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【2】疑惑
サルベーション
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「おい、聞いたか? あの王様崩れ、ここで働くんだってさ」
「ちょっと顔がいいからって、何でも許されると思ってるんじゃない?」
「ここでも『未遂』を起こすつもりか。面倒だな」
ひそひそと小言が耳に入ったのは、ここで働くと挨拶をし、借家に向かう途中だった。
自分は家族にも、国にも迷惑をかけた。
これは罰だ。『生きてしまった』のだから、我慢するしかない。この先もずっと白い目で見られ続ける。さぞ肩身の狭い思いをするのだろうと覚悟をしていた。
借家には先に荷物が行っているはずだ。荷を解いて、気持ちを落ち着かせよう。
多忙が予想されるとは聞いていたので大きな間取りではない。最低限に寝られたら、それでいい。古くて安い借家だ。扉の前でポケットの鍵を探った。やっと探り当てた鍵を鍵穴に入れようとすると、扉が勝手に開いた。立てつけが悪いのだろうか。いや、中から人の気配がする。
思い切って扉を開くと、テーブルの上にはランタンがあり、部屋は明るい。金髪を結った男が部屋の隅から振り返り、目が合った。男は紙袋と雑巾を手にしている。
「あ、空き巣……というか、もしかして泥棒!?」
大声を上げるも、男は平然としてその場から動かない。肝が据わっているのか、泥棒という自覚がない天然か。男はじっと見たまま何度か瞬いた。憤慨しながら歩み寄るが、抵抗する様子はまったくない。男が持っている袋の中からは洗剤が見えた。泥棒にしては持っているものが奇妙だ。男が目を合わせたまま口角を上げる。
「かっこいいピアスはしてるし、大声は出るし、元気そうだな」
男は左耳の三日月のピアスを指さした。この男、目つきは悪いが、見覚えがある。正確には面影を感じたのかもしれない。思い出したが、この街の剣術学校には弟がいたはずだ。まさかと思って愛称を口にした。
「もしかして……ジェフ?」
男はニッと歯を見せて脇を抜けた。弟のジェフリーで正解のようだ。目で追うと、閉めた扉に大きな文字が見えた。
『国に帰れ』
『死ね!』
『消えろ!』
陰湿ないたずら書きだ。いや、これはいたずらを通り越して……
「カッコ悪いよな。いい『大人』がすることじゃない。ま、医者が死ねだなんて言わないだろうから、街の人かもしれないな」
ジェフリーは壁際でキョロキョロとしている。足もとには大きな剣と荷物があった。ここは一人用の借家だ。まさかと思っていると、ジェフリーから質問をされた。
「なぁ、バケツは外か? コイツは消しておかないと気になって仕方ない」
「え? えぇ、たぶん……」
ジェフリーはさっさと部屋を出て行った。借りたばかりで設備の確認もしていない。部屋を見渡すと、部屋の隅も机の上も擦ってあり、一部だけが綺麗になっている。自分に向けられた誹謗の文字を消してくれたようだ。まだ手がついていない小さく『死ね』と書かれた文字を指でなぞる。
「本当に死んじゃってもよかったんですけどね……」
乾いた笑いが込み上げる。『ひとり』だったら、きっとこうは思わなかった。
また、誰もが求める『いい子』を演じなくてはいけないらしい。笑いながら肩を落とした。
陰湿ないじめや誹謗中傷なら慣れている。本来は、慣れてはいけないのかもしれない。『助けてくれ』と声を上げないといけない。それでも、声は上げられなかった。抑え込むしかなかった。ひたすら耐えて、できるだけ反応しないようにした。相手が飽きるのをひたすら待った。
人を殺したわけではない。ものを盗んだわけでもない。
たった一度、『自由』を求めた。
それだけだった。
なのに……
「ちょっと顔がいいからって、何でも許されると思ってるんじゃない?」
「ここでも『未遂』を起こすつもりか。面倒だな」
ひそひそと小言が耳に入ったのは、ここで働くと挨拶をし、借家に向かう途中だった。
自分は家族にも、国にも迷惑をかけた。
これは罰だ。『生きてしまった』のだから、我慢するしかない。この先もずっと白い目で見られ続ける。さぞ肩身の狭い思いをするのだろうと覚悟をしていた。
借家には先に荷物が行っているはずだ。荷を解いて、気持ちを落ち着かせよう。
多忙が予想されるとは聞いていたので大きな間取りではない。最低限に寝られたら、それでいい。古くて安い借家だ。扉の前でポケットの鍵を探った。やっと探り当てた鍵を鍵穴に入れようとすると、扉が勝手に開いた。立てつけが悪いのだろうか。いや、中から人の気配がする。
思い切って扉を開くと、テーブルの上にはランタンがあり、部屋は明るい。金髪を結った男が部屋の隅から振り返り、目が合った。男は紙袋と雑巾を手にしている。
「あ、空き巣……というか、もしかして泥棒!?」
大声を上げるも、男は平然としてその場から動かない。肝が据わっているのか、泥棒という自覚がない天然か。男はじっと見たまま何度か瞬いた。憤慨しながら歩み寄るが、抵抗する様子はまったくない。男が持っている袋の中からは洗剤が見えた。泥棒にしては持っているものが奇妙だ。男が目を合わせたまま口角を上げる。
「かっこいいピアスはしてるし、大声は出るし、元気そうだな」
男は左耳の三日月のピアスを指さした。この男、目つきは悪いが、見覚えがある。正確には面影を感じたのかもしれない。思い出したが、この街の剣術学校には弟がいたはずだ。まさかと思って愛称を口にした。
「もしかして……ジェフ?」
男はニッと歯を見せて脇を抜けた。弟のジェフリーで正解のようだ。目で追うと、閉めた扉に大きな文字が見えた。
『国に帰れ』
『死ね!』
『消えろ!』
陰湿ないたずら書きだ。いや、これはいたずらを通り越して……
「カッコ悪いよな。いい『大人』がすることじゃない。ま、医者が死ねだなんて言わないだろうから、街の人かもしれないな」
ジェフリーは壁際でキョロキョロとしている。足もとには大きな剣と荷物があった。ここは一人用の借家だ。まさかと思っていると、ジェフリーから質問をされた。
「なぁ、バケツは外か? コイツは消しておかないと気になって仕方ない」
「え? えぇ、たぶん……」
ジェフリーはさっさと部屋を出て行った。借りたばかりで設備の確認もしていない。部屋を見渡すと、部屋の隅も机の上も擦ってあり、一部だけが綺麗になっている。自分に向けられた誹謗の文字を消してくれたようだ。まだ手がついていない小さく『死ね』と書かれた文字を指でなぞる。
「本当に死んじゃってもよかったんですけどね……」
乾いた笑いが込み上げる。『ひとり』だったら、きっとこうは思わなかった。
また、誰もが求める『いい子』を演じなくてはいけないらしい。笑いながら肩を落とした。
陰湿ないじめや誹謗中傷なら慣れている。本来は、慣れてはいけないのかもしれない。『助けてくれ』と声を上げないといけない。それでも、声は上げられなかった。抑え込むしかなかった。ひたすら耐えて、できるだけ反応しないようにした。相手が飽きるのをひたすら待った。
人を殺したわけではない。ものを盗んだわけでもない。
たった一度、『自由』を求めた。
それだけだった。
なのに……
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