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王太子の言い分
「ただ見逃してほしいのです。いつかご恩はお返しします」
「無かった事には出来ない」
「ルリアちゃんを知らない所に一人で行かせることは出来ないよ」
二人は私が国から出て行こうとすることを許してくれない。
「何故ですか?今ならまだ間に合います。私のせいでこの国に迷惑を掛けることはしたくないのです。お願いですから今すぐここを発たせて下さい。私もこの国との関わりは一切口にいたしません。ですから」
「そなたを助ける方法がひとつだけある」
「え?」
漆黒の瞳がキラリと光る。
「この国で働きたいと言ったな?」
「‥はい。市井で働きながら静かに暮らそうと思って来たのです」
「なら俺の為に働いてもらおう」
「⁈どういうことでしょうか」
「俺の婚約者になってもらいたい」
一瞬の沈黙の後‥‥
「は?」
全員が同時に大きく口を開く。
「で、殿下!何を仰られているのですか!!」
「殿下!殿下!お待ち下さい」
側近と侍従は王太子に駆け寄ると両腕をがっちりと掴み、ゆさゆさと揺らしながら叫びだした。
見るからに不敬極まりない態度だが、この場合致し方ない。
あまりに突拍子もない発言なのだから。
「やめろ!手を離せ!!」
二人の手を鬱陶しそうに振り払うと、
「俺の婚約者になれば、万が一そなたの国の者が連れ戻しに来ても、我が国からは簡単に連れて行くことが出来ないだろう。私が全力で守ってやる。その代わり私の妃となってもらう」
「お断りします」
「何故だ」
「殿下!殿下!ちょっとお待ち下さい!落ち着いて下さい」
「落ち着くのはお前達の方だろう。私は冷静だ」
「いや、だって殿下!婚約者候補が二人に絞られたばかりですよ!」
「候補だろう。関係ない。今婚約者が決まった」
「お断りします」
「何故だ」
同じこと繰り返してますけど‥‥
横暴な人ね。
「先程申しました通り、私は婚約を解消され、望まない相手との結婚から逃げてきたばかりの身でございます。今ここで王太子殿下の婚約者になるなど、恐れ多いことでございますし、婚約者の方が決まっておられるようですから」
正直に言えば、冗談じゃない。
なぜ逃げた先で、誰よりも目立つ立場にならなきゃいけないの。
どうしてこんな人に見つかってしまったのかしら‥‥
自分の運命を呪うことばかりだわ。
とにかく、揉め事にこれ以上巻き込まれるのは避けなきゃいけない。
「ベルラード王太子殿下。私も侯爵家の人間として、殿下の婚約者候補が、メアリー•フォルター公爵令嬢、アンナ•サーヴァン侯爵令嬢のお二人に絞られたと聞いております。」
「ヨハン、候補を選んだのは俺ではない。親の売り込みが陛下に上手かっただけではないか。全く俺はその二人には興味が無い」
「ですが国王陛下が選ばれたのなら、ルリアちゃんをそこに巻き込む必要はないのではありませんか?」
ヨハンさんは私の為に必死になってくれている。
申し訳ないわ‥‥
「たかが侯爵子息であるお前が、俺に意見するのか?身の程をわきまえない奴だな」
王太子は苛立ちを隠せないように、中指でトントントントンとテーブルを軽く叩くと睨み付けた。
「いえ、ただ事実を述べたのです。ルリアちゃんは、」
「おい!ヨハン!!気安く呼ぶな。俺の妃になるのだぞ」
「お断りしたはずです」
なんて身勝手で傲慢な人なの。
この国にもライナのような人間がいるのね。
「断る選択があるだろうか。断るならそなたをアルンフォルトへ渡さねばならないだろう。そうすれば、逃亡に携わった者達は皆罰を受けることになる。ヨハンのモーガン侯爵家もきっと処罰を受けることになるだろう。善良な者達が、そなたと関わったせいでアルンフォルトで裁かれることになるかもしれない。モーガン侯爵家もお取り潰しとなるかもしれない」
「そんな!!彼らには何の罪も無いことです。私だけの問題です」
「アルンフォルトの王はその意見を認めるか?」
「国王はお優しい方です。きっとわかってくださいます。しかし‥‥王妃様は私を裁く機会を待っているはずです。王妃ライナは私を極刑に処することを望んでいるのです。ですから私は、」
「ならば王妃は必ず関わった人間も同じ刑にするだろう。皆の命が危ないな。我が国も良好な関係を築く為、極刑に賛同しよう」
「王太子殿下は、私を脅しているのですか?婚約者という立場を受け入れなければ、王妃側に付くということでしょうか」
「どう解釈しても構わないが、婚約者になってくれるのなら、俺が全力で皆を守ることを誓おう。そなたを後悔させることはないと約束する」
黒い瞳は全てを飲み込むような漆黒の闇。
何処まで深く私を飲み込むのか‥‥
彼は目を逸らさず私を真っ直ぐ見たままだ。
私も同じように目を逸らさない。
しんと静まり返り誰かのゴクリと唾を飲む音さえ響く。
お互いが表情ひとつ変えずに睨み合う姿は、とても婚約者になろうとする者とは思えない。
まるで今にも戦が始まりそうな程の緊張が高まる。
彼は卑怯だわ。
私を助けてくれた人達を人質にして、私に選択肢を与えないなんて‥‥
こんな男の婚約者?
逃げて来た意味がないじゃない。
あの時、ヨハンさんの後を追わなければ‥
フェルネスさんの忠告を聞いていれば‥
ラヌー語を話さなければ‥
頭の中は後悔が山積みだ。
けれど、私を助けてくれた人達を犠牲にすることはできない‥‥
どうしたらいいの‥‥
「無かった事には出来ない」
「ルリアちゃんを知らない所に一人で行かせることは出来ないよ」
二人は私が国から出て行こうとすることを許してくれない。
「何故ですか?今ならまだ間に合います。私のせいでこの国に迷惑を掛けることはしたくないのです。お願いですから今すぐここを発たせて下さい。私もこの国との関わりは一切口にいたしません。ですから」
「そなたを助ける方法がひとつだけある」
「え?」
漆黒の瞳がキラリと光る。
「この国で働きたいと言ったな?」
「‥はい。市井で働きながら静かに暮らそうと思って来たのです」
「なら俺の為に働いてもらおう」
「⁈どういうことでしょうか」
「俺の婚約者になってもらいたい」
一瞬の沈黙の後‥‥
「は?」
全員が同時に大きく口を開く。
「で、殿下!何を仰られているのですか!!」
「殿下!殿下!お待ち下さい」
側近と侍従は王太子に駆け寄ると両腕をがっちりと掴み、ゆさゆさと揺らしながら叫びだした。
見るからに不敬極まりない態度だが、この場合致し方ない。
あまりに突拍子もない発言なのだから。
「やめろ!手を離せ!!」
二人の手を鬱陶しそうに振り払うと、
「俺の婚約者になれば、万が一そなたの国の者が連れ戻しに来ても、我が国からは簡単に連れて行くことが出来ないだろう。私が全力で守ってやる。その代わり私の妃となってもらう」
「お断りします」
「何故だ」
「殿下!殿下!ちょっとお待ち下さい!落ち着いて下さい」
「落ち着くのはお前達の方だろう。私は冷静だ」
「いや、だって殿下!婚約者候補が二人に絞られたばかりですよ!」
「候補だろう。関係ない。今婚約者が決まった」
「お断りします」
「何故だ」
同じこと繰り返してますけど‥‥
横暴な人ね。
「先程申しました通り、私は婚約を解消され、望まない相手との結婚から逃げてきたばかりの身でございます。今ここで王太子殿下の婚約者になるなど、恐れ多いことでございますし、婚約者の方が決まっておられるようですから」
正直に言えば、冗談じゃない。
なぜ逃げた先で、誰よりも目立つ立場にならなきゃいけないの。
どうしてこんな人に見つかってしまったのかしら‥‥
自分の運命を呪うことばかりだわ。
とにかく、揉め事にこれ以上巻き込まれるのは避けなきゃいけない。
「ベルラード王太子殿下。私も侯爵家の人間として、殿下の婚約者候補が、メアリー•フォルター公爵令嬢、アンナ•サーヴァン侯爵令嬢のお二人に絞られたと聞いております。」
「ヨハン、候補を選んだのは俺ではない。親の売り込みが陛下に上手かっただけではないか。全く俺はその二人には興味が無い」
「ですが国王陛下が選ばれたのなら、ルリアちゃんをそこに巻き込む必要はないのではありませんか?」
ヨハンさんは私の為に必死になってくれている。
申し訳ないわ‥‥
「たかが侯爵子息であるお前が、俺に意見するのか?身の程をわきまえない奴だな」
王太子は苛立ちを隠せないように、中指でトントントントンとテーブルを軽く叩くと睨み付けた。
「いえ、ただ事実を述べたのです。ルリアちゃんは、」
「おい!ヨハン!!気安く呼ぶな。俺の妃になるのだぞ」
「お断りしたはずです」
なんて身勝手で傲慢な人なの。
この国にもライナのような人間がいるのね。
「断る選択があるだろうか。断るならそなたをアルンフォルトへ渡さねばならないだろう。そうすれば、逃亡に携わった者達は皆罰を受けることになる。ヨハンのモーガン侯爵家もきっと処罰を受けることになるだろう。善良な者達が、そなたと関わったせいでアルンフォルトで裁かれることになるかもしれない。モーガン侯爵家もお取り潰しとなるかもしれない」
「そんな!!彼らには何の罪も無いことです。私だけの問題です」
「アルンフォルトの王はその意見を認めるか?」
「国王はお優しい方です。きっとわかってくださいます。しかし‥‥王妃様は私を裁く機会を待っているはずです。王妃ライナは私を極刑に処することを望んでいるのです。ですから私は、」
「ならば王妃は必ず関わった人間も同じ刑にするだろう。皆の命が危ないな。我が国も良好な関係を築く為、極刑に賛同しよう」
「王太子殿下は、私を脅しているのですか?婚約者という立場を受け入れなければ、王妃側に付くということでしょうか」
「どう解釈しても構わないが、婚約者になってくれるのなら、俺が全力で皆を守ることを誓おう。そなたを後悔させることはないと約束する」
黒い瞳は全てを飲み込むような漆黒の闇。
何処まで深く私を飲み込むのか‥‥
彼は目を逸らさず私を真っ直ぐ見たままだ。
私も同じように目を逸らさない。
しんと静まり返り誰かのゴクリと唾を飲む音さえ響く。
お互いが表情ひとつ変えずに睨み合う姿は、とても婚約者になろうとする者とは思えない。
まるで今にも戦が始まりそうな程の緊張が高まる。
彼は卑怯だわ。
私を助けてくれた人達を人質にして、私に選択肢を与えないなんて‥‥
こんな男の婚約者?
逃げて来た意味がないじゃない。
あの時、ヨハンさんの後を追わなければ‥
フェルネスさんの忠告を聞いていれば‥
ラヌー語を話さなければ‥
頭の中は後悔が山積みだ。
けれど、私を助けてくれた人達を犠牲にすることはできない‥‥
どうしたらいいの‥‥
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