花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

文字の大きさ
50 / 95
疑惑

疑惑⑫

しおりを挟む
横山さんが来た。私は写真を封筒に戻さず向き合った。
「これ、なんのつもりですか」
「あら、何これ。どうして柳瀬さんとあなたが写ってるの?」
「横山さん、白状したらどうなんですか」
「何が言いたいの?その封筒はさっき安西さんがあなたの書類立てに入れたのよ」
それを聞いて一瞬怯んだ。
「あなた変ね。何を根拠に私を責めてるの?」
横山さんは腕を組み私を見下ろす。
「あなたがしてるって事、いつか証明してみせますから」
「どうでもいいけど、ちょっと態度を改めてくれる?証拠もないのに訳のわからない事言われて私も付き合ってられないの」
謝りたくない。喉が閊えて顔が熱くなっていく。
横山さんは見透かすように私を見ると自分のロッカーへ手を伸ばし気にも留めず着替え始めた。その隣で幼稚な反抗になった事を後悔した。
着替え終わり髪をほどいた横山さんは香水をひと振りすると静かにロッカーの扉を閉めて出て行った。
まるで相手にされていない、何故こんな気持ちにならなければいけないんだ。ただの嫌がらせにしては手が込んでいる。安西さんがどういうつもりで私のところに封筒を入れたのか、私は人の彼氏を狙う卑しい女に思われているんだろうか。


帰りに駅のロータリーでナオさんの車がないか辺りを見渡した。誰かに話を聞いてもらいたい。電話を掛けてみようかと一瞬考えた、けど今朝の事を思い出して電話する勇気がなくなった。ナオさんは優しいから顔に出さないけどきっと鍵の件は迷惑だったに違いない。じゃあね、と言って車を出すときナオさんの表情はどこか虚ろだった。
駅のホームで電車を待っている間にメールを打った。

今朝は早くから本当にすみませんでした。また今度よかったら―――

また今度よかったら、なんて打った自分が情けない。その部分は削除した。後に続く文章を考えてみたけどしっくりと来るものがなく謝罪の言葉だけをそのまま送信した。そしてもう1つメールを打った、安西さんへ送るメールだ。

長い間お疲れ様でした。さっきは気の利いた事も言えず、申し訳ありませんでした。これまで安西さんに指導していただけて良かったです。お世話になりました。体調が悪いと聞いていましたので心配しています。良くなられたら一度食事にでも行きませんか?

あまりにも硬い文章に苦笑した。封筒の事には触れないようにした。いつか誤解が解けるよう願ってメールを送信した。柳瀬さんが言ったみたいにまずは安西さんの気持ちが癒えるのを待つのがいい。癒える、それは正しい表現なのか。色々な不安が混在して頭がすっきりしない。
電車が到着して乗り込むと小さな子供が座席に膝をつき景色を見ていた。母親は靴を脱ぐよう優しく促している。電車が発車して暫くすると窓の外には川が見えた。秋になり陽が落ちるのが早くなった、薄暗い陽光が反射している。ナオさんの横顔を思い浮かべた。また駅で偶然に会う事があれば、今度は私の悩みを話してみようか。聞いてもらえば少しは気が楽になるかもしれない。ナオさんに対する気持ちがどういうものなのか、このところ自分では判断がつきにくくなってきている。智香への後ろめたさも薄れ始め、自分が卑しい女である事がわかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜

まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。 出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。   互いに意識しながらも、 数年間、距離を保ち続けた。   ただ見つめるだけの関係。   けれど――   ある夏の夜。 納涼会の帰り道。   僕が彼女の手を握った瞬間、 すべてが変わった。   これは恋でも、友情でもない。   けれど理性では止められない、 名前のない関係。   13年続いた秘密。 誓約書。 そして、5年の沈黙。   これは――   実際にあった「夜」の記録。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

Blue Bird ―初恋の人に再会したのに奔放な同級生が甘すぎるっ‼【完結】

remo
恋愛
「…溶けろよ」 甘く響くかすれた声と奔放な舌にどこまでも落とされた。 本宮 のい。新社会人1年目。 永遠に出来そうもない彼氏を夢見つつ、目の前の仕事に奮闘中。 なんだけど。 青井 奏。 高校時代の同級生に再会した。 と思う間もなく、 和泉 碧。 初恋の相手らしき人も現れた。 幸せの青い鳥は一体どこに。 【完結】 ありがとうございました‼︎

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。

クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。 3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。 ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。 「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

秘められた薫り

La Mistral
恋愛
エブリスタにて、トレンド#恋愛で最高位 55位を獲得した作品です。 「愛しているよ」という夫の言葉が、今の美咲には虚しい空気にしか聞こえない。 欠けていたのは、理性を焼き尽くすような衝動。 ​クライアントの慎吾と交わす視線。ビジネスという仮面の下で共有される、剥き出しの欲望。 指先が触れる。名前を呼ばれる。ただそれだけで、美咲の積み上げてきた「良き妻」としての世界は音を立てて崩れ去る。 ​完璧なアリバイ、塗り固めた嘘。 夫の隣で微笑みながら、心は別の男の指先を求めている。 一度知ってしまった濃厚な「薫り」は、もう彼女を元の場所へは戻してくれない。 ​守るべき家庭と、抗えない本能。 二つの世界の境界線で、美咲が選ぶ「最後の一線」とは――。 欲望の熱に浮かされた女の、美しくも残酷な堕落の記録。

処理中です...