ゴールドレイン

小夏 つきひ

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咲⑯

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草原へ着いた2人はいつものようにライトを並べると膝を抱えて座った。
空には星ひとつ浮かんでいない。咲は萎れた月見草を見つめながら言った。
「3つ目の約束、決めたよ」
「どんなの?」
「3つ目はね、原君に約束してほしいんだ。会えなくなっても、咲のこと忘れないって」
拓人は驚いた。
「どういうこと?転校するの?」
咲は浮かない表情でいる。それから地面に寝転んで言った。
「星、見えないね」
答えが気になる拓人はもう一度質問した。
「どこかに行くの?」
「…行かないよ」
「じゃあ、なんで会えなくなるの?」
「……」
咲は口を閉ざした。
腕に雨粒が落ちてきて空を見上げた、小雨が降り始めている。
「雨だ」
拓人は立ち上がった。
「そこの木のところに行こう」
咲は寝転んだまま起きようとしない。
「何やってるの?」
「…雨見てるの」
「え?」
「雨、綺麗だよ」
拓人は空を見上げた。
「寝て見ないとわからないよ」
咲にそう言われて隣に座り、背を地面にそっと着けた。
暗闇から落ちてくる細い雨の線はガーデンライトの光で輝いて見える。
「金色の雨が降ってるみたい」
咲の横顔は穏やかさを取り戻していた。いつもの咲だ、拓人はそう思った。
「父ちゃんがね、いつも言ってたの」
「落ち込んだり悲しい時は、綺麗なものを見つけて元気を出すんだよって」
拓人はその言葉の奥に特別な思いがあるのを察した。しかし、事情を訊くことには抵抗を感じた。
雨は段々と強く降るようになり、2人は近くにある大きな木の根元へと走った。
時々葉の隙間から落ちてくる雨粒を拭いながら、まだ置いたままのガーデンライトの光を見ている。
咲はいつの間にか枝笛を取り出して吹き始めた。
「なんて言ってるでしょーか」
拓人は4回鳴ったその音に単語を当てはめてみる。
「ヒントは?」
「今日はヒントなし」
「え…」
拓人は色々な物の名前を言った、しかし咲はどれにも正解と言わない。そして拓人は閃いた。オリオンだ…
口にしようと思った瞬間、懐中電灯の光が目の前に差した。左を向くと人が立っていた。
「咲、お前何やってんだよ!」
傘を持った中年の女が声を荒げた。短い丈のワンピースを着て肌を露出しているその女は恨みがましい顔をして近づいてくる。
怯えている咲を守ろうと拓人は立ち上がった。女は拓人に目もくれず咲の腕を思いきり掴むと乱雑に引っ張った。
「来い」
拓人は女の手を引き剥がそうとした。
「待ってください!」
「なんなんだよお前は」
「怖がってるからやめてください」
「うるさい、ひとんちの事に口出すな」
「でも!」
咲は何度も「ごめんなさい」と繰り返しながら女に引っ張られていく。何とか立ち止まらせようと追いかける拓人を女は傘で強く払いのけた。拓人はバランスを崩し水たまりに転倒した。
「原君!!」
拓人は肘を傷めて動けずにいる。雨の音は咲が叫ぶ声を掻き消していく。


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