【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

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第二章 辺境の村~7歳~

85 二人の商会長と商談

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 アベル兄様は、隊商を率いる二人の商会長さんと一緒に村へ帰ってきた。
 初めて村を訪れた商会長さんたちはだいぶお疲れのご様子で。今日は早々に客室で休むことにして、商談は明日行われることになった。
 僕は堪らず兄上に抱きつく。

「兄上ぇ~」
「お、おい、ハルトどうした?」
「ずみまぜん、寂しかったもので」
「そうか……なんというか、意外だな……」

 ハーレム界隈のイケメンは苦労を知らない別世界の住人だと偏見を持っていたけど、クラウスさんの話で女性で人生苦労しているとわかったから、もう一周回って非モテ仲間だよ。

「兄上、幸せになってくださいね」
「お前は何を言っている?」
「ハルト様、落ち着いてください」

 クラウスさんに丁重に引き離された。
 すみません、我慢できなかったもので。

「アベル様、ご実家はいかがでしたか?」
「皆、喜んでくれたよ。陛下にニワトリを献上すれば叙爵も間違いないだろうとな。それから連日のパーティーが苦痛だっただけだ……」

 うわぁ、兄上目が死んでる。婚活の戦場で兄上を捕獲して家に連れ帰ろうと、ご令嬢が大挙して押し寄せたんだろうな。想像に難くない。

「今夜はもうお休みになられますか?」
「ああ、そうするつもりだが……ハルト」
「はい?」

 兄上はまっすぐに僕を見据えた。

「俺なりに熟慮を重ね、今回の件で仮に陛下から叙爵されることがあれば俺が受けることにする。だが、ハルトが爵位を望めばいつでも陛下に真実を告げて身を引くつもりだ。いいな?」

「はい、わかりました。それでは兄上にとって爵位よりも大事なものが見つかった時には、兄上の望むようにしてください。きっと亡くなった母上もそれを望んでいると思いますから」

「そうか……わかった」

 僕はクラウスさんと視線を交わした。
 これでいいよね。

 翌日、朝食後。
 兄上とクラウスさんと僕は、客間に浄化した製品を運び込み、二人の商会長さんを招いた。改めて挨拶を交わして商談を始める。

 製品ごとに作成した設計書と取説を用意したので、僕はメモ用紙を挟んだクリップボードと炭ペンを手にして書記を務め、説明は兄上とクラウスさんにお任せする。

 テーブルやソファを壁際に寄せて客間に用意したのは、糸車、脱穀機、唐箕、遠心分離機、炭ペン、ソロバン、デザイン定規の七点。
 今回、調理器具と木工旋盤機は見せない。

 旋盤機に関しては、釣った魚ではなく釣り竿を売るようなものだからね。いずれバレる時が来るまで、しばらくは秘密にする方針だ。

「ほう、素晴らしい」
「ええ、想像以上です」

 兄上とクラウスさんの説明を受けながら、二人の商会長さんは感嘆を漏らす。

「いやいや、これが足踏み式の糸車ですか。この加工技術は素晴らしいですなあ」

 スキンヘッドで口髭を生やした細マッチョな中年男性がモロッドさん。モラッド商会とは主に家具に使う材木の取引をしている。

「ええ、これはすごい。こちらは脱穀機と唐箕でしたか、アルマンさんから伺った通りだ」

 丸い鼻眼鏡をかけた小柄な中年男性がポンダムさん。ややメタボな狸獣人。マグレム商会には魔物の素材を買い取ってもらっている。

「ところで、この円形や四角形がくり貫かれた板はどのように使うものですかな?」

 ポンダムさんがデザイン定規を手にしたので、ここは兄上とクラウスさんに目線を送り、許可を得てから僕が説明をする。

「それはデザイン定規といいます」
「デザイン定規?」

 紙にグラフを描くためのテンプレート。
 B5サイズの薄い板で、円やドーナツグラフを描くため、または棒や帯グラフを描くために大小の円形や帯状に板をくり貫いてある。

 初めは製品の図面を紙に描くのにフリーハンドでは難しかったから作っただけなんだ。あとから思いついて、ロンさんに目盛りを付けてもらい、木製と鉄製の二種類を用意した。

 実は兄上たちに確認してわかったことだけど、みんなグラフを知らなかった。どうやら王国ではまだ統計学も発展途上らしくて。
 つまり、どんなによくまとめられたデータも文字と数字がびっしり並んでいるだけ。そんなものを眺めるのは苦痛でしかないからね。

 そういうわけで、小麦など農産物の収穫量を例に出して、モロッドさんとポンダムさんに円グラフや棒グラフの使い方から教えた。

「なるほど! これなら一目瞭然だ」
「確かに、これは商売に使えますな」

 ちゃんと理解してもらえたようだ。
 こうして一通り製品の確認が済んで、聖白紙の契約書に三人がサインをする。
 ここから製造、輸送、販売、アフターケアやコストなど様々なことを決めていくわけだが、大筋はすでに兄上たちが領都で話し合って決めてきたので、商談はスムーズに進んだ。

「ところで、ハルト様」
「はい?」

 商談の終わり際、不意にポンダムさんから話を振られた。眼鏡の奥の好奇心に満ちた眼差しからは、どこか挑むような印象を受ける。

「ハルト様は、これらの製品の中でどれが一番売れると思われますかな?」
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