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最終章~桜~
桜⑧
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夕夏へ
もう会えないと思うから、手紙を書くことにした。
最近僕は意識を失う事が多くなった。頭痛がひどくなると目を開けていられなくなる。
それから意識が戻ると覚えのない場所にいたりする。
恭也に戻りつつあるんだと思う。
夕夏やあの2人との思い出さえ忘れてしまうんじゃないかと思うと悲しい。
誕生日を間違えてごめん、あの日は楽しかった。
約束した遊園地には行けない。
僕を探す事はしないでほしい、恭也の人生を邪魔したくない。この手紙は僕が去ってから渡すようお願いした。遥人君を責めないでほしい。
夕夏、伝えたい事は色々あるけど、ありがとう。
さっき拾った紙袋の中を見るとメモが入っていた。
“ 夕夏へ ”とだけ書かれている。
部屋着から着替えコートを取り出しすぐ玄関を出ようとした、慌てて部屋に戻り、クリスマス用に買ってあったタケルへのプレゼントとさっきの紙袋を持って駅へと走った。
駅のホームで紙袋に入った箱を手に取ると、中には雫型のピアスが入っていた。淡いピンクの天然石でできている。小さくて可愛い。
白枝駅を降りてからはひたすら走った。ハイツに着くと2階から男の人が下りてきた。社名が入った車が止まっているのが見えて車へ近付くその人に声を掛けた。
「すみません、上の階で今日退去の人がいると思うんですけど」
「ああ、もう終わりましたよ」
「その人どこに行ったんですか?」
「12時の新幹線に乗るって言ってましたけど」
「新幹線… ありがとうございます!」
踵を返してまた駅へと走った。
タケルがどこへ行こうとしているのか見当がつかない。新幹線なら長野駅に向かっているはずだ。躊躇わずにもっと早く会いにいけば良かった。
白枝駅が見えた時、電車が着いた。肺が潰れそうなほど息を切らして駅の階段を上がりホームへと駆け下りた。でも電車は容赦なくドアを閉めてしまった。
ホームの椅子に座ってただ目の前の白い息を眺めた。携帯電話に着信がないか確かめる、連絡は何もない。
ふと思った、タケルは会わずに去る事を決めた、理由はわからない。けどそれが一番いい選択だとタケルが思ったのなら追いかけるべきなのか……
それでも私は、最後にタケルが好きだと伝えたい。
長野駅に着いて時刻は12時を回っていた。調べると12時台に出発する新幹線は3本ある。券売機で入場券を買ってホームへ急いだ。列車に乗り込んでいれば中には入れない、多くの人がいるなか目を凝らした。
次に出発する予定の列車を端から端まで窓を覗きながら急ぎ足で歩く、タケルの姿は見つからない。
再びホームを探し回った、もしかしたら12時より前の出発だったのかもしれない。
他に探す術もなく立ち尽くした。線路の先を見つめながら、諦めるよう自分に言い聞かせた。やっと寒さを感じ始めてホームを出ようと改札へと歩いたそのとき、白いダウンジャケットを着た人が列車へと乗り込もうとしているのが見えて思わず叫んだ。
「タケル!!」
駆け寄ると間違いなくタケルだった。大きなスーツケースを持っている。私の顔を見て足を止めた。
「どうして何も言わないで行こうとするの?」
タケルは黙っている。
「なんで、離れるの?」
「君、この間の」
背筋に緊張が走った。
「倉前、恭也さんですか?」
「はい」
「…… これ、妹さんから預かってるんです。持って行って下さい」
ネイビー色のリボンが掛かったタケルへのプレゼントを渡した。
「妹が?」
「はい」
列車の出発を知らせるアナウンスが音楽と共に流れている、そのメロディーがあまりに切なく聞こえる。涙が滲むのを必死で堪えた、倉前恭也は無表情なまま軽く頭を下げると列車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、新幹線の尾が遠くなっていくのを見送った。
もう会えないと思うから、手紙を書くことにした。
最近僕は意識を失う事が多くなった。頭痛がひどくなると目を開けていられなくなる。
それから意識が戻ると覚えのない場所にいたりする。
恭也に戻りつつあるんだと思う。
夕夏やあの2人との思い出さえ忘れてしまうんじゃないかと思うと悲しい。
誕生日を間違えてごめん、あの日は楽しかった。
約束した遊園地には行けない。
僕を探す事はしないでほしい、恭也の人生を邪魔したくない。この手紙は僕が去ってから渡すようお願いした。遥人君を責めないでほしい。
夕夏、伝えたい事は色々あるけど、ありがとう。
さっき拾った紙袋の中を見るとメモが入っていた。
“ 夕夏へ ”とだけ書かれている。
部屋着から着替えコートを取り出しすぐ玄関を出ようとした、慌てて部屋に戻り、クリスマス用に買ってあったタケルへのプレゼントとさっきの紙袋を持って駅へと走った。
駅のホームで紙袋に入った箱を手に取ると、中には雫型のピアスが入っていた。淡いピンクの天然石でできている。小さくて可愛い。
白枝駅を降りてからはひたすら走った。ハイツに着くと2階から男の人が下りてきた。社名が入った車が止まっているのが見えて車へ近付くその人に声を掛けた。
「すみません、上の階で今日退去の人がいると思うんですけど」
「ああ、もう終わりましたよ」
「その人どこに行ったんですか?」
「12時の新幹線に乗るって言ってましたけど」
「新幹線… ありがとうございます!」
踵を返してまた駅へと走った。
タケルがどこへ行こうとしているのか見当がつかない。新幹線なら長野駅に向かっているはずだ。躊躇わずにもっと早く会いにいけば良かった。
白枝駅が見えた時、電車が着いた。肺が潰れそうなほど息を切らして駅の階段を上がりホームへと駆け下りた。でも電車は容赦なくドアを閉めてしまった。
ホームの椅子に座ってただ目の前の白い息を眺めた。携帯電話に着信がないか確かめる、連絡は何もない。
ふと思った、タケルは会わずに去る事を決めた、理由はわからない。けどそれが一番いい選択だとタケルが思ったのなら追いかけるべきなのか……
それでも私は、最後にタケルが好きだと伝えたい。
長野駅に着いて時刻は12時を回っていた。調べると12時台に出発する新幹線は3本ある。券売機で入場券を買ってホームへ急いだ。列車に乗り込んでいれば中には入れない、多くの人がいるなか目を凝らした。
次に出発する予定の列車を端から端まで窓を覗きながら急ぎ足で歩く、タケルの姿は見つからない。
再びホームを探し回った、もしかしたら12時より前の出発だったのかもしれない。
他に探す術もなく立ち尽くした。線路の先を見つめながら、諦めるよう自分に言い聞かせた。やっと寒さを感じ始めてホームを出ようと改札へと歩いたそのとき、白いダウンジャケットを着た人が列車へと乗り込もうとしているのが見えて思わず叫んだ。
「タケル!!」
駆け寄ると間違いなくタケルだった。大きなスーツケースを持っている。私の顔を見て足を止めた。
「どうして何も言わないで行こうとするの?」
タケルは黙っている。
「なんで、離れるの?」
「君、この間の」
背筋に緊張が走った。
「倉前、恭也さんですか?」
「はい」
「…… これ、妹さんから預かってるんです。持って行って下さい」
ネイビー色のリボンが掛かったタケルへのプレゼントを渡した。
「妹が?」
「はい」
列車の出発を知らせるアナウンスが音楽と共に流れている、そのメロディーがあまりに切なく聞こえる。涙が滲むのを必死で堪えた、倉前恭也は無表情なまま軽く頭を下げると列車に乗り込んだ。
ドアが閉まり、新幹線の尾が遠くなっていくのを見送った。
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