【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子

文字の大きさ
3 / 21

殺人的な色気

しおりを挟む
「あら?ライド様?
こんなところでお会いできるなんて嬉しいですわ」

正面から歩いてきたのは侯爵家のシェリー様だった。

「やぁ、どうも。シェリー嬢」

「昨日は素晴らしい夜会でしたわ。
ライド様が国にお戻りくださって本当に皆様喜んでおられますのよ」

「それはどうもありがとう。
大勢の方に参加いただいて感謝していますよ」

シェリー様は扇をバッと広げ口元を隠すと、

「そちらは‥‥ミリディ様でいらっしゃいますのね」

と、横目でチラリと見られて目が合う。

「ええ。
今日はミリディ嬢と買い物をしようと思い、久々の街歩きを楽しむつもりです」

「まぁ!ライド様が?
あの、でしたらぜひ私とご一緒いたしませんか?」

シェリー様はライド様にすり寄る。

「お誘いは嬉しいですが、今日はミリディ嬢と二人で出掛けることに決めていますので。
では失礼」

何も言えないでいる私の手を握り歩きだす。
シェリー様に睨まれながら私はその場を後にした。

「ライド様‥‥あの。いいんですか?」

「ミリー!
勝手に離れるなんてもうやめて欲しいな。
今日は一緒に出掛けようと言ったはずだよ!
ミリーは昔から足が速いから追いつくのは大変なんだ」

「‥‥」

逃げ足だけは速い方だ‥‥。

揶揄うように笑い、一度頭をポンと叩く。

「スーザンに今人気のパン屋を聞いたんだ。
まずは食べてから買い物をしよう」

「‥‥」

誰よりも目を引くライド様と、昨日の夜会で三度目の破談となった私は歩いているだけでも注目を集める。

ここは貴族御用達の店が立ち並ぶせいで令嬢達が多い。
美しい貴公子を知らない者などいないし、すでに私も有名人だろう‥‥。

「私は何も気にならないよ。
ミリーと一緒にいられるだけで私は幸せだからね」

どこまでも優しく、そのうえ甘い声で言われると心臓に悪い。
ライド様の婚約者は幸せ者だ。
こんなに優しくて、こんなに格好良くて、しっかりしていて優秀で、欠点など見当たらない完璧な貴公子だもの。

妹として可愛がってもらえるだけ感謝しなければいけない。
兄と仲が良かったことで私もよく公爵家を訪れた。
三つ年上のライド様は、幼い頃から私をいつも気に掛けてくれた。
公爵家ではスーザンさんや執事のトーマスさんもとても親切だった。

よく友人達からは羨ましがられ、時には嫌がらせも受けていた。
けれど、ライド様といられることの方が嬉しかった。

大きくなってからも時々兄に会いに我が家を訪れ、父や兄との交流を続けてこられたライド様。
私にもお気遣いくださり、贈り物もよくいただいた。

私の一人目の婚約者が決まるのと同時期にライド様は隣国へ行くことになり会えなくなった。
けれど一度目の破談となったきっかけの夜会には、王家主催の大きな夜会だった為お戻りになっていた。
その為、あの時もすぐに駆け付けてくださり慰めてくださった。
そういえば‥二度目もちょうどライド様が国に休暇として戻ってこられた時だった。

あの時は兄の友人である伯爵令息の誕生会が開かれていて、伯爵令息のウィリー様と共に私は参加していた。
ライド様もご友人であることから祝いに駆け付けたと仰っていたけれど、あんなことになり‥‥
その時もライド様は私を心配して一番に慰めてくれた。

私ったら毎回ライド様に恥ずかしいところを見られてるのね‥‥。

「ミリー?どうした?」

店で向かい合うと緊張して余計に恥ずかしさが増す。

「私、ライド様に恥ずかしいところばかり見られてるなって、‥思って」

テーブルに置かれたチーズとベーコンのホットサンドに目線を下ろす。

「ははは、ミリーはいつからそんなに遠慮するようになったのかな?
昔みたいにもっと甘えてくれていいよ。
私はミリーにもっと頼りにしてもらいたい、困ってる時は私を利用すればいい」

!!
「利用だなんてっ!」

「ミリーが恥ずかしいと思う必要は何もない、だってミリーは悪くない、そうだろう?
あの婚約者がミリーを大切にしなかったせいだ。
さぁ、もう終わったことだよ。
気にするのはやめよう」

ライド様はとろりとチーズがのびたホットサンドを食べるとうんうんと頷いた。

「スーザンがすすめるだけあって美味いよ、ほら!」

私も熱いうちにいただく。

「んー!美味しい、このチーズすっごく美味しいです」

はははっ
声を出して笑うライド様の姿を店の中の女性達が全員見ている。

‥‥これはまた‥どんな噂が広まるかしら。

少し怖い気がしたが、久しぶりに昔に戻ったようにライド様と話せて笑い合えたことは素直に嬉しかった。

「ほら、口の端についてる」

指で私の唇を拭うと、その指をペロリと舐める。

「‥‥」

この色気は殺人的だ。

キャー!と店の中で女性達が声を上げた。
皆がライド様を見ていたようだ。
一際目を引くライド様の行動は何もかもが絵になってしまう。

こんなに格好良くて、こんなに優しくて
‥‥
一日に何度思うだろう。
どれだけ思っても足りないくらいに本当に素敵な人だ。

今の私に声を掛けてくれる人なんて、ライド様以外にきっといない。

「ミリーは昔から口のまわりにお菓子をよくつけたままで、私が拭いてあげたよね」

「それは成長していないという嫌味ですか?」

「まさか!かわいいまんまだと喜んでいるんだよ」

「‥‥」

満面の笑みで言われて言葉がない。

店の中ではガチャンとカップを落とす音がする。

やっぱり殺人的な気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

雑草姫、選ばれし花の庭で踏まれて生きる 〜ガラスの靴は、土いじりには不向きです〜

お月見ましろ
恋愛
没落寸前の男爵家に生まれたロザリー・エヴァレットは、貧しさの中でも誇りだけは失わずに生きてきた。 雑草を食材にし、服を縫い直し、名門貴族学園を「目立たず、問題を起こさず、卒業する」――それが特待生として入学した彼女の唯一の目的だった。 だが入学初日、王子の落としたハンカチを拾ったことで、ロザリーは学園の秩序を乱す存在として「雑草令嬢」と呼ばれ、理不尽な洗礼に晒される。 泣かず、媚びず、折れずに耐える彼女を、ただ静かに支え続ける幼なじみがいた。 成金商家の息子・フィンは、「楽になる道」を決して差し出さず、それでも決して手を離さない。 さらに彼女の前に現れるのは、飄々とし、軽薄な仮面を被るノア。そして、王子として雑草を踏みつけることで秩序を守ろうとする、レオンハルト。 選ばれた者たちの庭で、場違いな雑草令嬢は、王子たちの価値観と世界を静かに揺るがしていく。 これは、ガラスの靴を履かないシンデレラ―― 雑草令嬢が、自分の足で未来を選ぶ物語。

悪役を演じて婚約破棄したのに、なぜか溺愛モードの王子がついてきた!

ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢ミュールは、重度のシスコンである。「天使のように可愛い妹のリナこそが、王妃になるべき!」その一心で、ミュールは自ら「嫉妬に狂った悪役令嬢」を演じ、婚約者であるキース王太子に嫌われる作戦に出た。 計画は成功し、衆人環視の中で婚約破棄を言い渡されるミュール。「処罰として、王都から追放する!」との言葉に、これで妹が幸せになれるとガッツポーズをした……はずだったのだが? 連れて行かれた「追放先」は、王都から馬車でたった30分の、王家所有の超豪華別荘!? しかも、「君がいないと仕事が手につかない」と、元婚約者のキース殿下が毎日通ってくるどころか、事実上の同棲生活がスタートしてしまう。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花
恋愛
第八回 アイリス恋愛ファンタジー大賞 一次選考通過作品に入りました!  完結しました。ありがとうございます  シナリオが進む事のなくなった世界。誰も知らないゲーム後の世界が動き出す。  大崩落、王城陥落。聖女と祈り。シナリオ分岐の真実。 激動する王国で、想い合うノエルとアレックス王子。  大切な人の迷いと大きな決断を迫られる最終章! ーあらすじー  8歳のお誕生日を前に、秘密の場所で小さな出逢いを迎えたキャロル。秘密を約束して別れた直後、頭部に怪我をしてしまう。  巡る記憶は遠い遠い過去。生まれる前の自分。  そして、知る自分がゲームの悪役令嬢であること。  戸惑いの中、最悪の結末を回避するために、今度こそ後悔なく幸せになる道を探しはじめる。  子息になった悪役令嬢の成長と繋がる絆、戸惑う恋。 侯爵子息になって、ゲームのシナリオ通りにはさせません!<序章 侯爵子息になります!編> 子息になったキャロルの前に現れる攻略対象。育つ友情、恋に揺れる気持<二章 大切な人!社交デビュー編> 学園入学でゲームの世界へ。ヒロイン登場。シナリオの変化。絆は波乱を迎える「転」章<三章 恋する学園編> ※複数投稿サイト、またはブログに同じ作品を掲載しております

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

処理中です...