ゴールドレイン

小夏 つきひ

文字の大きさ
5 / 79
写真

写真⑤

しおりを挟む
「何が届いたの?」
キッチンに戻ってきた健司へ拓人が尋ねた。
「ネットで注文した商品だよ」
健司は荷物をソファに置いた。
「ねえ、残りも全部出来たよ。見てこれ!」
拓人が手のひらに乗せているのは、いびつな形をしたコロッケだった。
「星型だよ」
パン粉をまぶした時に角が崩れたのか、星とも丸ともいえない形が健司の目におかしく映った。
「星か…すごいな。それも揚げような」
健司がそういうと拓人は大きく頷いた。
「拓人、そのコロッケのトレー持って来てくれるか?」
「うん!」
健司が再びガスコンロに点火しようとした瞬間、後ろで大きな音がした。拓人がパン粉のついたままの手でトレーを運び、あと一歩のところでうっかり床にぶちまけてしまった。
「あ~」
健司は手を止めて床に屈みコロッケを拾い始めた。
「ごめんなさい」
拓人が呟く。
「先にその手を洗いなさい」
「…はい。ごめんなさい」
拓人が流しで手を洗っている間にコロッケは元通りトレーに並べられた。さっきまで楽しそうにしていた拓人が落ち込むのを見て健司は不憫に思った。
「油で揚げるからバイ菌は気にしなくていいぞ」
そう言って笑い立ち上がった、その時視界が歪みバランスを崩した健司は咄嗟に台に手を付こうとした―――――――――
拓人が見たのは天ぷら鍋が引っ繰り返り父親の手腕に油が掛かる光景だった。健司は過ってガスコンロに手をつき体重を預けてしまったのだ。
「ゔゔっ」
床に倒れ込んだ健司に拓人は近付いた。
「お父さん!?」
聞いた事のない鈍い声で唸りながら熱さと痛みに耐える健司を見て拓人はパニックになった。「どうしよう… 僕、僕………」
健司は拓人に電話の子機を持ってくるよう言った。調理のために捲っていた部分が諸に油を被り皮膚はみるみる変色していく。心臓から全身に渡って激しく鼓動している。
。子機を持ってきた拓人に119番を押させ、水を掛けるのも恐ろしくなるほど尋常ではない痛みに震えながら受話器の向こうに住所を伝えた。



健司が目を覚ますとベッドの横には拓人が座っていた。
拓人は真っ赤な目をこすり涙を滲ませた。
「お父さん、ごめんなさい」
健司はゆっくりとした瞬きで頷いた。
「お前は何も悪くない」
部屋のドアが開き看護師が入ってきた。
「原さん!良かった、思ったより早く目が覚めましたね」
「…すみません、どうなったんでしょうか」
「手術は無事に済んでます。先生呼んできますね」
看護師は点滴を確認すると部屋を出た。5分程して医者が来た。
「まだ痛みはひどいと思いますが鎮痛剤を打ってます。1週間ほど入院が必要です」
「入院ですか」
「他にご家族は?」
「妻が他界しているのでうちは息子と2人なんです」
「親戚の方に連絡は取れますか?」
「親戚とは疎遠で…」
「そうですか」
医者は拓人がいることを考慮して一旦話を終わらせた。
「息子さん、今夜はどうしましょうか」
「今夜だけ、ここに泊まらせてもらえませんか?後のことは少し考えます」
「わかりました、事務にそう言っておきます」
「ありがとうございます」
医者が出た後、瞼を重そうにしている拓人に健司は一緒にベッドで横になるよう言った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます

天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。 王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。 影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。 私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...