフィーネが風の魔法を唱えると、グンッと走るスピードが上がる。
 正面を向き視界に飛び込んできたのは、なぜか鳥小屋の外で翼を広げているニワトリたちと、その前でへたり込むフード姿の子供だ。
 剣を手に合流した兄上を横目に見つつ、僕は目一杯手を伸ばして魔法を唱えた。

「光壁!」

 高さを抑え細長く展開した光壁がニワトリの攻撃を防ぐ。兄上が女の子を抱き上げて後ろへ飛び退くと、僕はニワトリたちの前に立ちはだかった。興奮している彼らを落ち着かせる。

「おおーよしよし、もう大丈夫だぞー。はい、怖くなーい怖くなーい、お家へ入ろうなー」
「「「クェーックェクェクェ……」」」

 フィーネと一緒にニワトリたちを鳥小屋へ戻してあげていると、後ろから女の子の大きな泣き声が聞こえてきた。振り向けば、女の子を抱いた兄上がどうしたものかと困惑している。

「兄上に抱っこされて泣く子なんて初めて見たなー。珍しい光景だよね」
「ふふふ、そうですね」

 危機を脱した安堵感から笑顔でフィーネと話していると、屋敷の方から大勢の人たちが血相を変えて走ってきた。ボルドさんたちだ。

「ミディナー!」
「「「アベル様!」」」

 ボルドさんたちもいるけど、一番先頭を走る背の高い女戦士は見たことがない。
 ミディナは泣いてる女の子の名前だろう。

「うわ~ん! ママぁ、ママぁ~!」
「ミディナ! 勝手に一人で遠くへ行っちゃダメって言ったじゃない!」

 どうやら親子らしいね。
 兄上が泣きじゃくる女の子をお母さんに手渡すと、親子はしっかりと抱き合った。
 やれやれ、これで一件落着……とはならず。
 ボルドさんたちと遅れてやって来たアルマンは、鳥小屋の中のニワトリを目にして驚愕した。
 
「こ、こいつは! ヘルヒクイ鳥では!?」
「アベル様、これは一体!?」

 あー、とうとうバレちゃった。
 ここで騒いでいるとまたニワトリたちが興奮してしまう。詳しい話をするために、とりあえず食堂へ場所を移すことになった。

 長いテーブルの上座に兄上が座り、僕とマリアの向かいにアルマンさんとサムトさん親子、その隣にアルヌの双壁の四人、ボルドさん、レーヌさん、クロエさん、パティさんが席に着いた。

 クラウスさんによれば、まだ泣き止まない女の子のミディナとお母さんのアイラさんは、なんとシュガー村への移住希望者だという。
 移住希望者だという!

「移住希望者だという?」
「ハルト様、落ち着いてください」
「ごめん、クラウス。びっくりしちゃって」

 二人はひとまず客室で休んでもらうことになり、対応するフィーネに飴湯ときなこ棒をトレーに乗せて渡した。すぐご用意できるので。
 この親子は絶対に逃がさないぞという強い意思の現れ、露骨な甘いもの作戦である。

 一方、食堂ではクラウスさんがみんなを落ち着かせようと紅茶を淹れる。
 しかし、商人であるアルマンさんとサムトさんは、兄上からの説明を今か今かと前のめりになって待っていた。
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