ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲⑨

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翌日、教室に入ると前から咲が歩いてきた。一瞬目が合うと咲はにこりともせず通りすぎて教室を出て行った。
席についてランドセルから筆箱などを出していると視線を感じた。何人かの生徒が拓人を見ている。椅子に座った途端、後ろから男子生徒の大きな声が聞こえた。
「あいつ早川のこと好きなんじゃねえの?」
「そっかそっか、好きなやつとしか遊ばんのか。俺らのことは気に入らんらしい」
「そんなに嫌やったら岡山帰ったらいいのに」
拓人は気が付いた、自分のことを言われている。
「よそもんとは合わんな。あそこの家の子供やし」
「ほんまや。そのうち悪さするんちゃうか。早川もあんな奴とよう遊ぶなあ」
笑い声がする。誰が言っているのか気になるが怖くて振り向くことができない。チャイムが鳴って担任の宮田が入ってきた。全員が席に揃う頃ぎりぎりになって咲は戻ってきた。
宮田が話す間、拓人は咲の後ろ姿を見ていた。昨日のことが夢だったかのように思える。仲良くなったと思っているのは自分だけで何か気に触ることをしたのかもしれない、そんな心配が頭をかすめる。
突然腹の音が鳴った、周りにわかるほどの音だった。早速あたりから小声で笑うのが聞こえた。体は疲労が募り、昼になるまでが遠く感じる。
3限目が終わり次の授業のために校舎を移動する拓人を担任の宮田が追いかけた。
「原君、ちょっといいかな?」
「はい」
宮田は周りに生徒がいないことを確認した。
「どう?ちょっとは慣れた?」
拓人はすぐに答えられず宮田の目を見て立ち尽くした。
「まだ馴染みにくいんかな。おばあちゃんが優しいから安心やけど、学校であんまり笑ってるの見ないから」
「…」
「みんなと初めから仲良くするのは難しいと思うけど、先生も協力するから、友達作ろう?」
「…はい」
「ところで、今日顔色が悪いみたいやけど大丈夫?」
「はい」
「無理しないでいいから、あんまりしんどいようなら言うてね」
「大丈夫です」
宮田は顔をまじまじと見る。拓人は頭を軽く下げると目的の教室へと歩き出した。

日中、咲は全く目を合わせようとしなかった。考えてみれば同じ年の子なんて気まぐれで、ちょっと興味を持ったと思えばすぐに気が変わってしまうというのはよくある事だ。そんなふうに思いながら机に転がっている小さな消しゴムを眺めた。
家に帰りたくない、また掃除をしなければならない。それに、多重子が自分に視線を向けると息が詰まる。そして拓人はいつもの草原へと足を運ぶ。
桃色の月見草は午後の光を浴びてたおやかに揺れている。一面に広がる優しい色が拓人の心を慰める。ほんの少しだけ休むつもりで膝を抱え座った。しかし、その小さな体は空虚に苛まれて動けない。


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