おもいでにかわるまで

名波美奈

文字の大きさ
208 / 267
第四章

第二百七話

しおりを挟む
チェックインして部屋に入ると目のやり場に困った。そして本当に今日はバイバイをしなくていいんだと水樹は純粋に感激した。

隣で明人は自らが作りあげてしまった重圧を和らげようと努めていた。いつかは訪れる瞬間だ。だとしてもそれは今日である必要はなく、そうは思っても今現在確実に決定している事が一つあり、明人はこれから好きな女の子と初めて、下手をするとこの世の生き地獄かもしれないというのに、ベッドを並べて朝まで眠らなければならないのだ。

「運転ありがとう。ドライブも楽しかったです。」

「はい。」

「大自然の中の秘境って場所でもないし、安く泊まらせてもらっているから窓の外の景色は普通だね。」

「十分だよ。」

「疲れた?お茶でも入れようか?」

水樹だって内心は何を話せばよいのかわからなかったが、明人がそっけないので疲れているのかなと心配した。

「夜ご飯バイキングだね。楽しみだね。長谷川さんは細いけどよく食べるもんね。それまで散歩する?卓球も行かなきゃ。お風呂は部屋の中にもあるね。でも私は下の大浴場に行くね。お風呂の後は敷地内のプラネタリウムでも見に行こうか。そこまで田舎じゃないから星空は普通かもしれないけれど夜の散歩もいいし。そうしたら眠くなるね。疲れてるし明日も歩くから寝なきゃ・・・。」

明人は水樹の口数の多さに圧倒された。

「あの、長谷川さん・・・?」

明人の返事が遅い為仲直りが出来ていないのかと水樹は不安になった。

「さっきは喧嘩みたいになってしまってごめんなさい。」

「あー・・・。そうだよ。嫌いって言われた。」

「そういえば・・・。訂正します。生意気にも失礼な事を言ってごめんなさい。」

「もう二度と言わないで。」

「反省しました・・・。」

「少し疲れた。」

明人は話の内容がなかなか頭に入って来ないだけだった。水樹は支離滅裂ではしゃいでいる。男心に関しては悪魔的に鈍いというのが普段の明人の見解だが、実は水樹は小悪魔的に男性をとりこにする事にたけているような気もした。

「5分経ったら起こして。」

平静でいられない。そして水樹が明人の髪に優しく触れれば明人の理性は崩壊しそうになった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

処理中です...