【辺境のグルメ商人、異世界をたがやす】異世界が野菜嫌いのようなので、おいしい料理でわからせます。

猫手 まねき

文字の大きさ
120 / 129
第二章 辺境の村~7歳~

112 冬の日常

しおりを挟む
 風の月。

 マリアの頑張りもあって、教会で開かれる授業に多くの子供たちが来るようになった。キリカとロザンも進んで声をかけてくれたようだ。
 マリアの人徳かな。

 きっとジルオ様は張り切って授業をしているだろうと思ったら、マリアにソロバンを使った算術の授業をさせたと聞いて驚いた。
 あれほど生徒を切望していたのに。
 まあ、マリアが了承したことならいいけどさ。教えてくれないから見逃しちゃったじゃないか! 次はこっそり観に行かなきゃ。兄としてマリアの勇姿を目に焼き付けておかないと。

 ただ、僕には剣の鍛練があるんだよねぇ。
 兄上は何を思ったのか、今度はラクロススティックを持たせた人たちを広場の外縁にぐるりと立たせて、フィーネと試合をしている僕に向かって雪玉を投げつけさせるという新手のいじめを始めたんだ。

「ではハルト様、参りますよ」
「あはは、お手柔らかに、フィーあいたっ!」

 まだ始めてないのに背中に雪玉をぶつけられた。振り向けば、犯人は笑顔のミユカだ。

「もうミユカ、まだ早いでしょ!」
「油断してるハルト様が悪いんですぅー」
「兄上が『始め』って言ってから……」
「聞こえませーん」

 くっ、なんて愉しそうに人をいじめるんだ。親の顔を見て……も、同じく愉しそうに見える。ダメだ、ここに良識のある仲間はいない。

「こほん。隙ありです、ハルト様」
「あいた!」

 今度は後ろからポコッと頭を叩かれた。
 振り向けば、フィーネはにっこり笑う。
 こっちは愉しそうに見えなくて怖い。

「ハルト様、よそ見をしてはダメですよ」
「えぇ……」

 みんな僕に厳しい。
 そんな状況を黙ってニヤリと見つめる兄上の思惑通り、四方八方から飛んで来る雪玉に光壁を封じられ、心なしか機嫌の悪いフィーネにポコポコ叩かれた。そろそろグレるよ。

 雪の日。
 ああ、雪の日はいい、鍛練がなくて。

 フィーネと二人で農作物の栽培や作業行程についてまとめる。薄い木の板二枚の間に、束ねた紙を挟んで紐でまとめた冊子ノートを作った。
 余白を作っておいて、これから新たな発見や改善点が見つかったらどんどん書き込んでいくんだ。毎年の経験やデータを次代へ受け繋いでいかないと意味がないからね。

「去年、定植したリンゴや梅の果樹だけど、来年の風の月から剪定を始めて、水の月にはまた他の家へ苗木を植えに行こう。もちろん僕が領都から帰ってきて剪定作業を教えるから」
「はい、わかりました」

 成功のための失敗は覚悟の上だ。これから村のみんなと協力して、この土地に合った固定種を作り上げていくことが大事だから。

「次に、ニワトリとヒヨコの世話とハニークマビーの採密作業なんだけど、中心になってやってくれる人は見つかりそうかな?」

 抱卵は不思議とルーナがやってくれるようになったんだ。母性本能なのかな? 冬は同じ白毛だし、突撃好きの仲間意識があるのかも。

「はい、見つかりました」
「ほんとに?」
「どちらもパノラさんとカテアさんとエリトさんが快く引き受けてくださいました。力のいる畑仕事より楽そうだからと」
「それなりに大変だと思うけど大丈夫?」
「私やレンもいますから大丈夫です」

 パノラさんたちには、あまり過剰にならない程度で何かお礼を考えておこう。
 繁殖を含む養鳥も採密作業を含む養蜂も、いずれは村のみんなが自分の家で普通にできるようになってもらいたいから。

「あとは……そうだ、アレロパシーについて話してなかったよね?」
「あれろぱしー、ですか?」
「うん」

 植物の他感作用のこと。

「ある特定の植物が他の植物の成長を促進したり、逆に成長を阻害したりすることで、簡単に混植栽培の効果、または後作した場合の相性の良し悪しだと考えてくれればいいよ」

 ある特定の植物が他感物質という化学物質を出して、他の植物や菌や微生物や昆虫などに影響を与えるという考え方。

「例えばネギは、後作にダイコンや豆類を生育すると育ちが良くないけど、ウリ科のキュウリやカボチャと混植栽培すると病害虫を避けられるらしいんだ」

 ただ、よく似た世界でも世界が違えば前世の記憶と同じとは限らない。これから時間や人手をかけて、観察や検証を繰り返し確かめていくしかないね。

「それで、互いに生育を助け合う植物のことをコンパニオンプランツと言うんだよ」

 フィーネは農業ノートに書き込む。

「ハルト様は夢で見られた難しいことまでしっかり覚えられていてすごいですね」
「えへへー。夢の中の母上はスパルタ式の詰め込み教育だから大変なんだー」
「すぱるた式?」

 やっぱり読み書きができるとスムーズに情報共有ができていいね。記録や学習のためにも、教会での読み書きの授業は大人こそ受けた方がいいと思うけど、そこまで性急な変化はなかなか難しいかな。

 後日。
 にわかに紙の需要が高まってきたということで、今年もフィーネと紙を作る。それにはまず灰汁作りから、と思ったのだが。
 ふと思いついて食べ物召喚魔法を使ったら、さらっと重曹を出せちゃった。
 え? 女神様いいんでしょうか?

 水や食用油を出せることに気がついた時にも驚いたけど、考えてみれば食べ物召喚魔法について詳しく調べていなかった。

 それで調べてみると、うま味調味料やベーキングパウダーなどは出せて、頭痛薬や胃薬みたいな飲み薬の類いは出せず。
 さらに漢方薬では、動植物由来の生薬は出せて、鉱物性由来のものはダメみたい。
 どういうこと? この辺がよくわからない。

 確かなのは、前世の飲食物限定であり、今世の飲食物は召喚できないということ。マーサさんお手製のパンなどは召喚できなかった。

 ちなみに、食紅は出せたのに同じ食品添加物で着色料扱いの金箔はダメだった。さすがの女神様も、金沢のキラキラ金箔グルメはすぎ、と判断されたのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

公爵閣下、社交界の常識を学び直しては?

碧井 汐桜香
ファンタジー
若い娘好きの公爵は、気弱な令嬢メリシアルゼに声をかけた。 助けを求めるメリシアルゼに、救いの手は差し出されない。 母ですら、上手くやりなさいと言わんばかりに視線をおくってくる。 そこに現れた貴婦人が声をかける。 メリシアルゼの救いの声なのか、非難の声なのか。

ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る

gacchi(がっち)
恋愛
両親亡き後、薬師として店を続けていたルーラ。お忍びの貴族が店にやってきたと思ったら、突然担ぎ上げられ馬車で連れ出されてしまう。行き先は王城!?陛下のお妃さまって、なんの冗談ですか!助けてくれた王宮薬師のユキ様に弟子入りしたけど、修行が終わらないと店に帰れないなんて…噓でしょう?12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

処理中です...