6 / 79
写真
写真⑥
しおりを挟む
「原君、お父さんの具合はどう?」
「まあまあ、です」
拓人は担任の林の目をちらりと見るとすぐに視線を落とした。
「大変だったわね。こんなこと言ったらあれだけど、体は元気で幸いね」
「はい」
「学校休んでた分、授業に追いつけるよう先生も協力するから頑張ろう」
「はい」
職員室を出て教室に入ると、昼休みがちょうど終わり午後のチャイムが鳴った。
「拓人君のお父さん怪我したの?林先生が言ってた」
女子生徒が数人拓人の机を囲んだ。
「うん」
「どんな怪我?骨折したの?」
「…やけど」
「ええ!?どうして?」
拓人は口をつむった。教室のドアが開くと国語の教師が入ってきた。
「おーい静かにしろ。授業始めるぞ、早く席につけ」
女子生徒達は惜しそうにそれぞれ席についた。
「今から皆に作文を書いてもらう」
国語教師は原稿用紙の束を列ごとに渡した。
「テーマは」
黒板に書かれる文字に生徒達は目を見張る。
「大人になったらやりたい事、これがテーマだ」
生徒達は早速騒ぎ始めた。拓人は回ってきた原稿用紙にテーマと名前を書くと黒板の文字を見ながら考えた。浮かぶのは健司の顔だった、いつも優しく懸命な父親がここのところ時折見せるやつれた表情は拓人の罪悪感を大きく膨らませていく。
作文は一向に進まない。
家に着くと玄関先で健司と曽根の主人が話していた。
「ああ、拓人君。おかえり」
「こんにちは」
「お父さん、退院出来て良かったな」
曽根の主人は拓人の肩に軽く手を置いた。
「またいつでもうちに来てくれたらいいから」
「お世話になりっぱなしですみません、入院中ずっと拓人の面倒見ていただいて」
健司は頭を下げた。
「いいんだよ、うちの奴も拓人君には目を掛けてやってくれってずっと言ってるし、こちらも退院したら頼らせてもらう事があると思うからね」
「ありがとうございます。その時は是非お手伝いさせて下さい。奥さん早く退院出来るといいですね」
「まあねえ。静かでいいけどやっぱ夫婦なのかね、あのうるさいのが居ないと寂しい気もするよ」
曽根の主人は笑いながらドアを開けて帰って行った。
「拓人、上に行って宿題先に終わらせなさい」
「うん。…お父さん、晩御飯は僕が作るよ」
「おいおい、立派な事言うんだな」
健司は笑った。
「今夜は出前を取るから気にせず勉強してろ」
「わかった」
拓人は2階に上がっていく。健司は急に真面目な顔をしてリビングの椅子に座った。包帯を巻いた手腕とは反対の手で顔を覆った。静かなリビングで換気扇が回る音だけが響いている。暫くして着信音が鳴り健司は左手でポケットから携帯電話を取り出した。
拓人がランドセルの中身を出しているとプリントの入った封筒が出てきた、それは担任の林から今日中に父親に渡すよう言われた物だった。階段を降りると話声が聞こえて拓人はリビングの手前で立ち止まった。
「……はい、確かにそうですね。申し訳ありません。できれば来週には復帰したいと思っています。宜しくお願いします」
テーブルに携帯電話を置いた音がした。健司の溜息が微かに聞こえる。タイミングを窺って待つ拓人だったが、程なくして階段を音も無く登っていった。
「まあまあ、です」
拓人は担任の林の目をちらりと見るとすぐに視線を落とした。
「大変だったわね。こんなこと言ったらあれだけど、体は元気で幸いね」
「はい」
「学校休んでた分、授業に追いつけるよう先生も協力するから頑張ろう」
「はい」
職員室を出て教室に入ると、昼休みがちょうど終わり午後のチャイムが鳴った。
「拓人君のお父さん怪我したの?林先生が言ってた」
女子生徒が数人拓人の机を囲んだ。
「うん」
「どんな怪我?骨折したの?」
「…やけど」
「ええ!?どうして?」
拓人は口をつむった。教室のドアが開くと国語の教師が入ってきた。
「おーい静かにしろ。授業始めるぞ、早く席につけ」
女子生徒達は惜しそうにそれぞれ席についた。
「今から皆に作文を書いてもらう」
国語教師は原稿用紙の束を列ごとに渡した。
「テーマは」
黒板に書かれる文字に生徒達は目を見張る。
「大人になったらやりたい事、これがテーマだ」
生徒達は早速騒ぎ始めた。拓人は回ってきた原稿用紙にテーマと名前を書くと黒板の文字を見ながら考えた。浮かぶのは健司の顔だった、いつも優しく懸命な父親がここのところ時折見せるやつれた表情は拓人の罪悪感を大きく膨らませていく。
作文は一向に進まない。
家に着くと玄関先で健司と曽根の主人が話していた。
「ああ、拓人君。おかえり」
「こんにちは」
「お父さん、退院出来て良かったな」
曽根の主人は拓人の肩に軽く手を置いた。
「またいつでもうちに来てくれたらいいから」
「お世話になりっぱなしですみません、入院中ずっと拓人の面倒見ていただいて」
健司は頭を下げた。
「いいんだよ、うちの奴も拓人君には目を掛けてやってくれってずっと言ってるし、こちらも退院したら頼らせてもらう事があると思うからね」
「ありがとうございます。その時は是非お手伝いさせて下さい。奥さん早く退院出来るといいですね」
「まあねえ。静かでいいけどやっぱ夫婦なのかね、あのうるさいのが居ないと寂しい気もするよ」
曽根の主人は笑いながらドアを開けて帰って行った。
「拓人、上に行って宿題先に終わらせなさい」
「うん。…お父さん、晩御飯は僕が作るよ」
「おいおい、立派な事言うんだな」
健司は笑った。
「今夜は出前を取るから気にせず勉強してろ」
「わかった」
拓人は2階に上がっていく。健司は急に真面目な顔をしてリビングの椅子に座った。包帯を巻いた手腕とは反対の手で顔を覆った。静かなリビングで換気扇が回る音だけが響いている。暫くして着信音が鳴り健司は左手でポケットから携帯電話を取り出した。
拓人がランドセルの中身を出しているとプリントの入った封筒が出てきた、それは担任の林から今日中に父親に渡すよう言われた物だった。階段を降りると話声が聞こえて拓人はリビングの手前で立ち止まった。
「……はい、確かにそうですね。申し訳ありません。できれば来週には復帰したいと思っています。宜しくお願いします」
テーブルに携帯電話を置いた音がした。健司の溜息が微かに聞こえる。タイミングを窺って待つ拓人だったが、程なくして階段を音も無く登っていった。
0
あなたにおすすめの小説
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
愚かな側妃と言われたので、我慢することをやめます
天宮有
恋愛
私アリザは平民から側妃となり、国王ルグドに利用されていた。
王妃のシェムを愛しているルグドは、私を酷使する。
影で城の人達から「愚かな側妃」と蔑まれていることを知り、全てがどうでもよくなっていた。
私は我慢することをやめてルグドを助けず、愚かな側妃として生きます。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる