91 / 106
第二章 辺境の村~7歳~
86 煮詰まる商談
しおりを挟む
「ハルト様は、これらの製品の中でどれが一番売れると思われますかな?」
ポンダムさんからの問い掛け。
みんなの視線が僕に向けられる。
なんだろう、面接みたいで緊張する。
「長期目線で考えれば炭ペンでしょうか」
「ほう、なぜそう思われるのですかな?」
ポンダムさんの眼鏡がキラリと光った。
試されてる? これなんか試されてるの?
「そうですね、まず素材が容易に手に入り、自作できるような物は徐々に販売数が伸びなくなるのではないかと思います」
「つまり、デザイン定規やソロバンなど小型の木工製品のことですかな?」
「はい。僕だったら便利な道具があってそれが自作できるなら貴重なお金を払ってまで買ったりはしません。自作して家で使う分には法的に問題はないはずですから」
バレなきゃいいんです。
実際みんなそうすると思う。
「しかし、糸車や脱穀機は炭ペンよりも稼げると思いませんか?」
「確かに、短期的には主力商品になると思います。ただ、それらは単価を高く設定しても耐用年数が長い商品になりますから販売個数は伸びなくなるでしょう。
それに、原理を理解すれば木工製品と同じで自作する人も出てくるでしょうし、単価が高い商品ほど新品に買い換えるのではなく、故障箇所を修理したり、部品を交換して使おうとするはずです。ちゃっかり修理で稼ぐ人もいるかもしれませんね」
ドワーフ族なんて金属加工はお手の物。
みんな生活のためには逞しいから。
楽観視しなければこんな予想じゃないかな。
「ふむ、それで長期目線では炭ペンだと」
「はい。正確には炭ペンの替え芯ですね」
もちろん売れればの話。
話し終わると、四人が険しい表情をする。
ちょっと予想が悲観的すぎたかな。
「あのー、あくまで世間知らずの子供の予想ですから、考えすぎかもしれませんし……」
四人が一斉に僕を見つめてくる。
じぃーっと見つめて、話し合いを再開した。
なんです? なんか言ってください。
「私どもは少々浮かれていたようですな」
「ええ、もう一度詳細を詰め直しましょう」
「クラウス、明日にでも職人たちと話し合いがしたい。職人の人数が足りなければ村人の中から木工や陶工に興味がある者を募ろう」
「はい、承知いたしました」
結局、商談は夕方までみっちり続いた。
糸車や脱穀機などは、基本的にシュガー村でパーツを作って輸送。領都にあるモラッド商会の工房で組み立てて販売する。もちろん修理や部品の交換も受け付けることになった。
「あのー、モロッドさん? 領都のダンジョン産の木材は使えないんですか?」
「おや、ハルト様はご存じない? むふふふ、ダンジョン産の木材はですね、魔力の消失による経年変化が大きく、歪みや割れが起きるので家具などには向かないんですよ。ええ」
何気なく聞いたら、モロッドさんがにっこにこの笑顔で嬉しそうに教えてくれた。ダンジョン産の木材は、だいたい薪になるそうだ。
次にデザイン定規はグラフとデータ管理が学べる学習教材として、またソロバンは計算や暗算が学べる学習教材として、良質な獣皮紙の説明書とセットで販売することになった。
ちなみに暗算の実演は五歳になるマリアに頼んだ。四桁の加算減算問題を即答するのを目の当たりにしたモロッドさんとポンダムさんは、驚きに目を丸くして興味津々だった。
ふふふ、マリアは努力する天才だから。
炭ペンはボディを金属製と木製の二種類にして、スマホの半分ぐらいの大きさの替え芯ケースとセット販売することになった。
金属製のタイプは都市労働者向けに。エプロンやポケットにスッと挟めるように金属製のカバーにシンプルな形状のクリップを付けた。
木製のタイプは大工など職人向けに。紐で首から下げたり、耳に挟みやすいよう細めの木製カバーにデザインを変える。
だいたいこんなところかな。
商会名はシュガー商会、なんとか来年の営業開始を目指すことになるそうだ。
そして夕食。
メインは春の山菜と野菜の天ぷら。
モロッドさんとポンダムさんから、熱いリクエストがあったので。
「いやー、朝のオムレツも美味しかったが、このサクサクの天ぷらも美味しい」
「ええ。野菜がこれほど美味しいものだとは、あのアルマンさんが絶賛されるわけです」
さっそく二人からお褒めの言葉をいただいて、嬉しくなった僕は質問する。
「領都のお野菜は、そんなに美味しくないのですか?」
向こうへ行った時、お城で食べた物ってなんだったかなーと考えると、確かにお肉とパンとフルーツぐらいしか食べてない気がする。
「それはもう。あの苦さはどうやっても消えませんから、誰も金を払ってまで食べようとは思いませんよ」
そんなに苦いんだ。
「何よりダンジョン産の肉が毎日安く手に入りますからな。野菜の価値など野草とたいして変わりません」
モロッドさんとポンダムさんは、眉間に皺を寄せながら揃って首を横に振る。
野草扱いって、そんなに不味いの?
そこまで言われると逆に食べてみたくなる。
来年の楽しみができた。
明後日の朝、モロッドさんとポンダムさんはそれぞれ荷馬車に荷物を積み込み、隊商は領都バホルムを目指して帰って行った。
ポンダムさんからの問い掛け。
みんなの視線が僕に向けられる。
なんだろう、面接みたいで緊張する。
「長期目線で考えれば炭ペンでしょうか」
「ほう、なぜそう思われるのですかな?」
ポンダムさんの眼鏡がキラリと光った。
試されてる? これなんか試されてるの?
「そうですね、まず素材が容易に手に入り、自作できるような物は徐々に販売数が伸びなくなるのではないかと思います」
「つまり、デザイン定規やソロバンなど小型の木工製品のことですかな?」
「はい。僕だったら便利な道具があってそれが自作できるなら貴重なお金を払ってまで買ったりはしません。自作して家で使う分には法的に問題はないはずですから」
バレなきゃいいんです。
実際みんなそうすると思う。
「しかし、糸車や脱穀機は炭ペンよりも稼げると思いませんか?」
「確かに、短期的には主力商品になると思います。ただ、それらは単価を高く設定しても耐用年数が長い商品になりますから販売個数は伸びなくなるでしょう。
それに、原理を理解すれば木工製品と同じで自作する人も出てくるでしょうし、単価が高い商品ほど新品に買い換えるのではなく、故障箇所を修理したり、部品を交換して使おうとするはずです。ちゃっかり修理で稼ぐ人もいるかもしれませんね」
ドワーフ族なんて金属加工はお手の物。
みんな生活のためには逞しいから。
楽観視しなければこんな予想じゃないかな。
「ふむ、それで長期目線では炭ペンだと」
「はい。正確には炭ペンの替え芯ですね」
もちろん売れればの話。
話し終わると、四人が険しい表情をする。
ちょっと予想が悲観的すぎたかな。
「あのー、あくまで世間知らずの子供の予想ですから、考えすぎかもしれませんし……」
四人が一斉に僕を見つめてくる。
じぃーっと見つめて、話し合いを再開した。
なんです? なんか言ってください。
「私どもは少々浮かれていたようですな」
「ええ、もう一度詳細を詰め直しましょう」
「クラウス、明日にでも職人たちと話し合いがしたい。職人の人数が足りなければ村人の中から木工や陶工に興味がある者を募ろう」
「はい、承知いたしました」
結局、商談は夕方までみっちり続いた。
糸車や脱穀機などは、基本的にシュガー村でパーツを作って輸送。領都にあるモラッド商会の工房で組み立てて販売する。もちろん修理や部品の交換も受け付けることになった。
「あのー、モロッドさん? 領都のダンジョン産の木材は使えないんですか?」
「おや、ハルト様はご存じない? むふふふ、ダンジョン産の木材はですね、魔力の消失による経年変化が大きく、歪みや割れが起きるので家具などには向かないんですよ。ええ」
何気なく聞いたら、モロッドさんがにっこにこの笑顔で嬉しそうに教えてくれた。ダンジョン産の木材は、だいたい薪になるそうだ。
次にデザイン定規はグラフとデータ管理が学べる学習教材として、またソロバンは計算や暗算が学べる学習教材として、良質な獣皮紙の説明書とセットで販売することになった。
ちなみに暗算の実演は五歳になるマリアに頼んだ。四桁の加算減算問題を即答するのを目の当たりにしたモロッドさんとポンダムさんは、驚きに目を丸くして興味津々だった。
ふふふ、マリアは努力する天才だから。
炭ペンはボディを金属製と木製の二種類にして、スマホの半分ぐらいの大きさの替え芯ケースとセット販売することになった。
金属製のタイプは都市労働者向けに。エプロンやポケットにスッと挟めるように金属製のカバーにシンプルな形状のクリップを付けた。
木製のタイプは大工など職人向けに。紐で首から下げたり、耳に挟みやすいよう細めの木製カバーにデザインを変える。
だいたいこんなところかな。
商会名はシュガー商会、なんとか来年の営業開始を目指すことになるそうだ。
そして夕食。
メインは春の山菜と野菜の天ぷら。
モロッドさんとポンダムさんから、熱いリクエストがあったので。
「いやー、朝のオムレツも美味しかったが、このサクサクの天ぷらも美味しい」
「ええ。野菜がこれほど美味しいものだとは、あのアルマンさんが絶賛されるわけです」
さっそく二人からお褒めの言葉をいただいて、嬉しくなった僕は質問する。
「領都のお野菜は、そんなに美味しくないのですか?」
向こうへ行った時、お城で食べた物ってなんだったかなーと考えると、確かにお肉とパンとフルーツぐらいしか食べてない気がする。
「それはもう。あの苦さはどうやっても消えませんから、誰も金を払ってまで食べようとは思いませんよ」
そんなに苦いんだ。
「何よりダンジョン産の肉が毎日安く手に入りますからな。野菜の価値など野草とたいして変わりません」
モロッドさんとポンダムさんは、眉間に皺を寄せながら揃って首を横に振る。
野草扱いって、そんなに不味いの?
そこまで言われると逆に食べてみたくなる。
来年の楽しみができた。
明後日の朝、モロッドさんとポンダムさんはそれぞれ荷馬車に荷物を積み込み、隊商は領都バホルムを目指して帰って行った。
24
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした
楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。
仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。
◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪
◇全三話予約投稿済みです
死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる