【完結】逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

文字の大きさ
80 / 93

戴冠の間10

カイトの覚悟が怖くなった‥‥

これは間違いなく毒の入った物だ。
バロンが用意したのだから偽物のはずがない。

思わずカイトの袖を掴む。
しばしの沈黙‥‥
あの事故がなければ、私は彼の妻となっていた。
彼が私をこんなに想ってくれていたなんて知らずに別れてしまったけれど、もし‥‥もっと早く、婚約者であった私が彼の想いに気付くことができたなら、こんな苦しみに歪んだ顔を見ることはなかったのかもしれない。
私は自分のことしか考えていなかった。

「飲むふりだけでいいから‥‥」

そう呟いた私に、

「真実を知りたいのは私の方だ」

その直後、小瓶の蓋を開けカイトは一気に口に入れた。

「やめろー!それは毒だ!!」

ライーズ・ブロイドの大声が響いた。

プハッ‥ゴホッゴホッ
その声にカイトは口から吐き出したが、口に残っている毒に咳き込み倒れた。

「カイト!!」

慌てて抱き抱えると、そこへ騎士に扮したバロンが駆けつけ、口に水を流し入れ何度も吐き出させた。
それは流れるような慣れた手つきで、メイド役の彼女達も床に吐き出された毒を綺麗に拭き取る。
何事も無かったかのように処理をする彼らの無駄のない動きは、日常的にこの様な仕事をしている証拠でもある。
このような影の働きによって王家、王族、そして国は護られているのだと改めて実感させられる。

「あらかじめ薄めておきましたので、命に別状はないと思います」

「ありがとう‥‥」

バロンは頷くと、咳き込み続けるカイトを二人がかりで抱えるように出て行く。
カイトの苦しそうな声が小さくなって扉はバタンと閉められた。

命に別状がないならよかった‥‥
バロンはこうなることも見越していたのね。

「はっ‥‥
自分の息子に足をすくわれるとは‥‥
なんたる不覚‥‥」

両手をつきライーズは項垂れた。

「あなたが全て企んだことだったのね」

「お前達が‥‥お前達が悪いのだ。
この格式ある王家を冒涜し崩壊させた。
ブロイド家が陰日向となり支え、ここまで繋いできた神聖な血を‥‥絶やすなどと」

「あなたが父の命を奪ったんじゃない!」

「ヴィルドルフ陛下には何度も側妃を娶るように進言してきた。
王家の世継ぎの王子を生まなければならないと、何度も何度も‥‥
それなのに娘一人しか生むことのできない妃をあんなに溺愛し、挙げ句の果てにはアリアン王妃が産めないのであれば王子はいらないなどと言った‥側妃は決して娶るつもりはないと。
一国の王が世継ぎをいらないなどと許される発言ではない!!
自分の立場も放棄し、受け継がれてきた王家の歴史も蔑ろにする陛下は許せなかった!
あんな小国の田舎娘を妃にし、この国を侮辱し、王家の権威を失墜させた‥‥
あの女さえ来なければ!
お前の母親は側妃の娘だ。
自分の国でさえ疎まれていた娘を、なぜ我が国の王妃などにしなければならないのか、私の悔しさがわかるか?
私はヴィルドルフ陛下には、家柄も血筋も、王家の世継ぎを生むに相応しい令嬢を選んで引き合わせてきた。
だというのに、連れてきたのは他国の娘。
我々を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

ライーズはタガが外れたように抑えてきた感情をぶちまけた。
怒りの収まらないその様子を見ながら、私の中で込み上げたものは、同じ怒りの感情ではなく哀しみの感情だった。

父が母を選んだことがこんなにも憎まれていた。
あれほど愛し愛される仲の良い二人だったのに、認められることなく疎まれていた。
それは私も同じこと。
娘であったことで、殺意さえも芽生えさせていた。

私が男だったなら、母は認められたのだろうか‥‥
私が男だったなら、必要とされただろうか‥‥
私が男だったなら、父は今も生きていただろうか‥‥

ライーズの止まらない怒りの言葉が耳に入らないほど、私は自分の存在理由がわからなくなった。

「バンホワイトの娘のライナも王家の血を継がない平民の子を生んだ。
平民の子を王位に就けるなど虫唾が走る。
こんな奴らが王家にいるくらいなら、ブロイド家が王家を継いだ方がいいにきまっている!我が家は王家の血筋だ!
ブロイド家の血が受け継がれているのだから、ブロイド家こそ正統だ!
そうだろう?何が間違っている!
悪いのは私ではなくお前達だ!!」

「何ですってライーズ!
あなた私達を騙したのね?
マルクスを王位に就けてやると言ったのに、私達まで引き摺り下ろすつもりだったのね、なんて男なの」

「うるさい黙れ!この役立たず!
鉱山の子を生んだことがどれだけ罪の重いことかわかってるのか、恥を知れ!
王家にとって最も大切な血脈を守ることもできずに何が王族だ!笑わせるな」

罵倒し合うその姿は醜いものだが、本を正せば私が女として生まれてきたことが悪いのではないかと思えた‥‥

「おい!これ以上は聞いていられない。
自分の犯した罪を正当化するな。
お前は自分の歪んだ考えでルリアの両親の命を奪った。
王の暗殺を企てるなど、どの国だろうと極刑だ」

「はっ、よそ者の王子が口出しなどするな」

「何と無礼な!
ルリアがどれほど辛い思いをしたか分かってるのか?」

怒りに震えたベルラードにライーズは笑い声を上げた。

「ははははっ、さすがは親の子。
他国の王子をもう誑かしたか?
お前の母親と同じだな!
ダルトタナードもこの女に惚れると潰されるぞ」

私の顔を見て嘲笑う。

「貴様!何たる無礼、よくも」
「お兄様!それ以上の発言はおやめくださいませ。
ここはアルンフォルトですのよ!」

マリーが興奮するベルラードを諫める。

「ですが、兄も私も他国とはいえ王族の身。
そちらの公爵の態度は私達への侮辱でもあります。
こちらの女王陛下は随分と寛大な心をお持ちですのね。
こんなにお優しい女王陛下でなかったら、今頃公爵の命はなかったでしょう。
女王陛下?
王とは優しいだけでは務まりません。
それはどの国であろうと同じことですわ」

マリーにチクリと釘を刺される。

自分の感情に引っ張られ、思い悩む時ではない。
国の王として、今私がやるべきことは解っている。
女に生まれたからなどと自分を責めている場合ではない。

マリーの冷静さに頭が下がる。
やはり以前にマリーに言われたように、私は感情が先行しすぎるタイプだ。
きっと‥‥人の上に立つ人間には向いてない。
そういえば、マルクスにも向いてないと言われたわね。

そんなの私が一番よく知ってるわ‥‥

それでも、今は私がやるしかない‥‥

やり場のない気持ちを抱えて私は一度目を瞑り深呼吸をした‥‥。
感想 0

あなたにおすすめの小説

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました! レジーナブックス様から書籍が4月下旬に発売されます!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

【完結】今さら執着されても困ります

リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」 婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった―― アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。 いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。 蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。 ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。 「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」 ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。 彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。 一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。 ・全体的に暗い内容です。 ・注意喚起を含む章は※を付けています。

【本編完結】初恋のその先で、私は母になる

妄夢【ピッコマノベルズ連載中】
恋愛
第19回恋愛小説大賞にて、奨励賞を受賞いたしました。読者の皆様のおかげです!本当ありがとうございます。 王宮で12年働き、気づけば28歳。 恋も結婚も遠いものだと思っていたオリビアの人生は、憧れの年下公爵と一夜を共にしたことで大きく動き出す。 優しく守ろうとする彼。 けれどオリビアは、誰かに選ばれるだけの人生を終わらせたいと思っていた。 揺れる想いの中で、彼女が選んだのは―― 自分の足で立ち、自分の未来を選ぶこと。 これは、一人の女性が恋を通して自分を取り戻し、母として、そして一人の人間として強くなっていく物語。 ※表紙画像はAI生成イラストをつかっています。