20 / 95
封筒
封筒⑨
しおりを挟む
白枝駅にまもなく着く頃、携帯電話が震えているのに気が付いた。画面を見るとお母さんからだった。
「はい」
「夕夏、今何してるの?」
「えーっと…」
色々ありすぎて言えない。
「あのね、ユキエ叔母さんが夕夏に野菜送ってあげたいっていうから住所教えてあるのよ。多分今日の夜には着くって言ってたから、受け取ったらお礼の電話入れておいてね」
「そうなんだ、わかった。電話する」
「最近どうしてるの?」
「仕事も落ち着いてきたし、まあまあだよ」
「良かったじゃない。あっ、そうそう!花絵ちゃんのママから聞いたんだけどね……」
また始まった、と思った。お母さんは度々花絵の近況を報告してくる。私が避けていることを知っていて、なんとか仲を戻そうとしている。
「で、あとは?」
「… もう、冷たいんだから。まっ、元気にやってるなら安心したわ。今度そっちに顔出しに行くから」
「いいよ来なくて。お正月には帰る予定だから」
「お正月までに1回は帰って来なさいよ。じゃないとこっちから行くからね」
「わかったわかった、じゃあね」
改札で電光掲示板を見ると遅延は既に解消されていた。次の電車まではあと13分。あの神社に行って良かったのか悪かったのか、本当はあの倒れていた彼のおかげで気が紛れて虚しい気持ちで帰らずに済んだことにほっとしている。電車が来るまでベンチに座っている間、ずっと彼の顔が頭に浮かんだ。
家に着くと今度は来客があった。ドアの前に莉奈(りな)ちゃんが立っている。
「莉奈ちゃん、どうしたの?」
「夕夏さん!聞いてほしいことがあって……」
莉奈ちゃんはサラサラロングの茶色い毛先を胸元で弄りながら今にも泣きそうな顔をしている。
「入って、ここ暑かったでしょ」
訪ねてきた理由はきっと遥人(はると)くんの事だろうなと思った。それにしても今日はよく問題が起こる日だ。
遥人君は近所の中華飯店・唐風軒の息子で莉奈ちゃんはその彼女。高校生2年生の恋愛について時々こうして世話をすることがある。店には週1ペースでご飯を食べに行っている。何かと声を掛けてくれる優しい店長、あの美味しい料理と賑やかさを兼ね備えた唐風軒は引っ越してきて間もない私にとって唯一心安らげる場所となっていた。閉店間近まで店にいた時、遥人君に会いにきていた莉奈ちゃんが私に話しかけてくれて仲良くなった。
「遥人とケンカしてるんです」
グラスに入ったサイダーの泡を見つめながら哀愁たっぷりで呟いた。
「なんでケンカしたの」
「今度の休みに映画行こうって誘ってたんですけど、今日遥人に電話したら忘れてたって言われて」
「うーん、忘れてたって言われるとちょっと悲しいかもね」
「そうなんですよ!お店の手伝いもあるから忙しいのはわかってるんですけど、最近2人きりで会う事なかったから本当に楽しみしてて…」
「言い合いしちゃったの?」
莉奈ちゃんは膝を抱えたまま頷いた。
「他の同級生カップルはもっといろいろ遊びに行ってて楽しそう、とか。一番言っちゃいけない事なのに約束忘れられてたのが辛くてつい……」
「遥人君、今日もお店だよね?あとで食べに行こうか。きっと遥人君だって、莉奈ちゃんが自分の言った事を後悔してるってわかってくれてるよ」
莉奈ちゃんはただ涙を拭っている。今は何を言っても駄目かもしれない。
「ちょっとゆっくりしてて。明日の用意するから」
暫くしてインターホンが鳴った、そういえばユキエ叔母さんが野菜を送ってくれたと言っていた。莉奈ちゃんの様子が気になりながらインターホンの画面ボタンを押した。
「はい」
「夕夏、今何してるの?」
「えーっと…」
色々ありすぎて言えない。
「あのね、ユキエ叔母さんが夕夏に野菜送ってあげたいっていうから住所教えてあるのよ。多分今日の夜には着くって言ってたから、受け取ったらお礼の電話入れておいてね」
「そうなんだ、わかった。電話する」
「最近どうしてるの?」
「仕事も落ち着いてきたし、まあまあだよ」
「良かったじゃない。あっ、そうそう!花絵ちゃんのママから聞いたんだけどね……」
また始まった、と思った。お母さんは度々花絵の近況を報告してくる。私が避けていることを知っていて、なんとか仲を戻そうとしている。
「で、あとは?」
「… もう、冷たいんだから。まっ、元気にやってるなら安心したわ。今度そっちに顔出しに行くから」
「いいよ来なくて。お正月には帰る予定だから」
「お正月までに1回は帰って来なさいよ。じゃないとこっちから行くからね」
「わかったわかった、じゃあね」
改札で電光掲示板を見ると遅延は既に解消されていた。次の電車まではあと13分。あの神社に行って良かったのか悪かったのか、本当はあの倒れていた彼のおかげで気が紛れて虚しい気持ちで帰らずに済んだことにほっとしている。電車が来るまでベンチに座っている間、ずっと彼の顔が頭に浮かんだ。
家に着くと今度は来客があった。ドアの前に莉奈(りな)ちゃんが立っている。
「莉奈ちゃん、どうしたの?」
「夕夏さん!聞いてほしいことがあって……」
莉奈ちゃんはサラサラロングの茶色い毛先を胸元で弄りながら今にも泣きそうな顔をしている。
「入って、ここ暑かったでしょ」
訪ねてきた理由はきっと遥人(はると)くんの事だろうなと思った。それにしても今日はよく問題が起こる日だ。
遥人君は近所の中華飯店・唐風軒の息子で莉奈ちゃんはその彼女。高校生2年生の恋愛について時々こうして世話をすることがある。店には週1ペースでご飯を食べに行っている。何かと声を掛けてくれる優しい店長、あの美味しい料理と賑やかさを兼ね備えた唐風軒は引っ越してきて間もない私にとって唯一心安らげる場所となっていた。閉店間近まで店にいた時、遥人君に会いにきていた莉奈ちゃんが私に話しかけてくれて仲良くなった。
「遥人とケンカしてるんです」
グラスに入ったサイダーの泡を見つめながら哀愁たっぷりで呟いた。
「なんでケンカしたの」
「今度の休みに映画行こうって誘ってたんですけど、今日遥人に電話したら忘れてたって言われて」
「うーん、忘れてたって言われるとちょっと悲しいかもね」
「そうなんですよ!お店の手伝いもあるから忙しいのはわかってるんですけど、最近2人きりで会う事なかったから本当に楽しみしてて…」
「言い合いしちゃったの?」
莉奈ちゃんは膝を抱えたまま頷いた。
「他の同級生カップルはもっといろいろ遊びに行ってて楽しそう、とか。一番言っちゃいけない事なのに約束忘れられてたのが辛くてつい……」
「遥人君、今日もお店だよね?あとで食べに行こうか。きっと遥人君だって、莉奈ちゃんが自分の言った事を後悔してるってわかってくれてるよ」
莉奈ちゃんはただ涙を拭っている。今は何を言っても駄目かもしれない。
「ちょっとゆっくりしてて。明日の用意するから」
暫くしてインターホンが鳴った、そういえばユキエ叔母さんが野菜を送ってくれたと言っていた。莉奈ちゃんの様子が気になりながらインターホンの画面ボタンを押した。
0
あなたにおすすめの小説
繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜
まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。
出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。
互いに意識しながらも、
数年間、距離を保ち続けた。
ただ見つめるだけの関係。
けれど――
ある夏の夜。
納涼会の帰り道。
僕が彼女の手を握った瞬間、
すべてが変わった。
これは恋でも、友情でもない。
けれど理性では止められない、
名前のない関係。
13年続いた秘密。
誓約書。
そして、5年の沈黙。
これは――
実際にあった「夜」の記録。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】
remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。
本宮 のい。新社会人1年目。
永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。
なんだけど。
青井 奏。
高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、
和泉 碧。
初恋の相手らしき人も現れた。
幸せの青い鳥は一体どこに。
【完結】 ありがとうございました‼︎
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。
クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。
3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。
ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。
「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる