ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲⑪

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時刻は9時40分を過ぎた。風呂を出てくる時、すでに廊下の電気は消えていた。それから布団の前で目覚まし時計を睨みずっと座ったままでいる。
何度思いだしても咲の笑顔は純粋なものだった。拓人は襖をゆっくりと開けて耳を澄ました。
静けさのなかで踏ん切りのつく瞬間を待つ、やがて立ち上がると懐中電灯を手に取り握りしめた。
多重子らが起きないことを祈りながら部屋を出て玄関へ向かう。息をひとつ吐いて鍵を開けるとできるだけドアの音がしないように狭い幅で体をくぐらせた。
暗闇を照らす一筋の光、すぐには目が慣れず恐怖に駆られる。不安で押し潰されそうになりながら息を潜め歩き始めた。
咲はきっといる、そう自分に言い聞かせる。足を止めればきっともう進むことはできない。頬を緊張で強張らせ必死に歩き続けた。そしてもうひとつの光を見つけた。


懐中電灯を持った咲がいる。
「遅いよ」
「…ごめん」
「来てくれた」
顔がよく見えないが咲の声は朗らかだ。
「お前、こんな暗いのによく来れるな」
「平気だよ」
そう言うと咲は歩きだした。
「どこ行くの?」
「いつものところ」
咲は声を弾ませる。
「それって、あの花のところ?」
「うん」
拓人は足早に進む咲を追いかける。懐中電灯の光が照らしたその肩に手提げがかかっているのが見えた。何が入っているのかわからないが随分膨らんでいる。
草原に着くと咲は手提げを肩から下ろして地面に置いた。
「ちょっとこれ持ってて」
咲は自分の懐中電灯を拓人に渡した。拓人が手元を照らすと咲は手提げから掌ほどの大きさの四角い物を取り出した。
「それ何?」
拓人が聞いた瞬間、咲の手の上でそれは光った。
「すごいでしょ。ガーデンライトっていうんだ」
キューブ型のガーデンライトは黄色い光を広く放ち咲の姿をはっきりと照らしている。
「まだあるから手伝って」
咲は持っていたキューブを地面にそっと置くと手提げから次々とキューブを取り出し拓人に渡そうとした。拓人は懐中電灯を2つとも地面に置きキューブをいくつか受け取った。
「裏にスイッチがあるから」
咲の言うままスイッチを入れた。小さいわりには光が強い。
「ライトを丸く並べるの」
咲はスイッチを入れたキューブをひとつずつ間隔をあけて並べていく。拓人もそれに続いた。
すべて並べ終わり数えるとキューブは10個あった。
「すごい、きれい!」
咲は嬉しそうだ。拓人は目の前の光景をぼんやりと眺める。桃色の月見草が光のなかで咲いている。
「これやってみたかったの!綺麗だね」
咲はその円のなかに入り座った。
「ねえ、座ってみて」
拓人はそろりと円に入り咲の隣に座った。周りを見渡して、それから咲の顔を見た。咲は喜びに溢れた笑顔を拓人に向けた。


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