【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

86 煮詰まる商談

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「ハルト様は、これらの製品の中でどれが一番売れると思われますかな?」

 ポンダムさんからの問い掛け。
 みんなの視線が僕に向けられる。
 なんだろう、面接みたいで緊張する。

「長期目線で考えれば炭ペンでしょうか」
「ほう、なぜそう思われるのですかな?」

 ポンダムさんの眼鏡がキラリと光った。
 試されてる? これなんか試されてるの?

「そうですね、まず素材が容易に手に入り、自作できるような物は徐々に販売数が伸びなくなるのではないかと思います」

「つまり、デザイン定規やソロバンなど小型の木工製品のことですかな?」

「はい。僕だったら便利な道具があってそれが自作できるなら貴重なお金を払ってまで買ったりはしません。自作して家で使う分には法的に問題はないはずですから」

 バレなきゃいいんです。
 実際みんなそうすると思う。

「しかし、糸車や脱穀機は炭ペンよりも稼げると思いませんか?」 

「確かに、短期的には主力商品になると思います。ただ、それらは単価を高く設定しても耐用年数が長い商品になりますから販売個数は伸びなくなるでしょう。
 それに、原理を理解すれば木工製品と同じで自作する人も出てくるでしょうし、単価が高い商品ほど新品に買い換えるのではなく、故障箇所を修理したり、部品を交換して使おうとするはずです。ちゃっかり修理で稼ぐ人もいるかもしれませんね」

 ドワーフ族なんて金属加工はお手の物。
 みんな生活のためには逞しいから。
 楽観視しなければこんな予想じゃないかな。

「ふむ、それで長期目線では炭ペンだと」
「はい。正確には炭ペンの替え芯ですね」

 もちろん売れればの話。
 話し終わると、四人が険しい表情をする。
 ちょっと予想が悲観的すぎたかな。

「あのー、あくまで世間知らずの子供の予想ですから、考えすぎかもしれませんし……」

 四人が一斉に僕を見つめてくる。
 じぃーっと見つめて、話し合いを再開した。
 なんです? なんか言ってください。

「私どもは少々浮かれていたようですな」
「ええ、もう一度詳細を詰め直しましょう」
「クラウス、明日にでも職人たちと話し合いがしたい。職人の人数が足りなければ村人の中から木工や陶工に興味がある者を募ろう」
「はい、承知いたしました」

 結局、商談は夕方までみっちり続いた。
 糸車や脱穀機などは、基本的にシュガー村でパーツを作って輸送。領都にあるモラッド商会の工房で組み立てて販売する。もちろん修理や部品の交換も受け付けることになった。

「あのー、モロッドさん? 領都のダンジョン産の木材は使えないんですか?」

「おや、ハルト様はご存じない? むふふふ、ダンジョン産の木材はですね、魔力の消失による経年変化が大きく、歪みや割れが起きるので家具などには向かないんですよ。ええ」

 何気なく聞いたら、モロッドさんがにっこにこの笑顔で嬉しそうに教えてくれた。ダンジョン産の木材は、だいたい薪になるそうだ。

 次にデザイン定規はグラフとデータ管理が学べる学習教材として、またソロバンは計算や暗算が学べる学習教材として、良質な獣皮紙の説明書とセットで販売することになった。

 ちなみに暗算の実演は五歳になるマリアに頼んだ。四桁の加算減算問題を即答するのを目の当たりにしたモロッドさんとポンダムさんは、驚きに目を丸くして興味津々だった。
 ふふふ、マリアは努力する天才だから。

 炭ペンはボディを金属製と木製の二種類にして、スマホの半分ぐらいの大きさの替え芯ケースとセット販売することになった。
 金属製のタイプは都市労働者向けに。エプロンやポケットにスッと挟めるように金属製のカバーにシンプルな形状のクリップを付けた。
 木製のタイプは大工など職人向けに。紐で首から下げたり、耳に挟みやすいよう細めの木製カバーにデザインを変える。

 だいたいこんなところかな。
 商会名はシュガー商会、なんとか来年の営業開始を目指すことになるそうだ。

 そして夕食。
 メインは春の山菜と野菜の天ぷら。
 モロッドさんとポンダムさんから、熱いリクエストがあったので。

「いやー、朝のオムレツも美味しかったが、このサクサクの天ぷらも美味しい」
「ええ。野菜がこれほど美味しいものだとは、あのアルマンさんが絶賛されるわけです」

 さっそく二人からお褒めの言葉をいただいて、嬉しくなった僕は質問する。

「領都のお野菜は、そんなに美味しくないのですか?」

 向こうへ行った時、お城で食べた物ってなんだったかなーと考えると、確かにお肉とパンとフルーツぐらいしか食べてない気がする。

「それはもう。あの苦さはどうやっても消えませんから、誰も金を払ってまで食べようとは思いませんよ」

 そんなに苦いんだ。

「何よりダンジョン産の肉が毎日安く手に入りますからな。野菜の価値など野草とたいして変わりません」

 モロッドさんとポンダムさんは、眉間に皺を寄せながら揃って首を横に振る。
 野草扱いって、そんなに不味いの?
 そこまで言われると逆に食べてみたくなる。
 来年の楽しみができた。

 明後日の朝、モロッドさんとポンダムさんはそれぞれ荷馬車に荷物を積み込み、隊商は領都バホルムを目指して帰って行った。
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