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第二章 辺境の村~7歳~
107 冬支度
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今年も無事に収穫祭が開けた。
アルマン商会の隊商を見送ると、冬支度が始まるシュガー村では、薪割りや家の修理をする音があちこちから聞こえてくる。
僕はダイコンや白菜の冬越し準備を始めた。今年はニンジンも畑で越冬させるんだ。雪中野菜は甘味が増して美味しくなるからね。
一方、寒さに弱いサツマイモは地面に穴を掘った土室へ入れる。一部は甘い干し芋にして、サツマイモファンを増やす布教活動に使おう。
「ではハルト様、参りましょうか」
「うん、よろしくね」
西の森へ行くきこり衆に同行して、フィーネと紙の原料になるコウゾやミツマタを採取してきた。次の日に、大釜で蒸し上げてから、黒い外皮を剥いでできる白皮を天日干しにする。
来年にはまた紙を作って、マリアのためにたくさんストックしておかなきゃ。
そして晴天で地面が乾いている日には麦踏みをする。今年大豊作だったから、みんなに麦踏みの有効性を理解してもらえたんだ。
「皆さん、ハルト様に感謝されてましたね」
「うん。去年みたいに怒って追いかけて来る人がいなくて良かったよ」
「ふふふ」
みんなの役に立てたのが素直に嬉しい。
その帰り道。
「ハルト様ー、フィーネ、シイタケが採れたから持っていってー」
「ありがとう、キリカ」
シイタケ栽培は順調で、きこり衆が植樹や伐採作業の合間にやってくれることになった。この分なら他のキノコも栽培できそうだ。
フィーネと二人、シイタケで山盛りのかごを持って屋敷へ帰る。
「さっきキリカとなに話してたの?」
「女の子同士の秘密です」
「ふーん」
あれから仲良くしているようで何より。
途中でレンが改築してくれている温室に立ち寄ると、ちょうど兄上が様子を見に来てた。
「ハルト、屋根には飴を乗せるって?」
「はい。他に窓ガラスの代わりになるものがありませんから。兄上は何か心当たりがあったりしますか?」
兄上たちには食べ物召喚魔法のことを打ち明けた。やっぱり三人とも気づいていて、他人にバレないように気をつけなさいと言われただけだった。もっと早く言えば良かったよ。
「温室か……そういえば、王宮の温室にはミラージュサーペントの脱け殻が使われていたな。バホルムのダンジョンでも手に入るはずだが」
「大蛇の脱け殻ですか……ダンジョンはハンターじゃなきゃ入れないんですよね?」
「騎士団を除いて基本的にはそうだな」
ハンターにもライセンスが必要だし、お金を払って依頼するのが現実的かなあ。
「あっ、ハルト様ー、屋根乗せられるよー」
棟の上から手を振るレン。
「すぐ行くー。フィーネは先に帰っていて」
「はい。お気をつけて」
こうして晴れた日にはサクサク仕事を片付けた。そして雨の日には、クラウスさんの知っている範囲で税や法律について学ぶ。
商人のライセンス証を取るために必要だってわかったからね。でも、帳簿の付け方はとくに難しくなくて助かった。
前世の記憶によれば、これは複式簿記ではなく単式簿記に近い。シンプルに日付と取引相手と品目、収支を記入して一年間の損益を出す。
バホルムの商人の収支申告は、役所へこの帳簿を提出すると課税される仕組みらしい。農村であれば徴税官に見せる。
前世に比べれば、経済活動が小さく限定的で基本的には現金取引。株式や土地などの資産運用はないし、原価償却費や広告宣伝費のような概念もないから、単式簿記で十分なんだろう。
ただし、売掛買掛の掛取引はある。
いわゆるツケ払いのことで、その都度、契約書や覚書を交わすというけど、貴族のツケと聞くと相手の資産次第では身分差がある商人にとってリスクが高そうだ。
「クラウス、忙しいのにありがとう」
「とんでもございません。ハルト様がかように聡明でいらっしゃるのであれば、わたくしはいつでも安心して隠居させていただけますね」
「もう、なにつまらない冗談を言ってるの? みんなクラウスのこと頼りにしてるんだから。それに僕にとってクラウスとマーサは育ての親、父上と母上にも等しい人だと思っているんだ。だから、マーサと一緒に身体を大事にして、これからも僕たちのことを助けてね」
「ハルト様……はい。承知いたしました」
んもう、クラウスさんは縁起でもない。と思っているところへ、マーサさんが差し入れを持ってきてくれた。
ポテトとオニオンのみそ汁だ。
「ああ~、マーサの作ってくれる温かいミソスープを飲むと、ほっとするよ~」
「ふふふ。ハルト様が出されたミソを使えば、誰が作っても同じですよ」
「それが全然違うんだよ。ね? クラウス」
「ええ、全然違いますね」
「まあ、あなたまで。ふふふ」
どうにかして味噌や醤油が作れたらいいのになあ。しかし、味噌はともかく醤油は難しい。何より麹菌を安定的に生産するのが難しい。
あ、難しいといえば、木のたらいで作っていた稲が実ってお米が収穫できたんだ。だいたいご飯茶碗に四杯分、二合弱ってところかな。
ここで稲作ができることはわかったけど、毎日の水温管理とか実際の重労働を考えると、村のみんなに丸投げするのは忍びない。
だから村での稲作は諦めて、今は街で現金収入を増やすことに集中しようと思う。
来年の今頃には、クラウスさんとマーサさんに新しい執事服とメイド服くらい買ってあげたいな。袖口や襟元がだいふへたってるからね。
色々とやりたいことはあるけれど、今は目の前のことを確実にクリアしていこう。僕は決意を新たに温かいみそ汁を飲み干した。
アルマン商会の隊商を見送ると、冬支度が始まるシュガー村では、薪割りや家の修理をする音があちこちから聞こえてくる。
僕はダイコンや白菜の冬越し準備を始めた。今年はニンジンも畑で越冬させるんだ。雪中野菜は甘味が増して美味しくなるからね。
一方、寒さに弱いサツマイモは地面に穴を掘った土室へ入れる。一部は甘い干し芋にして、サツマイモファンを増やす布教活動に使おう。
「ではハルト様、参りましょうか」
「うん、よろしくね」
西の森へ行くきこり衆に同行して、フィーネと紙の原料になるコウゾやミツマタを採取してきた。次の日に、大釜で蒸し上げてから、黒い外皮を剥いでできる白皮を天日干しにする。
来年にはまた紙を作って、マリアのためにたくさんストックしておかなきゃ。
そして晴天で地面が乾いている日には麦踏みをする。今年大豊作だったから、みんなに麦踏みの有効性を理解してもらえたんだ。
「皆さん、ハルト様に感謝されてましたね」
「うん。去年みたいに怒って追いかけて来る人がいなくて良かったよ」
「ふふふ」
みんなの役に立てたのが素直に嬉しい。
その帰り道。
「ハルト様ー、フィーネ、シイタケが採れたから持っていってー」
「ありがとう、キリカ」
シイタケ栽培は順調で、きこり衆が植樹や伐採作業の合間にやってくれることになった。この分なら他のキノコも栽培できそうだ。
フィーネと二人、シイタケで山盛りのかごを持って屋敷へ帰る。
「さっきキリカとなに話してたの?」
「女の子同士の秘密です」
「ふーん」
あれから仲良くしているようで何より。
途中でレンが改築してくれている温室に立ち寄ると、ちょうど兄上が様子を見に来てた。
「ハルト、屋根には飴を乗せるって?」
「はい。他に窓ガラスの代わりになるものがありませんから。兄上は何か心当たりがあったりしますか?」
兄上たちには食べ物召喚魔法のことを打ち明けた。やっぱり三人とも気づいていて、他人にバレないように気をつけなさいと言われただけだった。もっと早く言えば良かったよ。
「温室か……そういえば、王宮の温室にはミラージュサーペントの脱け殻が使われていたな。バホルムのダンジョンでも手に入るはずだが」
「大蛇の脱け殻ですか……ダンジョンはハンターじゃなきゃ入れないんですよね?」
「騎士団を除いて基本的にはそうだな」
ハンターにもライセンスが必要だし、お金を払って依頼するのが現実的かなあ。
「あっ、ハルト様ー、屋根乗せられるよー」
棟の上から手を振るレン。
「すぐ行くー。フィーネは先に帰っていて」
「はい。お気をつけて」
こうして晴れた日にはサクサク仕事を片付けた。そして雨の日には、クラウスさんの知っている範囲で税や法律について学ぶ。
商人のライセンス証を取るために必要だってわかったからね。でも、帳簿の付け方はとくに難しくなくて助かった。
前世の記憶によれば、これは複式簿記ではなく単式簿記に近い。シンプルに日付と取引相手と品目、収支を記入して一年間の損益を出す。
バホルムの商人の収支申告は、役所へこの帳簿を提出すると課税される仕組みらしい。農村であれば徴税官に見せる。
前世に比べれば、経済活動が小さく限定的で基本的には現金取引。株式や土地などの資産運用はないし、原価償却費や広告宣伝費のような概念もないから、単式簿記で十分なんだろう。
ただし、売掛買掛の掛取引はある。
いわゆるツケ払いのことで、その都度、契約書や覚書を交わすというけど、貴族のツケと聞くと相手の資産次第では身分差がある商人にとってリスクが高そうだ。
「クラウス、忙しいのにありがとう」
「とんでもございません。ハルト様がかように聡明でいらっしゃるのであれば、わたくしはいつでも安心して隠居させていただけますね」
「もう、なにつまらない冗談を言ってるの? みんなクラウスのこと頼りにしてるんだから。それに僕にとってクラウスとマーサは育ての親、父上と母上にも等しい人だと思っているんだ。だから、マーサと一緒に身体を大事にして、これからも僕たちのことを助けてね」
「ハルト様……はい。承知いたしました」
んもう、クラウスさんは縁起でもない。と思っているところへ、マーサさんが差し入れを持ってきてくれた。
ポテトとオニオンのみそ汁だ。
「ああ~、マーサの作ってくれる温かいミソスープを飲むと、ほっとするよ~」
「ふふふ。ハルト様が出されたミソを使えば、誰が作っても同じですよ」
「それが全然違うんだよ。ね? クラウス」
「ええ、全然違いますね」
「まあ、あなたまで。ふふふ」
どうにかして味噌や醤油が作れたらいいのになあ。しかし、味噌はともかく醤油は難しい。何より麹菌を安定的に生産するのが難しい。
あ、難しいといえば、木のたらいで作っていた稲が実ってお米が収穫できたんだ。だいたいご飯茶碗に四杯分、二合弱ってところかな。
ここで稲作ができることはわかったけど、毎日の水温管理とか実際の重労働を考えると、村のみんなに丸投げするのは忍びない。
だから村での稲作は諦めて、今は街で現金収入を増やすことに集中しようと思う。
来年の今頃には、クラウスさんとマーサさんに新しい執事服とメイド服くらい買ってあげたいな。袖口や襟元がだいふへたってるからね。
色々とやりたいことはあるけれど、今は目の前のことを確実にクリアしていこう。僕は決意を新たに温かいみそ汁を飲み干した。
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