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【2‐4】天秤(2)
限りあるこのときに
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魔法都市フィラノスのスラム街、この一角でちょっとしたドラマが繰り広げられていた。ほとんど自分で動くことも叶わない子ども、サテラと、いずれそうなる運命を辿る女性、ミティアの交流だ。
サテラの痩せ細った手が握り返してくれる。換気されているお陰で空気もよいし、ここはスラムかもしれないが、環境はよかった。
サテラは種の研究所の被験者。人間兵器としてあらゆる種族と能力を融合させられたせいで、負荷がかかっておりその命は危機に瀕している。
自分も同じ運命を辿るのに、ミティアは他人事には思えなかった。どうしても放ってはおけなかった。
「いいなぁ……人間って」
「サテラも人間だよ。わたしも……ちょっと他の人と違うだけ」
「お姉さんは前向き思考でいいですね」
以前より刺々しい発言が少ない。もうミティアの人柄に呆れてしまったのかもしれない。だが、悪い気は起こしていない。サテラはむしろ、ミティアもっと知りたいと言う。
ミティアは旅路での話をずっと聞かせていた。他人の話など途中で飽きると思っていたが、サテラには未知がたくさんだ。興味深く聞いている。
「お姉さんが言う先生って自分のお兄さんですよね?」
「あぁ、そっか、そうだね。ジェフリーだってお兄さんになるよ」
「どんな人なんだろう? お父様に似て、かっこいいのでしょうか?」
冗談を交えながら、サテラは笑っている。釣られるように、ミティアもくすくすと笑った。
二人の談笑を、壁に寄りかかって眺めるケーシス。サテラが可哀そうだから、と言うのは後付けの理由で、本当の理由はフィラノスがほしがっていた人間兵器を盗み出して困らせようという意図だった。ずっとサテラに言えずにいる。
言って残念に思われるだろう。なぜなら、サテラはケーシスを慕っている。引き取って本当の息子と同じように叱るし、躾もする。お使いもさせて、できたらきちんと褒める。本当に自分の子ども以上に可愛がっているかもしれない。
ちゃんと謝っておかないと、いつか後悔する。だか、親である以前に大人としてのプライドが邪魔をした。
コンコン
扉をノックする音がした。ケーシスが開くと、ローズが竜次を連れて来ていた。
竜次はケーシスとの再会に驚いた。
「お父様?! これは一体……」
竜次はケーシスの顔を見るなり取り乱している。ケーシスは舌打ちをして、顔をしかめた。その様子に、竜次ははっとした。
「あっ、お、お久しぶりです。ご無沙汰しております」
礼儀を重んじる父親だったのを思い出し、慌てて挨拶をする。竜次はケーシスと過ごした記憶があまりない。だが、小さい頃からそう教育を受けて来た。
ケーシスは竜次を招き入れた。
「まぁいい。ちょっと作戦会議がしたいから入れ」
躾に厳しいケーシスらしくないと、何かを覚悟していただけに拍子抜けになった。竜次はローズの顔もうかがいながら、中へ入った。
「お、おじゃま、しま、す……?」
竜次は何かおかしく思いながらも、控えめになりながら部屋の中に入った。親子なのに、気を遣ってしまう。それはケーシスも一緒だった。
「茶も出せなくてすまねぇな」
「あっ、そんな、お父様からお茶なんて……」
「姉ちゃんが飲まずに冷めちまった茶ならあるが」
ケーシスはキッチンにあるカップを指した。ケーシスが指す『姉ちゃん』は誰だろうか。竜次は部屋を覗き込んだ。
「あっ、先生!!」
「あぁ、やっぱりミティアさんでしたか。お父様がおかしいとは思いました」
やっぱりそうかと呆れ半分、安心半分だった。一人で歩かれるよりは全然いいのだが、ミティアは休みたがっていたのに大丈夫だろうかと心配になった。
だが、ミティアはベッドで横になっているサテラに振り返った。
「サテラ、さっき言ってたお兄さんだよ」
はしゃぐミティアの声に応えるように、子どもらしい目が竜次を見上げている。赤い目で、緑色の髪の毛を少しだけ摘まんでいる可愛らしい子どもだ。
ここでケーシスが前に出た。
「紹介しづらいんだが、こいつはサテラ。サテラ・ラチェス・セーノルズ。名前はちゃんとつけた。種の研究所から連れ出して引き取った人間兵器だ」
ケーシスにきちんとした名前で紹介された。サテラは何度も瞬いてから少し笑う。
「自分のお兄さんに会えるなんて思わなかった。初めまして、こんにちは」
サテラが口を開く。竜次はケーシスの表情をうかがった。
「子どもを拾って来たのかって思っただろ?」
「い、いえ、そんな。お父様が理由もなくこんなことしませんし」
とは言え、困惑しない方がおかしい。状況が読めない。いきなり自分より下に兄弟ができて、こんにちは、とは、誰が予想できただろうか。
竜次は頭の片隅にあった断片的な情報を思い出した。
「ミティアさんが以前、夜更かしの際に言っていた子ですよね? これも、偶然ではなく必然なのでしょう」
理解に時間を要したが、こういうところは大人だ。竜次は頷いて前に出た。
ミティアは笑顔で席を譲った。だが、竜次は椅子に座らず、床に膝を着いた。目線の高さがちょうどいい。
「私は竜次・ルーノウス・セーノルズです。沙蘭の剣士にしてお医者さん崩れでもあります。お父様を支えてくれて、どうもありがとう……」
ジェフリーにも見せるお兄さんの顔をしている。サテラは竜次をまじまじとみて目を輝かせた。
「か、かっこいい……」
「え、えぇっ!?」
竜次のお兄さん顔が一瞬にしてポンコツに切り替わった。この恵まれたビジュアルを褒められるのは、いつまでも慣れないままである。
竜次は苦笑いをしながら頬を人差し指でぽりぽりと撫で、困惑のまま質問をする。
「えっと……男の子ですか?」
「自分、両性体なので性別という概念がないのです。なので、呼び捨てで大丈夫です!!」
「り、両性体!?」
今度は大きな声を出して、困惑した。こういうリアクションが、しっかりさんを演じている竜次の存在を崩す。
ただでさえ、魔法だの神族だの現実離れした要素が多いのに、今度は両性体だ。
サテラの困った視線に気がついたのか、竜次がお得意の営業スマイルに切り替えた。
「は、ははは……では、よろしくお願いします」
竜次は無理矢理だが、理解を通した。もう、いちいち細かいところを指摘してはいけない気がしたのだ。
ケーシスは本題を持ちかける。
「んーで、何で竜次を呼んだかって話をこれからしたい」
ローズは眉をひそめる。
「あれ、先生サンはこの子の看病ではなかったのデス?」
「そいつは建前だ。別にある」
ローズは、なぜケーシスが竜次を指名したのか、明確な理由があることに驚いた。
ミティアも話の流れが気になっていた。竜次は確かに医者だが、残念ながら、技量はローズに劣る。経験不足、旅路に落ち着くまで使わなかった医者カバン。大きくならない程度に処置を誤った、苦い経験もある。
そんな竜次を呼んだ理由を、まずは物で示した。ケーシスは、ズボンのポケットから空の小瓶を取り出して見せる。
「あれ、それ……」
ミティアが声を上げた。見覚えがある。ケーシスは手書きのラベルの名前を見せた。
「それは、私が作った傷薬……?」
竜次も座ったまま見上げている。ケーシスは急に声質を低くした。
「こいつは俺がぶっ倒れたときに、姉ちゃんから拝借した傷薬だ。几帳面な字だし、お前らしい。竜次はこの薬をどうしたんだ?」
「どうしたって……質問の意図がわからないのですが」
意図がわからないのは竜次だけではない。ミティアもローズも、この時点では理解していなかった。
ケーシスはラベルを見せながら質問をする。
「こいつは本当にお前作ったものか?」
「えっ、そうです。いつか現場に復帰したときに使おうと、練習も兼ねて調合しました」
「材料とかレシピは覚えてるか!?」
ケーシスはいつの間にか竜次の鼻先に迫っていた。竜次は仰け反ってしまいそうになった。
話に熱が入ってしまい、ケーシスは我に返った。咳払いをし、続ける。
「大怪我をしたが、こいつを使ったら痛みが引くのが早かった。傷跡もほとんどない。妙だと思って食ったら、持病が少しよくなった。何を使っているのか聞きたい。この再生力は何だ?」
「何だと言われましても、ただの薬草です。あとは、加工の際に入れる防腐剤とか大したものは。と、いうか、食べ物ではないのですが……」
じれったい。ケーシスから焦りの色がうかがえた。
「じゃあ、その薬草はどこで採って来た?!」
「それは……」
場所を聞かれても、竜次には答えられない。何度も小さく首を振った。
「場所はわからないです」
聞いてケーシスが脱力する。だが、食い下がった。
「じゃあ、どこで仕入れた!?」
「いえ、仕入れたわけではないのです……」
「頼む、『壊す薬』があるんだから『治す薬』さえ揃えば、こいつを……サテラを助けられるかもしれないんだ!!」
父親にここまで頼み込まれるなんて思いもしなかった。竜次は何度も瞬き、俯く。
答えられないのは、本当に知らないからだ。
「あのぉ……」
こう緊迫した空気に口を挟むのは決まって彼女、ミティアだ。一応空気を読んで申し訳なさそうにしている。
「その、先生の傷薬ってジェフリーが採って来た薬草でしたよね?」
「ん? どうしてそれを?」
「だってわたし、そのおつかいから帰るときに助けてもらったと……拾われた方が正しいかもしれませんが、確かそうだったって聞いた記憶が……」
ミティアが記憶を遡って説明する。ヒントは見えたが、場所はやはりわからない。
「ジェフリーの野郎か……参ったな」
ケーシスは舌打ちをし、深くため息をついた。そして壁を殴った。よりによって、ジェフリーが絡んでいる。竜次ではどうしようもない。
「ジェフを呼んでくればもう少しお話が……この子のこともちゃんと話さないと」
「あいつはガキンチョじゃねぇか。サテラにいい顔しねぇ。俺だって姉ちゃんと一緒に行動していたんだ。反応はよくないだろう。人生が無駄になるようなつまらない嫉妬や喧嘩もするだろうし、あいつには邪念が多すぎる」
「だ、だいたい当たっているのが何とも……」
ケーシスは呆れ、竜次はフォローができないと嘆く。親子してこの反応だ。信頼関係がないのかと疑ってしまう。
ここでミティアが黙ってはいなかった。今度は真剣な表情で、二人の間に割って入った。彼女はときどきこの強さを見せる。
「わたしにやらせてください。わたしがジェフリーを説得します。きちんと話せば、きっとわかってくれるはず。人を見殺しになんてしないはずだもの!」
力強い発言だ。誤解を招く可能性はあるが、ミティアが言うのだから聞いてくれるはず。
そのミティアの肩に、ケーシスは腕を回し込んだ。
「姉ちゃんには惚れちまいそうだ。や、冗談だが、本当に感謝してる」
ここはキャバクラではない。竜次は距離が近いと憤慨した。
「お父様、馴れ馴れしいですよ!! それもジェフが嫉妬する原因になるんですっ!!」
「竜次だってホの字だったんだろうが?」
「か、からかわないでくださいっ!!」
竜次は古傷を抉るような指摘を受け、口を窄めた。彼も、こういうところが子どもっぽい。すぐむきになって、墓穴を掘るのだ。
半ばやけっぱちだったが、ケーシスも腹を括った。
「ジェフリーがサテラを助ける協力をしてくれるなら、俺は今までの悪行をどんなに責められてもかまわねぇ。どうせこの溝は埋まらねぇけどよ」
避けて来たものと向き合い、プライドを捨てるというのだから、並の覚悟ではない。
話がいい流れになって、竜次はカバンの中を漁った。
「調合する暇がなくて放置してしまったので乾いてしまっていますが、材料の残りです。あまり多くはないのですがこれも……」
小さめの麻袋と調合済みの傷薬を取り出した。この麻袋はジェフリーが持っていたものだ。竜次が受け取ってそのままだったもの。中身はジェフリーが摘んで来た薬草だ。
竜次が取り出したものは、麻袋だけではない。お手製の調合瓶も一緒に取り出した。
ケーシスの目の色が変わる。
「お前、この傷薬は道中で使ったのか?」
「えぇ、何度かは……」
問い詰められ、竜次がミティアとローズにも視線を送った。
一応、効力を疑っている。どちらかというと、副作用を。
「わたし、それで手当てをされたことがあります。傷の治りが早かった気がします。跡も残らなかったし」
ミティアは左の手の甲や膝をさすった。彼女は何度も手当てを受けている。
「でも姉ちゃんが持っていたのは使った痕跡がなかったよな、サテラ?」
ケーシスがサテラに確認を取る。開いていなかったのだから、ミティアが自身で使う機会がなかっただけなのだろうか。
「熱でちゃんと閉められていたので、瓶の蓋が開きづらかったの覚えています」
それだけの物だったのを知らなかったのか、はたまたミティアは本当に持っていただけだったのか。ケーシスとサテラの疑問に、ミティアは恥ずかしそうに答えた。
「先生と一緒が多かったから、わたしは本当にあの一つを預けられただけです。使うのがもったいなくて……」
まだ続きがあるのか、ミティアは一層恥ずかしい表情になった。
「わたし、ジェフリーに不器用って言われたから、人の手当てをしていないです。ちょっとした回復魔法ならサキもわたしも使っていたので、魔法ばかり頼っていました」
ミティアが傷薬を使っていなかった理由が把握できた。
説明を終えたミティアは竜次に謝った。
「せ、先生、ごめんなさい……」
「い、いえっ、その判断は意外と正しかったのかもしれません。使わなかったから、お父様の手に渡れて、こうして解決の糸口になれたのですから」
この美人で可愛いミティアに謝られ、悪い気はしなかった。竜次は苦笑しながらも、これも何かの巡り合わせだと自分の中で納得する。
「しっかし、こいつは見事にカラッカラだな。生えてるヤツがいいんだが、やっぱあいつに頼るしかないのか……」
ケーシスが麻袋の中でカラカラに乾いてしまっている薬草に苦笑いしている。摘み出そうにも、原形などない。このまま、薬味として料理にトッピングができそうだ。
ケーシスは薬草を指で摘まんですり潰した。
「時間が経過すると黒っぽくなるから仙草だと思うんだがな」
竜次は知らなかったと言う顔だ。お手製の、ただの傷薬である。これが市販の物や医薬品に勝るとは、想像もしていなかった。
ケーシスは瓶と麻袋を竜次に返し、立ち上がる。
「壱子、もう入っていいぞ」
ケーシスからの合図で、サテラが横になっているベッドの窓が叩かれた。閉じられたカーテンの向こうに燕尾服の人影。
「あぁ、鍵かけてたんだったな……」
ケーシスが窓を開ける。壱子は冷たい空気とともにベッドを跨いで入った。
「窓から入って来るなんて行儀が悪い女だな」
「はぁん、そんなこと仰らないでくださいませ。ケーシス様とわたくしの仲ではありませんか」
壱子の言葉の語尾にハートのマークでも付きそうだ。
一同揃って唖然とする。
壱子はにんまりと怖いくらいの笑みを浮かべる。
「お久振り、ではないのは竜次お坊ちゃんくらいでしょうか」
壱子は一同を見渡し、軽く会釈する。その次にポケットから厚手の封筒を取り出し、ケーシスに渡した。中はお金のようだ。
ケーシスはそのうちの何枚かの札を壱子に渡す。
「いつもすまねぇ。俺はギルドに行けないからな」
「いえいえ、でもわたくしはお金より、ケーシス様の新刊が読みたいのですがね」
壱子は涎でも垂らしそうな下品な笑いを浮かべている。ケーシスはうざったいと言わんばかりに封筒で頭を小突いた。
これが通常なら、この二人は奇妙な仲だが面白い。
竜次はこのやり取りを見て納得した。
「なるほど、先ほどのギルドでとある方の代理とはこれでしたか」
「申し訳ありませんでした。坊ちゃんに話すと、絶対会いたいとなってしまうと思いまして……」
壱子が言うのも仕方ない。必然的にそうなるだろう。仕事上、壱子は口が堅い。オンとオフがしっかりしているところは竜次も尊敬する。
「だいたいのお話は外から聞いておりました。ところでケーシス様、街中は大盛り上がりですよ?」
街中で何かあったのだろうか。一同は壱子の報告に耳を傾けた。
ただ、ケーシスはその報告を煙たがっていた。
「こっちもこれから忙しくなるぞ。お祭りならヨソで……」
「史上最年少の大魔導士候補さんが先ほど願書をお書きになったそうです。これはここ最近にしてはいい知らせですよね」
壱子が話した件は旅の一行の話だ。もちろん竜次も知っている。ローズはうれしそうだった。
ケーシスも例外ではなかった。
「ちょっと待て、ユッカとリズの息子だよな!? 腹を括ったのか……」
心なしかケーシスもうれしそうな表情だった。
願書を書いたと聞き、竜次もほっとした様子だ。
「キッドさんとジェフの三人でお金を持って行きましたね。問題なく、ちゃんと書けたならよかった」
うれしい反面、ケーシスはわずかに表情を曇らせた。
ローズはそれを見逃さない。
「ケーシス?」
「いやまぁ、ソッチの方が今は大切かもしれねぇなって……」
「んン? 別にいいのではないデス?」
「やー、俺は落ちた人間だから言えるけ扉の緊張感は何をしても味わえない。魔導士にとって一世一代のイベントだ。悪いが、コッチはコッチで何とかするしかないな……」
こちらも急ぐには急ぐ。だが、ケーシスは体験したからこそ、優先するべきものを見誤ってはいけないと諭した。
突き放すような発言に、ミティアが食い下がった。
「わたし、嫌です!!」
半ば諦めていたケーシスの腕に、ミティアが掴みかかった。
「欲張ってはいけませんか!? わたしは、サキの応援もしたいし、サテラも助けたい!! たまたま重なっただけで、どちらかを諦めるなんてしたくないです!! わたしにはどっちも大切だもの……」
本当は自分の体だって不安だろう。だが、ミティアはこういう人だった。
ミティアが訴える力強い思いが、ケーシスの諦めかけた心を引き戻した。同時に違う思いを抱いている。
「いやさ、ホント……この姉ちゃんと結婚していいか? 惚れちまうぞ、こんな女神」
そろそろ冗談に聞こえなくなった。竜次がまたも憤慨する。
「お父様、ダメです!!」
手を出された経験のあるローズは呆れて何も言えない様子だ。
壱子は禁断の愛に妄想を掻き立てられ、どこでもない空間に目をやっては幸せそうな表情をしている。この人は、何でも妄想資源にしてしまうのだろうか。
脱線しかけたところをサテラが声を上げる。
「ははは……本当に、お姉さんが言っていたように、面白くていい方ばかりですね」
その表情が和やかで、心が痛む。体が動かないだけで、この場の一員として会話を楽しんでいた。
ミティアは笑顔で言う。
「わたし、みんなにを紹介したいと思っているの。サテラはどうかな?」
「お父様が許してくださるのでしたら……」
もちろんケーシスがダメと言うはずがない。だが、くすぐったい。
「俺はこういうの、苦手なんだけどな。誰かと協力するってヤツは。けど、サテラのためなら何だってしてやるさ。歩み寄る努力はしよう」
父親としてのプライドをここで見るなど、思いもしなかった。
竜次は幼い頃を最後に、ケーシスを知らない。この親としての愛情は、ジェフリーにはまったく向けられていなかっただろう。
ミティアが頑張って説得すると意気込んでいたが、ジェフリーの説得は難航するかもしれない。竜次は口にしなかったが、そう思っていた。
三人は報告と相談のために宿に行くことにした。
壱子は礼をし、背筋を伸ばして言う。
「情報が揃い次第、わたくしは採取に向かいます。いつでも行けるように準備だけはしておきますのでご安心を。それまではわたくしがサテラの面倒を見ましょう」
見送りは壱子だけではなく、ケーシスもだった。
「俺もぶっ倒れねぇ程度に気張っとく。ローズ、最年長だろ。しっかり面倒見ておけよ」
ケーシスは家の前まで出て、軽く手を振った。
「竜次、姉ちゃんに変な虫がつかねぇように見張っておけ」
「お父様がすでに変な虫なのですが……」
竜次が軽蔑の眼差しで受け応える。この父親あってこその竜次かもしれないが、残念ながらまだ自覚はない。
竜次、ミティア、ローズの三人はケーシスたちと別れ、外の空気を吸う。
スラムの独特の臭いに鼻を刺激され、現実に引き戻された。
金に困った様子のないケーシスが、ひっそりと拠点にしていたなど知らなかった。身を隠すにはいいのかもしれない。目につかないように意識しているのだろう。
自分たちが旅をしている間に、何をしていたのだろうか。
「先生、ローズさんもごめんなさい。わたし、余計なことをしたかもしれないです」
帰りの道で、ミティアが二人に詫びた。詫びたところで、後戻りはできない。
ミティアは自分を助けてくれる要件を、蔑ろにしてしまったことが一番罪悪感を抱いた。ローズはそっとフォローを入れる。
「材料も駒も揃っているのデス。みんなでうまく動けばいいだけネ」
「そうですよ。ミティアさんは何も悪くない。自分より、誰かを助けたい思いでお父様やサテラによくしていたのでしょう?」
竜次もローズに同調する。落ち込みかけていたミティアを励ました。
ミティアは俯き、悲痛は表情を浮かべる。
「わたし、ああは言いましたけど、本当は自分だって怖いです。わたしもいずれサテラと同じになって、立てなくなって誰かに傍にいてほしくて、寂しい思いをするんだって。そんなの絶対に嫌……」
突然、ミティアは足を止めて泣き出してしまった。いつ自分もそうなるかわからないという、底知れない恐怖に震えている。
竜次は何を言っているのかと首を傾げた。泣き出してしまったミティアを慰めようにも、彼女の言葉の意味がわからない。
ローズがミティアを抱え、断りを入れる。
「先生サンにも話しますヨ?」
ローズの腕の中で、ミティアは何度か頷いた。さっきまで何にも負けないような力強さはない。気丈に振る舞っていても、内心は怖くて仕方なかったのだ。
以前泊った、馴染みのある噴水広場の近くの宿。今回は男女別室で取ったが、三人が帰って来る頃には日も沈んで辺りは真っ暗だ。
キッドとコーディはミティアが心配で、ロビーで帰りを待っていた。
「どこにもいないから心配したのよ!? どこに行っていたの?」
まずはキッド、次いでコーディ。
「ローズ、説明もなしにあんまりじゃない」
まずはこの二人の説得が必要だ。
竜次は男性部屋の場所を聞き、いったん女性陣の間を離脱した。竜次はもっと難しい立場だ。どれだけ緩和できるだろうか。
竜次は階段を上がって男性部屋の扉をノックする。すると、しょげた顔をしているジェフリーが出迎えた。
「あぁ……」
ジェフリーが言葉少なく身を引いた。部屋の中ですすり泣く声がする。
「ただいま。私が入って大丈夫ですか?」
竜次が尋ねると、ジェフリーは何も言わずに頷いた。こんなにおとなしいジェフリーは珍しい。いつもなら、どこに行ってたのかを怒鳴って来るだろうが、それどころではないようだ。
サキはベッドの上で壁を背に座ってすすり泣いている。プレッシャーに耐えられなくなって縮こまっていた。ベッドの下で圭馬とショコラが心配そうに見上げている。
サキは膝を抱え込んで、本当に子どものように見える。
竜次は腕を組んで悩む。これはジェフリーの手には負えないだろう。
「ん、なるほど。ジェフ、外に出ていなさい」
もはや、経緯の話など後回しだ。今のおとなしいジェフリーならケーシスの話を聞いてくれるかもしれない。だが、それよりもサキのメンタルが重篤だ。
ジェフリーは圭馬とショコラを摘まみ上げ、部屋を出て行った。いつもこれだけ素直だと、どれだけ世話を焼かずに済むだろうか。反抗的なジェフリーがおとなしく従ったのが珍しい。
竜次はまたも重役になるとは思いもしなかったらしく、少し戸惑った。
とりあえず部屋をぐるりと見ると、スタンドのケトルにお湯が沸いているが、まだお湯が残っていた。ジェフリーが自分だけ何か飲んだ痕跡がある。
竜次はこの宿には沙蘭の抹茶が備えつけられていたはすだと思い出し、棚からカップを二つ取り出して淹れ、サキに一つ差し出した。
「私が淹れたのでおいしくないかもしれませんが……」
立場上、竜次はあまり自分でお茶を淹れない。自信はなかったが、ちょっとした心遣いだ。落ち込んでいるサキは受け取らないと思ったが、竜次からだと知って何度も瞬き、カップを受け取った。
竜次にとって幼い子どもを相手にするみたいな感覚だ。さらに歩み寄りを見せる。
「ここ座りますよ? 失礼しますね」
有無を言わせない言い方だったが、決してこれは失礼ではない。一応許可を取っているのだから。
竜次はサキが座り込んでいるベッドの脇に腰かけた。
「さて、どうしたんですか? 未来ある若者が、そんなに小さくなって」
あえて気さくな話し方をする。いつもと違う態度に、サキが反応した。
「先生らしくないですね……」
警戒をしている感じではない。サキは足を少し崩してお茶を口にした。
「けほっ……ゔっ……」
正直なリアクションに、竜次が笑い飛ばした。
「あっはは……はい、交換」
「い、いいです!! 先生わかっていていじわるしたんですか!?」
サキに渡した方には抹茶がたっぷり入っている。このちょっとしたからかいに、サキの緊張はわずかに解けた。
この医者はお茶を淹れるのが下手だ。きっと、わざとではなくともおいしいお茶など期待してはいけない。
竜次はにっこりと営業スマイルを見せた。悪い印象を抱かないのが憎らしい。
「いじわるではありません。話しやすくなったでしょう?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべている。だが、竜次も自分のお茶を口にして、苦笑いをした。
「おや、薄い……」
要するに、マトモにお茶も淹れられないダメな大人。それを自身で皮肉り、笑った。
「しっかりしているつもりでも、私はまだまだ迂闊でダメダメですねぇ」
励ますつもりが、これでは勝手に滑って勝手に凹んでいる、いわゆる『イタイ』人だ。
竜次の空回りは今に始まったことではないが、これに迷惑しない皆も優しい。
「先生?」
「うぅ、力不足でしたらクレアにでもお願いしましょうか?」
「いえ、そうじゃなくて、先生に質問があるんです」
サキは竜次に対して質問があると言った。これがどんなにうれしいことか、竜次は目を輝かせた。これではどちらが励まされているのかわからない。
「ど、どうしました?」
気持ちを自制しているが、珍しく頼られて冷静ではない。そんな竜次にサキは抱え込んだ気持ちを告白した。
「僕たちは竜次さんを『先生』と呼んでいます。それって、失礼ではないですか? 本業ってお医者さんではなく、沙蘭の……その、偉い人というか……」
サキから『竜次さん』と呼ばれ、驚いた。同時に特別視されていたと意外に思った。
「おや、サキ君は私をそんな風に見てらしたのですか?」
「た、多少です!! やっぱり、目上の方なので、失礼じゃないかなって」
「それって、サキ君がもっとも嫌がっていた『特別』ってやつじゃないですか?」
「そ、そんなつもりは! えっと……」
とんだ跳ね返りがあり、サキが追いやられている珍しい状況だ。
「私を目上に見なくていいですよ。私たちにとって特別なのは誰でもない、このまとまった仲間の存在ではないですか? だから、特別に見たいなら、みんな特別です」
竜次にしてはちゃんと筋の通った言葉になった。さらに自信満々に言う。
「偶然の出会いは必然であり、運命だと言ってもいいでしょうね。もちろん、いい意味で、ですよ?」
人差し指を立て、鼻にかかるような言葉遣いだ。言っている内容はまだしも、竜次がにこにこと笑う。
サキは嫌な予感がし、苦笑いをした。
「もしかして、僕のまねですか?」
「似ていましたか?」
先ほどまで気落ちしていたサキが笑顔を見せた。
「まぁまぁですかね」
「それはよかった。もっと褒めてくださいな」
「もっと褒めてもいいんですよ、です。もー……先生は人を励ますのが下手ですよね」
「うぐっ、気にしているのに……」
謎の攻防が始まり、変な空気になった。だが、サキが少しでも元気になってくれて安心した。このまま自分に負けてしまったらと思うと、竜次がした気遣いは責任重大だ。
「緊張は和らぎましたか?」
「少し……」
「えぇっ、す、少し!?」
自信があったのに、励ますのが下手と言われ、そして気持ちが落ち着いてくれたかというと、実は少しだった。
竜次がいけない。空回りもして、迷惑になってしまった。
サキはカーテンから外を覗いた。この様子は、おそらく人の視線を気にしている。
竜次はありきたりだが、見ないように促した。
「あぁ、気にしてはいけませんよ」
「でも、そんなに騒ぐようなことではないはずです。やっぱり、僕がこの街では嫌われているからなのでしょうか。名前的に……」
サキはチェストにカップを置いた。律義な彼は、口に合わない苦い茶を全部飲んで竜次に頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
下がったままのサキの頭を、竜次が撫でる。
「えっ?」
サキは固まったまま困惑の声を上げる。
竜次はサキの頭を撫でていた。髪の毛がぐしゃぐしゃになるような撫で方だ。
「クレアやジェフがよくこうしていたなぁって……嫌ですか?」
「えええええええええ……」
サキの髪の毛がくしゃくしゃになった。
本当に竜次の空回りがすぎる。サキの顔は恥ずかしさのあまり真っ赤だ。
「サキ君は嫌われてなんていませんよ」
「えっ?」
メルシィにも言われたが、サキもそのことがずっと気になっている。
竜次は自分の視点で思っていることを言う。
「サキ君、あなたは人一倍、ううん、それ以上に頑張って今を築き上げた。周りが認めてくれた。だから今は周りから期待されている。自分で手にした権限です。特別なんて言葉では済まされない。そりゃあ、万人受けするわけではありません。嫌がる人もいるでしょう。それは国のトップになるのも同じです」
具体的な例を挙げて言う。それであえてもう一度励ました。
「あまり自分を低く見ないでください。私が言ってもしょうがないかもしれませんが」
今日一番にいいことを言ったかもしれない。人を諭すのは難しい。
それでもただの『特別』ではないと伝わってくれた。彼自身が築いたものなのだから、誇りを持ってもらいたい。
「先生、ありがとうございます。僕にこんなにも、よくしてくれるなんて……」
サキはまた泣き出してしまいそうだ。
竜次が次は何と言おうか悩んでいる。その頃合いで、ノックもなしに乱暴に扉が開かれた。
血相を変えたジェフリーが立っていた。
「兄貴、来てもらっていいか!?」
緊急で呼び出される心当たりはある。
竜次もサキも嫌な予感を胸にジェフリーについて行った。
宿の中に設けられていた休憩スペースで、ミティアが蹲っている。何かを買いに来たのか、散歩をしていたのか、一人だった。
竜次がミティアの細い手首を掴む。顔色をうかがい、脈を診ているようだ。
「ミティアさん!!」
必要以上に取り乱さない竜次に何かを察したのか、サキは別の方へ走って行った。
「僕、何か飲み物を……」
一番心配をしているのは、何も知らないジェフリーだった。
ミティアの足元で、圭馬とショコラも心配そうに見上げている。この二匹にはすでにミティアの話が回っている。こうも衰退が頻繁になると、気になってしまう。
竜次はジェフリーを見上げる。
「ジェフ、何かしましたか?」
「兄貴、そんな冗談を言ってる場合じゃ……」
あえていつものように振る舞った。何もなければ、茶番が始まりそうな展開だ。
ミティアはすぐに立ち上がった。だが、どうも顔色が悪い。
「ご、ごめん……貧血だから」
壁に寄りかかって深呼吸をしている。すべてはジェフリーに打ち明けたくないため。
ミティアは、自分は大丈夫である空気を作ろうとしている。竜次はその思いを汲み取った。
「ミティアさんの脈は普通でしたよ?」
ジェフリーは不審に思っている。その頃合いで、サキがぱたぱたと戻って来た。手には紙パックのジュースが見える。
「ミティアさん、どっちがいいですか? リンゴジュースと……」
「こ、こっちっ!!」
ミティアがサキの手から取ったのはリンゴジュースではなく、『鉄分たっぷり』と書かれたプルーンが描かれたジュースだった。
その場でストローを通して早速飲んでいる。しかも、おいしそうに……。
ジェフリーは疑いを持った。
「本当に大丈夫なのか?」
ミティアは口を窄めたまま頷いた。タツノオトシゴのように可愛らしい。
竜次はここぞとばかりにそれらしいことをジェフリーに言う。
「女性の貧血って大変なんですよ?」
その言葉に対し、圭馬が鋭い指摘を入れた。
「お兄ちゃん先生、不特定多数の人がいるここで保健体育の話はやめよう」
「そ、そうですね……」
竜次は咳払いをした。そのままサキに目を向けると、何も言わなかったが目が合った。こういうところだけは察しがいい。お互いに空気が読めると言ったところか。
サキはこの空気を打開するようにある提案を持ちかけた。
「せっかくですし、晩御飯食べに行きましょう。そしたら、僕もミティアさんも元気になれると思います」
サキはミティアだけではなく、自分も含めた提案をする。
ジェフリーは渋りながら納得した。
「サキはもう丈夫なのか?」
「へっ? 僕なら切り替えました」
あまりにけろっとしているのでサキの態度を不振がった。完全にミティアの心配から気が離れている。
ミティアは竜次を見上げた。この様子だと、まだジェフリーにケーシスの話をしていないと察する。
「私はサキ君の緊張を解くので精いっぱいだったのですよ。これから、いろいろと話さないといけませんけれど……」
竜次が表情を渋めた。ミティアの体調も心配だが、違う心配もある。
「うーん、実はジェフにもサキ君にも重要な話があるのですが、話していいのでしょうか? 勉強の邪魔にならなければいいのですが」
除け者にするつもりはないのだが、サキにとって今は大切な時期なのに、いいのだろうかと変な気回しをしてしまう。
ところが、サキはキョトンとしていた。
「どうせ筆記なんて勉強しなくてもパスします。問題は実技ですから」
大した自信だ。先ほどまで、押し潰されていた同一人物とは思えない。
「実技は閲覧者がいますので、教師や在校生も見に来ます。そんな中で緊張しないなんて無理です。その実技試験の方が、緊張でもうおかしくなりそうです」
三分で二百の魔法と言っていた。単純に計算しても、秒換算で数がおかしい。
難しい話になりそうな流れで、ミティアが皆の顔色をうかがった。
「お腹空いた……」
ジェフリーが反応した。皆が揃ったし、懸念事項も解決に向かった。
話があると聞き、ジェフリーは収拾を試みようとする。
「あぁ、メシ……そうだな。キッドたちにも何を食いたいか、聞いて出よう」
ジェフリーの提案は外で食事をするものだった。それを聞き、竜次が待ったをかけた。
「あ、ジェフ、外に出るのはやめましょう。野次馬がいるかもしれませんし」
「あー……そうか。宿で済ますなら、もう時間的に軽食しか食えないけど」
気が付いたらずいぶんと夜が深くなっていた。ほどほどにして休まないと、明日に支障が出そうだ。
サテラの痩せ細った手が握り返してくれる。換気されているお陰で空気もよいし、ここはスラムかもしれないが、環境はよかった。
サテラは種の研究所の被験者。人間兵器としてあらゆる種族と能力を融合させられたせいで、負荷がかかっておりその命は危機に瀕している。
自分も同じ運命を辿るのに、ミティアは他人事には思えなかった。どうしても放ってはおけなかった。
「いいなぁ……人間って」
「サテラも人間だよ。わたしも……ちょっと他の人と違うだけ」
「お姉さんは前向き思考でいいですね」
以前より刺々しい発言が少ない。もうミティアの人柄に呆れてしまったのかもしれない。だが、悪い気は起こしていない。サテラはむしろ、ミティアもっと知りたいと言う。
ミティアは旅路での話をずっと聞かせていた。他人の話など途中で飽きると思っていたが、サテラには未知がたくさんだ。興味深く聞いている。
「お姉さんが言う先生って自分のお兄さんですよね?」
「あぁ、そっか、そうだね。ジェフリーだってお兄さんになるよ」
「どんな人なんだろう? お父様に似て、かっこいいのでしょうか?」
冗談を交えながら、サテラは笑っている。釣られるように、ミティアもくすくすと笑った。
二人の談笑を、壁に寄りかかって眺めるケーシス。サテラが可哀そうだから、と言うのは後付けの理由で、本当の理由はフィラノスがほしがっていた人間兵器を盗み出して困らせようという意図だった。ずっとサテラに言えずにいる。
言って残念に思われるだろう。なぜなら、サテラはケーシスを慕っている。引き取って本当の息子と同じように叱るし、躾もする。お使いもさせて、できたらきちんと褒める。本当に自分の子ども以上に可愛がっているかもしれない。
ちゃんと謝っておかないと、いつか後悔する。だか、親である以前に大人としてのプライドが邪魔をした。
コンコン
扉をノックする音がした。ケーシスが開くと、ローズが竜次を連れて来ていた。
竜次はケーシスとの再会に驚いた。
「お父様?! これは一体……」
竜次はケーシスの顔を見るなり取り乱している。ケーシスは舌打ちをして、顔をしかめた。その様子に、竜次ははっとした。
「あっ、お、お久しぶりです。ご無沙汰しております」
礼儀を重んじる父親だったのを思い出し、慌てて挨拶をする。竜次はケーシスと過ごした記憶があまりない。だが、小さい頃からそう教育を受けて来た。
ケーシスは竜次を招き入れた。
「まぁいい。ちょっと作戦会議がしたいから入れ」
躾に厳しいケーシスらしくないと、何かを覚悟していただけに拍子抜けになった。竜次はローズの顔もうかがいながら、中へ入った。
「お、おじゃま、しま、す……?」
竜次は何かおかしく思いながらも、控えめになりながら部屋の中に入った。親子なのに、気を遣ってしまう。それはケーシスも一緒だった。
「茶も出せなくてすまねぇな」
「あっ、そんな、お父様からお茶なんて……」
「姉ちゃんが飲まずに冷めちまった茶ならあるが」
ケーシスはキッチンにあるカップを指した。ケーシスが指す『姉ちゃん』は誰だろうか。竜次は部屋を覗き込んだ。
「あっ、先生!!」
「あぁ、やっぱりミティアさんでしたか。お父様がおかしいとは思いました」
やっぱりそうかと呆れ半分、安心半分だった。一人で歩かれるよりは全然いいのだが、ミティアは休みたがっていたのに大丈夫だろうかと心配になった。
だが、ミティアはベッドで横になっているサテラに振り返った。
「サテラ、さっき言ってたお兄さんだよ」
はしゃぐミティアの声に応えるように、子どもらしい目が竜次を見上げている。赤い目で、緑色の髪の毛を少しだけ摘まんでいる可愛らしい子どもだ。
ここでケーシスが前に出た。
「紹介しづらいんだが、こいつはサテラ。サテラ・ラチェス・セーノルズ。名前はちゃんとつけた。種の研究所から連れ出して引き取った人間兵器だ」
ケーシスにきちんとした名前で紹介された。サテラは何度も瞬いてから少し笑う。
「自分のお兄さんに会えるなんて思わなかった。初めまして、こんにちは」
サテラが口を開く。竜次はケーシスの表情をうかがった。
「子どもを拾って来たのかって思っただろ?」
「い、いえ、そんな。お父様が理由もなくこんなことしませんし」
とは言え、困惑しない方がおかしい。状況が読めない。いきなり自分より下に兄弟ができて、こんにちは、とは、誰が予想できただろうか。
竜次は頭の片隅にあった断片的な情報を思い出した。
「ミティアさんが以前、夜更かしの際に言っていた子ですよね? これも、偶然ではなく必然なのでしょう」
理解に時間を要したが、こういうところは大人だ。竜次は頷いて前に出た。
ミティアは笑顔で席を譲った。だが、竜次は椅子に座らず、床に膝を着いた。目線の高さがちょうどいい。
「私は竜次・ルーノウス・セーノルズです。沙蘭の剣士にしてお医者さん崩れでもあります。お父様を支えてくれて、どうもありがとう……」
ジェフリーにも見せるお兄さんの顔をしている。サテラは竜次をまじまじとみて目を輝かせた。
「か、かっこいい……」
「え、えぇっ!?」
竜次のお兄さん顔が一瞬にしてポンコツに切り替わった。この恵まれたビジュアルを褒められるのは、いつまでも慣れないままである。
竜次は苦笑いをしながら頬を人差し指でぽりぽりと撫で、困惑のまま質問をする。
「えっと……男の子ですか?」
「自分、両性体なので性別という概念がないのです。なので、呼び捨てで大丈夫です!!」
「り、両性体!?」
今度は大きな声を出して、困惑した。こういうリアクションが、しっかりさんを演じている竜次の存在を崩す。
ただでさえ、魔法だの神族だの現実離れした要素が多いのに、今度は両性体だ。
サテラの困った視線に気がついたのか、竜次がお得意の営業スマイルに切り替えた。
「は、ははは……では、よろしくお願いします」
竜次は無理矢理だが、理解を通した。もう、いちいち細かいところを指摘してはいけない気がしたのだ。
ケーシスは本題を持ちかける。
「んーで、何で竜次を呼んだかって話をこれからしたい」
ローズは眉をひそめる。
「あれ、先生サンはこの子の看病ではなかったのデス?」
「そいつは建前だ。別にある」
ローズは、なぜケーシスが竜次を指名したのか、明確な理由があることに驚いた。
ミティアも話の流れが気になっていた。竜次は確かに医者だが、残念ながら、技量はローズに劣る。経験不足、旅路に落ち着くまで使わなかった医者カバン。大きくならない程度に処置を誤った、苦い経験もある。
そんな竜次を呼んだ理由を、まずは物で示した。ケーシスは、ズボンのポケットから空の小瓶を取り出して見せる。
「あれ、それ……」
ミティアが声を上げた。見覚えがある。ケーシスは手書きのラベルの名前を見せた。
「それは、私が作った傷薬……?」
竜次も座ったまま見上げている。ケーシスは急に声質を低くした。
「こいつは俺がぶっ倒れたときに、姉ちゃんから拝借した傷薬だ。几帳面な字だし、お前らしい。竜次はこの薬をどうしたんだ?」
「どうしたって……質問の意図がわからないのですが」
意図がわからないのは竜次だけではない。ミティアもローズも、この時点では理解していなかった。
ケーシスはラベルを見せながら質問をする。
「こいつは本当にお前作ったものか?」
「えっ、そうです。いつか現場に復帰したときに使おうと、練習も兼ねて調合しました」
「材料とかレシピは覚えてるか!?」
ケーシスはいつの間にか竜次の鼻先に迫っていた。竜次は仰け反ってしまいそうになった。
話に熱が入ってしまい、ケーシスは我に返った。咳払いをし、続ける。
「大怪我をしたが、こいつを使ったら痛みが引くのが早かった。傷跡もほとんどない。妙だと思って食ったら、持病が少しよくなった。何を使っているのか聞きたい。この再生力は何だ?」
「何だと言われましても、ただの薬草です。あとは、加工の際に入れる防腐剤とか大したものは。と、いうか、食べ物ではないのですが……」
じれったい。ケーシスから焦りの色がうかがえた。
「じゃあ、その薬草はどこで採って来た?!」
「それは……」
場所を聞かれても、竜次には答えられない。何度も小さく首を振った。
「場所はわからないです」
聞いてケーシスが脱力する。だが、食い下がった。
「じゃあ、どこで仕入れた!?」
「いえ、仕入れたわけではないのです……」
「頼む、『壊す薬』があるんだから『治す薬』さえ揃えば、こいつを……サテラを助けられるかもしれないんだ!!」
父親にここまで頼み込まれるなんて思いもしなかった。竜次は何度も瞬き、俯く。
答えられないのは、本当に知らないからだ。
「あのぉ……」
こう緊迫した空気に口を挟むのは決まって彼女、ミティアだ。一応空気を読んで申し訳なさそうにしている。
「その、先生の傷薬ってジェフリーが採って来た薬草でしたよね?」
「ん? どうしてそれを?」
「だってわたし、そのおつかいから帰るときに助けてもらったと……拾われた方が正しいかもしれませんが、確かそうだったって聞いた記憶が……」
ミティアが記憶を遡って説明する。ヒントは見えたが、場所はやはりわからない。
「ジェフリーの野郎か……参ったな」
ケーシスは舌打ちをし、深くため息をついた。そして壁を殴った。よりによって、ジェフリーが絡んでいる。竜次ではどうしようもない。
「ジェフを呼んでくればもう少しお話が……この子のこともちゃんと話さないと」
「あいつはガキンチョじゃねぇか。サテラにいい顔しねぇ。俺だって姉ちゃんと一緒に行動していたんだ。反応はよくないだろう。人生が無駄になるようなつまらない嫉妬や喧嘩もするだろうし、あいつには邪念が多すぎる」
「だ、だいたい当たっているのが何とも……」
ケーシスは呆れ、竜次はフォローができないと嘆く。親子してこの反応だ。信頼関係がないのかと疑ってしまう。
ここでミティアが黙ってはいなかった。今度は真剣な表情で、二人の間に割って入った。彼女はときどきこの強さを見せる。
「わたしにやらせてください。わたしがジェフリーを説得します。きちんと話せば、きっとわかってくれるはず。人を見殺しになんてしないはずだもの!」
力強い発言だ。誤解を招く可能性はあるが、ミティアが言うのだから聞いてくれるはず。
そのミティアの肩に、ケーシスは腕を回し込んだ。
「姉ちゃんには惚れちまいそうだ。や、冗談だが、本当に感謝してる」
ここはキャバクラではない。竜次は距離が近いと憤慨した。
「お父様、馴れ馴れしいですよ!! それもジェフが嫉妬する原因になるんですっ!!」
「竜次だってホの字だったんだろうが?」
「か、からかわないでくださいっ!!」
竜次は古傷を抉るような指摘を受け、口を窄めた。彼も、こういうところが子どもっぽい。すぐむきになって、墓穴を掘るのだ。
半ばやけっぱちだったが、ケーシスも腹を括った。
「ジェフリーがサテラを助ける協力をしてくれるなら、俺は今までの悪行をどんなに責められてもかまわねぇ。どうせこの溝は埋まらねぇけどよ」
避けて来たものと向き合い、プライドを捨てるというのだから、並の覚悟ではない。
話がいい流れになって、竜次はカバンの中を漁った。
「調合する暇がなくて放置してしまったので乾いてしまっていますが、材料の残りです。あまり多くはないのですがこれも……」
小さめの麻袋と調合済みの傷薬を取り出した。この麻袋はジェフリーが持っていたものだ。竜次が受け取ってそのままだったもの。中身はジェフリーが摘んで来た薬草だ。
竜次が取り出したものは、麻袋だけではない。お手製の調合瓶も一緒に取り出した。
ケーシスの目の色が変わる。
「お前、この傷薬は道中で使ったのか?」
「えぇ、何度かは……」
問い詰められ、竜次がミティアとローズにも視線を送った。
一応、効力を疑っている。どちらかというと、副作用を。
「わたし、それで手当てをされたことがあります。傷の治りが早かった気がします。跡も残らなかったし」
ミティアは左の手の甲や膝をさすった。彼女は何度も手当てを受けている。
「でも姉ちゃんが持っていたのは使った痕跡がなかったよな、サテラ?」
ケーシスがサテラに確認を取る。開いていなかったのだから、ミティアが自身で使う機会がなかっただけなのだろうか。
「熱でちゃんと閉められていたので、瓶の蓋が開きづらかったの覚えています」
それだけの物だったのを知らなかったのか、はたまたミティアは本当に持っていただけだったのか。ケーシスとサテラの疑問に、ミティアは恥ずかしそうに答えた。
「先生と一緒が多かったから、わたしは本当にあの一つを預けられただけです。使うのがもったいなくて……」
まだ続きがあるのか、ミティアは一層恥ずかしい表情になった。
「わたし、ジェフリーに不器用って言われたから、人の手当てをしていないです。ちょっとした回復魔法ならサキもわたしも使っていたので、魔法ばかり頼っていました」
ミティアが傷薬を使っていなかった理由が把握できた。
説明を終えたミティアは竜次に謝った。
「せ、先生、ごめんなさい……」
「い、いえっ、その判断は意外と正しかったのかもしれません。使わなかったから、お父様の手に渡れて、こうして解決の糸口になれたのですから」
この美人で可愛いミティアに謝られ、悪い気はしなかった。竜次は苦笑しながらも、これも何かの巡り合わせだと自分の中で納得する。
「しっかし、こいつは見事にカラッカラだな。生えてるヤツがいいんだが、やっぱあいつに頼るしかないのか……」
ケーシスが麻袋の中でカラカラに乾いてしまっている薬草に苦笑いしている。摘み出そうにも、原形などない。このまま、薬味として料理にトッピングができそうだ。
ケーシスは薬草を指で摘まんですり潰した。
「時間が経過すると黒っぽくなるから仙草だと思うんだがな」
竜次は知らなかったと言う顔だ。お手製の、ただの傷薬である。これが市販の物や医薬品に勝るとは、想像もしていなかった。
ケーシスは瓶と麻袋を竜次に返し、立ち上がる。
「壱子、もう入っていいぞ」
ケーシスからの合図で、サテラが横になっているベッドの窓が叩かれた。閉じられたカーテンの向こうに燕尾服の人影。
「あぁ、鍵かけてたんだったな……」
ケーシスが窓を開ける。壱子は冷たい空気とともにベッドを跨いで入った。
「窓から入って来るなんて行儀が悪い女だな」
「はぁん、そんなこと仰らないでくださいませ。ケーシス様とわたくしの仲ではありませんか」
壱子の言葉の語尾にハートのマークでも付きそうだ。
一同揃って唖然とする。
壱子はにんまりと怖いくらいの笑みを浮かべる。
「お久振り、ではないのは竜次お坊ちゃんくらいでしょうか」
壱子は一同を見渡し、軽く会釈する。その次にポケットから厚手の封筒を取り出し、ケーシスに渡した。中はお金のようだ。
ケーシスはそのうちの何枚かの札を壱子に渡す。
「いつもすまねぇ。俺はギルドに行けないからな」
「いえいえ、でもわたくしはお金より、ケーシス様の新刊が読みたいのですがね」
壱子は涎でも垂らしそうな下品な笑いを浮かべている。ケーシスはうざったいと言わんばかりに封筒で頭を小突いた。
これが通常なら、この二人は奇妙な仲だが面白い。
竜次はこのやり取りを見て納得した。
「なるほど、先ほどのギルドでとある方の代理とはこれでしたか」
「申し訳ありませんでした。坊ちゃんに話すと、絶対会いたいとなってしまうと思いまして……」
壱子が言うのも仕方ない。必然的にそうなるだろう。仕事上、壱子は口が堅い。オンとオフがしっかりしているところは竜次も尊敬する。
「だいたいのお話は外から聞いておりました。ところでケーシス様、街中は大盛り上がりですよ?」
街中で何かあったのだろうか。一同は壱子の報告に耳を傾けた。
ただ、ケーシスはその報告を煙たがっていた。
「こっちもこれから忙しくなるぞ。お祭りならヨソで……」
「史上最年少の大魔導士候補さんが先ほど願書をお書きになったそうです。これはここ最近にしてはいい知らせですよね」
壱子が話した件は旅の一行の話だ。もちろん竜次も知っている。ローズはうれしそうだった。
ケーシスも例外ではなかった。
「ちょっと待て、ユッカとリズの息子だよな!? 腹を括ったのか……」
心なしかケーシスもうれしそうな表情だった。
願書を書いたと聞き、竜次もほっとした様子だ。
「キッドさんとジェフの三人でお金を持って行きましたね。問題なく、ちゃんと書けたならよかった」
うれしい反面、ケーシスはわずかに表情を曇らせた。
ローズはそれを見逃さない。
「ケーシス?」
「いやまぁ、ソッチの方が今は大切かもしれねぇなって……」
「んン? 別にいいのではないデス?」
「やー、俺は落ちた人間だから言えるけ扉の緊張感は何をしても味わえない。魔導士にとって一世一代のイベントだ。悪いが、コッチはコッチで何とかするしかないな……」
こちらも急ぐには急ぐ。だが、ケーシスは体験したからこそ、優先するべきものを見誤ってはいけないと諭した。
突き放すような発言に、ミティアが食い下がった。
「わたし、嫌です!!」
半ば諦めていたケーシスの腕に、ミティアが掴みかかった。
「欲張ってはいけませんか!? わたしは、サキの応援もしたいし、サテラも助けたい!! たまたま重なっただけで、どちらかを諦めるなんてしたくないです!! わたしにはどっちも大切だもの……」
本当は自分の体だって不安だろう。だが、ミティアはこういう人だった。
ミティアが訴える力強い思いが、ケーシスの諦めかけた心を引き戻した。同時に違う思いを抱いている。
「いやさ、ホント……この姉ちゃんと結婚していいか? 惚れちまうぞ、こんな女神」
そろそろ冗談に聞こえなくなった。竜次がまたも憤慨する。
「お父様、ダメです!!」
手を出された経験のあるローズは呆れて何も言えない様子だ。
壱子は禁断の愛に妄想を掻き立てられ、どこでもない空間に目をやっては幸せそうな表情をしている。この人は、何でも妄想資源にしてしまうのだろうか。
脱線しかけたところをサテラが声を上げる。
「ははは……本当に、お姉さんが言っていたように、面白くていい方ばかりですね」
その表情が和やかで、心が痛む。体が動かないだけで、この場の一員として会話を楽しんでいた。
ミティアは笑顔で言う。
「わたし、みんなにを紹介したいと思っているの。サテラはどうかな?」
「お父様が許してくださるのでしたら……」
もちろんケーシスがダメと言うはずがない。だが、くすぐったい。
「俺はこういうの、苦手なんだけどな。誰かと協力するってヤツは。けど、サテラのためなら何だってしてやるさ。歩み寄る努力はしよう」
父親としてのプライドをここで見るなど、思いもしなかった。
竜次は幼い頃を最後に、ケーシスを知らない。この親としての愛情は、ジェフリーにはまったく向けられていなかっただろう。
ミティアが頑張って説得すると意気込んでいたが、ジェフリーの説得は難航するかもしれない。竜次は口にしなかったが、そう思っていた。
三人は報告と相談のために宿に行くことにした。
壱子は礼をし、背筋を伸ばして言う。
「情報が揃い次第、わたくしは採取に向かいます。いつでも行けるように準備だけはしておきますのでご安心を。それまではわたくしがサテラの面倒を見ましょう」
見送りは壱子だけではなく、ケーシスもだった。
「俺もぶっ倒れねぇ程度に気張っとく。ローズ、最年長だろ。しっかり面倒見ておけよ」
ケーシスは家の前まで出て、軽く手を振った。
「竜次、姉ちゃんに変な虫がつかねぇように見張っておけ」
「お父様がすでに変な虫なのですが……」
竜次が軽蔑の眼差しで受け応える。この父親あってこその竜次かもしれないが、残念ながらまだ自覚はない。
竜次、ミティア、ローズの三人はケーシスたちと別れ、外の空気を吸う。
スラムの独特の臭いに鼻を刺激され、現実に引き戻された。
金に困った様子のないケーシスが、ひっそりと拠点にしていたなど知らなかった。身を隠すにはいいのかもしれない。目につかないように意識しているのだろう。
自分たちが旅をしている間に、何をしていたのだろうか。
「先生、ローズさんもごめんなさい。わたし、余計なことをしたかもしれないです」
帰りの道で、ミティアが二人に詫びた。詫びたところで、後戻りはできない。
ミティアは自分を助けてくれる要件を、蔑ろにしてしまったことが一番罪悪感を抱いた。ローズはそっとフォローを入れる。
「材料も駒も揃っているのデス。みんなでうまく動けばいいだけネ」
「そうですよ。ミティアさんは何も悪くない。自分より、誰かを助けたい思いでお父様やサテラによくしていたのでしょう?」
竜次もローズに同調する。落ち込みかけていたミティアを励ました。
ミティアは俯き、悲痛は表情を浮かべる。
「わたし、ああは言いましたけど、本当は自分だって怖いです。わたしもいずれサテラと同じになって、立てなくなって誰かに傍にいてほしくて、寂しい思いをするんだって。そんなの絶対に嫌……」
突然、ミティアは足を止めて泣き出してしまった。いつ自分もそうなるかわからないという、底知れない恐怖に震えている。
竜次は何を言っているのかと首を傾げた。泣き出してしまったミティアを慰めようにも、彼女の言葉の意味がわからない。
ローズがミティアを抱え、断りを入れる。
「先生サンにも話しますヨ?」
ローズの腕の中で、ミティアは何度か頷いた。さっきまで何にも負けないような力強さはない。気丈に振る舞っていても、内心は怖くて仕方なかったのだ。
以前泊った、馴染みのある噴水広場の近くの宿。今回は男女別室で取ったが、三人が帰って来る頃には日も沈んで辺りは真っ暗だ。
キッドとコーディはミティアが心配で、ロビーで帰りを待っていた。
「どこにもいないから心配したのよ!? どこに行っていたの?」
まずはキッド、次いでコーディ。
「ローズ、説明もなしにあんまりじゃない」
まずはこの二人の説得が必要だ。
竜次は男性部屋の場所を聞き、いったん女性陣の間を離脱した。竜次はもっと難しい立場だ。どれだけ緩和できるだろうか。
竜次は階段を上がって男性部屋の扉をノックする。すると、しょげた顔をしているジェフリーが出迎えた。
「あぁ……」
ジェフリーが言葉少なく身を引いた。部屋の中ですすり泣く声がする。
「ただいま。私が入って大丈夫ですか?」
竜次が尋ねると、ジェフリーは何も言わずに頷いた。こんなにおとなしいジェフリーは珍しい。いつもなら、どこに行ってたのかを怒鳴って来るだろうが、それどころではないようだ。
サキはベッドの上で壁を背に座ってすすり泣いている。プレッシャーに耐えられなくなって縮こまっていた。ベッドの下で圭馬とショコラが心配そうに見上げている。
サキは膝を抱え込んで、本当に子どものように見える。
竜次は腕を組んで悩む。これはジェフリーの手には負えないだろう。
「ん、なるほど。ジェフ、外に出ていなさい」
もはや、経緯の話など後回しだ。今のおとなしいジェフリーならケーシスの話を聞いてくれるかもしれない。だが、それよりもサキのメンタルが重篤だ。
ジェフリーは圭馬とショコラを摘まみ上げ、部屋を出て行った。いつもこれだけ素直だと、どれだけ世話を焼かずに済むだろうか。反抗的なジェフリーがおとなしく従ったのが珍しい。
竜次はまたも重役になるとは思いもしなかったらしく、少し戸惑った。
とりあえず部屋をぐるりと見ると、スタンドのケトルにお湯が沸いているが、まだお湯が残っていた。ジェフリーが自分だけ何か飲んだ痕跡がある。
竜次はこの宿には沙蘭の抹茶が備えつけられていたはすだと思い出し、棚からカップを二つ取り出して淹れ、サキに一つ差し出した。
「私が淹れたのでおいしくないかもしれませんが……」
立場上、竜次はあまり自分でお茶を淹れない。自信はなかったが、ちょっとした心遣いだ。落ち込んでいるサキは受け取らないと思ったが、竜次からだと知って何度も瞬き、カップを受け取った。
竜次にとって幼い子どもを相手にするみたいな感覚だ。さらに歩み寄りを見せる。
「ここ座りますよ? 失礼しますね」
有無を言わせない言い方だったが、決してこれは失礼ではない。一応許可を取っているのだから。
竜次はサキが座り込んでいるベッドの脇に腰かけた。
「さて、どうしたんですか? 未来ある若者が、そんなに小さくなって」
あえて気さくな話し方をする。いつもと違う態度に、サキが反応した。
「先生らしくないですね……」
警戒をしている感じではない。サキは足を少し崩してお茶を口にした。
「けほっ……ゔっ……」
正直なリアクションに、竜次が笑い飛ばした。
「あっはは……はい、交換」
「い、いいです!! 先生わかっていていじわるしたんですか!?」
サキに渡した方には抹茶がたっぷり入っている。このちょっとしたからかいに、サキの緊張はわずかに解けた。
この医者はお茶を淹れるのが下手だ。きっと、わざとではなくともおいしいお茶など期待してはいけない。
竜次はにっこりと営業スマイルを見せた。悪い印象を抱かないのが憎らしい。
「いじわるではありません。話しやすくなったでしょう?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべている。だが、竜次も自分のお茶を口にして、苦笑いをした。
「おや、薄い……」
要するに、マトモにお茶も淹れられないダメな大人。それを自身で皮肉り、笑った。
「しっかりしているつもりでも、私はまだまだ迂闊でダメダメですねぇ」
励ますつもりが、これでは勝手に滑って勝手に凹んでいる、いわゆる『イタイ』人だ。
竜次の空回りは今に始まったことではないが、これに迷惑しない皆も優しい。
「先生?」
「うぅ、力不足でしたらクレアにでもお願いしましょうか?」
「いえ、そうじゃなくて、先生に質問があるんです」
サキは竜次に対して質問があると言った。これがどんなにうれしいことか、竜次は目を輝かせた。これではどちらが励まされているのかわからない。
「ど、どうしました?」
気持ちを自制しているが、珍しく頼られて冷静ではない。そんな竜次にサキは抱え込んだ気持ちを告白した。
「僕たちは竜次さんを『先生』と呼んでいます。それって、失礼ではないですか? 本業ってお医者さんではなく、沙蘭の……その、偉い人というか……」
サキから『竜次さん』と呼ばれ、驚いた。同時に特別視されていたと意外に思った。
「おや、サキ君は私をそんな風に見てらしたのですか?」
「た、多少です!! やっぱり、目上の方なので、失礼じゃないかなって」
「それって、サキ君がもっとも嫌がっていた『特別』ってやつじゃないですか?」
「そ、そんなつもりは! えっと……」
とんだ跳ね返りがあり、サキが追いやられている珍しい状況だ。
「私を目上に見なくていいですよ。私たちにとって特別なのは誰でもない、このまとまった仲間の存在ではないですか? だから、特別に見たいなら、みんな特別です」
竜次にしてはちゃんと筋の通った言葉になった。さらに自信満々に言う。
「偶然の出会いは必然であり、運命だと言ってもいいでしょうね。もちろん、いい意味で、ですよ?」
人差し指を立て、鼻にかかるような言葉遣いだ。言っている内容はまだしも、竜次がにこにこと笑う。
サキは嫌な予感がし、苦笑いをした。
「もしかして、僕のまねですか?」
「似ていましたか?」
先ほどまで気落ちしていたサキが笑顔を見せた。
「まぁまぁですかね」
「それはよかった。もっと褒めてくださいな」
「もっと褒めてもいいんですよ、です。もー……先生は人を励ますのが下手ですよね」
「うぐっ、気にしているのに……」
謎の攻防が始まり、変な空気になった。だが、サキが少しでも元気になってくれて安心した。このまま自分に負けてしまったらと思うと、竜次がした気遣いは責任重大だ。
「緊張は和らぎましたか?」
「少し……」
「えぇっ、す、少し!?」
自信があったのに、励ますのが下手と言われ、そして気持ちが落ち着いてくれたかというと、実は少しだった。
竜次がいけない。空回りもして、迷惑になってしまった。
サキはカーテンから外を覗いた。この様子は、おそらく人の視線を気にしている。
竜次はありきたりだが、見ないように促した。
「あぁ、気にしてはいけませんよ」
「でも、そんなに騒ぐようなことではないはずです。やっぱり、僕がこの街では嫌われているからなのでしょうか。名前的に……」
サキはチェストにカップを置いた。律義な彼は、口に合わない苦い茶を全部飲んで竜次に頭を下げた。
「ごちそうさまでした」
下がったままのサキの頭を、竜次が撫でる。
「えっ?」
サキは固まったまま困惑の声を上げる。
竜次はサキの頭を撫でていた。髪の毛がぐしゃぐしゃになるような撫で方だ。
「クレアやジェフがよくこうしていたなぁって……嫌ですか?」
「えええええええええ……」
サキの髪の毛がくしゃくしゃになった。
本当に竜次の空回りがすぎる。サキの顔は恥ずかしさのあまり真っ赤だ。
「サキ君は嫌われてなんていませんよ」
「えっ?」
メルシィにも言われたが、サキもそのことがずっと気になっている。
竜次は自分の視点で思っていることを言う。
「サキ君、あなたは人一倍、ううん、それ以上に頑張って今を築き上げた。周りが認めてくれた。だから今は周りから期待されている。自分で手にした権限です。特別なんて言葉では済まされない。そりゃあ、万人受けするわけではありません。嫌がる人もいるでしょう。それは国のトップになるのも同じです」
具体的な例を挙げて言う。それであえてもう一度励ました。
「あまり自分を低く見ないでください。私が言ってもしょうがないかもしれませんが」
今日一番にいいことを言ったかもしれない。人を諭すのは難しい。
それでもただの『特別』ではないと伝わってくれた。彼自身が築いたものなのだから、誇りを持ってもらいたい。
「先生、ありがとうございます。僕にこんなにも、よくしてくれるなんて……」
サキはまた泣き出してしまいそうだ。
竜次が次は何と言おうか悩んでいる。その頃合いで、ノックもなしに乱暴に扉が開かれた。
血相を変えたジェフリーが立っていた。
「兄貴、来てもらっていいか!?」
緊急で呼び出される心当たりはある。
竜次もサキも嫌な予感を胸にジェフリーについて行った。
宿の中に設けられていた休憩スペースで、ミティアが蹲っている。何かを買いに来たのか、散歩をしていたのか、一人だった。
竜次がミティアの細い手首を掴む。顔色をうかがい、脈を診ているようだ。
「ミティアさん!!」
必要以上に取り乱さない竜次に何かを察したのか、サキは別の方へ走って行った。
「僕、何か飲み物を……」
一番心配をしているのは、何も知らないジェフリーだった。
ミティアの足元で、圭馬とショコラも心配そうに見上げている。この二匹にはすでにミティアの話が回っている。こうも衰退が頻繁になると、気になってしまう。
竜次はジェフリーを見上げる。
「ジェフ、何かしましたか?」
「兄貴、そんな冗談を言ってる場合じゃ……」
あえていつものように振る舞った。何もなければ、茶番が始まりそうな展開だ。
ミティアはすぐに立ち上がった。だが、どうも顔色が悪い。
「ご、ごめん……貧血だから」
壁に寄りかかって深呼吸をしている。すべてはジェフリーに打ち明けたくないため。
ミティアは、自分は大丈夫である空気を作ろうとしている。竜次はその思いを汲み取った。
「ミティアさんの脈は普通でしたよ?」
ジェフリーは不審に思っている。その頃合いで、サキがぱたぱたと戻って来た。手には紙パックのジュースが見える。
「ミティアさん、どっちがいいですか? リンゴジュースと……」
「こ、こっちっ!!」
ミティアがサキの手から取ったのはリンゴジュースではなく、『鉄分たっぷり』と書かれたプルーンが描かれたジュースだった。
その場でストローを通して早速飲んでいる。しかも、おいしそうに……。
ジェフリーは疑いを持った。
「本当に大丈夫なのか?」
ミティアは口を窄めたまま頷いた。タツノオトシゴのように可愛らしい。
竜次はここぞとばかりにそれらしいことをジェフリーに言う。
「女性の貧血って大変なんですよ?」
その言葉に対し、圭馬が鋭い指摘を入れた。
「お兄ちゃん先生、不特定多数の人がいるここで保健体育の話はやめよう」
「そ、そうですね……」
竜次は咳払いをした。そのままサキに目を向けると、何も言わなかったが目が合った。こういうところだけは察しがいい。お互いに空気が読めると言ったところか。
サキはこの空気を打開するようにある提案を持ちかけた。
「せっかくですし、晩御飯食べに行きましょう。そしたら、僕もミティアさんも元気になれると思います」
サキはミティアだけではなく、自分も含めた提案をする。
ジェフリーは渋りながら納得した。
「サキはもう丈夫なのか?」
「へっ? 僕なら切り替えました」
あまりにけろっとしているのでサキの態度を不振がった。完全にミティアの心配から気が離れている。
ミティアは竜次を見上げた。この様子だと、まだジェフリーにケーシスの話をしていないと察する。
「私はサキ君の緊張を解くので精いっぱいだったのですよ。これから、いろいろと話さないといけませんけれど……」
竜次が表情を渋めた。ミティアの体調も心配だが、違う心配もある。
「うーん、実はジェフにもサキ君にも重要な話があるのですが、話していいのでしょうか? 勉強の邪魔にならなければいいのですが」
除け者にするつもりはないのだが、サキにとって今は大切な時期なのに、いいのだろうかと変な気回しをしてしまう。
ところが、サキはキョトンとしていた。
「どうせ筆記なんて勉強しなくてもパスします。問題は実技ですから」
大した自信だ。先ほどまで、押し潰されていた同一人物とは思えない。
「実技は閲覧者がいますので、教師や在校生も見に来ます。そんな中で緊張しないなんて無理です。その実技試験の方が、緊張でもうおかしくなりそうです」
三分で二百の魔法と言っていた。単純に計算しても、秒換算で数がおかしい。
難しい話になりそうな流れで、ミティアが皆の顔色をうかがった。
「お腹空いた……」
ジェフリーが反応した。皆が揃ったし、懸念事項も解決に向かった。
話があると聞き、ジェフリーは収拾を試みようとする。
「あぁ、メシ……そうだな。キッドたちにも何を食いたいか、聞いて出よう」
ジェフリーの提案は外で食事をするものだった。それを聞き、竜次が待ったをかけた。
「あ、ジェフ、外に出るのはやめましょう。野次馬がいるかもしれませんし」
「あー……そうか。宿で済ますなら、もう時間的に軽食しか食えないけど」
気が付いたらずいぶんと夜が深くなっていた。ほどほどにして休まないと、明日に支障が出そうだ。
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