ゴールドレイン

小夏 つきひ

文字の大きさ
63 / 79
3つの星

3つの星⑦

しおりを挟む
翌週、拓人は職を失った。
いつもの時間に事務所へ出社すると、その日は先輩の木 下が既にいた。
木下は機材のチェックをしていたがそれは普段拓人の仕事だった。声を掛けても返事がなく少々やりづらさを感じながら撮影の準備をしていた。
1時間ほどして長の北見が出社してくると拓人は一番に呼ばれた。
北見は唐突に、お前はもう社員じゃないと一言告げた。
拓人が説明を求めると北見の口からとんでもない理由が述べられた。
あるモデルから拓人によるプライバシー侵害の被害を相談されたという。そのモデルから複数の証拠を見せられた と説明する北見の目や口元には歪んだうすら笑いが浮かんでいた。
拓人からすればそれはとんでもない虚構だ。しかし、真実というものにまるで興味のなさそうな相手に対してどうこう抗う意味はあるのかとも思う。それに、こういう仕打ちをする人間に会うのは初めてではない。
そのモデルが誰なのかというのは考えるまでもないが、拓人は反論や訂正をしなかった。北見の話を只聞いて、その後自分のデスクに直行すると置いてあった私物を次々集めて事務所を後にした。
あっけなく自由を手に入れた拓人だが心配なのは生活の事だ。
コンビニに立ち寄ってパンと飲み物を買い公園のベンチに座った。パンを食べながらもう片方の手で携帯を操作する。“即入社可能”の文字をネットで探した。
適当に5社ほど目星をつけて応募ボタンを押すと携帯を鞄にしまい込んで呆然とした。目の前では鳩が何もなさそうな地面をつついている。

5件応募したなかで最も早く話が進んだのは百貨店清掃の仕事だった。思ったよりも早く仕事が決まり拓人は安堵した。
思えば瑠香に振り回される日々から脱せられたのだから突然職を失ったことは災難ではなかった。
あれから瑠香は一切連絡をしてこなくなった。気掛かりなのはもらった服などをどう処分するかだった。それらを返そうと電話とメッセージで1度連絡してみたが返事はない。合鍵については渡したままになっているが状況からして部屋に来る可能性が低いため何も言わないことにした。
清掃員として就業するまでの間は宅配の仕事で日銭を稼いだ。
スケジュールで頭がいっぱいになっていた以前と比べると随分楽で開放的だった。蓄積していた疲労を癒そうと、家にいる時は寝てばかりいた。そして少しずつ体力が回復してくると自分が本当に撮りたい写真がどういうものなのか考えるようになった。
晴喜と出会ったいつかの夏が脳裏に蘇るーーーーーー


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ずっと一緒にいようね

仏白目
恋愛
あるいつもと同じ朝 おれは朝食のパンをかじりながらスマホでニュースの記事に目をとおしてた 「ねえ 生まれ変わっても私と結婚する?」 「ああ もちろんだよ」 「ふふっ 正直に言っていいんだよ?」 「えっ、まぁなぁ 同じ事繰り返すのもなんだし・・   次は別のひとがいいかも  お前もそうだろ? なぁ?」 言いながらスマホの画面から視線を妻に向けると   「・・・・・」 失意の顔をした 妻と目が合った 「え・・・?」 「・・・・  」 *作者ご都合主義の世界観のフィクションです。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...