おもいでにかわるまで

名波美奈

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第二章

第九十七話

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あ、あ、あ、と水樹は動揺した。目の前で、普段は自分をからかってばかりのあの勇利が泣いているのだ。水樹が取り乱さないわけがない。

なんとかしなければ、励まさなければ、泣かないで、泣かないで、お願いっ、と募らせると、ポタ、ポタポタッと目から大粒の涙が吹き出した。

おそらく、水樹も勇利もここ数日の濃厚な出来事のせいで冷静ではなかったのだろう。水樹はとっさに勇利にしがみつき、今日の全部の緊張が溶け出すとわあっと大声で泣いた。まるで勇利に失恋した時に流してあげる事が出来なかった涙達が、今この瞬間に便乗し、津波となって押し寄せたようだった。

「勇利さん、勇利さん、泣かないで、泣かないで下さいっ。勇利さんがどんなに素敵な人か、私ちゃんと知っています。だからそんな心無い人たちのせいで傷付かないで下さい。振り回されないで下さいっ。」

水樹が泣きながら叫んだ後、勇利は水樹の両肩を両腕で持ち、水樹を自分から離した。

「間宮もさ、悪い子じゃないんだよ・・・。でもボタンのかけ違いって、こういう時に使えばいいのかなあ・・・。」

その言葉を聞いて、水樹は自分の一方的な励ましが恥ずかしくなり、それから勇利に馴れ馴れしく触れてしまった事を悔いた。でも、優しい勇利は右手の親指でそんな水樹の左目からこぼれ落ちる涙を拭ってくれた。

「俺なんかの為に泣いてくれるの・・・?ありがとう・・・。」

涙目の勇利は、水樹の肩をそのまま強く掴んだまま顔を近付け、泣いたままの水樹の左目にキスをした。

驚いた水樹の息も時間も止まり力も抜けた。でも、拒もうと思えば拒めた。

「二人だけの秘密ね・・・。」

勇利は微かな笑みも見せずに門の方に帰っていった。

胸が苦しい。どういうつもりのキスなのかもう意味なんていらない。そしてきっとこのままではいけない。

そう一つの決心をして、自転車のペダルをひたすらに漕いで、水樹は真っ直ぐ家に帰った。
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