花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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花絵

花絵⑩

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ドアを開けるとおばさんは目を丸くした。
「どうしたの?本屋に行ったんじゃなかったの」
「いろいろあってさ、後で話すから」
彼は閉じようとしているドアを肩で支えながら玄関に入った。
「びしょ濡れじゃない、ちょっとここで待ってて…」
玄関で花絵を降ろし座らせると壁にもたれさせた。花絵は俺が手に抱いている仔猫を朦朧と見上げた。意識がある事に少しほっとした。
玄関で暫く待っていると、おばさんは丁寧に折り畳まれたバスタオルを数枚持って戻って来た。
「とにかくこれである程度体拭いて。それからリビングに来てくれる?」
おばさんは俺の目を見て言った。突然こんな状態でやってきた俺たちを嫌な顔をせず受け入れてくれた。
「女の子はここに居させて。私が着替えさせるわ」
「腕、怪我してるんです」
土手で転んだ事を話すとおばさんは険しい表情で花絵の腕と全身を見た。
「大変だったのね。任せて、おばさんにも娘がいるの」
俺を安心させようと笑ってくれた。
「ねえ、その猫ちゃんはどうしたの?」
「あの…あとで説明します」
花絵の前では言いたくなかった。おばさんは察してくれたのか、バスタオルで花絵の髪を包んで拭いた。
「長い間歩き回ったんじゃない?うちは気を使わなくていいからゆっくり休んで」
「ありがとうございます」
彼が座って靴を脱ぐとズボンまで水浸しになっていた。
「リビングに行こう」


時計を見ると4時を過ぎたところだった。台所のテーブルにはスーパーから買ってきたばかりの食材がどっさりと置いてある。ソファの上に男物のTシャツとジャージのズボンが2人分用意されていた。
「これ、大きいと思うけど着替えて」
仔猫を抱えて戸惑っていると奥の部屋からもう1枚タオルを持ってきてくれた。
「ここに包んであげようか」
広げられたタオルに仔猫を乗せると彼は仔猫の体をそっとタオルで拭きながらソファに置いた。
温かいココアを出してもらった。遠慮しなくていいよと言ってくれたけど、それでも飲もうとしない俺を見て彼は花絵のいる方を見た。名前やどこに住んでいるのか聞かれて答えているとおばさんがリビングに入って来た。
「あの子、病院に連れて行ったほうがいいかもしれない。頭も打ってるみたいなの」
テーブルに置いていた財布から診察券のようなものを抜いて何かを確かめている。
頭を打っている―――
花絵とずっと一緒にいたのに俺は気が付くことができなかった。
「5時までみたいだからまだ間に合う。私連れて行くから後で連絡するわ」
おばさんは電話機の置いてある棚から腕時計を取ると手際よく手首に巻いた。
「叔父さんがもうすぐここに来てあの仔猫を病院で診てもらうことになってるんだ」
「そう、じゃお互い後で連絡取りましょう。この子達の親御さんにも電話しておかないとね、啓太お願いできる?」
「ああ、わかった。車まで僕があの子運ぶよ」
花絵は着替えていた。ふらいついた足取りで部屋から出てくると、みーちゃんはどこにいるのと訊いた。彼がうまく言ってくれたので花絵は仔猫を見ることなく外に出て行った。玄関でドアを開けたまま見送る、外は小雨に変わっていた。
「家の電話番号わかる?」
「はい」
「あの子の番号もわかるかな?」
「あ……」
花絵の家の電話番号を知らない。
「俺の母さんに電話すれば花絵のとこにも連絡してくれると思う」
「わかった。今から電話してくれる?僕がここの住所を言うから」
「お願いします」
家に電話するとすぐに母さんが出た。事情を説明すると花絵のお母さんに電話すると言ってくれた。彼が合図をしたので受話器を渡した。
「あ、こんにちは。…………いえ、大丈夫です。花絵ちゃんが少し具合悪そうだったので念のため病院に連れて行ってるだけなので……僕は湯浅 圭太といいます」

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