花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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花絵

花絵⑤

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隆平を呼び出すにしても肝心な本人が抜けだせない状況だったら意味がない。1週間前に最終日の自由時間はどうする予定なのかと聞いた時、あんまり時間もないしその辺の店に入ると言っていた。一緒にどこか見学にでも行くかと誘われたけど、暇だったら電話すると言っておいた。隆平を呼び出すための口実を作る為に先に神社へ行っておく予定だったから。そして今すべてが整い、隠し持っていた携帯電話を取り出した。手の内にじんわりと汗をかくのを感じながら隆平の番号を出して発信ボタンを押した。
『………只今電話に出ることができません』
もしも電話に出ない場合は近くを散策しようと花絵と決めていた。時間がなくなってしまったら今回は諦めるしかない。
「近くのお店にでも入ろうか」
花絵は少し優しい声で言った。
「花絵、ごめん」
自分の我儘でせっかくの修学旅行が台無しになってしまうんじゃないかとずっとハラハラしている。
「ううん。行こう」
神社の階段を下りかけた時、手に握ったままの携帯電話が震えた。画面を見て、私の心臓は一瞬で強く鼓動を打った。
「待って花絵!」
すぐに切れてしまうかもしれない電話のコールに応えた。
「あっ隆平、今どうしてるの?…………あのさ、探し物手伝って欲しいんだけど、今から言う場所に来てくれない?…………」
同級生を連れてくるというので計画の通り断った、一緒に探してもらうのは悪いから隆平だけ来てほしいと伝えた。隆平は仕方ないなといいながらも引き受けてくれた。念のため地図をメールしておいた。
「抜けてきてくれるって」
「良かったね」
そう言って花絵は目線を落とした。



一旦神社から離れて近くの店の前で待ち合わせをした。「おーい」
声が聞こえてくる方向に目をやると隆平がいた。それと並んでこちらを向いている男子がいる。
「あれ、高橋…」
よく隆平と一緒にいる高橋彰久という男子だ。隆平と時々一緒にいるけどほとんど話したことがない。この間隆平と買い物帰りに高橋が信号待ちをしている姿を見たのを思い出した。そもそも1人で来てと伝えているのにどうして高橋だけ一緒に来たのか。
「高橋も一緒に手伝ってくれるってさ」
良かったなと言いたげな隆平に少し苛立った。
「ごめんね、大事な時間なのに」
高橋は大丈夫と言ってぎこちなく笑った。
「何無くしたんだよ」
隆平が訊いた。
「カメラ、駅で買ったインスタントカメラ無くしたの」
嘘をつくことは少々心苦しかった。でもそれどころかこの事態をどうしようかと頭の中が混乱している。
「多分すぐ見つかるだろ」
信号を渡って神社の階段前まではあっという間で、何も話す余裕がない。どこであのセリフを言えばいいのか花絵はきっと迷っている。階段を登るのを躊躇していると高橋が声を張った。
「先に橋詰と話したい事があるんだけど、ちょっといい?」
「え、私?」
もう何をどうしたらいいのか分からなくなってきた。花絵も驚いた顔で高橋を見た後、私の目を見た。隆平はあっちのほうを見ていてなんだか不自然だ。断るわけにもいかず、後で行くから先に行っててと二人に伝えた。花絵ならなんとか臨機応変にやってくれるかもしれない、そう願って2人が階段を登る姿を呆然と見つめた。視線を高橋に移すと力の入った声で話しかけてきた。
「あのさ、言いたいことがあって……」
周りを気にしながら一呼吸置くと、ポケットからメモのようなものを差し出した。高橋の言いたいことの予想がついた。
「俺、橋詰のこと気になってて、良かったら連絡とってくれないかな」
耳が赤い。唇が震えているのを見て見ぬふりをした。
折り畳まれたメモを受け取り開いてみると、携帯の電話番号とメールのIDが書いてあった。
「わかった、今度連絡するね。ありがとう」
咄嗟に笑顔を作ろうとすると口元が歪んだのを感じた。早くしないと集合時間が来てしまう。高橋は少し残念そうにしている。
「絶対にメール送るから」
おまけのような一言は小さな子供を励ますように聞こえたかもしれない。
「それだけ伝えたくて一緒に来たんだ、探し物手伝ってあげられなくてごめん。俺行くわ」
こちらの反応次第では違う言葉が返ってきたのかもしれない。悪いことしたなと思う反面、一緒に探すと言われなかった事にほっとした。高橋は閥の悪い顔をして自分の後ろ髪をいじり、最後に一言、というもたつきを見せるも何も言えずに立ち止まっている。
「ごめん、2人待たせてるから私もう行くね」
「そうだよな、ごめん」
さっきまでの耳の赤さが一気に顔全体にまで広がった。それじゃあ、と言って私は踵を返し早速階段を駆け上った。ごめんね、高橋。
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