ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲⑰

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「骨に罅が入っとる」
肘のレントゲンを見て医師は言った。担任の宮田は眉を顰めた。
「原君、いつ転んだの?」
「…学校に行く途中です」
「どうして来てすぐ言わなかったの」
「…」
黙り込む拓人を見て医師が尋ねた。
「肘をこんなに強く打っとるということは後ろに転んだはずやから、どこか登ろうとして落ちたんと違うんか?」
拓人は目を合わせていられなくなり診察室の床を見た。
「まあ、とりあえずは三角巾で腕を吊って安静にしてなさい。ギプスは付けんでいい」
看護師が処置を始めると宮田は心配そうに見守った。
「おばあちゃんには電話しておいたから。ここまで迎えに来てくれるそうよ」
拓人は不安に駆られた。言い訳が決まらず同じことを繰り返し考えている。
昨夜は肘の痛みが段々増していくのを感じながら咲のことが気掛かりで眠れなかった。学校に着くと咲の姿がなかった。他の女子生徒が休みの理由を宮田に尋ね、熱があるからと返答しているのを聞いた。拓人は咲の身を案じた。休んでいる理由は熱ではないはずだと思った。
3限目の授業中、どうしても肘の痛みに耐えられなくなり身を縮めている拓人に教師が気付き宮田へ報告した。その後、緊急性があると判断されて宮田の車で診療所へ運ばれた。
処置が終わり待合室の椅子に掛けた。拓人が多重子の到着を恐れていると宮田が顔を覗き込んだ。
「学校で何かあった?」
「何もないです」
「先生には何でも言うていいんよ?まさかとは思うけど、誰かに苛められたりしてない?」
そう言って宮田は三角巾で吊った左肘を見た。
「苛められてないです」
「そう、それならいいけど…」
宮田は拓人が活発な子供ではないことをわかっているだけに登校時の怪我とは思えず気を揉んだ。そして、口を開こうとしないのは自分への信用がまだ浅いからだと不甲斐なく思った。
会計の呼び出しがかかった時、丁度診療所のドアから多重子が入ってきた。
「先生すみません。どうでしたか?」
「骨に罅が入ってるみたいで、治るまで1ヶ月ちょっとかかるそうです」
拓人は多重子を見ることができない。
「そうですか。もう、なんでこんな怪我したんやろか」
多重子は座っている拓人に近付いた。
「拓人、大丈夫か?今日はもう家に帰ろう。ほんでゆっくり横になりなさい」
俯いたまま固まる拓人の様子に宮田は疑問を抱いた。視線に気づいた多重子は宮田に言った。
「先生、どうぞ学校に戻ってください。私らはまだ会計やらありますから。ほんとお世話になりました」
「いえ。痛みが引いたらまた連絡ください。暫くは他の子にプリントなど持って行ってもらいます」
「いやあ、申し訳ないわ。私が学校へ取りに行きます」
「他の子も心配してると思うんで、プリント持って行ったときに拓人君の顔見せてあげてください」
「でも…」
宮田は多重子の目を見つめた。
「すみません、そしたらお願いします。拓人、良かったね」
「…」
「原君、お大事にね」
「ありがとうございました」
宮田は笑みを向けて出て行った。そして多重子は受付で清算を始めた。


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