【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

文字の大きさ
87 / 106
第二章 辺境の村~7歳~

82 それぞれのスタート

しおりを挟む
 アイラさんとミディナが住む予定の空き家は、牧場と教会の真ん中辺りにあった。

 半木骨造ハーフティンバーの外見は綺麗だし、跳ねつるべ井戸や畑もある。ただ辺り一面背の高い雑草が生えていて、草取りや掃除が大変そうだ。
 あ、跳ねつるべの井戸は、ボスが尻尾で支柱を叩いたら壊れた。新しく屋根と滑車付きのつるべ井戸にしてあげよう。

「ママー、ここに住むのー?」
「あれくらい修理すれば大丈夫よ」

 不安げなミディナにアイラさんが笑顔で答える。そんな二人の前でゴロさんが家の扉を開けると、蝶番が壊れて扉がガタンと落ちた。
 室内はホコリが積もって真っ白だ。

「これは修理を頼んで大掃除が必要だな……」
「では、私とハルト様で修理のお願いに行って参りますね。さ、ハルト様参りましょう」
「え、掃除なら……モゴモゴモゴ……畑だって僕のまほ……モゴモゴモゴ……」

 ゴロさんが呟くと、なぜか急にフィーネが指示を出し始めて。家の掃除も畑を耕すのも僕の魔法で簡単にできるのに、後ろから口を塞がれた僕は、引きずられてその場を後にする。
 
「もう、フィーネどうしたの?」
「マリアお嬢様からのご指示です」
「え、どういうこと?」

 尻尾を振るボスの上にいるマリアを見れば、グッジョブ的に胸の前で拳を作ってる。

「ゴロさんがアイラさんを意識していらっしゃるようなので、お二人がなるべく一緒にいられるようにしましょう、というお考えです」
「え!? そうなの?」
「そうなのです」

 全然気づかなかったけど、言われてみれば確かにそうかも。マリアはすごいな。

「二人はいつから気づいてたの?」
「最初の挨拶をした際に」
「すごいな、名探偵みたい」
「めいたんてい?」
「うん、気にしないで」

 アイラさんはマオさんとも気が合うみたいだし、僕は役に立たないだろうから、マリアとフィーネの意見に従ったほうがいいね。
 言われた通り、レンたちに修理の依頼をして一足先に屋敷へ戻ってきた。マリアはボスやヒヨコたちと情報収集にあたるらしい。
 わが妹が楽しそうで何より。

 徹夜なんてしたからか、屋敷へ戻った僕は急に眠くなって仮眠を取った。
 そして夕食時、アイラさんとミディナの姿が見えなかったのでフィーネに尋ねると、マオさんの提案で新居で暮らせるようになるまでは牧場で生活することになったそうだ。
 まあ、そういうことだね。
 みんなが幸せになれますようにと、僕は陰ながら応援することにした。というのも、兄上の話ではこちらも忙しくなりそうで。

「ハルト、糸車や脱穀機のことを知ったアルマンとサムトがまた興奮してな……」
「それは、お疲れ様でした」
「……紙に関しては絶句していた」
「すみません」
「いや、いいんだ。それで糸車や脱穀機などを領都の商工ギルドで商品登録して、ぜひ販売するべきだと言うんだが」
「え、売れるんですか? 料理レシピの時は難しいだろうと言われましたよ?」

 正直考えてなかった。
 糸車は手回し式がもうあるみたいだし。
 去年レシピの販売を提案した際にアルマンさんに言われたけど、糸車も脱穀機も仕組みがわかれば模倣品が作れるし、領外なら罰することはできないよね。

「料理レシピなど無形の情報を広く販売することは難しいが、有形商品の場合は、設計書などで明確に権利者の証明や類似品との比較ができるから大丈夫らしい」

 へぇー、稼げるのならやるべきかな。
 じゃあ設計図とか書類を書く必要があるね。

「それと、ニワトリの件を使って国王陛下の信用と後ろ盾を得られれば、少なくとも王国内における模倣品の流通によって商品価値が損なわれることはないだろうと言っていた」
「では明朝までに書類が必要ですよね?」
「いや、アルマン商会は当面この件には関わらないから慌てなくていい。それと父上たちやギルドへ提出する書類の用紙は聖白紙にする」

 聖白紙は教会が販売している植物紙のこと。
 野良紙の使用はトラブルになるらしい。
 一生懸命に書いたのになあ。
 あ、そんなことより。

「兄上、アルマン商会が当面この件には関わらないとは、どういうことですか?」
「出入りの商会同士であまり差をつけるのは良くない感情を生むからな。今回はモラッド商会とマグレム商会に声をかけて、合同商会を立ち上げる方向で話を進めていくつもりだ」

 共同で出資してもらうってことか。
 モラッド商会は材木を、マグレム商会は魔物の素材を買い取ってもらっているけど、シュガー村との取引はあまり儲かっていないと思う。
 村は彼らの善意に助けられている部分も多々あって、長年お世話になっている間柄。
 お付き合いは大事にしようということだね。

「今回、領都へ行くにあたって両商会長とも話をしてくるから、詳しいことは戻ってから説明する。クラウスたちと留守を頼んだぞ」
「はい、わかりました」

 翌朝、兄上は黒鹿毛の愛馬にまたがり、アルマン商会の隊商と一緒に領都へ旅立つ。
 僕たちは、献上するニワトリとヒヨコたちが旅立っていくのを感慨深く見送った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

さようなら、たったふたつの

あんど もあ
ファンタジー
王子に愛されてる伯爵令嬢のアリアと、その姉のミレイユ。姉妹には秘密があった……。

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」 ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。 竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。 そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。 それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。 その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた! 『ママ! 早く僕を産んでよ!』 「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」 お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない! それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――! これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。 設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。

処理中です...