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第二章 辺境の村~7歳~
84 アベルと王女とご令嬢
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季節は水の月から光の月へ。
僕はクラウスさんと一緒にハニークマビーの養蜂箱を村をまとめる四家に配って回る。念のため魔法で出した砂糖水を村人の手を介してハチに与えてもらい、みんなの安全を確保した。
僕のハチミツ富豪も来年までかな。
帰り道、隣を歩くクラウスさんを見上げる。
「兄上、なかなか帰ってこないね」
「はい。おそらくは、叙爵とご結婚のことを話し合われているのだと思います」
「叙爵?」
「国王陛下から爵位を賜ることでございます」
「ああ、男爵とか伯爵とか」
「ええ……ハルト様?」
「はい?」
「ハルト様は、本当によろしいのですか?」
いつも穏やかな眼差しのクラウスさんが、やや声音低く真剣な眼差しを向けてくる。
「今回の件ですが、本来ならばハルト様が人々から称賛を受け叙爵されるべき偉業だろうと、アベル様は悩んでいらっしゃいます」
「そうなんだ……兄上には申し訳なかったね。だけどやっぱり兄上の方がいいと思う」
「なぜそう思われるのですか?」
「ニワトリの件が上手くいったのは全部みんなの協力があったおかげだし、今の無力な僕が目立っても、きっとろくなことにはならないよ。
たぶんカルメラ様が黙ってないでしょ?
それに世界には魔物や盗賊が当たり前のようにいる。いざという時、領主貴族は領民を守れる相応の武力がなければダメだと思うから」
その点、兄上には武力とカリスマ性がある。
あと眩しいほどのイケメンだし。
「わたくしはそのような考え方ができるハルト様ならば、貴族としていずれ領民を導かれるだろうと確信しております」
「あはは、僕をおだててもハチミツぐらいしか出せないよ。ところで、ねぇクラウス?」
「はい」
「どうして兄上は結婚をしないの?」
兄上の険のある表情を思い出す度に避けてきた疑問を、この機会に訊いてみた。
クラウスさんは逡巡したようだったが。
「……ここだけのお話です、今日聞いたことを誰にも話さず秘密にしていただけますか?」
「う、うん、約束するよ」
クラウスさんの念押しが少し怖い。
「事の始まりは、アベル様の王立学院ご入学前まで遡ります。アベル様は、とあるご令嬢を魔物の襲撃から救った功績により、王国史上最年少で近衛騎士団への入団が認められたのです」
近衛騎士団は、陛下直属の最強騎士団。
さすが兄上、物語の主人公みたい。
「それから二年後、王立学院にジェシーラ王女殿下がご入学されました。その頃の王女殿下は、アベル様に対して並々ならぬお気持ちを寄せられていたそうです」
「並々ならぬ? 好きってこと?」
「はい」
さすが兄上、モテ力が違う。
あ、助けたとあるご令嬢が王女殿下だった?
天才剣士と王女様、青春、キラキラしてる。
「とあるご令嬢は王女殿下だったの?」
「いいえ、違います」
あれ、違うんだ。
「実はアベル様にはすでに心に決めたお方がいらっしゃったのです。わたくしもそのお方のお名前などは存じ上げませんが、なんでもクロストラ帝国からの特待留学生として学院に通われていたご令嬢だとか」
「じゃあ、そのお方がとあるご令嬢?」
「おそらくそうではないかと」
さすが兄上、二人の女の子から両手を引っ張られて、キャッキャウフフの取り合いとか。
モテる男の苦悩かぁ、正直羨ましいかも。
そんなことを思った僕に対して、クラウスさんはフルフルと頭を横に振る。
え、今の思考を読まれた?
僕をじっと見つめてフルフルと頭を振る。
ちょっ!? さらっと思考を読まないで!
欲望漏洩、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「そ、それからどうなったの?」
「アベル様の本心を知ったジェシーラ王女殿下は、嫉妬に狂ったそうです。当時、王女殿下によるご令嬢への嫌がらせは、王都の社交界でも醜聞として知れ渡るほどであったとか」
こわっ。
ご令嬢と王女様、青春、ドロドロしてる。
兄上の苦悩を羨ましがってごめんなさい。
「あ、でもそうなると、兄上はまた王女様から言い寄られたりするのかな?」
叙爵されるなら王都へ行くよね。
「ご心配には及びません。そもそもジェシーラ王女殿下は、学院入学前に東の大国サフリア獣王国の第三王子とご婚約されておりまして。近々あちらへ嫁がれるはずですから」
いや、どうなってんの王女様は!?
婚約者がいながら兄上に横恋慕?
兄上は恋人との仲を裂かれ、近衛騎士への道も諦めるしかなくて。だから束で送られてくるご令嬢たちからの釣書を怖い顔で見てたんだ。
話を聞いただけで軽く人間不信になるよ。
クラウスさん曰く、王女様の愚行に頭を悩ませた国王陛下が、兄上を王都から遠ざけることで事態の収拾を図ったということらしい。
「ですがハルト様、アベル様がシュガー村の代理領主を国王陛下に望まれたのは、ハルト様やマリアンヌお嬢様の行く末を案じてのこと。それは間違いございません」
「うん、わかってるよ」
辺境伯夫人は絶対に反対しただろうから。
「兄上はもう結婚を望まないのかな」
「それはわたくしにもわかりません」
べつに結婚してもしなくても自由だと思う。だけど、兄上には兄上が望む幸せを手にして欲しい。貴族には難しいことなのかなあ。
羊の毛刈りが終わる頃、兄上は隊商と一緒に帰ってきた。それはもうグッタリして。
僕はクラウスさんと一緒にハニークマビーの養蜂箱を村をまとめる四家に配って回る。念のため魔法で出した砂糖水を村人の手を介してハチに与えてもらい、みんなの安全を確保した。
僕のハチミツ富豪も来年までかな。
帰り道、隣を歩くクラウスさんを見上げる。
「兄上、なかなか帰ってこないね」
「はい。おそらくは、叙爵とご結婚のことを話し合われているのだと思います」
「叙爵?」
「国王陛下から爵位を賜ることでございます」
「ああ、男爵とか伯爵とか」
「ええ……ハルト様?」
「はい?」
「ハルト様は、本当によろしいのですか?」
いつも穏やかな眼差しのクラウスさんが、やや声音低く真剣な眼差しを向けてくる。
「今回の件ですが、本来ならばハルト様が人々から称賛を受け叙爵されるべき偉業だろうと、アベル様は悩んでいらっしゃいます」
「そうなんだ……兄上には申し訳なかったね。だけどやっぱり兄上の方がいいと思う」
「なぜそう思われるのですか?」
「ニワトリの件が上手くいったのは全部みんなの協力があったおかげだし、今の無力な僕が目立っても、きっとろくなことにはならないよ。
たぶんカルメラ様が黙ってないでしょ?
それに世界には魔物や盗賊が当たり前のようにいる。いざという時、領主貴族は領民を守れる相応の武力がなければダメだと思うから」
その点、兄上には武力とカリスマ性がある。
あと眩しいほどのイケメンだし。
「わたくしはそのような考え方ができるハルト様ならば、貴族としていずれ領民を導かれるだろうと確信しております」
「あはは、僕をおだててもハチミツぐらいしか出せないよ。ところで、ねぇクラウス?」
「はい」
「どうして兄上は結婚をしないの?」
兄上の険のある表情を思い出す度に避けてきた疑問を、この機会に訊いてみた。
クラウスさんは逡巡したようだったが。
「……ここだけのお話です、今日聞いたことを誰にも話さず秘密にしていただけますか?」
「う、うん、約束するよ」
クラウスさんの念押しが少し怖い。
「事の始まりは、アベル様の王立学院ご入学前まで遡ります。アベル様は、とあるご令嬢を魔物の襲撃から救った功績により、王国史上最年少で近衛騎士団への入団が認められたのです」
近衛騎士団は、陛下直属の最強騎士団。
さすが兄上、物語の主人公みたい。
「それから二年後、王立学院にジェシーラ王女殿下がご入学されました。その頃の王女殿下は、アベル様に対して並々ならぬお気持ちを寄せられていたそうです」
「並々ならぬ? 好きってこと?」
「はい」
さすが兄上、モテ力が違う。
あ、助けたとあるご令嬢が王女殿下だった?
天才剣士と王女様、青春、キラキラしてる。
「とあるご令嬢は王女殿下だったの?」
「いいえ、違います」
あれ、違うんだ。
「実はアベル様にはすでに心に決めたお方がいらっしゃったのです。わたくしもそのお方のお名前などは存じ上げませんが、なんでもクロストラ帝国からの特待留学生として学院に通われていたご令嬢だとか」
「じゃあ、そのお方がとあるご令嬢?」
「おそらくそうではないかと」
さすが兄上、二人の女の子から両手を引っ張られて、キャッキャウフフの取り合いとか。
モテる男の苦悩かぁ、正直羨ましいかも。
そんなことを思った僕に対して、クラウスさんはフルフルと頭を横に振る。
え、今の思考を読まれた?
僕をじっと見つめてフルフルと頭を振る。
ちょっ!? さらっと思考を読まないで!
欲望漏洩、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「そ、それからどうなったの?」
「アベル様の本心を知ったジェシーラ王女殿下は、嫉妬に狂ったそうです。当時、王女殿下によるご令嬢への嫌がらせは、王都の社交界でも醜聞として知れ渡るほどであったとか」
こわっ。
ご令嬢と王女様、青春、ドロドロしてる。
兄上の苦悩を羨ましがってごめんなさい。
「あ、でもそうなると、兄上はまた王女様から言い寄られたりするのかな?」
叙爵されるなら王都へ行くよね。
「ご心配には及びません。そもそもジェシーラ王女殿下は、学院入学前に東の大国サフリア獣王国の第三王子とご婚約されておりまして。近々あちらへ嫁がれるはずですから」
いや、どうなってんの王女様は!?
婚約者がいながら兄上に横恋慕?
兄上は恋人との仲を裂かれ、近衛騎士への道も諦めるしかなくて。だから束で送られてくるご令嬢たちからの釣書を怖い顔で見てたんだ。
話を聞いただけで軽く人間不信になるよ。
クラウスさん曰く、王女様の愚行に頭を悩ませた国王陛下が、兄上を王都から遠ざけることで事態の収拾を図ったということらしい。
「ですがハルト様、アベル様がシュガー村の代理領主を国王陛下に望まれたのは、ハルト様やマリアンヌお嬢様の行く末を案じてのこと。それは間違いございません」
「うん、わかってるよ」
辺境伯夫人は絶対に反対しただろうから。
「兄上はもう結婚を望まないのかな」
「それはわたくしにもわかりません」
べつに結婚してもしなくても自由だと思う。だけど、兄上には兄上が望む幸せを手にして欲しい。貴族には難しいことなのかなあ。
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