96 / 267
第二章
第九十五話
しおりを挟む
やばいっ、水樹っ!
でも聖也の手は届かなかった。水樹は目を瞑って両腕で顔を隠すように自分を守り、体を横にひねった。同時にガンっと当たった音がして、紙コップは方向を変え水しぶきを撒き散らしながら床に転がった。
誰なんだ!?と聖也だけが思う。
「二人とも落ち着けよ・・・。」
水樹を抱き締めるようにかばったその声の主が、水樹の代わりに濡れた体でそう言った。
「明人・・・。」
そして勇利の知り合いなのは勇利の発した声で簡単に知る事が出来た。でもそれがなんなのだ。聖也は自分の愛しい人を、また守れなかった。
胸糞は悪いまま聖也はその悲惨な現場にようやく辿り着き、それから明人を軽く睨んだ。
「俺のなんでいつまでも触んないでくれる?」
「人は誰のものでもないよ?」
そして明人は水樹から離れた。
「そこで雑巾借りてきた。」
明人と同じく食堂に居合わせた堀田が律儀にも床を掃除し始める。
「堀田、勇利、ごめん、俺今日は帰るわ。」
「あ、あのっ、ハンカチ持ってますけどっ・・・。」
水樹が声を掛けても明人は振り返らずに、濡れたままスタスタと食堂から出ていった。
「水樹、大丈夫か?」
「はい。宇野さんのお友達のおかげで私は濡れずに済みました。でもお礼が・・・。」
勇利の友人である明人をもちろん水樹も認識している。つまりは聖也だけが知らなかった明人の存在に、聖也は嫉妬した。
「これ中身お茶?」
堀田が仁美に尋ねた。
「うん、緑茶・・・。」
その言葉に、明人が砂糖まみれになっていなくて良かった、と各々が安心した。続けて水樹が仁美に向き合う。
「間宮さん。あの、すみませんでした・・・。」
「間宮、今から焼き肉奢ってやるからもう行こうぜ。」
「堀田君・・・。」
去り際に勇利と仁美は見つめ合った。
「勇利っ。ごめんね・・・。私ね、まだ勇利の事がっ・・・。」
「うん・・・。お前井川の事大事にしろよ・・・。」
そして仁美は最後も涙目になりながら堀田と去っていった。
「水樹、お前ももう帰りな。気も動転してるだろ?駐輪場まで送るよ。」
「今日は一緒に帰んないの?」
「今日は俺達の学年で飯行くんだよ。」
その時、部長が聖也を呼びに来た。
「ここにいた。皆でどうしたの?それより聖也さ、もう体育館の鍵閉めるから、荷物片付けに来いよ。」
「あー・・・。」
「私は一人で帰れます。部長さん、片付けを手伝わなくてすみませんでした。」
水樹は部長にお辞儀をして、そして勇利と聖也と一緒に食堂を出た。
でも聖也の手は届かなかった。水樹は目を瞑って両腕で顔を隠すように自分を守り、体を横にひねった。同時にガンっと当たった音がして、紙コップは方向を変え水しぶきを撒き散らしながら床に転がった。
誰なんだ!?と聖也だけが思う。
「二人とも落ち着けよ・・・。」
水樹を抱き締めるようにかばったその声の主が、水樹の代わりに濡れた体でそう言った。
「明人・・・。」
そして勇利の知り合いなのは勇利の発した声で簡単に知る事が出来た。でもそれがなんなのだ。聖也は自分の愛しい人を、また守れなかった。
胸糞は悪いまま聖也はその悲惨な現場にようやく辿り着き、それから明人を軽く睨んだ。
「俺のなんでいつまでも触んないでくれる?」
「人は誰のものでもないよ?」
そして明人は水樹から離れた。
「そこで雑巾借りてきた。」
明人と同じく食堂に居合わせた堀田が律儀にも床を掃除し始める。
「堀田、勇利、ごめん、俺今日は帰るわ。」
「あ、あのっ、ハンカチ持ってますけどっ・・・。」
水樹が声を掛けても明人は振り返らずに、濡れたままスタスタと食堂から出ていった。
「水樹、大丈夫か?」
「はい。宇野さんのお友達のおかげで私は濡れずに済みました。でもお礼が・・・。」
勇利の友人である明人をもちろん水樹も認識している。つまりは聖也だけが知らなかった明人の存在に、聖也は嫉妬した。
「これ中身お茶?」
堀田が仁美に尋ねた。
「うん、緑茶・・・。」
その言葉に、明人が砂糖まみれになっていなくて良かった、と各々が安心した。続けて水樹が仁美に向き合う。
「間宮さん。あの、すみませんでした・・・。」
「間宮、今から焼き肉奢ってやるからもう行こうぜ。」
「堀田君・・・。」
去り際に勇利と仁美は見つめ合った。
「勇利っ。ごめんね・・・。私ね、まだ勇利の事がっ・・・。」
「うん・・・。お前井川の事大事にしろよ・・・。」
そして仁美は最後も涙目になりながら堀田と去っていった。
「水樹、お前ももう帰りな。気も動転してるだろ?駐輪場まで送るよ。」
「今日は一緒に帰んないの?」
「今日は俺達の学年で飯行くんだよ。」
その時、部長が聖也を呼びに来た。
「ここにいた。皆でどうしたの?それより聖也さ、もう体育館の鍵閉めるから、荷物片付けに来いよ。」
「あー・・・。」
「私は一人で帰れます。部長さん、片付けを手伝わなくてすみませんでした。」
水樹は部長にお辞儀をして、そして勇利と聖也と一緒に食堂を出た。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる