花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

文字の大きさ
16 / 95
封筒

封筒⑤

しおりを挟む
純白を基調とした内装にシャンデリア、流行りのエアープランツが飾られたシックな店内。新しくできたスイーツ店を喜ぶ女性客が多く来店していた。
「安西さん、あの席空きそうなので私取って来ます」
テーブルの上にハンカチを置いてショーケース前の列に戻ると安西さんが種類豊富なジェラートを眺めていた。
「美味しそうなのがいっぱいですね」
「うん、こだわってる感じだね。私は柚子はちみつにしようかな」
ジェラートの種類が書かれているプレートには全てに”産地直送”や”選び抜いた香り”などジェラートに使用されている果物のこだわりポイントが書かれている。ひとつずつ目を通していくと”期間限定”と書かれたジェラートを見つけた。
「期間限定、桃のジェラートだって」
安西さんは私と同じものを見ていた。
「美味しそうですね」
合わせて言ったものの、私の中で”桃”という果物はNGだった。味が嫌いなわけじゃない、大好きだったものがある日を境に思い出したくない記憶に結びつくことは誰にでもあることだと思う。時として”タルト”という言葉にさえ反応してしまう事が私にはある。
席に座りジェラートを一口食べると丁度良い酸味と甘みが口いっぱいに広がって一気に元気がでた。ストロベリージェラートを選んで良かった納得した。安西さんと人気スイーツの話をしたりとにかく他愛もない話をした。
「橋詰さん、誘ってくれてありがとう。いい気分転換になったみたい」
安西さんは天井につるしてあるシャンデリアを見上げた。
「安西さん結婚の準備で忙しいですもんね。私に手伝える事があったらいいんですけど」
安西さんが無言になったのでやっぱり触れてはいけない話題だったのかもしれない。ジェラートをすくう手を止めてカップをテーブルに置くと私の目をじっと見つめた。さっきから度々後ろの席の女子高校生達が黄色い歓声を上げて盛り上がっている。再び大きな笑い声が聞こえて安西さんは話を切り出した。
「いま悩んでることがあるの]
「どんな事ですか」
「何から話せばいいのか分からないんだけど、ストーカー、っていうのかな」
ストーカーという言葉にぎょっとした。
「一番最初は会社のトイレを出て手を洗う時、台の上に映画の半券が置いてあったの」
「映画の半券?」
「うん。その前の日に私と柳瀬さんが見た映画と同じものだった。上映時間まで一緒で驚いた」
どういう意味なのか考えて首を傾げていると安西さんは言った。
「ただの偶然かもしれないって思ったんだけど、なんで会社のトイレに置いてあるのか変に思って気になってたの。それから時々、私と柳瀬さんが行った店や場所に関係するものが私の前に置かれるようになって……」
詳しく聞いてみると、今朝安西さんのデスクに置かれていた雑誌もそのストーカー行為の一種だったらしい。開かれていたページには先週2人が日帰りで行った温泉が掲載されていたそうだ。
「会社の中でですよね?誰の仕業か分かってるんですか」
「見当はついてるんだけど、まだ証拠もないから言えなくて」
「もしかして、横山さんですか?」
日頃の横山さんの態度を知っているだけに私は興奮気味になっている。
「私はそうだと思ってる」
話すうちに段々と安西さんの顔から表情が消えていく。「あの人が朝早くに出社している日はだいたい何かあるの」
「朝早くってどうやってわかるんですか」
「あのコピー機の隣にある観葉植物、手入れされた日は葉についた埃が綺麗に拭かれてる。印刷物を取る時に気付いたの。あの観葉植物は横山さんが早くに出社して手入れしてるのよ」
もしかして早くに出社しているのは観葉植物の世話が目的ではなく嫌がらせの品をデスクに置く為だったのか…それにしてもどうしてそこまで安西さんに執着するのかがわからない。
「あと2ヶ月で退職するし気にする事ないって自分に言い聞かせてるんだけど、この頃プライベートがずっと忙しかったから疲れが出ちゃって」
安西さんはやっとジェラートの存在を思い出したように両手をテーブルの上に出した。
「今度証拠を見つけたら、私が問い詰めますから任せて下さい!」
つい意気込んでしまった。そんな私を見て安西さんは頬をほころばした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

消えた記憶

詩織
恋愛
交通事故で一部の記憶がなくなった彩芽。大事な旦那さんの記憶が全くない。

処理中です...