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第二章 辺境の村~7歳~
83 近況と魔蜂再び
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水の月後半。
浴光催芽をしたポテトの植え付けや春野菜の種蒔きが終わると、夏野菜の苗の定植までは忙しい毎日にちょっとだけ余裕ができる。
まず夜明け前に起床して、ニワトリとヒヨコの世話と鳥小屋の掃除は毎朝、教会礼拝堂の掃除は一日おきにしている。ニワトリたちの数が減ってやっぱりちょっと寂しい。嫁ぎ先で大事にしてもらえているだろうか。
掃除に関しては浄化魔法で一瞬なので、楽すぎて教会の補修を始めた。その補修作業が楽しくなっちゃって、今は教会の外壁を漆喰で白く塗り直したいなあ、とか思って計画を立てた。
北東の街モンソルトで石灰石を産出してるから、あとは先立つものがあればね。
なお、ジルオ様の授業に生徒は増えず。
辺境の村だし、みんな家の手伝いがあるし。
僕ももう教わることが歴史と魔法だけになってしまって、この時ばかりは香草茶を飲みながら猫カフェ気分でまったりしている。じいじの話を聞きに来る孫みたいな感じ。
一方で、マリアたちとやっている王国語と算術の勉強はちゃんと続けていて、今は単語の綴りと意味を問う問題や、加算減算が混ざった計算問題をやっているところだ。
五歳のマリアは努力する天才だから、もう乗算除算を教えてもすぐにできそうだし、フィーネもレンも物覚えが良くて教えがいがある。
それから嫌いな剣術の鍛練は、畑仕事が始まって回数も参加者も減った。僕としては光魔法の応用に時間を割けるからありがたい。現状では照明と浄化と光壁、この三つを自分なりに試行錯誤しながら腕を磨いてるところだ。
あとは野菜苗の世話で、生育は順調。
ただ、温室の壁は格子戸を重ねてスライドできるようにしたら、もっと採光や通気性が得られるかなあ、と改築を検討中。
始めてしまうとまた大変なので保留してる。
もちろん失敗したこともあって、秋蒔きの燕麦とワサビの栽培はダメだった。
燕麦は春蒔きが正解だったね。
ワサビは生育環境が問題で、水が綺麗でも冬に水温が低くなりすぎた。夏に冷涼で冬に温かい、年間ほぼ一定の水温でないと難しい。
そこで湧水が出ている場所の近くに水路を作り、再挑戦することにした。特産品になりうる野菜をそう簡単には諦められないからね。
あれ? こうして上半身裸で走り回る日々を振り返ってみると普通に忙しい。
感覚がおかしくなってるなーと感じつつ、これからもっと忙しくなる前に、魔鋼鉄のインゴットを使って道具を作っておこうと思う。
実はアルマンさんが魔鋼鉄のインゴットを八百個も届けてくれたからホクホクなんだ。
アルマンさんに訊ねると、魔鋼鉄はダンジョンにできる結晶石から作られるそうだ。話から想像するに、大きなキノコが生えるような感じで魔鋼鉄の結晶石がボコッとできるらしい。
それをハンターが採取してきて、ハンターギルドの鍛冶士が手を加え、インゴットにして販売する。今回アルマンさんは大量に仕入れてきてくれたんだ。
ただ僕が渡したのは金貨五枚で5万リペだったのに、インゴット八百個は桁外れに多い。どうしてだろうと思ったら、ネズミ顔のビラグの損害賠償金が分割払いだったのを思い出した。
完全に忘れてたね。
前回分と合わせて計算すると、賠償額はざっと400万リペほどかな。忘れていただけだけど、ちょっと得した気分でありがたくもらう。
そんなわけで、鍛冶場に通って必要なものを片っ端から作ってもらった。
まずは転用しちゃった回転式脱穀機。
次にハチミツの採取に向けて遠心分離機。さらに、生クリームなど、今後の乳製品の充実も視野に入れて遠心分離機をもう一台。
他に、糸車の部品、木工旋盤機用のドリルの刃、旋盤用のノミ、炭ペンの部品、レンと僕の食器、泡立て器や金ザルなどの調理器具、野菜や果樹に使うハサミを二種類、ラクロスのスティックヘッドに張る金網など。
ロンさんには十分な量の蜂蜜酒で労働の対価を支払った。ハチミツ富豪万歳。
「レンも毎日ありがとうなー」
と、鍛冶場から屋敷への帰り道。
「うん。ボクはお兄ちゃんと一緒に鍛冶仕事をすればするほど腕が上がるから……あっ!」
「ん? どうした?」
急に驚きの声を上げたレンが温室の方を指差した。振り向けば、温室の屋根が黒くモゾモゾとうねっているように見える。
なんだろうと近づいて「ぎゃあああーっ!」と心の中で絶叫した。
ハニークマビーの大群じゃないか!
暖かい陽気が続いて、少しずつ溶けてきていた屋根の飴に群がっているんだ。
べつに虫は苦手じゃないし、ハニークマビーも怖くはないけど、いかんせん数が多すぎる。ブゥンブゥンと羽音が聞こえてくるんだから。
「ハ、ハルト様、あれどうするの?」
「お、落ち着こう。養蜂箱はもう十分に用意してあるんだから、案内すればいいんだ」
それをどうするんだという話。
「あれ? ハルト様見て見て。ハチが屋根から離れてまとまっていくよ?」
レンの言う通り、空に黒い塊が十二個に分かれてそれぞれ形が変わっていく。
一番左から手の形……あ、最初のグループ。
その右隣は1、続いて2、3、4……11と数字を描いた。もしかして村へ移住希望ってこと? 最初のグループが連れてきてくれたのかな?
よくわからないけど、ハチ賢すぎない?
とりあえず、それぞれ養蜂箱へ案内すると、みんな大人しく順番に入ってくれた。
一気にハニークマビーが増えたよ。
そこでクラウスさんと相談して、村で世話役をしてくれている四家から順番に、養蜂箱を設置していくことにした。
浴光催芽をしたポテトの植え付けや春野菜の種蒔きが終わると、夏野菜の苗の定植までは忙しい毎日にちょっとだけ余裕ができる。
まず夜明け前に起床して、ニワトリとヒヨコの世話と鳥小屋の掃除は毎朝、教会礼拝堂の掃除は一日おきにしている。ニワトリたちの数が減ってやっぱりちょっと寂しい。嫁ぎ先で大事にしてもらえているだろうか。
掃除に関しては浄化魔法で一瞬なので、楽すぎて教会の補修を始めた。その補修作業が楽しくなっちゃって、今は教会の外壁を漆喰で白く塗り直したいなあ、とか思って計画を立てた。
北東の街モンソルトで石灰石を産出してるから、あとは先立つものがあればね。
なお、ジルオ様の授業に生徒は増えず。
辺境の村だし、みんな家の手伝いがあるし。
僕ももう教わることが歴史と魔法だけになってしまって、この時ばかりは香草茶を飲みながら猫カフェ気分でまったりしている。じいじの話を聞きに来る孫みたいな感じ。
一方で、マリアたちとやっている王国語と算術の勉強はちゃんと続けていて、今は単語の綴りと意味を問う問題や、加算減算が混ざった計算問題をやっているところだ。
五歳のマリアは努力する天才だから、もう乗算除算を教えてもすぐにできそうだし、フィーネもレンも物覚えが良くて教えがいがある。
それから嫌いな剣術の鍛練は、畑仕事が始まって回数も参加者も減った。僕としては光魔法の応用に時間を割けるからありがたい。現状では照明と浄化と光壁、この三つを自分なりに試行錯誤しながら腕を磨いてるところだ。
あとは野菜苗の世話で、生育は順調。
ただ、温室の壁は格子戸を重ねてスライドできるようにしたら、もっと採光や通気性が得られるかなあ、と改築を検討中。
始めてしまうとまた大変なので保留してる。
もちろん失敗したこともあって、秋蒔きの燕麦とワサビの栽培はダメだった。
燕麦は春蒔きが正解だったね。
ワサビは生育環境が問題で、水が綺麗でも冬に水温が低くなりすぎた。夏に冷涼で冬に温かい、年間ほぼ一定の水温でないと難しい。
そこで湧水が出ている場所の近くに水路を作り、再挑戦することにした。特産品になりうる野菜をそう簡単には諦められないからね。
あれ? こうして上半身裸で走り回る日々を振り返ってみると普通に忙しい。
感覚がおかしくなってるなーと感じつつ、これからもっと忙しくなる前に、魔鋼鉄のインゴットを使って道具を作っておこうと思う。
実はアルマンさんが魔鋼鉄のインゴットを八百個も届けてくれたからホクホクなんだ。
アルマンさんに訊ねると、魔鋼鉄はダンジョンにできる結晶石から作られるそうだ。話から想像するに、大きなキノコが生えるような感じで魔鋼鉄の結晶石がボコッとできるらしい。
それをハンターが採取してきて、ハンターギルドの鍛冶士が手を加え、インゴットにして販売する。今回アルマンさんは大量に仕入れてきてくれたんだ。
ただ僕が渡したのは金貨五枚で5万リペだったのに、インゴット八百個は桁外れに多い。どうしてだろうと思ったら、ネズミ顔のビラグの損害賠償金が分割払いだったのを思い出した。
完全に忘れてたね。
前回分と合わせて計算すると、賠償額はざっと400万リペほどかな。忘れていただけだけど、ちょっと得した気分でありがたくもらう。
そんなわけで、鍛冶場に通って必要なものを片っ端から作ってもらった。
まずは転用しちゃった回転式脱穀機。
次にハチミツの採取に向けて遠心分離機。さらに、生クリームなど、今後の乳製品の充実も視野に入れて遠心分離機をもう一台。
他に、糸車の部品、木工旋盤機用のドリルの刃、旋盤用のノミ、炭ペンの部品、レンと僕の食器、泡立て器や金ザルなどの調理器具、野菜や果樹に使うハサミを二種類、ラクロスのスティックヘッドに張る金網など。
ロンさんには十分な量の蜂蜜酒で労働の対価を支払った。ハチミツ富豪万歳。
「レンも毎日ありがとうなー」
と、鍛冶場から屋敷への帰り道。
「うん。ボクはお兄ちゃんと一緒に鍛冶仕事をすればするほど腕が上がるから……あっ!」
「ん? どうした?」
急に驚きの声を上げたレンが温室の方を指差した。振り向けば、温室の屋根が黒くモゾモゾとうねっているように見える。
なんだろうと近づいて「ぎゃあああーっ!」と心の中で絶叫した。
ハニークマビーの大群じゃないか!
暖かい陽気が続いて、少しずつ溶けてきていた屋根の飴に群がっているんだ。
べつに虫は苦手じゃないし、ハニークマビーも怖くはないけど、いかんせん数が多すぎる。ブゥンブゥンと羽音が聞こえてくるんだから。
「ハ、ハルト様、あれどうするの?」
「お、落ち着こう。養蜂箱はもう十分に用意してあるんだから、案内すればいいんだ」
それをどうするんだという話。
「あれ? ハルト様見て見て。ハチが屋根から離れてまとまっていくよ?」
レンの言う通り、空に黒い塊が十二個に分かれてそれぞれ形が変わっていく。
一番左から手の形……あ、最初のグループ。
その右隣は1、続いて2、3、4……11と数字を描いた。もしかして村へ移住希望ってこと? 最初のグループが連れてきてくれたのかな?
よくわからないけど、ハチ賢すぎない?
とりあえず、それぞれ養蜂箱へ案内すると、みんな大人しく順番に入ってくれた。
一気にハニークマビーが増えたよ。
そこでクラウスさんと相談して、村で世話役をしてくれている四家から順番に、養蜂箱を設置していくことにした。
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