花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

文字の大きさ
33 / 95
封筒

封筒22

しおりを挟む
長谷川先輩は笑顔で手を振っている。
「どうしてここにいるんですか?」
「人と待ち合わせしてたんだ。ゆっかちゃんこそ、仕事帰り?」
「はい。そこのコンビニに傘忘れちゃって取りに戻ったとこです」
「そうなんだ。取っておいでよ」
取っておいで?
「約束してた人が今日来れなくなってさ、よかったら今からちょっと話さない?無理にとは言わないけど」
明日は休みだ。でも行ったら智香がきっと怒るだろう。
「あ、中田には言わないから安心して」
心配を読まれた、長谷川先輩は智香が好意を寄せているのを知っているのかもしれない。しかしあの合コンの日といい、あんなに積極的なら気付かないほうが鈍いか・・・
「遅い時間にならなかったら」
「よっし、じゃあ傘取ってきて車乗って」
「はい」


「しばらく降ってたけど、晴れたね」
長谷川先輩は車をすぐには出さず音楽を選び始めた。目の前を浴衣姿のカップルが通り過ぎていく。
「今日花火大会ですよね?雨止んで嬉しいだろうな」
「花火、見に行く?」
長谷川先輩と花火大会、智香が聞いたら発狂する。
「花火は彼氏と行きたいか。ごめん」
長谷川先輩は笑いながらエンジンを掛けた。
「彼氏いたら合コン行ってません」
「そうだった」
「花火、見に行きたかったんです。職場の先輩を誘ったんですけど都合がつかなかったみたいで」
そう言ってみて、励ますつもりで安西さんを誘ったけど本当は自分が花火に慰められたい気持ちだったのかもしれないと思った。
「そうなんだ。偶然、俺も花火見たかったんだよね・・」
長谷川先輩はカーナビの画面を見つめている。どこか寂しそうな横顔だ。誰と待ち合わせをしていたんだろう。
と言ってもあの日の合コンのメンバー以外に長谷川先輩の交友関係について何も知らない。誰と言われてもきっと広がらない話だ。
「そういえばゆっかちゃんはまだご飯食べてないよね?」
「まだです、長谷川先輩はもうご飯食べたんですか?」
「え、先輩?」
今のは変だった、確かに私の先輩ではない。
「ごめんなさい、智香がそう呼んでたから。なんて呼べばいいですか」
「うーん、ナオトでもナオでも」
「じゃあナオさんって呼びます」
何言ってんだろう。
「どうぞ。俺もまだ食べてないから先にご飯行こうか」
「はい」
結局遅い帰りになるなと思った。
ハンドルを切って車はロータリーを抜け出した。傘の柄が足元で邪魔になっている。
「後ろの席に置いていいよ」
「あ、はい」
シートに捕まりながら後部座席の隅に傘を立て掛けた。座席の上にカメラが乗っている、少し高そうな物だ。
「写真が趣味なんですか?」
「ああ、カメラね。時々撮ったりしてる」
「何を撮るんですか?」
「景色が多いかな。レジャー派だから」
「それで日焼けしてるんですね」
長谷川先輩は自分の腕を見て笑ってみせた。
「どんなの撮ってるか見てみたいです、後で写真見せてもらえないですか?」
「今は充電がないからまた今度見せるよ」
「楽しみにしてます」
車は夏っぽいアップテンポのBGMに包まれて国道を走り出した。花火を見られる事に胸を躍らせて過ぎていく景色を眺めた。長野に来てからやっと楽しい事に出会った気がした。さっきの雨のせいか、夕陽はいつもより綺麗に色濃く見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...